相続税はおかしい?|相続税の目的と適切な相続税対策を解説
「故人は一生懸命働いて所得税を納税してきたのに、さらに相続税が課税されるのはおかしい!」
そう感じる方は少なくないのではないでしょうか。
しかし、実は相続税が無くなってしまうと私たちの生活はもっと苦しくなってしまいます。
この記事では、相続税が課税される理由をわかりやすくご説明します。
さらに、「相続税はおかしい!」を思っている方にこそ知っていただきたい、相続税を節税する方法についてもご紹介しますので、ぜひご参考になさってください。
目次
相続税はおかしい?相続税が課税される理由
相続税の目的は「富の再分配」と「所得税の清算」
相続税が課税される主な理由は、「富の再分配」と「所得税の清算」の2つです。
以下、それぞれの理由について詳しくご説明します。
①富の再分配
「富の再分配」とは、特定の人に集中した財産を、国家が徴収して社会全体の役に立つ形で活用することで、経済的な格差を是正していこうとする考え方です。
また、相続税は、相続財産の価値が大きいほど税率が高くなる、超過累進課税が適用されています。そのため、相続税額は相続財産の価値が大きいほど高くなります。
この超過累進課税にも、格差の固定化を防ぎ経済的な機会均等を図る「富の再分配」機能の役割があります。
②所得税の清算
「所得税の清算」とは、被相続人の生前に課税されなかった所得税を、相続税の形で清算してもらおうという考え方です。
被相続人は、生前に受けた税制上の特典や負担軽減策により、多くの遺産を築くことができたのであるから、その分相続が発生した時点で清算してもらおうという意味です。
例えば、被相続人が不動産を所有していたものの、売却も賃貸もせずに亡くなったとします。
この場合、売却や賃貸をしていれば課税されるはずだった所得税を一切負担せず、蓄財をしたとみなされるわけです。
そのため、所得税の清算として、相続財産に対し相続税が課税されるのです。
基礎控除額が改正された理由
相続税はすべての方に課税されるわけではありません。
相続税がかかるのは、相続財産から債務や葬式費用等を差し引いた金額が、基礎控除額を上回る場合のみです。
つまり、基礎控除額を上回るほどの相続財産を築いた人から、その一部を徴収して社会に還元することで、富の再分配を図っているのです。
この基礎控除額は、もともと「5,000万円+(1,000万円×法定相続人数)」という計算式で決まっていました。
しかし、この計算方法で算出された基礎控除額を上回るほどの多額の相続財産を有する人は、被相続人の約4%に過ぎなかったのです。
これでは、相続税の重要な目的である「富の再分配」が十分に達成されていないと指摘されていました。
そこで、富の再分配機能を回復するため、平成27年1月1日以降の相続から基礎控除額が引き下げられることになったのです。
具体的には、基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で算出されるようになりました。
その結果、令和3年には、相続税の課税対象者は約9%に増加しました。
(参考:国税庁「令和3年分相続税の申告実績の概要」)
基礎控除額改正前の2倍以上に上る人が、相続税に対応する必要が出てきたのです。
このように、相続税は、現在では富裕層に限られた問題ではなくなりました。
「自分に相続税は関係ない」と思っている方も、本当に相続税がかからないのか、課税されるとすればいくらなのか、一度確認することをおすすめします。
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相続税の税務調査を受けやすいケースは?
