特別支援学校の事故事例|損害賠償請求の要件や利用できる保険を紹介
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学校事故は特別支援学校でも発生します。
特別支援学校は、その特殊性から事故防止のために特別な配慮が必要となり、一度事故が起こった場合には重大な結果が生じるリスクもあるでしょう。
そのため、特別支援学校で起きた事故による損害は、どのようにして誰に請求を行うことができるのかをしっかりと把握しておく必要があります。
今回は、特別支援学校における学校事故の事例や、解決方法について解説行っていきます。
目次
特別支援学校の事故防止のために必要な措置
特別支援学校の意味や、事故防止のために必要となる注意点などについて説明しましょう。
特別支援学校とは
まず、「特別支援学校」とは、視覚障害や聴覚障害、知的障害のある子どもたちが幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準じた教育を受け、学習上・生活上の困難を克服し自立できるようになるために通う学校のことをいいます。
盲(もう)学校や聾(ろう)学校、養護学校なども学校教育法上は特別支援学校にあたります。
そして、特別支援学校では障害のある児童や生徒の安全を守るために、一人ひとりの子どもの個性を理解し把握しておくことが重要です。
したがって、子どもたちの個性や特性に合わせて指導・監督することが特別支援学校の教員には要請されています。
そのような特別支援学校の特殊性に照らして文部科学省は「危機管理マニュアル」を作成しています。
特別支援学校には幼稚部から高等部まで設置されている学校もありますので、各学部が相互に連携するための体制を整えておくことも重要性です。
特別支援学校の事故発生時の注意点
特別支援学校で学校事故が発生した場合には、子どもたちのどのような点に注意しなければならないのでしょうか。
以下のようなポイントが考えられます。
- 情報理解や意思表示が難しい場合がある
特別支援学校に通う子どもたちの中には情報の理解や判断に時間がかかったり、自分から意思を伝えることが困難だったりします。
- 危機回避行動が難しい場合がある
危険の認知が難しかったり、臨機応変な対応が難しかったりして、危険回避の行動がとれない子どもたちもいます。
さらに、怪我を負った子どもの中には的確に周囲の大人に訴えることができず、発見が遅れるリスクもあるのです。
- 避難行動が難しい・生命維持が困難な場合もある
肢体不自由や視覚障害のある子どもたちは落下物や段差・傾斜が原因で避難行動がとれない可能性もあります。階段の使用や屋上への避難が難しい場合も想定できるでしょう。
また、薬や医療用具・機器がないと生命の維持に影響が出てきてしまう場合もあります。
特別支援学校の事故事例
特別支援学校ではどのような事故が考えられるでしょうか。
独立行政法人日本スポーツ振興センターでは学校事故について整理し、学校別に事故事例や傾向などを精査・公表しています。
以下では公表されている資料も参考に、特別支援学校での事故事例を紹介しましょう。
特別支援学校における死亡事故事例
特別支援学校で死亡に至った事故例を紹介します。
寄宿舎での窒息死事例
寄宿舎で生活していた特別支援学校の小学4年生の女子児童が亡くなった事例があります。
夕食・入浴時、この女子児童は特に異変は確認されておらず、20時ころ就寝しました。23時~0時ころには「うつ伏せで、よだれを吸うような呼吸をして眠っている」のが確認されています。
しかし、1時30分ころに見回りをした際にはよだれを吸うような呼吸がなく静かになっていたので、うつ伏せから仰向けにしたところチアノーゼがあらわれていました。チアノーゼとは血液中の酸素濃度が低下した際に皮膚や粘膜が青紫色になる状態のことです。
心拍がなかったためこの児童はすぐに病院に搬送されましたが、のちに死亡が確認されました。就寝中の窒息死であると考えられています。
給食時間中の窒息死事例
特別支援学校の高校3年生の女子生徒が給食をのどに詰まらせて死亡する事故がありました。
この女子生徒は重度の知的障害があり、食事をかき込むように食べる傾向があったため、給食中は教師が見守ることになっていました。
しかし、このとき担任の教員は別の生徒の対応をするため同生徒のそばを離れていたことで、事故が発生してしまったのです。
この生徒は口の中いっぱいに食べ物をれたことで口腔、咽頭がふさがり呼吸困難が生じたと考えられています。
教師が適切に見守っていれば防止できた可能性がある事例でした。
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特別支援学校における障害事故事例
特別支援学校で障害が残った事故例を紹介します。
てんかん発作による転倒事例
以下は体育の授業中、陸上競技の最中に起こった障害事故です。
特別支援学校の高校3年生の女子生徒が持久走を走り終えた後、クールダウンするために歩き出したところ、突然てんかん発作を発症し前のめりに転倒しました。
この女子生徒は転倒した際、顔面を地面に打ち付けてしまったため、前歯二本が抜け落ちてしまう怪我を負ってしまいました。
