事業承継税制とは?会社引き継ぎの税金対策をわかりやすく解説

事業承継税制を使えば、自社株にかかる相続税・贈与税の納税を猶予でき、一定の場合には最終的に免除される可能性がある制度ですが、厳格な要件と長期的な管理が求められる制度です。
中小企業のオーナー経営者が亡くなったとき、あるいは生前に株式を後継者へ渡す際、自社株の評価額によっては多額の税負担が生じます。「税金を払うために株式を売却せざるを得ない」という事態を防ぐために設けられたのが事業承継税制です。
この記事では、事業承継税制の仕組みや一般措置・特例措置の違い、適用要件、手続きの流れ、リスクと注意点まで、わかりやすく解説します。
※本記事の情報は2025年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。
目次
事業承継税制とは?まず基本を押さえよう
事業承継税制は、自社株式にかかる相続税・贈与税の負担を大幅に軽減できる制度です。まずは制度の基本的な仕組みと対象を確認しましょう。
事業承継税制の概要
事業承継税制とは、会社を次の世代に引き継ぐ際に、オーナーが保有する自社株式にかかる相続税・贈与税の納税を猶予(先送り)または免除(ゼロに)できる制度です。
中小企業のオーナー経営者にとって、自社株式は会社経営の核心にある財産です。しかし、その株式の価値が高いほど、引き継ぐ際にかかる相続税や贈与税の負担も大きくなります。場合によっては、税金を払うために株式を売却せざるを得ないケースもあり、それが円滑な事業承継の妨げになっていました。
こうした問題を解決するために設けられたのが事業承継税制です。後継者が会社を存続させ続けることを条件に、本来であれば高額になる税負担を大幅に軽減できます。
事業承継税制が対象とするのは「非上場会社」の株式
この記事で解説する事業承継税制は、法人(非上場の株式会社)の自社株式の承継を対象にした制度です。個人事業主が事業を引き継ぐ際に使える「個人版事業承継税制」とは別の制度ですので、混同しないよう注意が必要です。
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会社の引き継ぎにかかる税金の種類
会社を引き継ぐとき、オーナーが保有していた自社株式は財産として扱われます。そのため、引き継ぎの方法によって「相続税」「贈与税」「譲渡所得税」といった税金がかかります。
| 引き継ぎ方法 | かかる主な税金 | 税率のめやす |
|---|---|---|
| 相続(死後) | 相続税 | 10〜55%(累進税率) |
| 生前贈与 | 贈与税 | 10〜55%(累進税率) |
| 売買(M&Aなど) | 譲渡所得税 | 約20.315% |
特に相続税・贈与税は税率が高く、自社株の評価額が大きい場合には後継者が納税資金を確保できないケースも起こりえます。だからこそ、事業承継税制の活用が重要な選択肢になるのです。
相続で引き継ぐ場合の「相続税」
オーナー経営者が亡くなった後に後継者が株式を受け取る場合、その株式の評価額に対して相続税がかかります。
自社株式の評価額は「取引相場のない株式の評価方法」という独自のルールで計算されるため、業績が好調な会社ほど株式の評価額が高くなる傾向があります。その結果、数千万円〜数億円規模の相続税が発生することも珍しくありません。
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生前贈与で引き継ぐ場合の「贈与税」
オーナーが存命中に後継者へ株式を贈与する(タダで渡す)場合は贈与税がかかります。贈与税は相続税と同様に高い累進税率(最大55%)が適用されるため、対策なしに贈与すると大きな税負担が生じるケースもあります。
売買で引き継ぐ場合の「譲渡所得税」
後継者が株式を買い取る形で引き継ぐ場合、オーナー側には譲渡所得税(売却益に対してかかる税金)が発生します。税率は原則として約20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。
事業承継税制の「一般措置」と「特例措置」の違い
事業承継税制には、一般措置と特例措置の2種類があります。特例措置は優遇幅が大きい代わりに適用期限が設けられており、違いをしっかり把握しておくことが重要です。
