事業承継の費用・手数料の相場は?承継方法別に解説
自身の会社や事業を後継者に引き継ぐ際、どのくらいの出費が発生するのか気になることでしょう。
子や孫などの親族や、従業員・役員などの会社関係者に事業承継する場合は、仲介手数料などを支払うケースは少ないですが、法人税や相続税・贈与税などがかかることがあります。
第三者承継(M&A)の場合は、会社売却の価格に応じて、専門業者に手数料を支払うことになるでしょう。
目次
事業承継にかかる費用・手数料
事業承継とは、経営者が事業を次の世代へ引き継ぐことです。後継者となるのは、親族、従業員、第三者など様々です。事業承継は、企業の存続と発展にとって重要な課題であり、事前にしっかりと準備しておくことが重要です。
事業承継には、主に「親族内承継」「従業員承継」「第三者承継」という3つの方法があります。それぞれの方法によって、かかる費用・手数料は異なります。
どの方法を選択する場合でも、事前に費用・手数料をしっかりと把握しておくことが重要です。
親族内承継の費用・手数料
親族内承継とは
親族内承継の場合、買い手を探したり、価格交渉したりする必要がないため、M&A仲介会社などを利用することはほとんどありません。
しかし、承継の方法によっては、贈与税や相続税がかかります。
親族内承継を行う場合の税金は、財産の評価額によって計算されます。
また、土地や建物の登記簿謄本取得費用、名義変更費用などの諸費用も発生します。
いずれも手続きが煩雑となるため、手続きが不安な場合は、弁護士や税理士に依頼することも選択肢の一つです。
親族内承継で必要となる費用は、税金を除けば、弁護士や税理士への報酬になるでしょう。
親族内承継の費用・手数料
- 弁護士費用・手数料
契約書作成など、法律面でのアドバイスへの対価。 - 税理士費用・手数料
税務面でのアドバイスや税務申告のサポートへの対価。 - 会計士費用・手数料
財務面でのアドバイスや財務諸表の作成、企業価値評価やデューデリジェンスなどへの対価。
従業員承継の費用・手数料
従業員承継とは
親族の中に後継者候補がいない場合には、自社の役員や従業員の中から後継者を探すこともあるでしょう。社内の後継者に事業承継することを従業員承継(社内承継)と呼びます。
従業員承継には、事業承継を円滑に進め、ノウハウを継承できるなどのメリットがある一方、後継者としての適任者が見つからない可能性や社内紛争が起こる可能性もあるでしょう。
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従業員承継の費用・手数料
従業員承継で必要になる費用・手数料については、親族内承継の場合とほとんど変わりません。
M&A仲介会社やアドバイザリーなどを利用するケースは珍しく、弁護士、税理士、会計士などの専門家への相談・依頼費用が、主に負担する手数料となるでしょう。
第三者承継の費用・手数料
第三者承継(M&A)とは
第三者承継の場合は、M&Aの形式になることが一般的です。M&Aによる第三者承継は、株式譲渡、事業譲渡が主な方法です。
M&Aによる第三者承継には、親族や従業員などに後継者候補がいない場合であっても、第三者に譲渡することで事業を継続できるメリットがあります。
しかし、買い手探しや企業価値評価などのM&Aの手続きでは、専門知識が必要になることが多いです。
M&A仲介会社やアドバイザリーなどを利用する場合には、高額な費用が発生するケースもあります。
M&Aの主な民間会社
- M&A仲介会社
売り手と買い手の仲介を行う。両当事者を担当するため、M&A成約までのスピードが速いのが特徴。M&Aの戦略策定、相手先の選定、交渉、手続きなど、様々なサポートを行う。 - M&Aアドバイザリー
売り手か買い手のどちらかを担当して、M&A成約に向けたアドバイスを行う。売却側の希望を実現するよう調整してもらいやすいが、仲介会社と比べると成約までのスピードが落ちる。M&Aの戦略策定、相手先の選定、交渉、手続きなど、様々なサポートを行う。 - マッチングプラットフォーム提供会社
M&Aを検討している売り手と買い手がそれぞれ登録し、ネット上で案件の確認を行うことができる。実務的なサポートが欲しい場合には、別料金が発生する場合がほとんど。
どの専門家を利用するのかによって、必要となる費用・手数料は異なります。
複数の専門家から見積もりを取り、費用対効果の高い専門家を選ぶことが重要です。
なお、第三者承継(M&A)の場合は、全ての手続きを一括して全て対応してくれるM&A仲介会社・M&Aアドバイザリーを利用する方が多いです。
弁護士や税理士などに別途、相談・依頼するケースは少ないでしょう。
M&A仲介会社・M&Aアドバイザリーの費用・手数料
M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーは、M&Aの買い手探しや企業価値評価、面談調整や交渉など、多岐にわたるサービスを提供します。
M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーに支払う費用・手数料は、以下のような種類に分類されます。
相談料
正式な依頼前に相談した場合に必要な費用です。
初回無料にしている会社も多いので、各社のホームページなどで確認しておきましょう。
着手金
着手金とは、M&A仲介会社と契約を結んだ際に、今後の業務に着手するために必要となる費用です。途中で契約を解消したり、M&Aが成約しなかったりした場合であっても、着手金が返金されることはありません。
