換価分割するときの相続税申告書の書き方は?申告方法は変わる?
換価分割とは、不動産や株式などの相続財産を売却して、得た売却金を複数の相続人に分配することです。
たとえば相続する財産が土地1つで、相続人が3人いる場合、均等に財産を相続するために土地を3分割するのは現実的ではありません。しかし、土地を売却して得た売却金を3等分すれば、3人の相続人が無理なく均等に財産を相続できます。
空き家など誰も相続を望まない財産がある場合にも有効でしょう。
では、換価分割すると、財産にかかる相続税や相続税申告書の書き方はどう変わるのでしょうか。
この記事では、換価分割を用いて相続した時の相続税申告書の書き方や、換価分割を決めてから相続するまでの流れなどを解説していきます。
目次
換価分割するときの相続税申告
相続税申告は相続時の財産評価額で行う
たとえば不動産を換価分割する場合でも、被相続人から相続する財産はあくまで不動産です。そのため相続税申告書上では、そのまま不動産を相続するときと同じように、相続開始時の相続財産の評価額で計算します。
相続税申告書は共有して相続する形で記載する
換価分割は財産を共同相続人全員の名義にしてから売却することが原則であるため、相続税申告の際には一旦、相続人全員が共有で相続することになります。相続税申告書の「財産の明細書」には、共有する財産として「各相続人の取得財産の金額」を記入してください。
各相続人の取得財産の金額とは、換価分割するときの取得金の割合で按分した金額で、以下の計算式で算出できます。
換価分割して得た金額には相続税は課税されない
換価分割したい財産を売却して、各相続人に分配された現金に対しては、相続税は課税されません。相続税は相続開始時の財産に対して課税されるものなので、売却によって得た現金には関係ありません。
また、基本的には換価分割による金銭の移動には贈与税もかかりませんが、いくつか条件があるため注意しましょう。まず、遺産分割協議書に、換価分割のために便宜上名義変更する旨を記載しなければなりません。次に、遺産分割協議書の作成からなるべく早く売却する必要があります。作成から数年経って売却すると、贈与とみなされて贈与税がかかる可能性があるためです。
代償分割や共有分割など、換価分割以外の遺産分割方法について知りたい方は、関連記事『遺産未分割で相続税申告する方法とデメリット|遺産分割に期限はある?』をお読みください。
換価分割するときの流れ
換価分割は相続財産に不動産が含まれているときによく利用されるため、「不動産を換価分割する流れ」を例に解説していきます。
相続人全員の合意を得る
換価分割するときには、まず遺産分割協議で相続人全員の合意を得なければなりません。財産を売却した後に、現金をどのような割合で相続するかも決めておきましょう。
遺産分割協議書を作成する
換価分割について、相続人全員から合意を得られたら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、必ず換価分割による相続を行うことを明記しておきましょう。
基本的には前述したように、共同相続人全員の名義にしてから売却することが原則とされていますが、相続人のうちの1人が名義人となり、代表して不動産を売却することもできます。しかし、この場合は記載に不備があると売却金の分配が贈与とみなされ、贈与税が課せられるおそれがあるため注意しましょう。
不動産登記をする
換価分割する財産が不動産の場合には不動産登記を行います。不動産を売却するためには、一度名義を相続人にしなければならないためです。名義の登記には、単独名義と共有名義があり、共同相続人全員の名義にしたい場合には共有名義を選択します。
共有名義には、持分割合という各共有者が持つ共有部分の割合を表したものがあり、遺産分割協議書で決めた分割後の取得割合で記入します。
登記には申請から1〜2週間を要するほか、申請の際には遺産分割協議書や戸籍謄本、そして登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)が必要になります。
売却して代金を取得する
不動産登記が終了すると、相続人の意思で売却ができるようになります。共有名義にしていると、仲介業者や買主との契約も共有者全員で行うことになります。
もし売却が難航して希望通りに進まない場合は、売却を依頼している不動産会社を変えるなど、方針を変更する必要があるかもしれません。また、相続税を売却金から払おうとしているなど、急いで売却を進めたいときには、不動産買取という選択肢もあります。
不動産買取とは、不動産会社を介して買主を探すのではなく、不動産会社自体に直接買い取ってもらう売却方法です。速やかに現金化したいときには効果的な方法ですが、買取価格が通常の7割ほどになってしまうため、利用する際には注意しましょう。
売却金を遺産分割協議書で決めた割合に分配
不動産売却で得た売却金を、遺産分割協議書で決めた割合に基づき各相続人に分配します。各相続人名義の口座に直接振込送金するほか、分配額に応じた預金小切手で渡す方法もあります。
換価分割するときに知っておきたいこと
財産の売却には譲渡所得税がかかる
譲渡所得税とは、不動産や株式など、財産の売却で得た利益に対してかかる税金です。正しくは所得税と住民税をまとめたもののことをいいます。売却金額ではなく、売却金額から売却にかかった費用などを差し引いた利益に対してかかります。そのため、換価分割による売却金の分配を受け取った各相続人は、それぞれが所得税の確定申告を行う必要があります。
財産売却時に特例が使える場合がある
譲渡所得には一定の要件を満たせば利用できる特例があり、換価分割による譲渡所得でも利用することができます。
(1)マイホーム売却特例
マイホーム売却特例とは、住んでいる家を売却した場合や、住まなくなってから3年が経過する年の年末までに家を売却した場合、譲渡所得から3,000万円まで控除が受けられる制度です。不動産1つにつき3,000万円ではなく、各相続人に3,000万円の控除があります。
(2)空き家売却特例
空き家売却特例とは、要件を満たすと相続人ごと3,000万円の控除が受けられる制度です。マイホーム売却特例と比べて、要件が若干厳しく定められています。取得費加算の特例とは併用できません。
(3)取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、相続開始日から3年10か月以内に財産を売却した場合に利用できる制度です。相続税として支払った金額の一部を、譲渡所得から控除できるため、結果的に譲渡所得税の金額を抑えることができます。しかし、空き家売却特例とは併用できないため注意しましょう。
相続税申告で不安があるときは専門家に相談
遺産分割で揉めている、または揉める可能性がある方
遺産の分割方法や割合について、相続人同士でトラブルになっている方や、これからトラブルが起こりそうな方は、相続問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
相続人同士で話し合いがつかない場合は、家庭裁判所の遺産分割の調停、または審判の手続きを利用して分割割合などを決められるのですが、ここで正式な代理人となれるのは弁護士のみとなっているためです。
相続税申告や制度について不安がある方
相続人の中で換価分割して相続することの合意が取れていても、相続税申告の仕方や利用できる制度がわからない、という方はぜひ相続専門の税理士に相談してみてください。
相続税では、利用できる特例を見逃していたり、相続財産の評価が間違っていたりして、本来納めるべき税額よりも多く納めているケースが約70%もあるといわれています。
また、換価分割は相続税が大きくなりやすい不動産が絡むことが多く、さらに譲渡所得税や贈与税など相続税以外の税金も登場してきます。
相続専門の税理士に相談することで、適切な財産評価で相続税を申告できるだけでなく、利用できる特例を駆使して節税の提案を受けることもできます。
現在抱えている相続に関する問題を、どの専門家に相談すれば良いかわからない方は、関連記事『相続税の専門家と依頼できる内容を紹介|誰に相談すべきか一目でわかる』をご参考になさってください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士