遺言書がある場合の相続税|相続税申告や一人に相続させる場合の注意点も解説

遺言書がある場合、「相続税にはどのような影響があるのか」「相続税申告ではどのような手続きが必要なのか」などの疑問を抱える方も多いでしょう。
遺言書があっても、相続税の基礎控除や基本的な計算方法は変わりません。しかし、財産の取得者によっては相続税の2割加算が適用されたり、一部の特例が利用できなくなったりすることがあります。
また、遺言の種類によっては検認の手続きが必要になったり、遺留分をめぐるトラブルによって相続税申告に影響が生じるケースもあります。
本記事では、遺言書がある場合の相続税の考え方や相続税申告の流れ、一人に財産を相続させる場合の注意点などをわかりやすく解説します。
※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。
目次
遺言書がある場合、相続税はどうなる?
財産の受取人や遺産分割などは遺言が優先される
遺言書がある場合、原則として遺言書の内容に従って遺産を分けることになります。
たとえば、「長男に自宅を相続させる」「長女に預貯金を渡す」といった指定がある場合、基本的にはその通りに財産を受け取ります。
財産を誰がどういった割合で分けるのかについては、民法に従う方法や遺産分割協議を行い相続人間で話し合う方法もありますが、遺言がある場合は、原則として遺言の内容に従って承継します。
なお、遺言によって財産を受け取る人は「受遺者」と呼ばれます。
基礎控除額や相続税の計算方法は遺言があっても変わらない
遺言があったとしても、相続税の計算において影響が出るのは最後の「実際の遺産分割に応じて相続税の総額を分割する」という部分です。
基礎控除額や基本的な相続税計算は、遺言があってもなくても基本的に同じです。
基礎控除について
相続税には基礎控除が設けられており、基礎控除までの部分には相続税がかかりません。
基礎控除額は法定相続人の数によって変動します。遺言によって財産を受け取る受遺者が何人いても、影響はありません。
相続税の基礎控除
3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 相続放棄した人も、法定相続人の数に含められます
- 養子がいる場合、実子がいれば1人まで、いなければ2人まで法定相続人の数に含められます
例えば法定相続人が配偶者と子の計2人であり、遺言で配偶者のみが財産を受け取ることになっていても、法定相続人の数は2人として基礎控除を計算します。
また、例えば法定相続人が配偶者と子の計2人であり、それに加えて遺言によって被相続人の弟も財産を受け取れることになったとしても、法定相続人の数は2人として基礎控除を計算するのです。
相続税の計算について
遺言書がある場合でも、相続税の基本的な計算方法は変わりません。
具体的には次の通りです。
相続税の計算
- 遺産総額から基礎控除を引き、課税遺産総額を計算
- 法定相続分に応じて1を分配
- 各相続人の仮の相続税額を計算
- 相続税額の合計を計算
- 実際の財産取得の割合に応じて各人に相続税額を分配
上記の流れの4までは、民法に従って決まる法定相続人と法定相続分をベースに計算していきます。遺言の内容は考慮されません。
そして、算出した相続税額の合計を実際の財産取得の割合に応じて分配するときに、遺言の内容が関わってきます。
もし遺言によって一人だけが財産を受け取るなら、原則として、その人が取得した財産に対応する税額を負担します。
法定相続人2人と受遺者1人が財産を受け取るなら、それぞれの取得割合に応じて、相続税額は3人で分けることになります。
相続税の計算方法について詳しくは、関連記事『相続税の計算方法をわかりやすく解説!概算の早見表や節税できる制度も』をご覧ください。
相続人以外への遺言では2割加算が適用されることが多い
相続税には「相続税額の2割加算」という制度があります。
これは、配偶者や一親等の親族(代襲相続を含む子・父母)以外が財産を受け取る場合に、計算した相続税額へさらに2割を加算する制度です。
遺言書によって法定相続人以外の人へ財産を遺贈する場合、この2割加算の対象になるケースが少なくありません。
例えば、被相続人の孫(代襲相続ではない孫、代襲相続ではない孫養子)や兄弟姉妹、おい・めい、内縁の配偶者、友人などが遺言によって財産を取得した場合は、原則として相続税額の2割加算が適用されます。
関連記事
相続税の2割加算とは?孫・兄弟・養子など対象者一覧や計算方法をわかりやすく解説
相続人以外への遺贈では利用できない特例がある
相続税では、税額を軽減するための様々な特例があります。しかし、「財産を受け取る人が法定相続人であること」や「申告・分割」が適用要件になっているものもあります。
よって、法定相続人以外の人が遺言によって財産を取得する場合、特例を適用しない税額となることが多いです。
法定相続人でない場合は先述の2割加算の対象となることも多いので、より税負担が重くなるでしょう。
【法定相続人であることが要件である特例の例】
- 未成年者控除
相続税額から「(18歳 − 相続時の年齢)×10万円」を控除できる特例。
※年齢は1年未満切り捨てで計算し、18歳までの年数に1年未満の端数がある場合は切り上げる
関連記事:相続税の未成年者控除とは?いくら控除される? - 障害者控除
相続税額から「(85歳 − 相続開始時の年齢)×10万円または20万円」を控除できる特例。
※一般障害者は10万円、特別障害者は20万円を対象年数にかける
※年齢は1年未満切り捨てで計算し、85歳までの年数に1年未満の端数がある場合は切り上げる
関連記事:相続税の障害者控除|等級などの要件や申告義務は?
