生活保護を受けていても相続はできる?相続税の申告は必要?

更新日:
生活保護の受給者

・生活保護を受給していても財産を相続することはできる?
・生活保護を受給していても相続税は払わなければいけない?
・相続すると生活保護の支給を止められてしまう?

所有できるものが制限されたり、お金の動きを都度報告しなければならなかったりと、受給にあたっていくつかの制約が存在する生活保護制度ですが、相続に関してもいくつかルールが存在します。

この記事では、生活保護を受給されている方が相続をする場合の対処方法や注意点と、被相続人が生活保護を受給していた場合に知っておきたいことをあわせて解説していきます。

生活保護を受給していても相続はできる

相続人として財産を相続することはすべての人に認められている権利なので、生活保護を受給していても、もちろん相続をすることが可能です。

しかし、相続する財産の合計額が、相続税の基礎控除額を超えた際には通常通りに相続税を納めなければなりません。

また、相続する財産によっては生活保護の受給を受けるための条件から外れてしまい、生活保護の支給が停止・廃止してしまうことも考えられます。

相続税が発生した場合は通常通りに申告・納付する

相続税には、相続する課税対象の財産から、一定金額を控除できる「基礎控除」という制度があります。そして相続税は、相続する課税対象の財産から、この基礎控除を差し引いた額にかかります。

すなわち、「相続する財産の金額が基礎控除額を超えた場合に」相続税を支払う必要が出てきます。

これは生活保護受給者も例外ではなく、相続税が発生した場合には生活保護受給者である相続人にも支払う義務が生じます。

基礎控除額は法定相続人の人数によって変化しますが、最も少ないケースでも3,600万円は控除されます。基礎控除額の詳しい計算方法は、『相続税は基礎控除以下なら無税!計算方法やその他の控除も解説』をご覧ください。

相続すると生活保護の支給が停止・廃止される?

相続した財産によっては、生活保護の支給を停止・廃止される可能性があります。

まず、「生活保護の停止」とは、生活保護受給者のままではありますが、一時的に生活保護費が支給されない状態になることをいいます。対して「生活保護の廃止」とは、生活保護の受給資格そのものが無くなることをいいます。

そもそも生活保護制度は、「生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長すること」を目的とした制度とされています。そのため、一定期間、最低限度の生活ができるほどの財産を相続した場合などは、それ以降の生活保護の支給が停止、または廃止になることが多いです。

具体的に「いくら相続したら支給が停止される」といった決まりはありません。しかし、一般的には臨時的な収入の増加があった際に、その臨時的な収入が生活保護費の6か月分以内であるときには停止、6か月分以上であるときには廃止されるといわれています。

なお、上記の内容はあくまでも一般論なので、ご自身の状況だとどういった判断になるのかは担当のケースワーカーに相談してみてください。

生活保護を受給しながら相続できる財産もある

その収入だけで最低限度の生活を維持することは難しい、と判断されるような少額の財産や、居住用の不動産など生活に必要不可欠な財産に関しては、生活保護の受給を継続しながら相続できます。

すなわち、最低限度の生活をするために必要な自宅などは、生活保護を受給しながら相続をすることが可能となっています。しかし、すでに持ち家がある状態で別の建物を相続した場合や、資産価値が高く換金することが可能な建物を相続した場合には、受給が停止・廃止されることもあります。

生活保護を受給していると、原則は相続放棄できない

原則、生活保護受給者は相続を放棄することができません。

前提として、生活保護制度は「所有している資産や能力をすべて活用してもなお生活に困窮する方」に向けられた制度です。つまり、相続すれば生活に充てられる財産が取得できるのにもかかわらず相続放棄をすることは、この受給条件に反してしまうことになるため、原則相続放棄はできないとされています。

相続放棄を検討できる場合【マイナスの財産】

生活保護受給者は原則相続放棄をすることができませんが、例外的に相続放棄を検討できるものもあります。

相続放棄が検討できるケースとしてまずは、相続財産の中で「借金などのマイナスの財産が、プラスの財産より多い場合」が挙げられます。マイナスの財産が多いということは、借金などの支払い義務を相続することを意味します。

生活保護受給者が相続放棄できないのは、「生活に活用できる資産を放棄することが問題」という理由が主なため、相続をする財産のうち、マイナスの財産の方が多い場合には相続放棄が可能となります。

相続放棄を検討できる場合【処分が困難な不動産】

また、生活保護受給者が相続放棄を検討できるケースとして、相続財産の中に「処分が困難な農地や古い家屋などが含まれている場合」も挙げられます。

農地や山奥の山林、住居として利用するのが難しいほど古い家屋などを相続すると、管理費用などが必要となり、かえって生活環境が悪化してしまう可能性があるためです。

生活保護を受給していても、これらのようなケースであれば相続放棄をすることができるとされています。しかし、実際に相続する財産の内容や生活の環境を考慮する必要があるため、相続放棄を検討している場合には担当のケースワーカーなどに確認してみてください。

