テレワーク中の怪我でも労災保険の対象となる条件について解説 | アトム法律事務所弁護士法人

テレワーク中の怪我でも労災保険の対象となる条件について解説

更新日:

テレワーク中の怪我でも労災保険の対象となる条件

近年はライフワークバランスの重要性が見直され、家庭と仕事の両立を推し進める企業が求められています。最近は、情報通信技術の発展によって企業規模に関係なく、在宅勤務が可能になるようにシステムを導入している企業が増大しているのです。

特に、本拠地の就業場所を離れて自宅や任意の場所での業務を認める「テレワーク」による在宅勤務も一般に普及しました。

他方で、上述のようなテレワークによる在宅勤務は自宅にいながら業務に従事するという勤務形態ですので、在宅勤務中に負傷等の災害が発生した場合にそもそも労災保険の適用がないのではないか、という疑問が生じてきます。

本記事では、テレワークによる在宅勤務中に負傷した場合、労災認定を受けることができるのかという点について、認定のための条件や、認定を受けるために知っておくべきポイントなどを解説しております。

テレワークで労災保険が利用できる条件とは

テレワークの労災|業務災害の要件該当が必要

テレワークなどの在宅勤務を行う労働者についても、労働関係法令に基づき使用者が労働災害に対する補償責任を負うことは、事業場で勤務する労働者の場合と同様です。

労災であると認定されるには、業務中に生じる業務災害、または、通勤途中に生じる通勤災害の要件に該当することが必要です。

テレワークによる在宅勤務中の負傷は「業務災害」該当性が問題となりますので、詳しく解説していきましょう。

業務災害とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」のことです。(労災保険法第7条1項1号)

業務遂行中に業務行為を原因として労働者に傷病が生じた場合には「業務上」という要件が認められます。
以下において、「業務上」の詳細な要件について検討を行います。

労働者が「業務災害」に遭ったと認められた場合には労災保険により救済が図られます。

業務災害の具体的な要件|業務遂行性・業務起因性

「業務上」といえるためには、災害が業務の遂行中に、すなわち労働者が事業主の支配ないし管理下にある状態で発生したものであり(業務遂行性)、その災害が業務に起因するもの(業務起因性)であることが必要です。

業務遂行性とは

「業務遂行性」が認められるケースとしては以下のようなものが考えられます。

(1)事業主の支配下にあり、かつのその管理下にあって業務に従事している際に災害が生じた場合
これは、所定労働時間内や残業時間内に事業場施設内において業務に従事している場合に負傷するケースが典型例でしょう。

(2)事業主の支配下にあり、かつその管理下にあるが事業には従事していない場合
これは昼休みや就業時間前後に事業場施設内で休んでいたり準備したりしている間に負傷するようなケースが典型例でしょう。

(3)事業主の支配下にあるが、その管理を離れて業務に従事している際に災害が生じた場合
これは、出張先や社用の外出などにより事業場施設外で働いている場合に負傷したようなケースが典型例でしょう。在宅勤務中に怪我をした場合にもこのケースに該当します。

業務起因性とは

業務遂行性が認められたとしても、業務起因性が認められない場合には「業務上」という要件が欠けることになり、業務災害が認められないのです。

具体的には、業務遂行性のある行為を行っている場合であったとしても、災害発生の原因が自然現象であったり、本人の私的な逸脱行為などによる場合には業務行為が原因であるといえないため、業務起因性が認められません。

判例としても、仕事上の注意に端を発した大工のけんかによって災害が発生した事案において業務起因性を否定したケースが参考になります。

要するに、テレワークによる在宅勤務中の災害についても「業務遂行性」「業務起因性」が認められる場合には労災として認定されるということです。

業務災害に該当する場合は、労働基準監督署へ労災申請を行い、労災認定を受けることで労災保険による給付がなされることになります。
業務災害が生じた際の具体的な手続きに関して知りたい方は『業務災害が起きた際の手続きを紹介|労災保険給付の請求をしよう』の記事をご覧ください。

テレワークで労災認定される場合・されない場合

それでは、テレワークによる在宅勤務ではどのような場合に労災認定され、どのような場合には労災認定されないのでしょうか。ケースごとに検討を行います。

(1)家事や育児で作業を中断した時に負傷

テレワーク中にパソコンでの作業を中断して、家事や育児をしている際に負傷したケースを考えてみましょう。

このような場合には、所定労働時間内であったとしても業務を中断して家事・育児という行為を行っていますので「業務遂行性」がないと考えられます。
したがって、本ケースでは労災とは認定されないでしょう。