遺言書がある場合の相続税申告の注意点
相続税申告は遺言がない場合と同じように必要
遺言書がある場合でも、相続税の申告が必要になるかどうかの判断基準は変わりません。
課税価格の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、遺言の有無にかかわらず相続税申告が必要です。
特例を使って相続税がゼロになる場合も、それが申告必須の特例(小規模宅地等の特例や、配偶者の税額軽減など)であれば、相続税申告をする必要があります。
「遺言書があるから税務署への手続きは不要」「公正証書遺言があれば申告しなくてもよい」と誤解されることがありますが、そのようなことはありません。
遺言書はあくまでも財産の承継方法を指定するためのものであり、相続税の申告義務そのものをなくす効果はないからです。
遺言書の内容を確認したうえで財産調査や評価を行い、相続税が発生する場合は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告・納税を行う必要があります。
遺言書があっても、特例は自動では適用されない
遺言書で各種特例の要件を満たすような遺産分割が指定されていたとしても、それをもって特例が自動的に適用されるわけではありません。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、相続税申告が適用要件になっているものについては、遺言書があっても申告する必要があります。
なお、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例については、原則として申告期限までに遺産分割が完了していることも要件です。
各特例の適用要件をよく確認し、適用漏れのないようにしましょう。
遺留分侵害トラブルで遺産分割が間に合わないリスクがある
遺言書がある場合、遺留分をめぐるトラブルが発生することがあります。
兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」という最低限保障された取り分があり、遺言書の内容によっては遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分侵害額請求は話し合いで解決することもありますが、調停や訴訟に発展して解決まで長期間かかるケースもあります。
その結果、相続税の申告期限までに遺産分割が完了しない場合には、いったん未分割で申告する必要があります。この場合、以下のような対応が必要です。
- 未分割申告の時点で「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておき、あとから特例を適用できるようにしておく
- 遺産分割完了後、必要に応じて修正申告や更正の請求をする
※分割が行われた日の翌日から4か月以内が期限
未分割申告については、関連記事『遺産が未分割でも相続税の申告を|デメリットや申告書の書き方を解説』が参考になります。
遺言書がある場合の相続税申告の基本的な流れ
相続財産の合計が基礎控除額を超えるのであれば、遺言の有無にかかわらず相続税申告が必要です。
遺言書がある場合の相続税申告の流れについて見ていきましょう。
関連記事
相続税申告しないとどうなる?無申告が一般人でもバレる理由とリスクを解説
ステップ1:遺言書の確認と検認手続き
遺言書がある場合、種類によっては検認手続きが必要です。検認には相続人全員への通知や一定の時間を要するため、早めに手続きを進めましょう。
| 遺言書の種類 | 検認の要否 |
|---|---|
| 自筆証書遺言 ※法務局保管制度を利用していない | 必要 |
| 自筆証書遺言 ※法務局保管制度を利用 | 不要 |
| 公正証書遺言 | 不要 |
| 秘密証書遺言 | 必要 |
遺言書の種類別に、解説します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が自分で手書きした遺言書です。
