相続税の「按分割合」とは?端数調整で賢く節税する方法も解説
相続税を計算する際、必ず出てくるのが「按分割合(あんぶんわりあい)」です。
按分割合を計算すると、多くのケースで割り切れず端数が生じます。
実は、端数調整の仕方を少し工夫するだけで節税につながるのをご存じでしょうか?
この記事では、按分割合の計算方法や、節税につながる端数調整の方法をわかりやすく解説します。
目次
相続税の「按分割合」とは?
相続税の「按分割合」の意味
按分とは、「割合に応じて分けること」です。
では、相続税における「按分割合」とは何をさすのでしょうか。
相続税の計算は、一度複数の相続人の税額をまとめて算出し、その後一人ひとりが負担する税額を分配するという特徴があります。相続する財産の評価額から、相続税額の総額を求め、その金額を相続人ごとに分ける、という流れで計算が進められます。
この、相続税額の総額から相続人ごとに分けるときに使う割合を、「按分割合」といいます。
按分割合を求める計算式は、以下のとおりです。
【按分割合の計算式】
按分割合=各相続人の課税価格÷課税価格の合計額
相続税の総額に按分割合をかけることで、各人の相続税額が算出できます。
さらに、各人の相続税額に、2割加算や控除を適用すると、最終的な納税額が決定します。
まとめると、以下の計算式になります。
相続税の総額×按分割合=各相続人の相続税額
各相続人の相続税額+2割加算-控除=各相続人の最終的な納税額
課税価格の求め方
課税価格は、以下の計算式で算出できます。
課税価格=相続財産+みなし相続財産+相続時精算課税制度を適用した贈与財産+相続開始前3年以内の贈与財産-債務・葬式費用-非課税財産
按分割合の端数調整
按分割合を計算すると、ほとんどのケースで割り切れず、小数点以下の数字が連続してしまいます。
このように、按分割合に小数点以下2位未満の端数がある場合は、財産の取得者全員の選択した方法により、各取得者の割合の合計が1になるよう調整します。(相続税基本通達17-1)
では、申告書には、小数点以下第何位までの数字を記入すればいいのでしょうか?
申告書上は、最大で小数点以下第10位まで記入できるようになっています。
小数点以下第10位までの数値で計算すると、相続人間における税額の差が小さくなります。そのため、公平性を重視するなら、この計算方法によるのが良いでしょう。
実務上は、小数点以下第3位を四捨五入して小数点以下第2位までの数値を適用するケースが多いです。
それでは、按分割合の端数調整方法を【具体例】で見てみましょう。
【具体例】
相続人:配偶者、長男、養子である孫(長男の子)
各人の取得した財産の課税価格:配偶者7,000万円 長男3,200万円 孫1,200万円
課税価格の合計額:1億1,400万円
この場合、按分割合は以下のようになります。
【小数点以下第10位まで求める場合】
相続人 | 配偶者 | 長男 | 孫(養子) | 合計 |
---|---|---|---|---|
課税価格 | 7,000万円 | 3,200万円 | 1,200万円 | 1億1,400万円 |
按分割合 | 0.6140350877 =7,000万円 ÷1億1,400万円 | 0.2807017544 =3,200万円 ÷1億1,400万円 | 0.1052631579 =1,200万円 ÷1億1,400万円 | 1.00 |
【小数点以下第3位を四捨五入する場合】
相続人 | 配偶者 | 長男 | 孫(養子) | 合計 |
---|---|---|---|---|
課税価格 | 7,000万円 | 3,200万円 | 1,200万円 | 1億1,400万円 |
按分割合 | 0.61 =7,000万円 ÷1億1,400万円 | 0.28 =3,200万円 ÷1億1,400万円 | 0.11 =1,200万円 ÷1億1,400万円 | 1.00 |
相続税は按分割合の端数調整で節税できる?
按分割合の端数調整は節税につながる
実務的には、小数点第2位までの数値を按分割合として使用するケースが多いとご説明しました。
しかし、何も考えず四捨五入をして端数調整をすると、せっかくの節税のチャンスを逃してしまう可能性があります。
そこで、ここでは節税につながる賢い端数調整の方法をご紹介します。
ポイントは以下の2つです。
【節税につながる端数調整のポイント】
ポイント①配偶者の税額軽減の適用対象者は、按分割合の端数を切り上げる。
ポイント②孫など2割加算の適用対象者は、按分割合の端数を切り捨てる。
以下、それぞれのポイントについて解説します。
ポイント①配偶者の税額軽減の適用対象者は、按分割合の端数を切り上げる
配偶者が相続する「課税価格の合計額×法定相続分」と「1億6,000万円」のうちいずれか多い金額までの所得財産については、相続税がかかりません。
これを「配偶者の税額軽減」と言います。
つまり配偶者は、この特例によって最低1億6,000万円まで相続税を支払う必要がないのです。
したがって、配偶者の按分割合を切り上げて相続税額が高くなっても、配偶者の税額軽減の適用により、最終的には納税額が0円になるケースが多いのです。
この仕組みをうまく利用すれば、節税につながります。
関連記事
・配偶者の税額軽減は1.6億円以上!デメリットや適用要件も解説
ポイント②孫など2割加算の適用対象者は、按分割合の端数を切り捨てる
2割加算とは、一親等の血族及び配偶者以外の者が財産を取得した場合に相続税を2割加算する制度です。
具体的には、遺贈により財産を取得した孫、孫養子、兄弟姉妹などが2割加算の対象になります。
ただし、相続人が被相続人より先に死亡した場合、相続人の子(被相続人の孫)が代襲相続人になるケースがあります。この場合、代襲相続人である孫は2割加算の対象外です。
「なぜわざわざ孫を養子にするの?」と疑問に思う方がいるかもしれません。
その理由は、孫を養子にすると、基礎控除額や、生命保険金等の非課税枠が増加するからです。つまり、相続税対策として孫を養子にするケースがあるのです。
孫養子など2割加算の対象者がいる場合、その対象者の按分割合を切り下げると相続税額が下がり、節税につながります。
関連記事
・相続時精算課税で孫に贈与すると相続税が2割加算|計算方法も解説
按分割合の端数調整を活用した節税の具体例
では、按分割合の端数調整を工夫することで、一体どれだけ節税できるのでしょうか?
