同時死亡の場合の相続関係は?|相続税への影響も解説
不慮の事故や自然災害によりご家族が同時に亡くなった場合、誰が相続人になるのでしょうか。
死亡時期の先後関係が分からない場合、民法は相続人を決める特別なルールを規定しています。
それが「同時死亡の推定」規定です。
この記事では、同時死亡の推定によって、相続人や相続分はどうなるのか具体例つきで解説します。
同時死亡が相続税にどのように影響するのかもご説明します。
目次
同時死亡の推定とは?
法定相続人の範囲
同時死亡の推定をご説明する前提として、法定相続人の範囲を解説します。
法定相続人とは、ある者が死亡した場合に相続人になることが民法上規定されている者を言います。
配偶者は常に法定相続人になります。さらに、①子→②直系尊属(父母など)→③兄弟姉妹の順で法定相続人になります。
まとめると、法定相続人の範囲は、以下のようになります。
配偶者+①子
②直系尊属
③兄弟姉妹
【補足】
●子がすでに死亡した場合、孫が代襲相続人になります。
●子や孫がいない場合、直系尊属が相続人になります。
●子、孫、直系尊属がすべていない場合、兄弟姉妹が相続人になります。
死亡の先後関係がわかる時の相続関係
ここでは、①夫が先に死亡し、長男が後に死亡したケースと、②長男が先に死亡し、夫が後で死亡したケースについて、夫の遺産を誰がどれだけ相続することになるかご説明します。
家族関係
夫(死亡)
妻
長男(死亡)
二男
①夫が先に死亡し、長男が後で死亡したケース
まず、夫の死亡により、妻と子が法定相続人になります。各相続人の相続分は以下のとおりです。
妻:1/2
長男:1/4
二男:1/4
次に、長男の死亡により、長男の相続分1/4が妻に相続されます。よって、夫の財産について、妻は3/4(=1/2 + 1/4)、二男は1/4を相続することになります。
妻:3/4(=1/2 + 1/4)
二男:1/4
②長男が先に死亡し、夫が後で死亡したケース
夫が死亡したとき、長男はすでに死亡しています。そのため、夫の法定相続人は、妻と二男になります。妻と二男は、夫の財産を1/2ずつ相続します。
妻:1/2
二男:1/2
【参考】法定相続分の一覧表
法定相続人が複数いる場合、法定相続分を人数分に分けます。
親族構成 | 配偶者あり | 配偶者なし |
---|---|---|
子がいる場合 | 配偶者:1/2 子:1/2 | 子ども:1 |
子がいない場合 | 配偶者:2/3 直系尊属:1/3 | 直系尊属:1 |
子も直系尊属もいない場合 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4 | 兄弟姉妹:1 |
配偶者のみの場合 | 配偶者:1 | ー |
同時死亡の推定とは?
上記の具体例のように死亡の先後関係が明らかな場合は、相続関係に混乱は生じません。
では、同じ具体例で、夫と長男が自動車に乗車中、交通事故により2人とも即死してしまったとします。
この場合、相続関係はどうなってしまうのでしょうか。
死亡の先後関係が不明な場合、これらの者は同時に死亡したものと推定するとされてます(民法32条の2)。これを「同時死亡の推定」といいます。
同時死亡の推定のポイントは、「同時死亡した者の間で相続は生じない」という点です。
なぜなら、相続発生時にすでに死亡している者には、相続権がないからです。
例えば、上記の具体例で夫と長男が交通事故で即死したとすると、同時死亡の推定により、長男が夫の相続人になることはありません。
また、夫が長男の相続人になることもありません。
したがって、夫の法定相続人は妻と二男のみとなります。
よって、妻と二男が、夫の財産を1/2ずつ相続する結果となります。
同時死亡の推定は覆すことができる
同時死亡の推定は、死亡の先後関係を証明すれば覆すことができます。
例えば、上記の具体例で、夫と息子は交通事故で即死したのではなく、夫が死亡した時点で長男はまだ生存しており、病院に搬送された後に死亡したとします。この事実を裏付ける証拠が出てきた場合、同時死亡の推定は覆すことが可能です。
同時死亡の推定が覆ると、夫の遺産について、妻の相続分は増えますが、二男の相続分は減ります。
同時死亡の推定を覆したい場合、冷静かつ円滑に話し合いを行うため、早い段階から弁護士に相談することをおすすめします。
同時死亡のケースで代襲相続は生じる?
