夫婦間でプライバシー侵害に当たる行為とは?離婚時の証拠集めに注意

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配偶者の不貞行為(浮気、不倫)は夫婦関係の破綻を招く典型的な行為であり、離婚原因になります。不貞行為をした配偶者や不倫相手に対しては、慰謝料を請求することができます。

配偶者の不貞行為を理由に離婚や慰謝料請求を行うには証拠が重要です。その証拠集めをしている中で、プライバシー侵害について心配になる方も多いでしょう。

反対に、配偶者があなたのプライバシー侵害をしていると感じている方もおられるかもしれません。

そのような方に向けて、この記事では、夫婦間でプライバシー侵害に当たる行為や証拠収集の際の注意点について、わかりやすく解説します。

離婚後に個人情報を保護するための対策についてもお伝えします。

これから離婚を考えている方が安心して次の一歩へ踏み出すための知識をご紹介しますので、ぜひご活用ください。

夫婦間のプライバシー侵害とは?法的な影響は?

プライバシー侵害とは?

たとえ夫婦間であっても、個人のプライバシーを侵害する行為をすると法的責任を問われる可能性があります。

プライバシーとは、みだりに他者に開示されないことが法的に保護される私生活上の情報を意味します。プライバシーをみだりに他者に開示されない権利は、プライバシー権として法的保護の対象になります。

したがって、プライバシー侵害に当たる行為をすると、民事上・刑事上の責任を負う可能性があります。

夫婦間のプライバシー侵害によるリスク

①民事上の責任

プライバシー侵害に当たる行為をすると、民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります。簡単に言うと、相手方から慰謝料請求されるリスクがあるという意味です。

プライバシー侵害を理由とする慰謝料の額は低めであり、高額なものでも100万円〜300万円程度と言われています。夫婦間のプライバシー侵害の場合は、さらに慰謝料額は低くなると想定され、認容されたとしても10万円前後にとどまることもあるでしょう。

実務上は、夫婦間のプライバシー侵害を理由に慰謝料請求がされるケースはそれほど多くありません。

②刑事上の責任

不貞行為の証拠を集める際の方法が刑罰法規に触れる場合は、刑事責任を問われる可能性があります。

以下に、刑事責任を問われる可能性がある行為の例と、該当する可能性のある刑罰法規、刑罰の内容を挙げます。

ただ、夫婦間における不貞の証拠集めの際の行動について、実際に警察が動いて捜査したり、起訴される可能性は低いと考えられます。

刑事責任を問われる可能性のある例該当する可能性のある刑罰法規刑罰
不倫相手のオートロックのマンションに無断で立ち入った住居侵入罪(刑法130条)3年以下の懲役又は10万円以下の罰金
配偶者のスマホがロックされているにもかかわらず、パスワードを入力して解除し、無断でメールを見た不正アクセス禁止法違反(同法11条、3条)3年以下の懲役又は100万円以下の罰金
配偶者当てに親展で送られた封書を勝手に開封した信書開封罪(刑法133条)1年以下の懲役又は20万円以下の罰金
証拠集めの際に他人の物を壊した器物損壊罪(刑法261条)3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料
相手方に無断で、相手方の自動車にGPSを取り付けたストーカー規制法違反(同法18条)1年以下の懲役又は100万円以下の罰金

もちろん、「だから何の躊躇もせず証拠集めをしてよい」という意味では決してありません。法的責任を問われる可能性がある行為をあらかじめ知った上で、そのようなリスクのある行為をとらないよう自己防衛することが大切です。

プライバシー侵害が裁判に与える影響

配偶者や不倫相手に対し、裁判で慰謝料を請求する場合、不貞行為を証明する証拠がどれだけ充実しているかが結果を左右します。

原告は、配偶者と不倫相手のスマホでのやりとりなどを証拠として提出することが多いです。

それに対し、被告側が「違法収集証拠に当たるから証拠能力がない(=証拠にならない)」と主張する場合があります。

違法収集証拠に当たると判断されると、その証拠を裁判で使うことはできなくなります。

民事裁判の場合、違法収集証拠に当たるかどうかは、証拠収集の方法が刑法などの刑罰法規に触れ、あるいは、公序良俗に反するような違法性の強いものであるかどうかという視点から判断されます。

下記の裁判例は、証拠の収集方法に強い反社会性があるとされ、証拠の申出が却下されたケースです。

【裁判例】東京地裁平成10年5月29日判決

事案の概要:夫が妻の不倫相手を被告として提起した損害賠償請求訴訟において、夫が陳述書の原稿として作成した大学ノートが妻によって持ち出され、被告から証拠申出された場合、信義誠実の原則に反するとして証拠申出が却下された事例