てんかん発作が突然起こった場合、これを未然に防止することは非常に難しいでしょう。
ランニング中に熱中症により意識不明になった事例
特別支援学校の高校1年生の男子生徒がバスケットボール部の顧問から罰としてランニングを命じられ、その際中に熱中症により倒れ、意識不明の重体に陥った事案がありました。
この事案では気温の高い中、過度の負担をかける教員の指導は体罰にあたる可能性も高い事案でした。
このようなケースでは教員の注意義務違反が認められる可能性が高いといえるでしょう。
体罰については、関連記事『体罰を受けたら弁護士に相談すべき|教師が負う3つの責任と体罰の定義』で深掘り解説しています。
自立活動中の機能障害の事例
自立活動の時間に特別支援学校の小学校5年生の男子児童が重症を負ったケースがあります。
担任の教員が運転する三輪自転車後部の荷台かごに乗って移動する「自由遊び」を行っていたところ、この男子児童が自転車のチェーン部分に左手を差し込んでしまいました。
自転車を運転していた学級担任の教員が事故に気づき、振り返った時にはこの児童の左手中指の先端が一部欠損するという重症を負っていました。
男子児童が自転車のチェーンに手を差し込むことが予見できるような場合には、これを防止する措置をとる必要があったでしょう。
特別支援学校における事故の解決方法
それでは、学校事故が起こってしまった場合にはどのような解決が図られるのでしょうか。
以下で解説していきます。
特別支援学校に対して損害賠償請求する
特別支援学校の教員に原因があるといえるかが問題
学校事故の発生が教員の故意や過失にもとづく場合は、特別支援学校に対する損害賠償請求が可能となります。
教員の過失とは、教員が事故の発生を予見することができたのにもかかわらず、事故を回避するために適切な対策を講じなかった場合に認められます。このような教員の行為は注意義務違反があったといわれます。
特別支援学校では、生徒の障害に合わせて事故が起きないように対応するという注意義務が教員に求められるでしょう。
そのため、以下のような事実の有無から過失があったのかどうかを判断してください。
- 被害生徒の障害に関する研修を受けて障害に関する理解があったのか
- 他の教員から被害生徒の障害に関する情報提供があったのか
- 被害生徒の障害に合わせた事故発生防止の対策ができていたのか
- 事故発生後の教員の行動が被害拡大防止のために適切といえるのか
特別支援学校に対して請求可能となる根拠
教員に対する損害賠償請求が可能となる要件が整っていれば、特別支援学校に対する損害賠償請求も可能となります。根拠は特別支援学校が公立であるか私立であるかにより以下のように異なります。
特別支援学校が公立の場合は、公務員である教員の故意や過失により生じた損害を、学校設置者である国や地方公共団体に請求することが可能です。(国家賠償法第1条1項)
教員個人に対する請求は認められていません。
特別支援学校が私立の場合は、教員を雇っている特別支援学校が民法上の使用者責任にもとづき、教員の故意や過失によって生じた損害について責任を負うことになります。
教員個人に対する請求も可能ですが、資力の関係から特別支援学校への請求を行うべきでしょう。
学校事故における損害賠償請求を行うことができる慰謝料の種類や金額については『学校事故の慰謝料相場と請求先!ケガ・後遺障害・死亡の計算方法とは?』の記事をご覧ください。
学校事故に関する保険の利用
学校事故により子どもが怪我を負った場合には、独立行政法人日本スポーツ振興センターが設置している「災害共済給付制度」を利用することができます。
「災害共済給付制度」とは日本スポーツ振興センターと学校の設置者との災害共済給付契約により、学校の管理下における児童・生徒等の負傷・障害・死亡に対して給付金を支給してもらえる制度です。
給付対象となる学校については、義務教育諸学校においては特別支援学校の小学部および中学部が含まれています。
また、高等学校についても特別支援学校の高等部、幼稚園についても幼稚部を含んでいます。
事故の内容が給付対象ではない、給付対象ではあるが十分な給付が受けられない場合は、学校に対する損害賠償請求により補いましょう。
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特別支学校における事故の解決は弁護士に相談すべき
お子さまが学校事故にあって、重い後遺障害が残ってしまったり、亡くなられてしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
弁護士に依頼することで適切な証拠を収集することができ、学校や加害者側との交渉も一任できスムーズに進む可能性が高まります。学校での事故にお悩みの場合には、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
アトム法律事務所の法律相談の予約受付は24時間体制のため、いつでも気軽にご連絡ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了