給食による窒息事故の責任は誰が負う?利用できる保険制度は? | アトム法律事務所弁護士法人

給食による窒息事故の責任は誰が負う?利用できる保険制度は?

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給食での窒息事故。利用できる保険制度

学校事故のひとつに、給食による窒息事故があげられます。最近では、2021年7月に給食のパンをのどに詰まらせた小学生が、後日亡くなってしまう痛ましい事故が起こりました。

思いもよらないことが原因となって学校事故が発生し、生徒が死亡してしまうケースもありますが、このような場合に誰が責任を負うのでしょうか。

今回は「給食による窒息事故」を例に、責任の所在や損害賠償請求の可否などについてわかりやすく解説します。

給食で窒息事故|学校で起こった事例

学校給食での窒息事故について、学校で起こった事例をみていきましょう。

給食のパンをのどに詰まらせ死亡した事例

新潟県佐渡市の小学校に通う男子児童が、給食の米粉パンを喉に詰まらせて窒息してしまいました。後日、意識不明になっていた小学校の男子児童は亡くなってしまったのです。

男子児童がのどに詰まらせたパンは、直径10cm程度、厚さ3cm程度の丸い形状をした米粉のパンです。このパンは10年以上前から新潟市内で提供されており、同様の事故はこれまでに1件も起きていませんでした。

給食の白玉団子をのどに詰まらせ死亡した事例

小学校の学校給食として提供された白玉汁を飲み込む際、小学1年生の児童が白玉団子を喉に詰まらせて窒息し、死亡してしまいました。

白玉団子のサイズや、窒息状態になってからの学校・教諭の対応などで意見が食い違い、裁判の争点となったのです。(宇都宮地方裁判所 平成25年(ワ)第615号 損害賠償請求事件 平成29年2月2日)

給食による窒息事故の責任はどこにあるのか

学校の管理下で事故が発生した場合、責任の所在はどこにあるのかを、公立学校と私立学校に分けて考えていきます。

公立学校の場合

公立学校において学校事故が発生した場合、責任を負う可能性があるのは学校を設置している国や地方公共団体(都道府県や市区町村)になります。公立学校での学校事故では、学校や教職員が責任を負うことはありません。

児童が給食をのどに詰まらせて窒息状態となった場合、特に問題となるのは、学校側に安全配慮義務違反があったかどうかということです。

安全配慮義務とは?

生徒が安全・健康に学生生活を送ることができるように配慮しなければならないという、学校側が負っている義務

学校側が安全配慮義務に違反した結果、児童が給食をのどに詰まらせて死亡したといえる場合には、学校を設置している国や地方公共団体が児童側に対して損害賠償責任を負うことになるのです。

私立学校の場合

私立学校において学校事故が発生した場合、責任を負う可能性があるのは学校および教職員です。

私立学校についても、公立学校の場合と同じように、学校側は安全配慮義務を負っています。

また、安全配慮義務とは別に学校側に認められうる責任が「不法行為責任」と「使用者責任」です。

ここでいう「不法行為責任」とは、教職員が故意・過失により生徒に怪我をさせた場合に負う責任のことをいいます。

一方で、「使用者責任」とは、教職員が職務を行ううえで生徒に怪我をさせた場合に、その教職員を雇用する学校が負う不法行為責任のことです。

教職員の故意・過失に起因して、児童が給食をのどに詰まらせて死亡した場合、学校側は不法行為責任・使用者責任により、生徒側に対して損害賠償責任を負うことになる可能性があります。

給食での窒息事故|災害共済給付制度の利用

学校の管理下で発生した事故については、災害共済給付制度を利用できる可能性があります。

「災害共済給付制度」とは、日本振興スポーツセンターが運用する制度で、学校事故により受傷した生徒側に対して、給付金が支払われる制度です。

もっとも、学校によっては加入していない可能性もあるため、学校事故に遭った場合は、加入の有無を確認するようにしましょう。

災害共済給付制度で支給される給付金は、医療費・障害見舞金・死亡見舞金の3つの種類があるため、事案の内容や被害の態様・程度などに応じて給付金を請求することになります。

医療費

医療費は、健康保険法にもとづいて療養にかかった費用のことをいいます。自己負担割合の3割に、療養に伴って必要な費用として1割を加算した金額が支給されます。

つまり、災害共済給付より医療費として支給される金額は「総医療費の4割」です。

障害見舞金

障害見舞金とは、学校事故により後遺障害が残った場合に支給されるもので、金額は88万円~4000万円と規定されています。

障害見舞金を受け取るためには、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。後遺障害の等級は第1級から第14級まで分かれており、等級に応じて障害見舞金の金額も変動します。

たとえば、給食をのどに詰まらせて寝たきりになってしまい、後遺障害第1級に認定されたとします。障害第1級は最も重い等級であり、4,000万円の障害見舞金が給付されるでしょう。

障害見舞金の給付にあたっては、後遺障害等級が何級に認定されるのかが極めて重要です。

支援学校での給食による窒息事故について

支援学校に通う生徒は、個人の特性に合わせたサポートを受けながら学生生活を送っています。

支援学校での給食による窒息事故もたびたび発生しており、死亡事故や重大な後遺障害が残った事故もあります。
ここで既存障害の取り扱いに関する一つの判例をみてみましょう。この判例では、窒息事故による後遺障害が先天性の既存障害と同一部位の障害と判断され、障害見舞金の請求が認められませんでした。

判例

特別支援学校に在籍していた生徒は、給食介助中に窒息状態となり、低酸素脳症による重篤な脳障害が残りました。一方で、先天性の脳性まひにより、身体障害者福祉法別表第1級の認定を受けていたのです。災害共済給付制度においては給食中の窒息事故により生じた障害と、既存の障害が「同一部位についての障害」であるとし、障害見舞金の支払請求は認められませんでした。(福岡高等裁判所 平成30年(ネ)第651号 損害賠償,障害見舞金支払請求控訴事件 令和2年7月6日)