(2)休憩中に子どもと遊んで負傷した

在宅勤務で休憩中に子どもと遊んでいた際に負傷したケースを考えてみます。

この場合、休憩中であっても直ちに業務遂行性が否定されるわけではありません。しかし、子どもと遊ぶという行為は「積極的な私的な行動」であり、これによって災害が発生していますので「業務起因性」が否定されるでしょう。したがって、本ケースで労災とは認定されません。

(3)外出中に負傷した

在宅勤務の作業中に外出を行うこともあるでしょう。

例えば、作成した書類を郵便により発送する必要があり、郵便局へ移動中に負傷するといったケースです。
このようなケースでは、業務を遂行するための外出であることから、業務遂行性や業務起因性が認められるでしょう。

一方、自宅で作業に集中できず、近所のカフェに移動して作業を行っている最中に負傷した場合はどうでしょうか。

会社に確認を取ったうえで移動しているのであれば、事業主の支配下にあったといえるため、業務災害に該当するといえるでしょう。
しかし、本来は自宅でしか作業してはいけないのに、勝手に移動していたい場合には、事業主の支配下にあったとは言えず、業務災害に該当しないと判断される恐れがあります。

テレワークの職場としてどのような場所が会社として認めているのかにより結論が異なってくる部分といえるでしょう。

(4)トイレから戻ってきたときに負傷

自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたところ、トイレに行くために離席し戻ってきて椅子に座ろうとして転倒・負傷した場合で考えてみます。

この場合、トイレに行くために離席するという行為は業務そのものではありません。しかし、トイレに行くことは生理現象として不可避的な行為なので業務に付随する行為と評価でき、「業務遂行性」が認められます
そして、積極的な私的行動でもありませんので「業務起因性」が否定されることもありません。

以上により、このケースは「業務災害」として労災保険の対象となります。

(5)テレワークによる業務環境の変化により精神疾患となった

テレワークを行うことによる作業環境の変化から精神的に不安定となり、精神疾患となってしまうことがあります。

精神疾患が発症した原因がテレワークを始めたことや長時間労働などの業務に関する出来事であると認められる場合には、業務災害ということが可能です。

もっとも、精神疾患は日常による出来事が原因で発症する可能性も十分あるので、業務災害と判断することは簡単ではありません。
基本的に、厚生労働省が定める以下の認定基準に該当するかどうかという方法により判断されます。

  1. 労災認定の対象となりうる精神疾患であること
  2. 発病前の約6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 個人的な問題で発病したと認められないこと

それぞれの具体的な要件について知りたい方は『精神疾患の労災認定基準|うつ病や適応障害も労災?認定されないときの対処法』の記事をご覧ください。

テレワークで労災と認定されるために重要なポイント

ここまでで説明したように、在宅勤務での業務災害の場合にもそれが業務遂行中のものか否か、業務に起因するものか否かという点が問題となります。業務上の災害といえるのか、私生活に起因する災害なのかの判断が難しい場合が考えられるのです。

加えて、在宅勤務では多くの場合、ひとり自宅で業務に従事することになりますので、怪我したことを誰も目撃していないという状況になってしまいます。

したがって、労働者としても在宅勤務で労災認定を受けられるように、業務従事について立証できる証拠を残しておくことには注意しておくべきでしょう。

具体的には、以下のような点がポイントでしょう。

私的な時間と業務時間の明確な区別

労働者のなかには事業場外のみなし労働時間制の適用により明確な区別が難しい方もいらっしゃると思います。しかし、日頃より業務日報や出勤簿データへの記入、始業終業の連絡などは客観的にわかる形で証拠を残しておくように心がけましょう。

業務時間の記録や業務進捗の報告

業務時間の記録や業務進捗を適時報告して、勤務状況を残しておくことも労災保険適用の点で有効な証拠となります。

在宅勤務の社内ルールの遵守

在宅勤務やテレワークに際して、自宅以外の作業場所を認めていない会社もまだまだ多いでしょう。社内ルールに反して自宅以外の作業スペースや喫茶店などで事業に従事していた場合、労災認定の際に労働者にとって不利益な要素になる可能性が高いです。社内ルールは守っておきましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了