非上場株式譲渡の税金とは?売却価格と税金の金額の関係は?
- 非上場株式譲渡の税金はいくら?
- 非上場株式の譲渡ではどんな税金がかかる?
個人株主が非上場株式を譲渡した場合、所得税・復興特別所得税・住民税あわせて20.315%の税金をおさめる必要があります。
これらの税金の対象となるのは、売却金額そのものではありません。売却金額から非上場株式を取得するときにかかった費用(取得費)と、売却の際にかかった手数料(譲渡費用)などを差し引いた譲渡所得に、税金がかかります。
また、売却相場や時価を考慮せずに、譲渡価格を決めると思わぬ税金が課されて損をすることもあります。
この記事では、非上場株式の譲渡所得にかかる税金と、税金対策を見据えた売却価格設定などを解説しています。
ぜひ最後までお読みください。
目次
非上場株式譲渡のメリットは?売却のほうが税金は安い?
非上場株式譲渡のメリット
非上場株式を譲渡したいと思うきっかけは、老後資金や新たな事業の資金調達、後継者の不在、株式を相続したけれども会社の運営ができないなど、その理由はさまざまです。
非上場株式を売却することで、多額の資金を得られるメリットや、後継者不在であっても会社そのものは存続していけるというメリットがあるでしょう。
株式譲渡のメリット
- 譲渡益が手に入る
- 後継者問題の解消
- 会社経営から離れることができる
- 会社の存続
etc.
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非上場株式の税金…相続より売却の方が安い?
非上場株式の株式売却(株式譲渡)の利益にかかる税金は、売り手が個人株主であれば金額にかかわらず20.315%です。
一方、非上場株式を相続した場合は、相続人には10%から最大55%までの税金がかかります。
法定相続分に応じて 取得した財産 | 税率 | 控除 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ー |
1,000万円 ~3,000万円以下 | 15% | 50万 |
3,000万円 ~5,000万円以下 | 20% | 200万 |
5,000万円 ~1億円以下 | 30% | 700万 |
1億円~2億円以下 | 40% | 1700万 |
2億円~3億円以下 | 45% | 2700万 |
3億円~6億円以下 | 50% | 4200万 |
6億円~ | 55% | 7200万 |
国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問)「No.4155 相続税の税率」を参考に作成。こちらは2023年3月28日現在の情報です。最新の情報については、ご自身でご確認ください。
非上場株式の価値が高ければ高いほど、相続税の税率は上がり、相続税は高くなります。
このように譲渡と相続とでは、税金に大きな違いがあります。
将来、後継者になるために非上場株式を取得する必要がある場合以外は、相続を待たずに、親の代で会社売却に踏み切ってもらうほうが税金を安くおさえられるケースもありそうです。
非上場株式の価値がどのくらいあるのかを把握したうえで、譲渡と相続のどちらのほうが税金面でメリットがあるのか検討を加える必要があります。
税金の比較
- 相続税
相続税の税率は最大55% - 譲渡益の所得税等
個人株主の譲渡益の税率は20.315%
非上場株式を譲渡したときの税金
非上場株式を譲渡する場合(個人株主)
税率
個人株主が非上場株式を売却した場合、所得税15.315%(復興特別所得税を含む)、住民税5%、あわせて20.315%の税金が、「譲渡所得」にかかります。
なお、非上場株式の譲渡所得は、一般株式等にかかる譲渡所得等の金額となり、申告分離課税とされるので、どれだけ譲渡所得が大きくても一律20.315%の税率は変わりません。
譲渡所得
所得税・復興特別所得税・住民税が課税されるのは、非上場株式の「譲渡所得」です。
譲渡所得とは、譲渡金額(売却代金)から、必要経費(取得費・仲介手数料等の譲渡費用)を差し引いた金額のことです。
課税される譲渡所得とは?
