Google口コミの開示請求はできる?特定後の訴えも見越して弁護士に依頼しよう
企業や店を選ぶ際にGoogle口コミ(グーグル口コミ)を参照する人は多く、そのサービスは広く知られているところです。そのぶん悪質な口コミを放置していると企業やお店の評判や売上の低下が懸念されます。
Google口コミに悪質な投稿をおこなわれている場合の対処として、口コミの削除依頼も有効です。しかし悪質な口コミ投稿の再発防止や、何らかの補償を受けるためには投稿者を特定したいと考える人もいるでしょう。
Google口コミにより何らかの権利侵害を受けている場合、その主張が正当であると認められれば、開示請求により投稿者を特定できる可能性があります。
もっとも書き込まれた内容によって特定の可否が変わるので、早急に見通しを立てておくことが大切です。
この記事では悪質なGoogle口コミの投稿者を特定するための開示請求の方法や注意点について、弁護士の目線で解説していきます。
身体に危害を加えるなどの脅しを書き込まれた場合には、弁護士への相談と併せて、早急に警察への相談も検討してください。
目次
Google口コミの開示請求!特定に必要なIPアドレスを知る方法
悪質な口コミを投稿した人物の特定のためには、まずIPアドレスを知る必要があります。
IPアドレスはインターネット上の住所ともいわれており、口コミ投稿者の特定に必須の情報です。まずはIPアドレス情報を得るための方法をみていきましょう。
GoogleにIPアドレスの開示を求める
Googleの口コミ画面には、投稿者のIPアドレスや氏名といった個人情報は表示されていません。しかし、Google社は口コミ投稿者のIPアドレス情報を持っています。
そのため、まずはGoogle本社に対して口コミ投稿者のIPアドレスを開示したいところです。
ただし、この開示依頼はあくまで任意になるためGoogleが応じる義務はありません。個人情報でもありますし、個人からの開示依頼にGoogleが応じてくれる可能性は低いでしょう。
そこで、裁判所からGoogleに対してIPアドレスの開示を命じてもらうという手段をとることになります。これは「仮処分」という法的手続きです。
裁判所からの仮処分命令でIPアドレスの開示を受ける
仮処分とは、裁判所が申し立てた人の権利を早急に守る必要があると判断した場合に、正式な手続きをとる前に暫定的に認める処分のことです。
もっとも仮処分を申し立てれば必ず認められるわけではありません。合理的な申立てであると示す申立書を用意するほか、どんな権利侵害を受けているのかという証拠をそろえることが重要です。
申し立てが認められた場合、裁判所はGoogleに対してIPアドレスの開示を命じる仮処分を下します。
仮処分には担保金が必要
仮処分手続きには、申立書などの書類を作成するほかにも担保金の用意が必要です。
担保金は、仮処分によって情報開示がなされ、それによって何らかの不利益が起こったときの補償に充てられる金銭をいいます。
申立てが正当なものであれば後日返還される金銭ですが、仮処分手続きを開始する際には準備しておくべき金銭といえるでしょう。
仮処分の仕組みやスムーズな申立てのためには、法的な手続きを熟知した弁護士に依頼することがおすすめです。
Google口コミの開示請求!プロバイダーへの発信者情報開示請求
Googleから投稿者のIPアドレスが開示されたら、そのIPアドレスからプロバイダーを割り出します。
プロバイダーはインターネットに接続する際の事業者のことで、プロバイダーの契約者情報を開示するように求める流れです。
プロバイダーへ契約者情報の開示を依頼
悪質な口コミが投稿された際のプロバイダーが特定できたら、IPアドレス情報を元に、契約者の情報を開示するように依頼します。
このときプロバイダーは契約者に対して情報の開示をして良いかを確認しますが、多くのケースで開示は拒否されるでしょう。そうするとプロバイダー側も、契約者の情報開示に応じる可能性は低いと想定されます。
そのため、「発信者情報開示請求訴訟」という裁判をおこして、裁判所からプロバイダーに対して発信者情報の開示請求を命じてもらうことを検討しましょう。
プロバイダーへの発信者情報開示請求訴訟の提起
悪質なGoogle口コミへの投稿時に使用されていたプロバイダーに対して、発信者情報開示請求訴訟を提起するには、どういった権利侵害があるのかを明確に主張せねばなりません。
