自社株の相続税が払えないならどうする?後継者がとるべき対策を解説

経営者や創業者が亡くなったときに、「自社株の相続税が払えない」場合は、相続税納税の猶予制度の利用や、自社株の売却などの対策が考えられます。
しかし、上場企業の株式とは異なり、中小企業の非上場株式(自社株)はすぐに現金化できないといった問題もあるのです。
この記事では、自社株を相続した後継者や家族に向けて、以下のポイントをわかりやすく解説します。
- 自社株の相続税がなぜ高額になるのか
- 払えないときに使える具体的な解決策
- 放置した場合のリスク
- 自社株の相続税の負担を抑える方法
「何から手をつければいいかわからない」という方も、この記事を読み終わったあとには取るべき行動が見えてくるはずです。
※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。
自社株の相続税が払えないケース
相続税対策が不十分で評価額が高額だった
相続が発生する前の相続税対策が不十分だったため、自社株の評価額が高額になってしまうことがあります。
自社株の評価額の判断方法は会社規模などにより異なりますが、自社の配当・利益・純資産などを基に、国税庁が定める評価方法(類似業種比準価額方式・純資産価額方式など)により評価されます。
そのため、特に業績が良好で内部留保が多い企業では株価が高く評価されやすく、その結果として相続税の負担も大きくなるのです。
本来であれば、生前のうちに株価対策や贈与を進めることで評価額を抑えられる場合がありますが、評価額が想定より高額であったり、被相続人が突然亡くなってしまうという事態があります。
このようなケースでは、相続発生時に多額の相続税が発生し、納税資金の確保が難しくなることがあるでしょう。
自社株の評価額の判断方法については、関連記事『非上場株式(未公開株)を相続したら?評価方法・手続き・換金方法を総合解説』が参考になります。
財産のほとんどが自社株だった
被相続人の財産の大部分が自社株で占められている場合も「相続税が払えない」問題が発生します。
自社株は非上場株式のため市場で自由に売買できず、譲渡制限が設けられていることも多いことから、すぐに現金化することが難しい資産です。
そのため、多額の相続税が課されても、納税資金を準備できないという状況になりがちです。
特に、後継者が事業を引き継ぐ場合には、自社株を手放すこと自体が経営権の維持に影響するため、売却による資金確保も現実的ではないケースが多くなります。
このように、資産の構成によっては「財産はあるのに税金が払えない」というミスマッチが生じる点が、自社株の相続における大きな課題といえます。
自社株以外の相続財産が高額だった
自社株だけでなく、不動産や金融資産など他の相続財産も多い場合、全体の遺産総額が膨らみ、結果として相続税額が高額になることがあります。
たとえば、賃貸不動産や複数の土地を所有しているケースでは、自社株とあわせて評価額が大きくなり、納税額が一気に増加します。
自社株同様、不動産などは換金しにくい資産であるため、「売却して相続税納付の資金を用意する」ことが難しく、相続税を支払えないという事態に陥ることがあります。
自社株の相続税が払えないときの解決策
自社株の相続税が払えない場合には、いくつかの解決策があります。
一般的な相続財産とは異なり、自社株特有の事情を踏まえて選択することが重要です。
それぞれの制度には要件や注意点があるため、自分の状況に合った方法を検討しましょう。
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解決策(1)事業承継税制(納税猶予・免除制度)を活用する
事業承継税制とは、後継者が非上場株式を相続または贈与により取得した場合に、一定の要件を満たせば、その株式にかかる相続税・贈与税の納税が猶予される制度です。
さらに、一定の免除事由(後継者の死亡や次世代への再承継など)に該当した場合には、猶予税額が免除されることがあります。
特に、2018年1月1日から2027年12月31日までの間に発生した相続については「特例措置」の対象となり、一定の条件のもとで自社株にかかる相続税の全額が猶予対象となります。
特例措置を受けるには、2027年9月30日までに都道府県に特例承継計画を提出することに加え、以下のような要件を満たしている必要があります。
適用の要件(一部)
- 非上場の中小企業であること(一定の対象外業種あり)
- 先代経営者が一定割合以上の株式を保有していたこと
- 後継者が代表者となり、株式を継続保有すること
また、以下の点には注意が必要です。
- 株式の売却や会社の廃業などにより、猶予税額の全部または一部を納付しなければならないことがある※
- 毎年の届出など、継続的な手続きが必要
- 要件が複雑で、事前の設計が不可欠
※特例措置では、売却・廃業時に株価が下落している場合、一定の要件のもとで猶予税額が再計算され、税負担が軽減されることがある
強力な制度ではありますが、適用の可否やリスクを踏まえ、専門家と検討することが重要です。
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解決策(2)延納(分割払い)を申請する
相続税は原則一括払いですが、一定の条件を満たせば延納により分割払いが可能です。
延納期間は最長で20年(不動産中心の場合)ですが、相続財産全体の構成によって適用される延納期間が異なるため、ケースごとに確認が必要です。
延納を申請するには以下の条件を満たす必要があります。
- 相続税額が10万円を超えている
- 現金一括払いが困難な理由がある
- 納期限までに「延納申請書」および「担保提供関係書類」を税務署長に提出する
