組体操で事故の被害者になったら利用できる制度|賠償責任は学校に問える? | アトム法律事務所弁護士法人

組体操で事故の被害者になったら利用できる制度|賠償責任は学校に問える?

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組体操の被害になった時の利用できる制度

組体操による障害・疾病事故は毎年8,000件以上を数えることはご存知でしょうか?

組体操は運動会や体育祭の定番種目であり、小学校・中学校・高校問わずして実施されています。しかし、タワーやピラミッドは中々の高さになりますし、もし崩れてしまったら上の子、下の子ともに大きな怪我を負うリスクがあります。

組体操が原因で怪我をしてしまった場合、学校側の責任を問い、治療費や損害賠償を請求することは可能なのでしょうか?

本記事は実際の事故事例を紹介し、組体操の事故被害者になってしまった場合にどういった救済手段を取ることができるのか解説します。

組体操の事故事例

冒頭でも紹介した通り、組体操による事故の数は多く、特に小学校5~6年で頻発しています。この年代の子どもたちはまだ体が出来上がっておらず、負荷が強い運動を行うと怪我をしてしまう可能性も高いのでしょう。

組体操による事故は大事に発展するケースも少なくなく、中には死亡に達する忌まわしい事故も起きています。

ここからは、組体操事故の事例をいくつか紹介していきたいと思います。

死亡に至った事例

まさかと思うかもしれませんが、組体操が原因で死亡してしまう事故は少なくありません。

昭和50年には、土台となった2人の上に1人の生徒が立ち上がる造形体操をしようとした際に痛ましい事故が起きています。上の子が仰向けのまま後ろに倒れてしまい、側頭部と背中を強く打ってしまったのです。結果的にこの生徒は頭部を強く打撲したために死亡してしまいました。

また、肩車を行おうとする際、支える者と支えられる者のバランスが崩れ、上の生徒が約1mの高さから落下し、腰の部分を強く打った事例もあります。この生徒はしばらく動けない状態に陥りましたが、その後立ち上がり、かろうじて組体操をやり終えました。当日はいつも通りに下校し、翌日も登校したのですが、翌々日に痛みがひどくなり病院を受診します。結局、経過が悪く、腎臓破裂が原因で死亡してしまいました。

このように我慢していると後々悪化して取り返しがつかないことになりかねないので、病院は早めに受診した方が良いでしょう。

障害状態に陥った事例

捻挫や打撲では済まずに、障害が残ってしまうケースも多々あります。

たとえば、三人ピラミッドの練習をしていたところ、足を滑らせて地面に肘を強打し、骨折してしまったケースが確認されています。この場合、災害の種別としては「上肢10級」に認定されました。厚生労働省は各部位ごとに障害等級表を示しており、症状や病名に応じて、1級から14級のいずれかに割り当てられます。

また、2人組になって肩車をしようとしたところ、バランスを崩して後ろ側に転倒し、脊柱障害に陥ってしまったケースもあります。

障害に限った話ではありませんが、種目別ではタワーやピラミッド、倒立等での事故件数が多いようです。

組体操の事故では災害共済給付制度が利用できる

学校の管理体制に問題があったために生じた負傷や疾病については、災害共済給付制度の補償対象となる場合があります。(ただし、補償対象は療養費用が5,000円以上のものに限ります。)

災害共済給付は日本スポーツ振興センターが運営しており、条件に当てはまれば保護者に対して給付金を支給する制度です。

体育の授業や運動会の練習時に行われる組体操による事故は、学校の管理下のもとで生じた負傷だといえるので災害共済給付制度の補償対象となるでしょう。

実際に組体操による事故で災害共済給付制度が適用された事例はいくつもあります。ここでは災害共済給付制度の給付金額や請求、支払い等の手続きについて解説します。

災害共済給付の金額

災害共済給付の内容は「医療費」「障害見舞金」「死亡見舞金」の3つに分けられます。

医療費について

まず、疾病や負傷の場合、治療に要した費用の40%が医療費の支給金額となります。治療に要した費用とは、健康保険適用後の自己負担分ではなく、治療費全体を示しているので注意してください。

国民健康保険の加入者であれば、医療費の自己負担割合は30%です。災害共済給付では国民健康保険の負担率30%に加えて、療養に伴い生じるであろう費用を10%分考慮して、合計40%と算出しています。

入院時に食事や治療費等で標準負担額があるのなら、その金額も支給額に加算されます。

医療費の支給期間は、初診から最長10年間となっています。

障害見舞金について

また、学校の管理下で生じた疾病や負傷が治癒したが障害が残ってしまったケースは、障害見舞金の支給対象です。

障害見舞金は障害等級に応じて、4,000万円~88万円が支給されることになります。障害等級は、障害の程度により1級~14級に区分されています。

たとえば、両目が失明した場合、障害等級の第1級に該当し、最も高額の4,000万円が支給されるのです。ある等級に含まれる障害の内容は障害等級表に具体的に記載されています。

死亡見舞金について

死亡見舞金とは、学校の管理下で生じた事故が原因で死亡してしまった場合に支払われる給付金です。

死亡見舞金は一律3,000万円が支払われます。

組体操の事故で想定される災害共済給付金

給付金額
医療費治療に要した費用の40%
障害見舞金4,000万円~88万円
死亡見舞金3,000万円

災害共済給付の請求方法

災害共済給付の請求方法としては、学校の設置者から日本スポーツ振興センター(以下、センター)に対して請求を行います。給付金はセンターから学校の設置者を経由して、保護者に支払われる流れとなります。