完全成功報酬制を採用している業者であれば、着手金は不要となります。着手金が必要となる会社の場合、最低でも50万円以上かかることが多いでしょう。
中間報酬
中間報酬とは、売り手企業と買い手企業が基本合意できた時点で必要となる費用です。
中間報酬を不要としているケースもありますが、必要なケースでは成功報酬の10%~20%程度がかかる場合が多いので、依頼する場合はきちんと確認しておきましょう。
なお、中間報酬についても、M&Aが成約しなくても原則として返金されません。
月額報酬
月額報酬が定められている場合は、契約が継続する期間、毎月定額の報酬を支払う必要があります。リテイナーフィーとも呼ばれます。
月額報酬が必要な場合には、数十万円から数百万円かかるケースが多いです。
成功報酬
成功報酬とは、M&Aが成立した場合に、支払う報酬です。
成功報酬は、M&Aの規模によって異なりますが、通常は数千万円から数億円程度です。成功報酬についてはレーマン方式を採用している会社がほとんどなので、会社によって大きく費用が異なることはありません。
独自の報酬体系になっているかどうか、依頼する前に確認しておきましょう。
M&Aマッチングプラットフォームの費用・手数料
M&Aマッチングプラットフォームは、登録無料で利用できる会社がほとんどであり、成約するまで費用・手数料は基本的に必要ありません。
売り手側については成約時についても費用が発生せず、完全無料で使えるサイトも多いです。
買い手については成約価格の5%前後の範囲で、手数料を支払うケースが一般的です。
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事業承継にかかる税金
贈与税
親族間で事業を承継する場合、贈与税がかかります。贈与税は、贈与によって財産を取得した人に対して課される税金です。贈与税の税額は、贈与した財産の価額によって計算されます。
法人を承継する場合には、贈与される株式に対して贈与税がかかります。
個人事業を承継する場合には、預貯金や商品などを含めた事業用資産と株式に対して贈与税に対して贈与税が課されます。
贈与税の税率は、一般税率と特別税率の2種類があります。
一般税率は、夫婦間の贈与・兄弟間の贈与・父母から18歳未満の子への贈与の場合などに適用されます。
贈与税の詳細は「贈与税の税率が速算表ですぐわかる!|計算方法や特例も解説」をご覧ください。
相続税
相続によって事業を承継する場合、相続税がかかります。
相続税は、相続によって財産を取得した人に対して課税される税金です。相続税の税額は、相続した財産の価額によって計算されます。
事業承継の場合も、事業用資産や株式に対して相続税が課せられます。
相続税の詳細は「相続税の税率がすぐ分かる!|計算方法や各種控除も解説」をご覧ください。
事業承継税制
贈与や相続によって事業承継を行う際には、一定の要件を満たすことで、贈与税・相続税の納付が猶予、免除される「事業承継税制」を利用することができます。
事業承継税制を利用することで、税金を一括で納める必要がなくなります。
これにより、経営の継続や事業拡大に集中することができます。
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法人税
親族内承継、従業員承継を行ったとしても、法人税が課されることはありません。
第三者承継の場合も株式譲渡であれば法人税はかかりませんが、事業譲渡を行い利益が出た場合には、法人税が課せられます。
法人税が課される場合には、事業税、地方法人税、法人住民税が合わされます。
この場合の実効税率は30~35%程度となります。
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消費税
事業承継で消費税がかかるのは、第三者承継のうち、事業譲渡を行い、譲渡資産の中に課税対象となる資産が含まれている場合です。
それ以外の事業承継では、原則として消費税はかかりません。
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登録免許税、不動産取得税
事業譲渡を行う資産の中に不動産がある場合には、不動産の所有権移転登記が必要となり、その際に登録免許税が課税されます。
登録免許税は、土地・建物を取得した場合に、その所有権を登記する際に国に納める税金です。税額は、その土地や建物の固定資産税評価額に税率を掛けて計算します。
不動産を贈与した場合には、土地・建物に対してそれぞれ2.0%の税率がかかります。相続した場合には、土地・建物に対してそれぞれ0.4%の税率がかかります。
一方、不動産取得税は、土地・建物を取得した際、登記の有無に関係なく課される税金です。しかし、不動産を相続する場合には不動産取得税は課されず、贈与や売買の場合に課税されます。
不動産取得税は、不動産の価格(課税標準額)に税率を掛けて計算されます。
税率は土地・住宅用家屋については3%、非住宅用家屋については4%(2024年3月31日までに取得した場合)となっています。
事業承継のお悩みは専門家に相談を
事業承継を進めていくうえで不安な点があれば、専門家に相談しましょう。
国が都道府県ごとに設置する事業承継・引継ぎ支援センターであれば、無料で相談に乗ってもらうことができます。
民間の会社でも、複数社と面談して大まかな費用を概算しておくことも重要です。