- 担保を提供できる
※「延納する相続税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である」場合は不要
また、延納期間中は利子税がかかります。利子税率は年ごとに変動するため、最新の国税庁公表値で確認することが必要です。
延納はあくまで「支払いを先延ばしにする」制度であり、税額が減るわけではない点に注意が必要です。
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解決策(3)物納(現物での納税)を申請する
現金での納付が難しい場合、財産そのものを納める「物納」という方法もあります。
ただし、物納には厳しい条件があり、以下の点に注意が必要です。
- 延納でも納付が困難であることが前提
- 物納にあてられる財産を所有している
- 納期限までに必要書類を提出する
また、物納には優先順位があり、不動産や上場株式が優先されます。
非上場株式は、物納財産の順位では第2順位です。
ただし、譲渡制限株式は管理処分不適格財産に該当するため、物納できません。
そのため、相続した自社株を物納できるケースは限定的であり、株式の譲渡制限や権利関係などを個別に確認する必要があります。
解決策(4)自社株を売却して納税資金を準備する
自社株を第三者や会社自身(自己株式の取得)に売却し、その代金を相続税の支払いに充てる方法です。
第三者へ売却する場合は以下の点に注意が必要です。
- 買い手を見つけるのが難しい
非上場株式はそもそも流通市場がなく、買い手を探すのに時間がかかりがちです - 後継者が経営権を失う可能性がある
株式の一部でも外部に売れば、経営への影響が生じるリスクがあります - 申告・納付の期限(10か月)に間に合わない可能性がある
売却交渉に時間がかかり、期限内に完結しないこともあります
事業継続を前提とする場合は、単独では使いにくい手段です。
会社へ売却する場合はみなし配当に注意
個人の株主が非上場株式を発行会社へ売却すると、資本金等に対応する額を上回る部分は原則としてみなし配当となり、総合課税の対象になります。
所得税や住民税が課せられてしまうので、税負担や会社法上の規制も踏まえ、事前に専門家へ相談した上で検討することが重要です。
ただし、相続または遺贈によって財産を取得し、その相続について納付すべき相続税額がある人が、相続税の課税対象となった非上場株式を一定期間内に発行会社へ売却した場合には、みなし配当課税を行わず、売却代金の全額を株式の譲渡所得の収入金額として扱う特例があります。
譲渡所得は、売却代金から取得費や譲渡費用を差し引いて計算し、原則として所得税・住民税等を合わせて20.315%の申告分離課税となるのです。
適用には、売却前に所定の届出書を発行会社へ提出する必要があります。
これにより、税金負担を大幅に抑えて会社から納税資金を引き出すことが可能です。
もっとも、会社法上の規制により、会社は分配可能額(配当などに充てられる剰余金をもとに計算される金額)の範囲でしか株式を取得できないので、納税資金に必要な金額を得られない恐れがあります。
解決策(5)金融機関から借り入れる
銀行・信用金庫などの金融機関から融資を受けて相続税を支払う方法もあります。
「相続税納税資金向け融資」を取り扱う金融機関もあり、不動産や事業資産を担保に融資を受けられる場合があるでしょう。
利息負担は発生しますが、自社株を手放さずに納税できるというメリットがあります。
解決策(6)遺産分割の見直しや相続放棄を検討する
そもそも相続の方法を見直すという選択肢もあります。
たとえば、他の相続人に株式を承継させたり、相続放棄をしたりする方法です。
ただし、相続放棄をすると財産である株式を取得できなくなるため、後継者として会社の支配権を承継できなくなる可能性があります。
また、相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に家庭裁判所で手続きをする必要があるため、早めの決断が求められます。
相続税を払えないまま放置するとどうなるか
相続税は相続の開始があったことを知った日(被相続人の死亡を知った日)の翌日から10か月以内に納付する必要があります。
相続税を期限内に支払わないまま放置すると、ペナルティや強制的な手続きが進み、状況はさらに悪化していきます。
特に自社株の相続では、事業継続にも影響が及ぶおそれがあるため、早めの対応が重要です。
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延滞税が加算される
相続税の納付期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)を過ぎると、延滞税が課されます。
延滞税は、納付期限からの経過期間に応じて税率が変わり、毎年見直される仕組みです。
例えば期限までに相続税の申告はしたものの、納付ができていない場合、納期限の翌日から2か月で延滞税率が高くなります。
具体的な税率は国税庁が公表する最新情報をご確認ください。

放置期間が長くなるほど延滞税は積み上がっていくため、本来の税額に加えて負担が増え続ける点に注意が必要です。
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財産が差し押さえられる可能性がある
相続税を滞納したままにしていると、税務署は「差押え」の手続きを行うことがあります。
差押えの対象は、預金口座や現金だけでなく、不動産や株式などの資産にも及ぶのです。
自社株が差し押さえられることで、会社経営に影響が出る恐れがあります。
その結果、資金繰りの悪化や事業の継続に支障が生じるなど、経営に深刻な影響が出るおそれがあるでしょう。