裁判所の判断:裁判所は、「証拠の収集の仕方に社会的にみて相当性を欠くなどの反社会性が高い事情がある場合」は、証拠申出を却下すべきであるとしました。

そして、被告が証拠申出した大学ノートは、原告が代理人弁護士だけに見せることを前提としたものであること、原告の妻が原告と別居後に原告方に入り、原告が知らない間に入手して被告に渡したものと推測されることを理由に、そのような証拠を提出することは「強い反社会性があり、・・・そのような証拠の申し出は違法」であるとして、証拠申出を却下しました。

民事裁判の場合、違法または不当な手段で収集された証拠であっても、刑事裁判ほど厳格に証拠能力が否定されることはないのが実務の取り扱いです。

しかし、無制限に許容されるわけではなく、場合によっては、この裁判例のように証拠として利用することが許されない可能性もあります。

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離婚の証拠集めで注意すべきプライバシー侵害

スマホに保存されたメールやLINE、写真、着信履歴

スマホには、配偶者と不倫相手との間でやりとりされたメールやLINEの他、2人が写った写真や、着信履歴など不貞行為に関する重要な証拠が残されている可能性が高いです。

スマホのロックがもともと解除されていたり、LINEなどがログインされた状態であった場合は、スマホの表示内容を見たり、撮影して写真として提出しても法的な責任を追及される可能性は低いでしょう。

ただし、ロックされているスマホのパスワードを勝手に解除したり、相手に無断でパスワードを入力する行為は、不正アクセス禁止法違反に当たるおそれがあります。

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SNS

インスタグラムなどのSNSに投稿された写真が不貞行為の証拠になるケースもあります。

ただし、相手方の同意なく、ログインIDとパスワードを入手して、SNSのやりとりを勝手に見るのは不正アクセス禁止法違反に当たる可能性があります。

探偵などが作成した調査報告書

不貞行為の証拠を集めるために、探偵事務所や興信所に尾行を依頼して、調査報告書を作成してもらうケースも少なくありません。

探偵などの浮気調査がプライバシーを侵害する方法で行われていないか確認することを忘れないようにしましょう。

プライバシーを侵害する方法で作成された調査報告書を裁判で提出すると、損害賠償請求や、刑事告訴される可能性があります。

例えば、不倫相手のオートロックのマンションに無断で入る行為や、無断で立ち入ったマンションの共用部に隠しカメラを設置して浮気現場を撮影する行為は、住居侵入罪に該当します。

調査報告書は、不貞行為の有力な証拠となる場合がありますが、裁判で提出する前に弁護士のチェックを受けることをおすすめします。

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相手方宛ての郵便物

浮気相手との宿泊などを証明するために、クレジットカードの利用明細書が提出されることがあります。

クレジットカードの利用明細書は、名義人宛てに郵送されてくることも多いです。配偶者宛てに送られてきた郵便物を勝手に開封すると、プライバシー侵害や信書開封罪が問題になる可能性があるため、注意してください。

GPS

不貞行為の証拠を得るために、配偶者に無断で携帯電話に行動監視アプリをインストールしたり、配偶者の持ち物にGPSを設置する行為は、プライバシー侵害度が高く、慰謝料を請求されるおそれが大きいでしょう。

場合によっては、ストーカー規制法違反に当たる可能性もあります。

離婚後にプライバシーを保護するための方法

離婚時に守秘義務について合意しておく

離婚後に個人情報が守られるか心配な方は、離婚後の守秘義務とそれに違反したときの違約金の支払義務について夫婦で話し合い、合意しておく対策が考えられます。

協議離婚の場合は公正証書、調停離婚の場合は調停調書にこれらの義務を明記しておくと良いでしょう。

ネット上の誹謗中傷に対する対処法

離婚後に、元配偶者があなたを特定できる形でネット上に誹謗中傷する投稿をした場合は、以下の方法により削除を求めましょう。

本人が対応すると、トラブルが激化するおそれがあるため、弁護士に依頼して冷静に対処することをおすすめします。

①元配偶者に対し削除を直接請求する

最初にとるべき対応は、元配偶者本人に対する削除請求です。

当初から慰謝料請求などの法的責任を追及することも考えられますが、相手の反応も予測しながら慎重に請求内容を検討しましょう。

②サイト管理者などに削除を依頼する

元配偶者が削除請求に応じない場合は、サイト管理者などに削除を依頼しましょう。管理者はサイト上に明記されている場合もあります。

③裁判上の手続

最終手段として、元配偶者やサイト管理者などに対し、書き込みの削除の仮処分命令の申し立てを行うことも考えられます。

夫婦間のプライバシー侵害に関するお悩みは弁護士へ

配偶者の不貞行為に関する証拠集めは、法的リスクを十分理解した上で慎重に行う必要があります。

少しでも不安がある方は、ぜひ一度弁護士のアドバイスを聞いてみてください。

その他にも、配偶者によるプライバシー侵害でお悩みの方、離婚後の個人情報保護について心配な方など、夫婦間のプライバシー侵害に関するお悩みは、いつでもお気軽に弁護士にご相談ください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了