訴訟時に有効とされる証拠としては、悪質なGoogle口コミやアカウントのスクリーンショットやPDFが有効です。口コミが投稿された日時もわかるように証拠として保存しておきましょう。
また、権利侵害の内容については慎重な検討が必要です。口コミ内容が名誉毀損や侮辱罪に該当する可能性があると感じたら、法律に専門家である弁護士に見解を聞いてみましょう。
弁護士への相談先としては、インターネットトラブルの解決にくわしく、Google口コミなどの対処実績のある弁護士が望ましいです。
発信者情報開示請求が認められると特定につながる
発信者情報開示請求訴訟において被害者側の主張が認められると、裁判所はプロバイダーに対して発信者情報の開示を命じます。
こうして契約者の氏名や住所、メールアドレス等の発信者情報が特定できるのです。
Googleへの仮処分手続きの申立てから発信者情報の開示までは約10ヶ月ほどかかる見通しで、ケースによってはさらに長い時間がかかる可能性もあります。
さらにこうした法的手続きには様々な書類作成や証拠収集が必要になり、個人で全ての対応をすることは非常に困難です。
インターネットトラブルの解決に力を入れている弁護士に話を聞いてもらい、弁護士への依頼も検討していきましょう。
弁護士相談の際には、開示請求や特定に成功する見通し、弁護士費用、特定後にどういった対応が取れるのかなどをしっかりと確認しておいてください。
発信者情報開示請求については、関連記事でくわしく解説しています。関連記事も併せてご覧ください。
改正プロバイダ責任制限法の施行
2022年10月1日に施行された「改正プロバイダ責任制限法」を利用することで、これまでの方法と比べて、人物を特定するまでの時間短縮が期待されています。
特定までの時間が短縮されることで、権利侵害を受けた被害者の負担軽減につながるでしょう。
これまでと比べた主な変更点を以下に示します。
IPアドレスと発信者情報の開示請求をまとめてできる
従来の方法では、まずGoogleに対してIPアドレス情報を請求し、別途、プロバイダーに対して発信者情報の開示請求をおこなう2工程が必要でした。
Googleに対しても仮処分手続きという法的手続きをとることになり、さらにプロバイダーに対する訴訟が必要になるため、長い時間がかかっている要因と言われていたのです。
改正プロバイダ責任制限法による「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」では、このような2つの工程を1度でおこなえるようになりました。さらに、通常との裁判手続きとは別の「非訟手続」となったので、事務処理も簡略化されています。
こうした改正プロバイダ責任制限法による「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」が円滑に進めば、これまでの方法と比べて時間短縮が期待できるでしょう。
発信者情報開示請求の対象拡大
これまでよりも発信者情報開示の対象が拡大されたことで、アカウントへログインする形で利用するSNSサービスへの開示請求にも対応しやすくなりました。
アカウントの作成や削除、あるいはログイン・ログアウト時の情報にくわえて、SMS認証時の電話番号も含まれるのです。
開示請求の方法は弁護士に相談しておこう
改正プロバイダ責任制限法による「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」は、スムーズに進めば時間短縮が期待できます。
しかしGoogle側やプロバイダー側が異議申し立てをおこなうと、通常の裁判手続きに移行するというものなので、かえって時間がかかることも懸念されるのです。
従来の方法か、改正プロバイダ責任制限法による「発信者譲歩開示命令事件に関する裁判手続」を用いるのか、開示請求に精通した弁護士への相談で道筋を立ててもらうと良いでしょう。
それぞれの方法のメリットとデメリットを知ったうえでの比較検討が必要です。
【コラム】情報を保全する申立ても必要
プロバイダー側のログ保存期間は、だいたい3ヶ月から6ヶ月程度といわれています。
悪質な口コミの投稿から日数があまりに経過していると、特定に必要とされる情報が消えてしまう可能性が高いのです。そのため、発信者情報開示請求にあたってはログを保全しておくように申し立てることも大切になります。
開示請求や特定にはタイムリミットがあるので、まずは弁護士相談を早めにおこない、方針を検討していきましょう。
口コミ投稿者を特定したらどんな訴えができる?
