父の遺産が未分割のまま母が死亡した場合、相続税申告はどう対処する?

「父が亡くなり、遺産分割の話し合いをしているうちに母も亡くなってしまった」そんな状況に直面し、「相続税の申告はどうすればいい?」「申告期限が間に合うのか心配」と途方に暮れている方は少なくありません。
一次相続(父)の遺産がまだ分割されていない状態で二次相続(母)が発生すると、申告の義務・期限・使える特例が複雑に絡み合います。
適切な対処を行わないと、相続税額が高額化してしまう危険もあるので、注意が必要です。
この記事では、「父の遺産が未分割のまま母が死亡した」ケースを具体的に取り上げ、相続人がすべきことや、相続税が高額化しないための対処法などを解説します。
目次
父の遺産が未分割のまま母が死亡した場合、数次相続となる
「数次相続」とはどういう状態か
父が亡くなったあと遺産分割が完了しないうちに相続人(母)も亡くなった場合、いわゆる「数次相続(すうじそうぞく)」が発生します。
これは実務上の呼称であり、先の相続で取得するはずだった相続分(遺産分割前の権利)を次の相続でその相続人の相続人が承継する状態のことです。
具体的には次のような流れになります。
- 父が死亡:一次相続発生
- 遺産分割協議が未完了のまま母も死亡:二次相続発生
- 母が持っていた「父の遺産を相続する権利(一次相続の相続分)」が、今度は母の相続人(子ら)に引き継がれる
つまり子どもたちは、①父の遺産の相続人としての立場と、②母の遺産の相続人としての立場という、二つの立場を同時に持つことになります。
数次相続・代襲相続・再転相続の違い
数次相続と似たような言葉や制度として、「代襲相続」や「再転相続」というものがあります。
それぞれの制度の違いは、以下の通りです。
- 数次相続:先行の相続について承認後、遺産分割が完了する前に相続人が死亡
- 代襲相続:被相続人より先に相続人が死亡
- 再転相続:相続開始後、相続の承認・放棄を決める前に相続人が死亡
本記事が扱うのは「数次相続」です。
父の遺産分割が終わっていない状態で母が亡くなったケースは、代襲相続でも再転相続でもなく、数次相続として処理します。
数次相続や再転相続の概念・相続税の申告義務への影響については、以下の記事で詳しく解説しています。
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数次相続・再転相続とは?相続税の申告義務・期限への影響をわかりやすく解説
母の相続財産に「父の未分割遺産の相続分」が加わる点に注意
父の遺産分割が未分割のまま母が死亡した場合には、母自身の財産(預金・不動産など)に加えて、「父の遺産を受け取る権利(一次相続の相続分)」も母の相続財産に含まれます。
具体的には、母の相続財産には、未分割の父遺産に対する母の相続分に応じた権利(共有持分等)が含まれるのです。
たとえば父の遺産総額が5,000万円で母の法定相続分が1/2であれば、母の相続財産には「父遺産に対する1/2持分相当の権利」が含まれる、という整理になります(最終的な取得財産は遺産分割で確定します)。
これが二次相続の課税財産を押し上げ、相続税額が想定より高くなる原因になるのです(詳しくは後述)。
一次相続・二次相続の申告期限と申告義務内容
一次相続・二次相続それぞれに相続税の申告期限がある
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条)。
父の相続と母の相続が別々に発生している以上、それぞれに10か月の期限が設定されます。
| 相続 | 申告期限 |
|---|---|
| 一次相続(子ら自身の分) | 父の死亡を知った日から10か月以内 |
| 一次相続(母の申告義務を引き継いだ分) | 母の死亡を知った日から10か月以内 |
| 二次相続 | 母の死亡を知った日から10か月以内 |
一次相続における母の申告義務は子どもたちが引き継ぐ
一次相続(父の死亡)が発生したとき、母には相続税の申告義務が生じます(相続税額がある場合)。
しかし母が申告期限前に亡くなった場合、その申告義務は母の相続人である子どもたちが引き継ぐのです。
これを「申告義務の承継」といいます。
母が父の相続税を申告しないまま亡くなった場合、子らが母から承継した申告義務の申告期限は、母の死亡を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法第27条第2項)。
一方、子ら自身が父の相続人として負う申告義務の申告期限は、父の死亡を知った日の翌日から10か月以内であり、母の死亡によって延長されるわけではありません。
数次相続では、「子ら自身の申告義務」なのか、「死亡した相続人から承継した申告義務」なのかによって申告期限が異なる点に注意が必要です。
申告期限の具体例
二つの申告期限が近い場合、子どもたちへの負担は一気に増します。
次の例で確認してください。
【具体例】父:令和6年1月15日死亡/母:令和6年8月10日死亡
| 申告 | 申告期限 |
|---|---|
| 一次相続(父)の申告期限 | 令和6年11月15日 |
| 二次相続(母)の申告期限 | 令和7年6月10日 |
この例で、父の遺産分割が未分割のまま母が亡くなっているのであれば、一次相続の申告期限(11月15日)の時点では、父の遺産がまだ未分割のまま申告しなければならない可能性が高いでしょう。
また、母の死亡から2か月も経たないうちに一次相続の申告期限が来るため、税理士への相談は早急に行う必要があります。
父の死亡から母の死亡までの期間が短ければ短いほど、申告期限はさらに厳しくなります。
両方の申告を同時並行で進めなければならないケースもあります。
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相続税の申告期限はいつまで?10か月の計算方法と遅れた際のリスク
遺産が未分割でも期限内に申告が必要
遺産分割が終わっていなくても、期限内に相続税の申告書を提出しなければなりません。
未分割のまま申告する場合は、原則として各相続人の課税価格を法定相続分で按分(あんぶん)して計算します。
