相続税申告に遺産分割協議書は必要か?必要・不要な場面を徹底解説

相続人が1人しかいない場合や、有効な遺言書どおりに相続する場合などは、遺産分割協議書なしで相続税申告を行えます。
一方、遺言書がなく、遺産分割協議によって取得する財産を決めた場合や、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を適用する場合には、遺産分割協議書の写しが必要になることがあります。
また、相続税がかからない場合でも、相続登記や預貯金の相続手続きで遺産分割協議書が必要になるケースがあるため注意が必要です。
この記事では、相続税申告で遺産分割協議書が必要・不要になるケースや、相続税がかからない場合の取り扱い、申告期限までに遺産分割が終わらない場合の対応について解説します。
※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。
目次
相続税申告で遺産分割協議書が必要になるケース
相続税申告では、すべてのケースで遺産分割協議書が必要になるわけではありません。
ただし、遺言書がなく、遺産分割協議によって誰がどの財産を取得するか決めた場合や、一定の特例を適用する場合には、遺産分割協議書の写しが必要になることがあります。
ここでは、相続税申告で遺産分割協議書が必要になる主なケースを確認していきましょう。
遺言書がなく遺産分割協議で取得財産を決めた場合
遺言書がなく、相続人同士の遺産分割協議によって誰がどの財産を取得するか決めた場合は、その内容を明確にするために遺産分割協議書を作成するのが一般的です。
ただし、課税価格の合計が基礎控除を下回り、申告必須の特例も適用しない場合は、そもそも相続税申告が不要であるため、申告において遺産分割協議書が必要になることはありません。
相続税の基礎控除
3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 相続放棄した人も、法定相続人の数に含められます
- 養子がいる場合、実子がいれば1人まで、いなければ2人まで法定相続人の数に含められます
なお、遺産分割協議書は相続税申告以外の場面で必要になることもあります。
よって、相続税申告が不要だからと言って、必ずしも遺産分割協議書の作成も不要であるとは限りません。
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配偶者の税額軽減を適用する場合
遺産分割協議を経て被相続人の配偶者が財産を取得し、「配偶者の税額軽減」を適用する場合、相続税申告において遺産分割協議書の写しを提出する必要があります。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者が相続した財産については、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかからない特例。
配偶者の税額軽減を適用するには、たとえ相続税が0円であっても申告が必要です。
なお、申告期限までに遺産分割が完了せず、遺産分割協議書を作成できなかった場合でも、一定の手続により後から適用できる場合があります。
詳しくは本記事内で後ほど解説します。
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小規模宅地等の特例を適用する場合
遺産分割協議による遺産分割で不動産を取得し、小規模宅地等の特例を適用する場合は、相続税申告において遺産分割協議書の写しを提出する必要があります。
小規模宅地等の特例
自宅や事業用の土地を相続した場合に、評価額を減額できる特例。
例えば一定の要件を満たした自宅の土地(特定居住用宅地等)は、相続税評価額を限度面積330㎡までの部分について最大80%減額できる。
小規模宅地等の特例を適用するには、たとえ相続税が0円であっても申告が必要です。
なお、申告期限までに遺産分割が完了せず、遺産分割協議書を作成できなかった場合でも、一定の手続により後から適用できる場合があります。
詳しくは本記事内で後ほど解説します。
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小規模宅地等の特例とは?要件・計算方法をわかりやすく解説【フローチャート付き】
相続税申告で遺産分割協議書が不要なケース
相続人が1人だけの場合
相続人が配偶者だけ、または子ども1人だけといった「単独相続」の場合は、分割を話し合う相手がいないため、遺産分割協議書は必要ありません。
ただし、単独相続であることを示す戸籍などは、相続税申告や相続登記で別途必要になります。
遺言書のとおりに相続する場合
有効な遺言書に基づいて取得者・取得財産が確定する場合、相続税申告の添付書類として遺産分割協議書は通常不要となります。
遺言書そのものが「誰がどの財産を受け取るか」を示す書類として機能するからです。
ただし、遺言と異なる内容で相続人間が改めて合意した場合や、調停・審判に移行した場合は、それを証する書面(遺産分割協議書、調停調書・審判書謄本など)が別途必要になることがあります。
なお、遺言書がある場合の相続税申告の詳細については、以下の記事で詳しく解説しています。
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遺産分割が終わらないまま未分割申告する場合
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合でも、遺産分割協議書なしで相続税申告を行えます。
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。遺産分割が終わっていないことを理由に、申告期限を延ばすことは原則としてできません。
そのため、期限までに遺産分割が成立しない場合は、各相続人が法定相続分などに応じて財産を取得したものとして、いったん相続税を申告・納付します。
この時点では遺産分割そのものが成立していないため、遺産分割協議書を添付する必要はありません。
ただし、未分割のままでは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を原則として適用できません。遺産分割が間に合わない場合の申告方法や、分割後の手続きについては後述します。
相続税がかからない場合も遺産分割協議書は必要?