給付申請の大まかな流れ

  1. 事故の発生
  2. 医療機関で治療を受ける
  3. 保護者は医療機関の証明書「医療等の状況」を学校に提出する
  4. 学校の設置者がセンターに「医療等の状況」など申請書類を提出する
  5. センターの給付受付・審査・決定を経て、学校の設置者に給付金を支払う
  6. 学校の設置者から保護者に対して給付金が支払われる

※参考: 日本スポーツ振興センターホームページ「請求と給付

仮に、学校が自ら請求をしない場合は、保護者からも学校の設置者を経由して請求を行うことが可能です。

請求の時効に注意

災害共済給付金には請求の時効が設定されているので注意が必要です。時効の期限を過ぎてしまうと給付金が支払われるに値する事案があっても、請求を受け付けてもらえません。

災害共済給付金の時効は、給付事由が発生してから2年間です。

医療費の場合、時効期間のカウントが開始されるのは医療費が生じた月の翌月11日からになります。月ごとに生じた医療費は翌月10日までに請求を行う必要があり、時効は請求期限が経過した後にスタートします。

たとえば、2021年4月分の医療費は2023年の5月10日までに請求が行われないと時効になってしまうのです。

医療費とは異なり、一時金として支給される障害見舞金や死亡見舞金では時効の起算点が異なります。障害見舞金は「負傷・疾病が治癒した日が属する月の翌月11日」、死亡見舞金は「死亡した日の翌日」が起算点となります。

起算日と時効
医療費医療費が生じた月の翌月11日から2年
障害見舞金負傷・疾病が治癒した日が属する月の翌月11日から2年
死亡見舞金死亡した日の翌日から2年

組体操による事故で損害賠償は請求できる?

過失が認められれば損害賠償は請求できる

組体操が原因で自分の子どもが重症を負ってしまった場合、教員や学校に対して損害賠償を請求したいと感じるケースもあるでしょう。

結論からいうと、組体操による事故については損害賠償請求が認められる場合もあります

認められる場合があるという言い方になる理由としては、組体操による事故が起きた原因として、教員や学校側に何らかの過失が認められる必要があるのです。
言い換えると、何らかの過失が教員や学校側になければ損害賠償請求することはできません。

過失が認められるかどうかは、「予見可能性」と「結果回避可能性」から判断されます。

たとえば、組体操の種目に怪我するような危険があると認識していながら、補助者をつけなかったり、安全マットを敷かなかったりしたまま練習を続けさせた結果、事故が発生したような場合です。

関連記事では、教師の過失が認められた場合の損害賠償請求について詳しく解説しています。

損害賠償請求できるもの

組体操の事故で請求できる主な損害賠償の項目は以下の通りです。

  • 治療関係費
    処置費用、手術費用、入院費用、付添費用 など
  • 慰謝料
    入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料
  • 逸失利益
    後遺障害逸失利益、死亡逸失利益
  • 将来介護費用
  • 器具購入費
    など

ここで紹介した以外にも損害に応じて請求できる項目があります。

判例では学校側に損害賠償を実際に命じた事例も多々あります。ここではいざという時に損害賠償を請求したいと感じる保護者の方のために、損害賠償請求の法的な拠り所をみていきましょう。

公立学校の場合|地方公共団体

公立学校の場合、国家賠償法1条が適用されます。国家賠償法1条では、公務員がその職務を遂行するに当たり、故意もしくは過失によって違法に損害を与えた場合、国または地方公共団体が被害者に対する賠償責任を負うとあります。

つまり、公立学校における組体操の事故の場合、設置者である都道府県や市区町村に対して損害賠償請求することになるのです。

また、監督した体育教員や校長など個人に重過失が認められる場合、この個人にも責任が生じるので、地方公共団体は教員や校長に対して求償権を得る可能性もあります。

もっとも、この点に関しては、地方公共団体と教員や校長との間で行われることなので、被害者にとってあまり関係のない話ですが、知識としておさえておきましょう。

私立学校の場合|教員個人や学校法人等

私立学校の場合、民法上の責任を問える可能性があります。たとえば、民法709条の不法行為責任や民法415条の債務不履行責任です。

つまり、私立学校における組体操の事故の場合、教員個人・校長・学校法人等に対して損害賠償請求することになるのです。

学校は心身が十分に発達していない子どもを保護する立場ですから、事故が起きないよう配慮する義務を負います。学校で事故が起きると、安全配慮義務違反を問われ、不法行為責任や債務不履行責任が生じる可能性があるのです。

私立学校の場合、国家賠償法は適用されないので、国や地方公共団体に対して損害賠償請求することはできません。

このように、損害賠償請求の相手や金額などを十分に検討する必要があります。具体的に損害賠償請求を検討している方は、弁護士への法律相談のご利用もしくは関連記事をお役立てください。

組体操の事故でお悩みの方は弁護士に相談しよう

組体操の事故を弁護士に相談するメリット

学校の管理下で生じた組体操の事故では、災害共済給付の補償が受けられるものの、被った損害に対して十分な補償であるとは言い切れません。

学校側に何らかの過失があったのであれば、損害賠償請求することで十分な補償が得られる可能性が高まります。

弁護士に相談すれば、法律の専門家としての見地からさまざまなアドバイスがもらえるでしょう。

  • 今後のとるべき対応について
  • 学校側に対して責任を追及することはできるか
  • 災害共済給付の補償以外に請求できる損害はないのか

事故に関して学校側と交渉をする場合、お一人で対応するには限界があるでしょう。組体操の事故にあってお困りの方は、弁護士に一度、相談することをおすすめします。

関連記事『学校事故に遭ったら弁護士に相談しよう』では弁護士に依頼することで得られるメリットなどについて詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了