同時死亡の場合、代襲相続は生じます。
つまり、同時死亡者の中に、代襲者(典型的には子ども)がいる場合、その死亡者に代わり、代襲者が相続することになるのです。
具体例で見てみましょう。
【具体例】
家族関係
夫(死亡)
妻
長男(死亡)ー長男の子
二男
夫と長男が交通事故で死亡し、同時死亡の推定が適用されるケース
夫の遺産は1億5,000万円、長男の遺産は3,000万円
①夫の遺産の相続関係
相続人 | 相続分 | 取得財産 |
---|---|---|
妻 | 1/2 | 1億5,000万円×1/2=7,500万円 |
二男 | 1/2×1/2=1/4 | 1億5,000万円×1/4=3,750万円 |
長男の子(代襲相続人) | 1/2×1/2=1/4 | 1億5,000万円×1/4=3,750万円 |
②長男の遺産の相続関係
相続人 | 相続分 | 取得財産 |
---|---|---|
長男の妻 | 1/2 | 3,000万円×1/2=1,500万円 |
長男の子 | 1/2 | 3,000万円×1/2=1,500万円 |
別々の場所で死亡した場合は?
同時死亡の推定が適用されるケースは、交通事故などで複数人が同一の危難によって死亡した場合に限定されません。
例えば、自然災害が原因で別々の場所で死亡したケースでも、同時死亡の推定が適用されます。
遺言書がある場合は?
遺言書がある場合、基本的にその内容に沿って遺産分割が進められます。
もっとも、遺言書の中で財産の受取人とされていた人が、被相続人と同時に死亡してしまった場合、遺言の効力は生じません。
その場合は、同時死亡の推定に従って、相続手続きを進めることになります。
夫婦同時死亡の場合の保険金受取人は?
生命保険金の被保険者と受取人が同時に死亡してしまった場合、誰が死亡保険金を受け取ることになるのでしょうか。
判例は、受取人の相続人が死亡保険金を受け取ることになると判断しています(最判平成21年6月2日)。
なぜなら、保険金請求権は、受取人固有の権利とされているからです(最判昭和40年2月2日)。
具体例を見てみましょう。
【具体例】
夫Aが妻Bを保険金受取人とする生命保険に加入していました。夫婦の間に子どもはいません。夫Aには父Cがおり、妻Bには姉Dがいます。夫婦は交通事故で即死してしまいました。
上記具体例では、保険金請求権は妻Bが取得します。
そして、夫婦は同時死亡したものと推定されるため、互いに相続は発生しません。
よって、夫Aの死亡保険金は、妻Bの相続人である姉Dに支払われることになります。
同時死亡の場合の相続税は?
同時死亡により基礎控除額が変わる
数人が同時に死亡すると、相続税の計算にも影響します。
具体的には、基礎控除額が変わってきます。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式で算出されます。そのため、法定相続人の人数によって基礎控除額が変わってくるのです。
基礎控除額が変わると何が変わってくるのでしょう?
正解は「相続税の申告の要否」です。
相続税がかかるのは、基本的に相続財産が基礎控除額を上回った場合です。
したがって、「相続財産が基礎控除額を上回っているかどうか」が相続税の申告が必要か否かを分ける基準になります。
相続税の計算シミュレーションは『相続税計算機』をご利用ください。
また、相続人の組み合わせによる相続税の計算は、以下の計算シートが便利です。
相続税計算シート(配偶者のみor子どものみor父母のみor兄弟のみ)
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死亡の順番で基礎控除額が変わる具体例
では、両親が死亡した順番により、夫の財産に関する相続税の基礎控除額がどう変わってくるか具体例で見てみましょう。
【具体例】
家族関係
夫(死亡)
妻(死亡)
長男
長女
①夫が先に死亡し、妻が後に死亡したケース
この場合、夫の法定相続人は、妻、長男、長女の3人です。
したがって、基礎控除額は、3,000万円+600万円×3=4,800万円です。
よって、夫の遺産が4,800万円を上回っていれば相続税の申告が必要になります。
②妻が先に死亡し、夫が後で死亡したケースと③夫と妻が同時に死亡したケース
この場合、夫の法定相続人は、長男と長女の2人です。
したがって、基礎控除額は、3,000万円+600万円×2=4,200万円です。
よって、夫の遺産が4,200万円を上回っていれば相続税の申告が必要になります。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士