ここでは、「按分割合の端数調整」で用いた【具体例】を使ってご説明します。
【具体例】
相続人:配偶者、長男、孫養子(長男の子)
各人の取得した財産の課税価格:配偶者7,000万円 長男3,200万円 孫1,200万円
課税価格の合計額:1億1,400万円
相続税の総額:855万円
相続税の総額については『相続税計算機』もご参照ください。
まず、小数点以下第3位を四捨五入した按分割合を適用した場合、各相続人の納税額がどうなるか見てみましょう。
【小数点以下第3位を四捨五入する場合】
相続人 | 配偶者 | 長男 | 孫(養子) | 合計 |
---|---|---|---|---|
課税価格 | 7,000万円 | 3,200万円 | 1,200万円 | 1億1,400万円 |
按分割合 | 0.61 =7,000万円 ÷1億1,400万円 | 0.28 =3,200万円 ÷1億1,400万円 | 0.11 =1,200万円 ÷1億1,400万円 | 1.00 |
各相続人の 納税額(※) | 0円 | 239万4,000円 | 112万8,600円 | 352万2,600円 |
※各相続人の納税額は、以下の計算式で算出します。
(配偶者)
855万円×0.61=521万5,500円
配偶者の税額軽減により、納税額は0円になります。
(長男)
855万円×0.28=239万4,000円
(孫養子)
855万円×0.11=94万500円
孫養子は2割加算の対象なので、
納税額は、94万500円×1.2=112万8,600円になります。
次に、配偶者の按分割合の端数を切り上げ(ポイント①)、かつ、孫養子の按分割合の端数を切り下げた場合(ポイント②)、各相続人の納税額がどうなるか見てみましょう。
【節税につながるよう端数調整を工夫した場合】
相続人 | 配偶者 | 長男 | 孫(養子) | 合計 |
---|---|---|---|---|
課税価格 | 7,000万円 | 3,200万円 | 1,200万円 | 1億1,400万円 |
按分割合 | 0.62 =7,000万円 ÷1億1,400万円 | 0.28 =3,200万円 ÷1億1,400万円 | 0.10 =1,200万円 ÷1億1,400万円 | 1.00 |
各相続人の 納税額(※) | 0円 | 239万4,000円 | 102万6,000円 | 342万円 |
※各相続人の納税額は、以下の計算式で算出します。
(配偶者)
855万円×0.62=530万1,000円
配偶者の税額軽減により、納税額は0円になります。
(長男)
855万円×0.28=239万4,000円
(孫養子)
855万円×0.10=85万5,000円
孫養子は2割加算の対象なので、
納税額は、85万5,000円×1.2=102万6,000円になります。
さて、端数調整の工夫によって、いくら節税できたでしょうか?
納税額の合計は、四捨五入した場合が352万2,600円、端数調整を工夫した場合が342万円です。
つまり、352万2,600円-342万円=10万2,600円も節税できたことがわかります。
按分割合の端数調整を利用した節税の注意点
按分割合の端数調整をする際、注意していただきたいのが、相続人や受贈者など「財産の取得者全員の合意」が必要という点です。
端数調整は節税が期待できる反面、端数を切り上げた人の納税額が上がることが予想されます。
節税を重視するあまり、誰か1人でも不満が残る形で遺産分割を押し進めてしまうと、大きなトラブルに発展するおそれがあります。
このような事態を回避するには、相続人全員が早い段階から話し合い、遺産分割方法について合意しておくことが重要です。
相続税を節税したいなら税理士へ相談!
按分割合の端数調整を工夫して節税につなげるには、相続税額のシミュレーションをすることが非常に大切です。
とはいえ、相続税の計算はとても複雑です。
「相続税の計算を自分でやるのは難しい」「端数調整を自分でやると計算ミスしそう」と不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
そのような方は、ぜひ税理士へご相談ください。
税理士は、節税につながる按分割合の端数調整を正確に行います。
さらに、不動産の評価を工夫したり、各種税額控除や特例をもれなく適用して、節税に有効な遺産分割案をご提案します。
税理士のシミュレーション結果をふまえ、早い時期から相続人全員で遺産分割方法を合意しておけば、いざ相続が発生したとき円満な分割が実現できます。
相続税について少しでも不安がある方は、ぜひお気軽に税理士にお問い合わせください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士