申告必須の特例を使うなら、相続税がかからなくても必要
相続税がゼロになる理由が「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」の適用によるものであれば、申告そのものが必要であり、遺言書がない場合は遺産分割協議書も必要です。
これらの特例は、相続税申告をすることが適用要件の1つとなっています。 申告を怠ると特例が適用されず、想定外の相続税が発生するリスクがあります。
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相続登記や預貯金の手続きでは必要になることがある
相続税申告が不要な場合でも、不動産の相続登記や預貯金の解約・払戻しなどで遺産分割協議書が必要になることがあります。
たとえば、遺言書がなく、遺産分割協議によって特定の相続人が不動産を取得する場合は、相続登記の際に遺産分割協議書などを提出します。
また、預貯金についても、遺産分割協議書によって取得者を確認する金融機関があります。一方、金融機関所定の書類などで手続きできる場合もあるため、必要書類は金融機関ごとに確認しましょう。
なお、不動産の相続登記は2024年4月から義務化されており、義務化以前の相続で取得した不動産でも登記が必要です。
登記の期限や、期限までに登記しなかった場合のペナルティなどについて詳しくは、『相続登記の登録免許税はいくら?計算方法と軽減措置・費用を解説』の記事をご覧ください。
相続税の申告期限までに遺産分割が終わらない場合
遺産分割協議書なしで未分割申告する
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
しかし、相続人の間で意見がまとまらない、遺産の評価に時間がかかるなどの理由で、期限内に分割協議が完了しないケースは少なくありません。
こうした場合は、「未分割申告」という方法を取ることができます。
未分割申告とは、一時的に「各相続人が法定相続分(または包括遺贈の割合)どおりに相続したとみなして」申告・納税する方法です。
未分割申告を行う際の主なポイントをまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 相続税の計算 | 法定相続分などに従って財産を取得したものとして計算する |
| 遺産分割協議書 | 添付不要(分割が決まっていないため) |
| 特例の適用 | 申告時点では適用不可 |
| 分割確定後の対応 | 申告のやり直し(更正の請求・修正申告)が必要 |
なお、遺産分割後に特例を適用したい場合は、未分割申告の際、相続税申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、あとで特例を適用できるようになります。
「申告期限後3年以内の分割見込書」は後から単独で提出はできないので、未分割申告の際に必ず添付しておきましょう。
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特例を適用したい場合は申告期限後3年以内の分割見込書を提出する
未分割申告のあとに配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用する予定がある場合は、相続税申告書とあわせて「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておきます。
その後は3年以内に遺産分割を成立させたうえで、更正の請求または修正申告をしましょう。そうすることで、特例の適用を受けられます。
なお、分割によって税額が少なくなる場合の「更正の請求」は、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内に行う必要があります。
やむを得ない理由により3年経っても遺産分割が成立しない場合は、3年を経過する日の翌日から2か月以内に、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して税務署長の承認を受け、判決の確定など遺産分割ができることとなった日の翌日から4か月以内に遺産分割をしましょう。