悪質な口コミ投稿に対しては、民事責任と刑事責任の両方を問うことができます。
民事責任とは、かみくだいていうと、権利侵害によって受けた被害を金銭で賠償するように求めることです。具体的な賠償としては慰謝料や弁護士費用、もしお店が営業妨害を受けたならその損害額などがあげられるでしょう。
刑事責任とは、悪質な口コミ内容について警察に被害届を提出したり、刑事処罰を求めて告訴することなどが該当します。
民事責任と刑事責任について、より詳しくみていきましょう。
損害賠償の請求(民事責任)
Google口コミの内容によっては、侮辱罪や名誉毀損に該当する可能性があります。こうした権利侵害は、民法709条を根拠として損害賠償請求が可能です。
ただし、慰謝料には権利侵害の内容に応じておおよその相場があります。侮辱罪の場合は数万円程度、名誉毀損の場合は個人だと10万円から50万円程度、企業だと50万円から100万円程度と考えておきましょう。
侮辱罪と名誉毀損の違いは?
名誉毀損の成立要件には、(1)公然性がある、(2)事実を摘示して名誉を毀損しているという2つがあり、両方を満たしている必要があります。
Google口コミは不特定多数の人が閲覧できるため、公然性については認められやすいでしょう。
事実の摘示については口コミ内容しだいになるため、弁護士に内容を見てもらって判断を仰いでください。侮辱罪と名誉毀損の違いを考えるうえでの参考例を示します。
- 店長には前科があって、店員もみんな前科持ちの仲間ばかりのとんでもないお店だ。
- 高級旅館で期待していたのに、預けたはずの貴重品がなくなっていた。きっと裏でカバンを開けて財布を盗んだに違いない。
- この歯医者さんの院長先生は仕事が遅すぎるアホ。
1の例については、「店長や店員に前科がある」という内容が事実の摘示と名誉毀損にあたる可能性があります。
2の例については、旅館側に財布を盗んだ人がいるようだと具体的に書いており、事実の摘示と名誉毀損にあたる可能性があるでしょう。
3の例については、事実の摘示とまでは言えないため、名誉毀損ではなく侮辱罪で訴えることを検討していきます。
もっとも、こうした悪質な口コミを見つけた人のショックは計り知れず、侮辱罪と名誉毀損の違いに照らして検討することは困難でしょう。
悪質な口コミ内容を弁護士に見せて、どういった権利侵害を主張できるのか確認してみることをおすすめします。
侮辱罪と名誉毀損の違いについてもっと詳しく知りたい方は、関連記事『侮辱罪の成立要件は?名誉毀損罪との違いや侮辱罪になる言葉の具体例を紹介』も参考にしてください。
刑事処罰を求める(刑事責任)
Google口コミが悪質で権利侵害が起こっているならば、警察に被害を訴えて刑事処罰を求めることも可能です。
侮辱罪や名誉毀損は「親告罪」といわれており、その事実を知ってから半年以内の告訴が必要になります。告訴は被害届の提出とは別で、警察に被害事実を申告すると同時に、加害者に対して刑事処分を求める手続きです。
被害者からの告訴を受け、警察や検察が捜査をおこない、刑事処分が決定します。
名誉毀損の刑罰は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金、侮辱罪の刑罰は拘留(1日以上30日未満の拘置)または科料(1,000円以上1万円未満)です。
Google口コミの開示請求に関するよくある質問
悪質なGoogle口コミについて開示請求をしたい、投稿者を特定したいと考えている人に向けて、よくある質問にお答えします。
星ひとつだけの低評価口コミに対処する方法はある?