法務局の保管制度を利用していない場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。検認には概ね1~2か月程度かかることがあり、その分だけ相続税申告の準備期間が短くなります。
相続税申告の際には、検認済証明書がある自筆証書遺言の写しを添付します。
なお、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は検認不要ですが、遺言書情報証明書を法務局で取得する必要があります。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が作成・保管する遺言書です。
作成・保管を公証人が行っており、偽造や変造の可能性が低いことから、家庭裁判所での検認手続きは不要です。
相続税申告では、公正証書遺言の正本・謄本等の写しを添付して内容を示します。原本を申告書に添付するのではなく、写しを用いるのが通常です。
公正証書遺言の謄本は公証役場で取得できます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしたまま存在だけを公証人に証明してもらう遺言書です。
遺言書自体は遺言者が作成し、自分で保管します。そのため、公正証書遺言とは異なり、公証役場で内容までは確認されません。
秘密証書遺言は、公証人が関与していても家庭裁判所での検認手続きが必要です。検認を受けずに開封すると、過料の対象となる可能性があるため注意しましょう。
相続税申告では、検認済証明書がある秘密証書遺言の写しを添付して、内容を示します。
なお、秘密証書遺言は利用件数が少なく、実務上は自筆証書遺言や公正証書遺言が利用されるケースが一般的です。
ステップ2:相続財産の調査・評価
相続財産を洗い出し、それぞれの評価額を確認します。
相続財産には、不動産や預貯金など被相続人が生前所有していたものだけでなく、死亡保険金や死亡退職金などのみなし相続財産も含まれます。
また、暦年課税で生前贈与されていた財産のうち「生前贈与加算」の対象になるものや、相続時精算課税で生前贈与されていたものも相続税の対象になるので、見落とさないようにしましょう。
被相続人に借入金などの負債がある場合は、相続財産から差し引けます。
相続税の対象となる財産については、関連記事『相続税の課税対象が一覧でわかる!課税対象外の財産も解説』が参考になりますのであわせてご覧ください。
ステップ3:遺言書に基づく遺産分割の確定
有効な遺言で財産の分け方が定められている場合、原則として不要です。
ただし、遺言書の内容があいまいな場合や、特定の財産についての記載がない場合は、相続人間での協議が必要になることもあります。
ステップ4:申告書の作成・提出
相続税の申告期限は、遺言がある場合でもない場合でも同じで「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」です。
それまでに相続税申告書等の書類を用意し、税務署に提出しましょう。
遺言書の内容どおりに財産を取得した場合、申告書の「遺産の分割状況」欄には「遺言による分割」と記載します。
遺言がある場合は、一般的な必要書類に加えて以下も提出することが必要です。
| 遺言書の種類 | 書類 |
|---|---|
| 自筆証書遺言 ※法務局保管なし | 検認済証明書のある自筆証書遺言の写し |
| 自筆証書遺言 ※法務局保管あり | 遺言書情報証明書 |
| 公正証書遺言 | 遺言書の正本・謄本等の写し |
| 秘密証書遺言 | 検認済証明書のある秘密証書遺言の写し |
書類の収集漏れは申告漏れや修正申告の原因になります。書類全体をチェックリストで確認することをおすすめします。
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遺言書で一人に相続させることも可能?