ただし、未分割のままでは配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例などは原則適用できないため、その前提で税額計算が必要になります。
後から遺産分割が成立したときに、実際の取得額と申告額が異なれば税額を調整することとなるのです。
のちの特例利用のためには「分割見込書」を提出しておく
未分割のままでは配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例は原則適用できないため、期限内申告の際に所定の「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しておく必要があります。
その後、遺産分割成立後に更正の請求等により特例の適用を受ける、という流れになります(「申告し直す」のではなく、更正の請求・修正申告等で調整します)。
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一次相続未分割が二次相続の税負担に与える影響
二次相続の相続税は高くなりやすい|理由を解説
一次相続が未分割のまま二次相続(母の死亡)が発生すると、二次相続における相続税の負担が大きくなりやすくなるのです。
二次相続で相続税が高くなる理由を整理します。
① 配偶者の税額軽減が使えない
二次相続の被相続人は母です。
本記事が前提とする「父母と子」という家族構成では、母の相続人は子どもたちのみであるため、配偶者の税額軽減を使える「配偶者」が存在しません。
一次相続であれば配偶者の法定相続分相当額または1億6,000万円のいずれか多い金額まで非課税になる配偶者の税額軽減が、二次相続では適用することができないのです。
なお、母に再婚配偶者がいる場合など、家族構成が異なる場合は別途検討が必要になります。
② 基礎控除が減少する
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
一次相続では法定相続人に母が含まれていましたが、二次相続では母がいなくなるため、法定相続人の数が減り、基礎控除額が下がります。
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③ 父の未分割遺産の相続分が課税財産に加算される
前述のとおり、母が死亡した時点で「父の遺産を取得する権利」は母の相続財産として扱われます。
母自身の財産にこの権利分が上乗せされるため、二次相続の課税財産の総額が膨らんでしまうのです。
二次相続における税負担の例
次の条件で、一次相続と二次相続の税負担の違いをイメージしてみましょう。
【前提条件】
- 父の遺産:5,000万円(未分割)
- 母の固有財産:2,000万円
- 相続人:子ども2人
- 母が父の遺産について有する相続分:法定相続分1/2に相当する持分権
【二次相続の課税財産の総額(概算)】
母の固有財産(2,000万円)+父の遺産に対する母の持分相当(5,000万円×1/2=2,500万円相当)=4,500万円相当
これに対して配偶者の税額軽減が適用されないため、子ども2人で4,500万円相当の遺産について相続税を納める必要があります。
二次相続の相続税額の早見表や具体的な節税対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
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二次相続の税負担を軽くする方法と注意点
一次相続の遺産分割を早期に完了させる
一次相続の遺産分割を早期に行い、母が取得する財産の額を適切に設計することが、二次相続の税負担を抑える上で重要になります。
しかしすでに母も亡くなっている場合は、この設計ができません。
だからこそ、父が亡くなった段階で速やかに遺産分割協議を進めることが、長期的な節税の観点からも重要なのです。
すでに数次相続が発生している場合は、現状でできる対策を税理士に相談して検討しましょう。
一次相続における母親の相続分をゼロにする
二次相続における相続税の負担を減らすために、一次相続における母親の相続分をゼロにするという方法が考えられます。
一次相続において母親が財産を取得しなくなることから、二次相続における相続税の対象が母親が有していた財産だけになるため、相続税の負担が軽くなるでしょう。
ただし、一次相続において母親が「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を利用できるケースでは、母親にも相続をさせたほうが最終的な相続税の負担が軽くなる可能性があります。
一次相続において母親にどの程度の財産を相続させるのが、二次相続の負担まで考慮すると望ましいのかという点は、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
子供が1人の場合はこのような対策を行えない恐れあり
二次相続における母親の相続人が子供1人だけの場合、数次相続において一次相続における母親の相続分を調整するという対策を行えません。
母親の相続分を調整するためには遺産分割協議が必要となります。
しかし、数次相続において母親の相続人が1人の場合は、話し合いができないので、遺産分割協議が行えないのです。
その結果、「一次相続における父の遺産は、母と子供が法定相続分(各2分の1)に従って共有した状態として処理され、その後母の持分も子供が承継することになります。
そのため、母親の相続人が1人しかいない場合には、数次相続を生じさせないようにすることが重要となるのです。
相次相続控除を利用する
相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)とは、10年以内に2回相続が発生した場合、前回の相続で課された相続税の一部を、今回の相続税から差し引ける制度です。
この制度を利用すると、一次相続において母親が支払った相続税の金額に応じて、二次相続における相続税の負担を軽減することができます。