非上場株式の売却代金-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得
なお、非上場株式と上場株式の譲渡損益を通算すること(赤字と黒字を合算することで、利益を圧縮して節税すること)はできません。そのため、上場株式で損失がでている場合でも、非上場株式の譲渡所得の節税にはつながりません。
取得費
取得費とは、売却予定の株式を取得したときにかかった費用のことです。
創業者の場合は事業立ち上げにかかった資本金、創業者を相続した場合はその資本金の金額、非上場株式の譲渡を受けた場合はそのときに支払った対価などの金額が、取得費となります。
取得費が分からない場合は、売却代金の5%を取得費として計算することができます。
譲渡費用
譲渡費用とは、株式売却にかかる費用のことです。
上場株式であれば証券取引所の委託手数料、非上場株式であればM&A仲介会社の仲介手数料などがあげられます。
そのほかにも、印紙税、名義書換料なども譲渡費用に含まれます。
◆個人株主の株式譲渡:計算式とシュミレーション
ここまでの内容をまとめると、以下のような計算式で、非上場株式の譲渡所得にかかる税金を算出することができることが分かります。
非上場株式の譲渡所得・個人株主
- 譲渡所得の金額
=譲渡価格-必要経費(取得費+譲渡費用) - 所得税(復興特別所得税を含む)の金額
=譲渡所得の金額×15.315% - 住民税の金額
=譲渡所得の金額×5%
たとえば、譲渡価格3億2000万円、必要経費が2000万円の場合、個人株主が非上場株式を譲渡益したときににかかる所得税、住民税は以下のようになります。
計算
- 所得税の金額
=(3億2000万円-2000万円)×15.315%
=45,945,000円 - 住民税の金額
=(3億2000万円-2000万円)×5%
=15,000,000円
非上場株式を譲渡する場合(法人株主)
法人株主が非上場株式を譲渡する場合、他の所得と合算されたうえで、その所得全体に対して法人税、事業税、住民税が課税されることになります。
非上場株式の譲渡益は、譲渡金額から必要経費を差し引いた金額になります。
法人の場合は、ほかの損益と通算したうえで、法人税等の税額が決まります。
法人税の実効税率は、通常、およそ30%~35%程度が見込まれます。
著しく低い売却価格・無償の株式譲渡の税金リスク
著しく低い価額での株式譲渡の注意点
譲渡所得が低ければ、税金の金額も小さくなります。
しかし、所得税逃れや相続税逃れのために、非上場株式の譲渡をおこなうと、みなし譲渡課税やみなし贈与課税をうけるリスクがあります。
つまり、時価よりも低額で譲渡した場合でも、時価で譲渡したものと同視され、時価を超える部分については贈与があったなどみなされ、税金が課されるということもあり得ます。
株式譲渡にかかる税金のルールは、その株式譲渡が個人株主間でおこなわれたものか、法人株主間か、個人株主から法人か、法人株主から個人なのかでも変わります。
非上場株式の譲渡について、必要経費が1億円、譲渡金額が2億円、時価が5億円というケースを想定して、どのような税金リスクがあるのかを解説していきましょう。
例題
- 必要経費:1億円*¹
- 譲渡金額:2億円*²
- 時価 :5億円*³
*¹ 必要経費とは取得費や譲渡費用のことをいう。取得費とは、売り手が株式を取得する際にかかった費用をいう。譲渡費用には、M&A仲介会社の仲介手数料や、印紙代、名義書換料などが含まれる。
*² 譲渡金額とは、売り手が株式を売却した際の価格をいう。
*³ 時価とは、株式の時価をいう。
なお、わかりやすくお伝えするために、最大公約数的な考え方で、できる限り簡略化して説明していきます。
税金には様々なルールがあります。個別のケースについて詳しく知りたい場合は、顧問税理士などに聞いてみてください。
個人株主同士の非上場株式の譲渡
売り手側(個人)の税金
個人株主間で非上場株式を譲渡した場合、売り手側の譲渡益には所得税がかかります。
上記の例の場合、所得税の課税対象は1億円(譲渡金額2億円-必要経費1億円)になります。
- 必要経費:1億円
- 譲渡金額:2億円
- 時価 :5億円
- 課税対象:1億円(=譲渡金額-必要経費)
ただし低額譲渡に該当する場合は、譲渡による損失はなかったとみなされるため、損益通算はできません。
上記の例の場合、3億円の譲渡損(5億円で売却できるのに、2億円で売却してしまった場合に生じる、差額部分3億円の損失)が生じます。
低額譲渡に該当する場合、この譲渡損はないものとして扱われるため、ほかの株式の譲渡益と通算できないというデメリットがあります。
買い手側(個人)の税金(みなし贈与課税)
非上場株式の譲渡先(買い手側の個人株主)については、時価と譲渡金額の差額である3億円(5億円-2億円=3億円)について贈与を受けたものと扱われる可能性があります。
この場合、みなし贈与課税がおこなわれ、贈与税が発生するリスクがあります。
個人株主から法人株主への株式譲渡(みなし譲渡)
売り手側(個人)の税金(みなし譲渡課税)
個人株主が法人に対し、「著しく低い金額」(所得税法59条1項2号)で株式を譲渡した場合、「みなし譲渡」にあたる可能性があります。
「著しく低い価額」とは?