支援学校に通う生徒のなかには、すでに後遺障害等級に相応する障害を抱えている子どももいるでしょう。支援学校で起こった事故に関して損害賠償請求を検討している方は、一度弁護士に見通しをたずねてみることをおすすめします。

死亡見舞金

死亡見舞金は、学校事故により死亡した場合に給付されるものです。災害共済給付より支払われる死亡見舞金は、最高額で3,000万円となっています。

給食での窒息事故|学校側への損害賠償請求

被害生徒が負った損害は3つの項目に分類できます。事案の内容や被害の態様・程度などに応じて、請求可能な損害を見極めることが大切です。

損害の分類と内訳(例)

内訳(例)
積極損害治療費、入通院交通費
消極損害逸失利益、休業損害
慰謝料入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料

学校側の安全配慮義務違反、故意・過失などが原因となって、給食による窒息事故が発生した場合、公立学校なら国や地方公共団体、私立学校なら学校や教職員に対して損害賠償を請求することができます。

ただし、災害共済給付との二重取りは認められません。災害共済給付制度により支給された給付金をもって、十分な補償が受けられない場合、その差額分を国や地方公共団体・学校側に対して請求するのが一般的です。

ここからは損害の内訳をより詳しくみていきます。

治療費・入院費・入通院交通費

給食による窒息事故で、病院での治療が必要になった場合、治療費や通院交通費、入院費などを支出しなければなりません。

治療費や入通院交通費は、窒息事故が発生していなければ支出しなかったものと考えられるため、学校側に請求できます。

逸失利益・休業損害

逸失利益とは、学校事故により得られなくなった「将来仕事により得られたはずの収入」のことをいいます。

給食による窒息事故で児童が死亡したり、後遺症が残ったりした場合には、学校側に対して逸失利益を請求することが可能です。

休業損害とは、「学校事故による受傷で働くことができなくなった期間に相当する収入分」のことです。

休業損害は、被害者の年齢によっては発生しません。アルバイトをしていて定期的に収入を得ているような場合には、休業損害の請求が可能なケースもあります。

慰謝料

給食による窒息事故で受傷した児童側は、精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求することが可能です。慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料、そして、死亡慰謝料の3つの種類があります。

  • 入通院慰謝料は、入院や通院により被った精神的苦痛に対するもの
  • 後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことにより被った精神的苦痛に対するもの
  • 死亡慰謝料は、本人が死亡したことにより被った精神的苦痛に対するもの

慰謝料の金額には明確な規定はありませんが、交通事故の慰謝料算定で用いられる基準が参考にされることが多いです。ここからは交通事故の慰謝料算定にのっとり、慰謝料の基本的な考え方を解説します。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、入院や通院時に感じた痛みや辛さといった精神的苦痛を金銭によって緩和するために支払われます。

基本的には、入院を伴ったり、入通院期間が長引くほど精神的苦痛は増大するものと考えられるため、入通院慰謝料も高額になります。

そのほかにも、窒息事故によって生死の境をさまようほどの苦痛を受けた場合や、大きな手術を受けた場合なども慰謝料増額理由のひとつとなるでしょう。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、窒息事故により何らかの後遺症が残り、その後遺症が「後遺障害」として認定された場合の慰謝料です。

後遺障害に認定されると後遺障害等級の通知を受けます。後遺障害慰謝料は等級に応じた一定の相場があるので、後遺障害等級認定を受けられるのか、何級で認定されるのかが重要です。

死亡慰謝料

死亡慰謝料は、2,000万円~2,500万円が相場とされています。

重い後遺障害により介護が必要になったような場合や死亡時においては、ご家族の精神的苦痛も考慮して、最終的な金額決定となる流れです。

適正な慰謝料の算定には、専門的な知識や豊富な実務経験が求められます。最終的には学校側との話し合いや裁判で決定されるものですが、相手方に請求する時点で不当に低い金額を請求することがないよう、相場を知っておくことや弁護士に算定依頼も検討してください。

学校事故の損害賠償請求を検討している方へ

給食中の窒息事故のように、学校で起こった事故についての損害賠償請求を検討している方は、まず弁護士への相談がおすすめです。

弁護士がいれば期待できること

弁護士相談をおすすめする大きな理由は、次の通りです。

  • 適正な損害賠償請求額がわかる
  • 学校との話し合いや裁判の対応を一任できる

適正な損害賠償請求額がわかれば、最初から不当に低い金額で請求してしまう事態を回避できます。また、逆に法外な金額での請求をしても、学校側の受け入れてもらえず、話し合いが長引きかねません。弁護士であれば、個別の事情に加えて、これまでの裁判例や事例に基づいた適正額での請求を目指します。結果として、争いごとを長引かせず、できるだけスムーズに進めるサポートが可能です。

学校側との交渉や裁判対応まで弁護士に任せることで、家族はお子さんとの時間を大事にできますし、仕事や家事などの日常生活にかかる時間も確保しやすくなります。

無料の法律相談のご案内

弁護士に依頼するメリットがわかっても、どんな弁護士になら任せられるのか、いくら弁護士費用がかかるのかも気になるところでしょう。それらの疑問を解消するには無料の法律相談がおすすめです。

学校給食中の窒息事故で、お子さまが亡くなられたり、大きな後遺障害が残ってしまったりした場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。正式依頼前に弁護士に相談することで、今後の展開についてアドバイスを受けられるだけでなく、この弁護士に任せてもよいかを判断する材料になるでしょう。

正式依頼をご検討いただく場合には、弁護士費用についても丁寧に説明しますので、ご安心ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了