ただし、一次相続において母親が配偶者の税額軽減などにより相続税を納めていなかった場合には、この制度は適用されません。
また、二次相続で控除を受ける者が相続人であることが要件です。
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相次相続控除とは?要件と控除額の計算方法|10年以内に2回相続が発生した場合
数次相続が発生した場合の具体的な手続きの流れ
父の遺産が未分割のまま母が死亡した場合、子どもたちが行うべき手続きの流れは以下の通りです。
- 両親の相続税の申告義務・財産の全体像を把握する
- 遺産分割協議を行う
- 期限内の遺産分割が間に合わないなら未分割のまま申告
(1)両親の相続税の申告義務・財産の全体像を把握する
まず、父・母それぞれの相続税の申告義務の有無を確認します。
相続財産の総額が基礎控除以下であれば申告不要ですが、二次相続では課税財産が増える可能性があるため慎重に見積もってください。
あわせて、父・母それぞれの財産・債務の全体像を把握します。
不動産の登記情報、預貯金残高、株式、負債などを調査し、相続財産目録を作成することが出発点です。
(2)遺産分割協議を行う
一次相続と二次相続の遺産分割協議を行って、具体的な相続分を決めます。
協議が終わったのであれば、協議内容を遺産分割協議書として残しましょう。
のちの混乱を避けるため、一次相続と二次相続の遺産分割協議書を別々に作成することをおすすめします。
遺産分割協議書には、一次相続の相続人で二次相続の被相続人となるものの肩書を「相続人兼被相続人」と記載してください。
また、協議書の中には「被相続人(父)の相続開始後、遺産分割前に相続人(母)が死亡したため、子らが母の地位を承継し、本協議に参加した」といったように、数次相続が発生した経緯も明記しておくとより確実です。
(3)期限内の遺産分割が間に合わないなら未分割のまま申告
遺産分割が完了していない場合は、法定相続分で按分した暫定申告を期限内に行います。
このとき、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用を望む場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を必ず添付してください。
添付を忘れると特例の適用機会を失います。
未分割のまま申告した場合は、申告後に遺産分割協議を成立させる
原則として申告期限から3年以内に遺産分割を成立させ、更正の請求(税金の還付を求める手続き)または修正申告(追加納税が必要な場合の手続き)を行います。
なお、やむを得ない事情がある場合は税務署長の承認により期限の延長が認められる場合があります(相続税法施行規則第1条の6)。
また、更正の請求は遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内に行わなければなりません。
数次相続で早急に税理士に相談すべき理由
複数の期限が同時に迫る状況は、専門家なしでは対処が困難
一次相続と二次相続が重なった数次相続は、相続税申告の中でも特に複雑なケースの一つです。
次のようなリスクが同時に発生します。
- 申告期限の管理が二重になる
- 未分割申告の計算方法が複雑
- 分割見込み書の添付を忘れると特例が使えなくなる
- 二次相続の課税財産が膨らむリスクへの対処が必要
これらを正確に処理するには、相続税に精通した税理士のサポートが不可欠です。
税理士に相談するタイミングは「今すぐ」
「もう少し状況を整理してから相談しよう」と考えていると、申告期限が迫るにつれて選択肢が狭まります。
特に、父の死亡から母の死亡まで期間が短い場合は、一次相続の申告期限が数か月後に迫っている可能性があるでしょう。
税理士への相談は、状況が整理される前でも問題ありません。
「今どういう状況で、何をすべきか」を整理するところから一緒に取り組んでくれます。
父の遺産が未分割のまま母が亡くなったら、まず申告期限を確認
この記事の要点を整理します。
法的な整理
- 父の遺産が未分割のまま母が亡くなった状態は「数次相続」であり、代襲相続・再転相続とは異なる
- 母の相続財産には「父の遺産に対する持分相当の権利」が含まれ、二次相続の課税財産が増える
申告期限・申告義務について
- 一次相続・二次相続それぞれに「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月」の申告期限がある
- 母の申告義務は子どもたちが引き継ぐ
- 遺産が未分割でも申告期限は延長されない
未分割申告のポイント
- 未分割の場合は法定相続分で按分して暫定申告を行う(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例は原則適用不可の前提で計算)
- 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を守るには「申告期限後3年以内の分割見込書」の添付が必須
- 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例はいずれも申告が適用要件であり、期限内に申告書を提出しないと原則として適用が受けられなくなる
二次相続の税負担
- 本記事が前提とする家族構成(父母と子)では配偶者の税額軽減が使えず、基礎控除も減少するため、二次相続は一般的に税負担が重くなる
- 課税財産に父の未分割遺産に対する母の持分相当の権利も加算される
複数の申告期限が重なり、特例の適用条件も複雑な数次相続は、早期に税理士へ相談することが最善の対処法です。
申告期限を一つでも過ぎると取り返しのつかない損失につながる可能性があります。
専門家である税理士に相談し、適切な対処方法を確認するべきでしょう。
アトム相続税理士事務所では無料相談が可能です。
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監修者情報
アトムグループ 協力税理士