コメントはないのに星ひとつだけ残された口コミについて、会社の評価を下げていると懸念する人も多いです。
しかし星マークによる評価はあくまで個人の感想にとどまりますし、何もコメントがない以上具体的な事実も書かれていないので、名誉毀損は成立しません。違法性もないので、開示請求や個人の特定は難しいでしょう。
あまりにもこうした口コミが続く場合には、Googleに対して「嫌がらせを受けている」として申告することで、口コミが削除される可能性はあります。
関連記事『Googleの悪質口コミに対する削除依頼』では悪質な口コミに対して取りうる削除という対処法を解説中です。
一部事実の口コミも名誉毀損で訴えることはできる?
名誉毀損の成立に、真実かどうかは関係ありません。
公然の場で、事実を摘示して名誉を毀損されているという成立要件を満たしている場合には、名誉毀損に当てはまる可能性があります。
たとえば「この店の店主は元々暴走族だったから、客をすぐに殴ってくる」などと書かれたとしましょう。客を殴る事実を摘示して名誉を毀損しているので、店主の人が暴走族であってもなくても、名誉毀損に問える可能性があります。
社会的評価を下げる口コミってどんなもの?
社会的評価を下げる口コミかどうかは、ある程度判断に幅があるものです。
例としては「前科がある」「服役していた」などの犯罪・犯歴にあたるもの、不貞行為など、一般的に考えて周囲からの評価を下げうるものが考えられます。
開示請求の費用は相手に損害賠償請求できる?
特定にかかる弁護士費用は、相手に対して損害賠償請求が可能です。ただし全額ではなく、一部の請求にとどまるでしょう。
弁護士費用は、相談料、着手金、報酬金などから構成されていて、費用体系は法律事務所ごとに異なります。
どういった手続きをすればどんな費用がかかるのか、依頼前にしっかりと理解できるまで確かめておきましょう。例えば、着手金は依頼と同時に発生すること、仮処分手続きは担保金が必要なことなどにも注意してください。
また悪質な口コミの投稿者が特定できても、相手にお金がないと十分な賠償を受け取れない可能性があります。
特定できない恐れがあること、開示請求や特定によって補償を受けるどころか費用の方が高くなってしまうことにも留意しておきましょう。
開示請求から特定までにかかる期間は?
開示請求から特定までにかかる期間は約10ヶ月といわれています。ただし事案によってはもっと長くかかる可能性もあるでしょう。
改正プロバイダ責任制限法による「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」が円滑に進行したならば短期間で特定できる可能性もあります。
Google口コミの開示請求を弁護士に依頼するメリット
悪質な口コミが残ってしまい、会社やお店の評判が落ちてしまうことを懸念する気持ちはもっともです。
その口コミの内容が権利侵害にあたる場合、法的手続きをとることで投稿者の特定が実現できる可能性があります。
相手が特定できれば、再発防止の意味も込めて賠償請求をおこなったり、刑事処罰を求めることも可能です。
ただし特定に必要な情報は一定期間しか保存されていないため、スムーズに進めなければ特定できずに終わってしまいます。そのため法的手続きを熟知した弁護士に円滑に進めてもらうことがおすすめです。
弁護士に依頼するメリット
- 開示請求や特定のための手法を熟知して円滑に進められる
- 法的な手続きに必要な書類作成も任せられる
- 口コミ内容からどんな権利侵害がおこっているのかを主張できる
- 開示請求による特定後にとるべき対応にもくわしい
悪質な口コミによって権利侵害を受けていて開示請求を考えている人は、まずは開示請求が認められる可能性についてネットの仕組みに詳しい弁護士に相談してみてください。
相談時には、弁護士費用の見積もり、特定出来た場合の賠償金の相場などもあわせて聞くと、弁護士に依頼する具体的なメリットを描きやすいでしょう。
相談先を探しているという方は、以下のバナーより、解説記事をお役立てください。弁護士選びのポイントをまとめています。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了