「相続税はおかしい!」と思う余り、資産隠しや、間違った節税対策をすると、税務調査の対象になる可能性が非常に高くなってしまいます。
さらに、税務調査で相続税の申告漏れなどが発生すると、ペナルティとして追徴課税が課されてしまいます。
以下では、税務調査の現状、税務調査の対象になりやすいケース、そして申告漏れ等が判明した場合のペナルティについて解説します。
相続税の税務調査の現状
相続税の税務調査は、申告から約2年後に行われるのが一般的です。
そのため、令和3事務年度(令和3年7月〜令和4年6月)に実施された相続税の税務調査の対象は、令和元年分の相続税の申告であると考えられます。
令和3事務年度における相続税の税務調査の実施件数と令和元年における相続税の申告件数をまとめると、以下のとおりです。
令和3事務年度における相続税の税務調査の実施件数
実地調査:6,317件
簡易な接触:1,4730件
令和元年における相続税の申告件数
1,47,801件(納税額0円のケースを含む)
(引用元:国税庁「令和3事務年度における相続税の調査等の状況」、「令和元年分相続税の申告実績の概要」)
以上を前提に、税務調査の実施率を計算してみましょう。
実地調査と簡易な接触を合わせると、税務調査の実施率は約14%になります。これは、約7人に1人が税務調査の対象になっていることを意味します。
思っている以上に、相続税の税務調査の確率は高いと感じる方が多いのではないでしょうか。
しかも、今後はコロナ禍の収束に伴い、税務調査の件数が増加するという見方も存在します。
税務調査を回避するには、どのようなケースが税務調査の対象になりやすいか把握しておくことが大切です。
次の項では、税務調査の対象になりやすい事例をご紹介します。
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・相続税の税務調査とは?対象になる人の特徴やならない方法を解説
相続税の税務調査の対象になりやすいケース
相続税の場合、税務調査の対象になる可能性が高いのは以下のケースです。
●富裕層
●無申告
●海外関連
●名義預金の疑いがあるケース
●相続開始直前にお金の動きに不審な動きがあるケース
●相続人が自分で申告書を作成しているケース
特に名義預金は要注意です。
名義預金とは、預金の原資を拠出した人と名義人が異なるケースを言います。
被相続人が節税対策として生前贈与を行ったつもりでいたところ、実は名義預金に当たり、相続税がかかってしまうケースが少なくありません。
例えば、被相続人が妻名義で預貯金口座を開設し、その口座に資金を移動させるケースが典型です。
被相続人としては、相続財産を減らせば節税になると考え、生前贈与のつもりで預金します。
しかし、贈与が成立するには、相手方(受贈者)との間で贈与の合意が必要なのです。
したがって、節税につなげるには、贈与者と受贈者との間で贈与の合意をし、贈与契約を有効に成立させる必要があります。
さらに、贈与契約が成立した事実を、後から第三者(税務署)が見て客観的に分かるようにしておく点も重要です。
具体的には、贈与のたびに贈与契約書を作成し、名義人自身が通帳、印鑑、キャッシュカードを管理することがポイントです。
「相続税はおかしい。少しでも節税したい」と考えても、その方法が間違っていれば、結局は本来の税金に加え、延滞税や加算税等の重い負担がかかってしまいます。
名義預金とみなされないためのポイントについて、さらに詳しく知りたい方は、『名義預金は相続税・贈与税がかかる?|名義預金の認定の回避策』もぜひ参考になさってください。
相続税の申告漏れ等に対するペナルティ
相続税の申告漏れ等に対しては、以下のペナルティが科される可能性があります。
無申告加算税
税務調査の事前通知を受ける前に自主的に期限後申告した場合
納付すべき税額×5%
税務調査後に期限後申告した場合
納付すべき税額×15%(納税額が50万円までの部分)
納付すべき税額×20%(納税額が50万円を超える部分)
過少申告加算税
税務署に指摘されて修正申告した場合
納付すべき税額×10%
※追加納税額が、当初の申告税額又は50万円を超えているときは、その超えている部分×15%
重加算税
財産を隠ぺい又は仮装し、過少申告した場合
納付すべき税額×35%
財産を隠ぺい又は仮装し、申告しなかった場合
納付すべき税額×40%
延滞税
法定納期限の翌日から2カ月以内に納付した場合
「未納税額に対して年7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合(令和5年は2.4%)
法定納期限の翌日から2カ月経過後に納付した場合
「未納税額に対して年14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合(令和5年は8.7%)
相続税を節税したいなら相続に強い税理士に相談
特例や税額軽減制度は多岐にわたり、それぞれの要件は複雑です。相続に強い税理士に相談すれば、被相続人の年齢等を考慮して、どの制度をどのタイミングで活用すれば節税になるか、個別具体的なアドバイスを受けることができます。
相続税の節税に関心がある方はまず、関連記事『相続税を節税する方法12選!死後と生前それぞれの相続税対策を解説』をお読みください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士