そして、分割後の税額が当初申告より少なくなる場合は、分割が行われたことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求を行います。一方、税額が増える場合は修正申告を行います。
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遺産分割協議書の作り方や注意点
遺産分割協議書作成の流れ
遺産分割協議書は、以下の流れで作成します。
- 相続人の確定
- 遺産の調査・財産目録の作成
- 遺産分割協議の実施
- 遺産分割協議書の作成・署名押印
- 各種名義変更・申告手続き
また、遺産分割協議書に記載する主な内容は以下の通りです。
- 被相続人の氏名・死亡日・本籍地
- 相続財産の具体的な内容(不動産は地番・地積まで)
- 各相続人の取得財産
- 相続人全員の氏名・住所・署名・実印での押印
※不動産登記や金融機関の手続き、相続税申告では、印鑑証明書の提出を求められるのが一般的
法定相続人の確定や遺産の調査で誤りがあるまま遺産分割協議書を作成すると、その後の各種手続きに支障が出ます。
また、誰がどのように遺産を分割するかは相続税対策にも影響する重要な部分です。
よって、遺産分割や遺産分割協議書の作成については、税理士に相談・依頼することもおすすめです。
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遺産分割協議書作成における注意点
相続人に漏れがないようにする
遺産分割協議書は相続人全員の合意によって有効なものとなるので、相続人に漏れがある場合は無効となってしまいます。
相続人に漏れがないよう、被相続人の戸籍を出生の時点から死亡までしっかりと確認する必要があるでしょう。
未成年が相続人なら代理人が必要
相続人に未成年がいる場合は、代理人が遺産分割協議に参加する必要があります。
通常、未成年者は両親が法定代理人となりますが、両親も相続人となっていることが多く、利益が相反してしまいます。
このような場合には、家庭裁判所で特別代理人を選任し、利益相反が生じることを避けることとなるでしょう。
相続税申告と遺産分割協議書に関する疑問点
Q.相続税がかからない場合、遺産分割協議書は不要ですか?
銀行口座や不動産の名義を変更するために必要な場合があります。
名義変更の手続きでは、遺言書がなく、かつ法定相続分どおりの遺産分割ではない場合は、遺産分割協議書の提出を求められることがあるのです。
不動産の相続登記については、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に行うよう義務化されていることに注意してください。
Q.相続税の申告で遺産分割協議書が不要なケースはありますか?
相続人が一人であったり、遺言通りに相続財産を分けるといったケースでは、遺産分割協議が不要です。
このようなケースでは、遺産分割協議書を作成する必要がありません。
相続税の申告においても、相続人が一人であることや遺言通りの分配があったことを他の書面で証明すればよいため、遺産分割協議書は不要となります。
Q.遺産分割協議をしたら相続税申告に遺産分割協議書は必要ですか?
遺産分割協議をした場合は遺産分割協議書を作成するのが一般的です。ただし、相続税申告でその写しの添付が必須となるかは、適用する特例などによって異なります。
一方、課税価格の合計が基礎控除を下回り、申告必須の特例の適用もない場合は、相続税申告自体が不要であるため、申告において遺産分割協議書は必要ありません。
ただし、相続税申告以外の場面で必要になるケースもあります。
まとめ|遺産分割協議書が必要かどうかはケースによる
遺産分割協議書は、有効な遺言書どおりに相続する場合は不要なケースが多い一方、遺産分割協議をした場合や、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を使う場合は、原則として作成・提出が必要です。
また、相続税がかからない場合でも、不動産の名義変更や預貯金の解約で必要になることがあります。
遺産分割協議書は、相続手続きを円滑に進め、将来のトラブルを防ぐ重要な書類です。
相続税や名義変更への影響も大きいため、不安がある場合は税理士などの専門家に相談しましょう。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士