「著しく低い価額」とは、「譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額」(所得税法施行令169条)をいう。
みなし譲渡にあたる場合、実際の譲渡金額ではなく時価による譲渡がおこなわれたとして、課税されることになります。
つまり、必要経費が1億円、譲渡金額が2億円、時価が5億円の場合、2億円ではなく5億円で株式譲渡をおこなったとして、所得税を払わなければなりません。
この場合の所得税の課税対象は、4億円(時価5億円-必要経費1億円)になります。
- 必要経費:1億円
- 譲渡金額:2億円
- 時価 :5億円
- 課税対象:4億円(=時価-取得金額)
実際に株式譲渡で得られた譲渡益は、譲渡価格2億円と必要経費1億円の差額である1億円であるはずです。しかし、みなし譲渡が適用された場合は4億円の譲渡益があるものとして課税されるため、本来よりも課税金額が増えるリスクがあります。
買い手側(法人)の税金
時価である5億円と譲渡金額である2億円の差額である3億円について、受贈益があるとして、法人税が課税される可能性があります。
法人株主から個人株主への株式譲渡
売り手側(法人)の税金
法人株主から個人株主への株式譲渡の場合、著しく低い価額で株式譲渡をしたときは、時価で株式譲渡したものとして扱われ、時価と必要経費との差額が譲渡益となり、法人税等の課税対象になります。
必要経費億円、譲渡金額2億円、時価5億円の場合、法人税の課税対象は4億円(時価5億円-必要経費1億円)になります。
- 必要経費:1億円
- 譲渡金額:2億円
- 時価 :5億円
- 課税対象:4億円(=時価-取得金額)
時価と譲渡価額の差額は、個人に対する給与や寄付金として扱われることになります。役員賞与や寄付金などは損金不算入となるケースに留意する必要があります。
買い手側(個人)の税金
時価と譲渡金額の差額である3億円(=5億円-2億円)について、給与所得や一時所得として課税される可能性があります。
法人株主同士の株式譲渡
売り手側(法人)の税金
売り手については、法人株主から法人株主への株式譲渡の場合、必要経費1億円、譲渡金額2億円、時価5億円であるときは、時価で譲渡したものとされ、時価と必要経費の差額である4億円(=5億円-1億円)について、法人税等が課税されます。
時価と譲渡金額の差額である3億円(=5億円-2億円)については、寄付金として扱われ、損益不算入の対象となります。
買い手側(法人)の税金
買い手側については、時価と譲受価格の差額について、受贈益として課税される可能性があります。
売却価格が時価よりも高額の場合、税金はどうなる?
個人株主同士の非上場株式の譲渡
個人株主から個人に対して、非上場株式が譲渡された場合に、その株式の売却価格が時価よりも高額であるときは、時価から必要経費を差し引いた部分には所得税等が課されます。所得税等の税率は、所得税・復興特別所得税・住民税あわせて20.315%となります。
時価を超える譲渡益(譲渡金額-時価)については、買い手から売り手に対して贈与があったものとして、贈与税が課されるリスクがあります。
個人株主から法人株主への株式譲渡
個人株主から法人株主へ株式を高額譲渡した場合、時価から必要経費を差し引いた部分については、譲渡益があるものとして、所得税・復興特別所得税・住民税の課税対象となります。所得税等の税率は20.315%となります。
時価を超える譲渡益(譲渡金額-時価)については、法人から個人への給与や寄付として扱われ、課税対象となります。給与所得であれば、税率は5%~45%です。累進課税となるため、所得金額が上がれば上がるほど、税率は高くなっていきます。
法人株主から個人株主への株式譲渡
法人株主から個人株主への株式譲渡を時価より高額で売却した場合、時価を基準とした譲渡益に法人税等が発生します。
また、時価を上回る譲渡金額については、買い手である個人株主から法人株主に対して、寄付があったとして扱われ、法人税等が課税される可能性があります。
法人税等の実行税率は、30%程度です。
法人株主同士の株式譲渡
法人株主から法人株主への株式の高額譲渡についても、時価を基準とした譲渡益に法人税等が課税される可能性があります。
さらに、時価を超える部分(譲渡金額-時価)については受贈益として扱われ、法人税等が課税される可能性があります。
非上場株式譲渡の税金で損しないためには?
売却価格の設定が重要!
譲渡価格は、当事者の合意で決めることはできます。しかし、税金のことも考えると、相場を意識した価格設定が望ましいでしょう。
非上場株式譲渡でかかる税金は、時価を踏まえて課税されることになります。
時価からはずれた売却金額では、非上場株式の売り手はもちろんのこと、買い手も不測の税金リスクを負うことになります。
非上場株式の譲渡価格の算出方法を押さえよう!
非上場株式の譲渡価格については、次のような方法で相場を計算することができます。
これらの計算方法を用いて、合理的な価格設定をしていくことが大切です。
譲渡価格の算出方法
- コストアプローチ
資産や負債に着目した算定手法
例)純資産法、年買法
時価純資産額+のれん代 - インカムアプローチ
収益性に着目した算定手法
例)DCF法 - マーケットアプローチ
事業の類似するマーケットに着目した算定手法
例)マルチプル法
中小企業の会社売却の場合、株式譲渡の手法がとられることが多く、その際の売却価格の算出方法については、コストアプローチが多用される傾向があります。
たとえば、コストアプローチのなかでも比較的ポピュラーな計算方法としては、簿価から時価に引き直した「純資産額」に、「経常利益」の数年分(のれん代)を加算して、売却価格を算定するという方法でしょう。
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まとめ
非上場株式譲渡にかかる税金は、時価よりも著しく低い金額だったり、高額だったりする場合は、思わぬ税金が課されるリスクがあります。
時価を意識しない売却価格の設定は、売り手にとっても、買い手にとってもリスクの大きい株式売却となってしまいます。
よかれと思った判断が思わぬ事態を招かないように注意を払う必要があるでしょう。