遺言によって一人に全財産を相続させることは可能です。
しかし、さまざまなリスクも考えられるため、注意点を確認していきましょう。
可能だが、リスクや相続税の負担が大きくなりやすい
遺言によって誰か一人を指名し、その人にすべての財産を取得させることは可能です。
ただし、以下の点でリスクや相続税の負担が大きくなりやすい点には注意する必要があります。
- 遺留分侵害トラブル
- 配偶者一人に相続させた場合の二次相続の負担増
遺留分侵害トラブル
遺言によって一人にすべての財産を相続させると、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
請求が認められた場合は、財産を取得した人が不足分に相当する金銭を支払わなければなりません。また、話し合いで解決できず、調停や訴訟に発展し親族間の関係性が悪くなる可能性もあります。
そのため、一人に財産を集中させる遺言は、相続税だけでなく相続人同士のトラブルリスクも踏まえて検討することが大切です。
配偶者一人に相続させると二次相続が重くなる可能性がある
配偶者が財産を取得する場合は、「配偶者の税額軽減」を利用できます。
これは、配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか大きい金額まで相続税がかからない制度です。
※相続税申告すること、原則として申告期限までに遺産分割が完了していることが要件
そのため、遺言によって配偶者一人に全財産を相続させても、一次相続では相続税が大幅に軽減されたり、相続税がかからなかったりするケースがあります。
しかし、配偶者が亡くなった際の二次相続では、先に相続した財産も含めて相続税が課税されるうえ、配偶者の税額軽減も利用できません。
その結果、一次相続では節税できても、二次相続まで含めると相続税の総額が増えてしまうことがあります。
配偶者に財産を集中させる場合は、一次相続だけでなく二次相続まで見据えて遺言内容を検討することが重要です。
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遺言より生前贈与のほうが良いケースもある
遺言によって一人に財産を相続させることは可能ですが、状況によっては生前贈与を活用したほうが良いケースもあります。
生前贈与であれば、贈与者が存命のうちに財産を移転できるため、財産を渡したい相手に確実に渡せます。また、段階的に財産を移転することで、将来の相続財産を減らせる可能性もあります。
さらに、財産を受け取る人や他の親族に事前に説明しながら進められるため、相続発生後のトラブルを防ぎやすいというメリットもあるでしょう。
ただし、生前贈与には贈与税がかかることがあるほか、贈与のタイミングや方法によっては相続税の対象になることがある点には注意が必要です。
生前贈与について検討したい場合は、関連記事『生前贈与をわかりやすく解説!メリット・デメリットや注意点などがわかる』をご覧ください。
遺言がある場合の相続税についてよくある質問
Q. 遺言書があれば遺産分割協議は不要?
原則として、遺言書に有効な財産の分け方が記載されている場合、遺産分割協議は不要です。
ただし、遺言書に記載されていない財産が見つかった場合や、内容があいまいで解釈が分かれる場合は、相続人同士で話し合いを行う必要があります。
Q. 遺言書や財産目録があれば財産調査は不要?
遺言書や財産目録があっても財産調査は必要です。
遺言書や財産目録に記載されていない預貯金や有価証券、不動産、借入金などが存在する可能性があるためです。
また、相続税の計算では死亡保険金や死亡退職金などのみなし相続財産、生前贈与加算の対象財産なども確認しなければなりません。
そのため、遺言書や財産目録の内容だけを前提に手続きを進めるのではなく、金融機関や法務局などで調査を行い、相続財産を漏れなく把握することが重要です。
Q. 遺言書どおりに相続しないケースはある?
遺言がある場合でも、相続人全員と受遺者全員が合意していれば、遺言とは異なる内容で遺産分割を行うことは可能です。
ただし、遺言執行者が指定されている場合は遺言執行者の同意も必要です。また、遺言で「遺産分割を禁止する」と定められている場合は、自由に変更できないケースもあります。
また、遺言と異なる分割を行った結果、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの適用関係が変わることもあるため、税負担まで含めて検討することが重要です。
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Q. 遺言書が遺産分割後に見つかった場合は?
遺産分割後に有効な遺言書が見つかった場合、原則として遺言内容が優先されます。
そのため、すでに行った遺産分割をやり直さなければならない可能性があります。
また、遺言内容によって相続割合や取得財産が変わると、相続税額も変動することがあります。
すでに相続税申告を済ませている場合でも、修正申告や更正の請求が必要になるケースがあるため注意が必要です。(※更正の請求をする場合は、分割が行われた日の翌日から4か月以内が期限)
なお、自筆証書遺言が見つかった場合は、勝手に開封せず、家庭裁判所で検認手続きを行う必要があります。
遺言書があっても相続税申告の準備は早めに
遺言書がある場合、原則として遺言内容に従って財産を分けますが、相続税の基礎控除や基本的な計算方法自体は変わりません。
ただし、遺言書の種類によっては検認手続きが必要になったり、法定相続人以外が財産を受け取ることで2割加算が適用されたりするなど、税負担や手続きに影響が出るケースがあります。
また、一人に全財産を相続させる内容の場合は、遺留分トラブルや二次相続の負担増加にも注意が必要です。
遺言がある相続では、通常の相続以上に「誰が・どの財産を・どのように取得するか」が重要になるため、早めに財産調査や必要書類の準備を進め、不安がある場合は税理士などの専門家に相談しましょう。
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監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士