相続税の相続税の無料相談

不正受給とみなされるかもしれないケース

相続の手続きを機に、生活保護を不正受給とみなされてしまう可能性があります。不正受給とみなされると、生活保護の支給を停止・廃止されてしまうだけではなく、場合によっては返還義務や、不正に受給した生活保護費に最大40%を上乗せした請求をされてしまうおそれもあります。

相続をしたことをケースワーカー(福祉事務所)に黙っていた

生活保護受給者は収入が発生した場合、そのことをケースワーカーや福祉事務所に報告しなければなりません。もちろん相続によって発生した収入も届け出る必要があります。これは発生した収入によって、それ以降の生活保護の支給に影響があるかどうか判断するためです。

たとえば、最低限度の生活ができるほどの財産を相続したにもかかわらず、そのことを報告せずに、生活保護を受給し続けていた場合は不正受給にあたります。

仮に生活ができるほどの財産ではなくても、相続により少しでも収入が発生した場合には、ケースワーカーや福祉事務所に報告しなければなりません。

相続で財産を得ることが分かっていたのに受給申請をした

近いうちに、相続によってある程度の財産が得られることをわかっていながら、生活保護の申請をした場合には「虚偽の申請」として、ただちに支給が廃止されます。

また、生活保護を申請した本人ではなく、家族が代わりに相続をした場合でも同様に、生活保護の支給は廃止されることとなっています。

さらに、虚偽の申請に悪質性が認められる場合には、これまでに受け取った生活保護費の返還義務が生じる可能性もあります。

被相続人が生活保護を受給していた場合

相続人ではなく、「被相続人(亡くなった方)が生活保護を受給していた場合」にも注意すべきことがあります。

生活保護の受給権は相続の対象にならない

まず、生活保護を受給する権利は相続によって引き継ぐことができません。生活保護の受給権はその個人のみに認められた権利であるため、相続や譲渡をすることはできず、差し押さえなどをされることもありません。

生前、不当に生活保護を受給していたケース

被相続人が生前、生活保護を不正受給していたことが判明すると、相続人に返還義務が課されることもあります。

まずは収入や財産を偽って申告をし、受給していた場合です。たとえば、仕事をしていて収入があるのにもかかわらず受給していたり、家や車を所有していることを隠して受給していたケースが該当します。このような場合には、生活保護法第78条により相続人に返還義務が課されます。加えて、返還する金額の最大40%をさらに追加で徴収されることもあります。

また、収入の増加や年金の繰り上げ受給などで、収入が増加したにもかかわらず報告せずに受給し続けていた場合にも、生活保護法第63条により相続人に返還義務が課されます。

返還義務に応じられないときは…

被相続人が生前不正受給を行っていた、などの理由で相続人に返還義務が課された場合、返還義務を逃れられる方法がいくつかあります。

一つ目は生活保護法第80条で定められている返還免除です。保護法には「やむを得ない事由があると認めるときは、これを返還させないことができる。」と規定されています。やむを得ない事由の判断は生活保護を支給している団体ごとに変わりますが、基本的には免除ではなく、一括払いを分割払いで払う、などの措置を取られることが多いようです。

二つ目は相続放棄です。相続財産に借金や生活保護費の返還義務など、マイナスの財産が多い場合には、相続放棄を選択することも視野に入れてみてください。しかし、相続放棄はすべての財産の相続を放棄する必要があるため、「返還義務のみを放棄する」といった選択はできません。

また、相続放棄をする場合は相続の開始があったことを知った日から、3か月以内に家庭裁判所に申し立てを行う必要があるので注意してください。

関連記事

自分で相続放棄の手続きをする方法|放棄すべきケースや注意点も解説

相続税の相続税の無料相談

おわりに

生活保護を受給している方でも相続する権利はあり、相続する財産によっては相続税を申告・納付する必要も出てきます。

また、相続する財産により、生活保護の支給が止まってしまう可能性があるため、相続をしたことを報告すべきかどうか迷ってしまう方もいらっしゃると思います。

しかし、相続したことを黙ったまま生活保護の受給を続けていると、いずれ黙っていたことがバレた時に不正受給とみなされ、場合によっては返還義務や追加の支払いを請求されてしまうおそれがあります。

少額の相続であったとしても、ケースワーカーや福祉事務所に正しく報告をして相続手続きを進めるようにしましょう。

高部孝之税理士

監修者


高部孝之税理士事務所

税理士高部孝之

2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。

保有資格

税理士・FP技能士1級・相続診断士

全国/電話相談可能

相続税の無料相談をする