延納・物納の申請もできなくなる
延納や物納は、原則として申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに申請する必要があります。
期限を過ぎてしまうと、原則としてこれらの制度は利用できなくなるのです。
つまり、「あとで対応しよう」と放置していると、本来であれば使えたはずの選択肢を自ら失ってしまうことになります。
やむを得ない事情(災害など)がある場合には例外的な取扱いが検討されることもありますが、基本的には期限内の対応が前提です。
相続税の支払いが難しいと感じた時点で、できるだけ早く専門家や税務署に相談することが重要です。
自社株の相続税負担を抑えるための対策
自社株の評価額を下げる
自社株の相続税は、株式の評価額(株価)をもとに計算されるため、評価額そのものを下げることができれば、相続税負担を軽減できます。
非上場株式の評価額は、会社の利益・配当・純資産などの状況や、適用される評価方法によって変わります。
そのため、以下のような項目が株価に与える影響を事前に試算したうえで、対策を検討します。
- 役員報酬や役員退職金の支給が、会社の利益や純資産に与える影響を確認する
- 配当の有無や金額が、類似業種比準価額に与える影響を確認する
- 遊休不動産などの事業に直接関係しない資産について、保有や処分が株価に与える影響を検討する
ただし、これらを実施すれば必ず評価額が下がるわけではありません。適用される評価方法や実施時期によっては、評価額が変わらなかったり、反対に高くなったりする可能性もあります。
また、会社の資金繰りや事業運営、法人税などにも影響するため、実行前に自社株の評価額と税負担を試算し、専門家と相談しながら進めることが重要です。
生前贈与を活用する
生前贈与によって自社株を後継者へ早めに移転する方法があります。
主な方法としては以下が挙げられます。
- 暦年贈与を活用して少しずつ移転する
受贈者一人あたり、年間110万円の基礎控除までであれば贈与税は非課税 - 相続時精算課税制度を利用してまとまった株式を移転する
年間110万円の基礎控除(2024年1月1日以降の贈与から)、累計2,500万円の特別控除までであれば贈与税は非課税
贈与財産は基礎控除分を除き相続税の対象になるが、贈与時の評価額で相続税が計算される
しかし、生前贈与をすれば必ず相続税の課税対象が減るわけではなく、株価上昇の見込みや贈与税負担などを含めて検討する必要があります。
それぞれの方法の注意点について、確認しておきましょう。
暦年贈与の注意点
暦年贈与では、被相続人の死亡前3~7年の贈与には「生前贈与加算」が適用され、相続税の対象となります。
| 被相続人の死亡日 | 遡る期間 |
|---|---|
| ~2026年12月31日 | 死亡日前3年間 |
| 2027年1月1日~2030年12月31日 | 2024年1月1日から相続開始日までの間の贈与 |
| 2031年1月1日~ | 死亡日前7年間 |
ただし、相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合、延長された4年間(亡くなる3~7年前)の贈与については、その4年間に行われた贈与額の合計から100万円を差し引いた残額のみが相続税の課税価格に加算されます。
また、贈与をされた人が相続時、相続や遺贈などで財産を受け取らなかった場合は、生前贈与加算は発生しません。
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相続時精算課税
相続時精算課税で贈与された財産は、基礎控除分を除き相続税の対象となりますが、贈与時の評価額で相続税が計算されます。
そのため、贈与時より相続発生時の株価が上がっていれば、通常通りに相続をするよりも税額を抑えられる一方、贈与時のほうが株価が高ければ、相続するよりも税額が上がってしまいます。
また、一度相続時精算課税を選択すると、暦年贈与には戻れません。
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生命保険で納税資金を準備する
先代経営者が生命保険に加入し、後継者を保険金の受取人に設定することで、死亡保険金を相続税の納税資金とすることができます。
死亡保険金は相続税法上は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となりますが、受取人が相続放棄を行っていない法定相続人である場合は、「500万円×法定相続人の数」まで非課税とすることが可能です。
一定額までは課税負担を抑えつつ現金を受け取ることができるでしょう。
また、死亡保険金は民法上の相続財産ではないため、遺産分割協議を経ずに受取人である後継者に支払いがなされるので、スムーズに納税に利用することができます。
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自社株の相続税問題は専門家に相談を
自社株の相続税問題は、一般的な相続税の問題と比べて格段に複雑です。
事業承継税制の適用要件の確認、延納・物納の可否の判断、株式評価額の見直しの余地など、専門的な知識がなければ適切な判断が難しい論点が多くあります。
特に事業承継税制の活用を検討する場合は、相続・事業承継に精通した税理士への相談が欠かせません。
制度の要件確認から申請手続きまで、専門家のサポートを受けながら進めることを強くお勧めします。
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監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士