一般措置と特例措置の違い
一般措置と特例措置は、対象となる株式の割合や猶予される税率、後継者の人数などに大きな違いがあります。それぞれの特徴を以下の表にまとめましたので、比較してみましょう。
| 比較項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象株数(納税猶予の割合) | 発行済み株式総数の最大3分の2まで | 全株式(100%) |
| 猶予される税額の割合 | 相続税80%、贈与税100% | 相続税・贈与税ともに100% |
| 後継者の人数 | 1人のみ | 最大3人まで |
| 雇用維持要件 | 5年間平均で80%以上を維持 | 未達でも理由書等を提出し認定を維持すれば猶予継続が可能 |
| 特例承継計画の提出 | 不要 | 必要 |
| 適用対象となる期限 | 現時点で期限なし | 2027年12月31日までに相続・贈与が発生した分が対象 |
特例措置のポイントと期限に注意
特例措置は、一定の要件を満たすことで相続税・贈与税の納税が全額猶予され、最終的に免除される可能性がある非常に優遇された制度です。しかし、特例措置の適用を受けるためには以下の期限があります。
- 特例承継計画の提出期限:2027年9月30日(都道府県へ提出)
- 特例措置の適用対象となる期限:2027年12月31日までに相続・贈与が発生していること
適用期限まであまり時間的余裕がないため、活用を検討している方は早めに税理士へ相談することを強くおすすめします。
事業承継税制の主な適用要件
事業承継税制は誰でも使えるわけではなく、「会社」「先代経営者(現オーナー)」「後継者」それぞれについて要件があります。ここでは概要を整理します。
対象となる会社の要件
事業承継税制を利用するためには、対象となる会社が一定の基準を満たしている必要があります。主な要件は以下のとおりです。
- 中小企業者に該当する非上場会社であること
- 資産管理会社(株式や不動産の保有を主な目的とする会社)に該当しないこと
- 一定の風俗関連営業会社等に該当しないこと
先代経営者(贈与者・被相続人)の要件
株式を譲り渡す先代経営者についても、過去の役職や株式の保有状況に関する条件が定められています。
- 会社の代表者であったこと(過去に代表者であった場合も含む)
- 一定数以上の株式を保有していたこと
後継者(受贈者・相続人)の要件
株式を受け継ぎ、今後の会社を担う後継者には、年齢や役職、株式の保有割合に関する要件が課されています。
- 会社の役員や代表者であること(措置の種類や贈与・相続の区分により詳細は異なる)
- 一定数以上の株式を保有すること(後継者グループで)
- 18歳以上であること(贈与の場合のみ/相続は年齢要件なし)など
要件は細かく、個々の状況によって適用できるかどうかが変わります。自社が要件を満たすかどうかは、認定支援機関(税理士や中小企業診断士など)に確認することが必要です。お近くの認定支援機関は、経済産業省中小企業庁ホームページ「認定支援機関検索システム」で検索してください。
事業承継における相続税の猶予・免除の仕組み
相続で株式を引き継ぐ際、自社株式にかかる相続税について納税猶予を受けられます(特例措置は100%、一般措置は80%)。つまり、後継者は一時的に税金を支払わずに済みます。
相続税の猶予から「免除」に切り替わるタイミング
猶予された税金は、以下のタイミングで最終的に免除されます。
- 後継者が死亡したとき
- 次の世代(さらに次の後継者)へ事業承継税制を適用して再承継したとき
- 経営環境の悪化等により事業継続が困難となった一定の場合(詳細は専門家への確認が必要)
特例措置では、後継者が次の後継者に再承継する際にも税制を引き継ぐことができるため、長期にわたって税負担を先送りしながら最終的に免除となる可能性があります。
相続税の猶予が「取り消し」になるリスクにも注意
猶予中にも守り続けなければならない条件があり、これを破ると猶予が取り消され、猶予分の税金に利子税を加えて支払わなければなりません。
主な取り消し事由の例
- 後継者が代表者を退任する
- 株式を一定割合以上、第三者に譲渡する
- 会社が資産管理会社に該当することになった
- 5年間の平均で一定の基準を下回る雇用実績となった(一般措置の場合)
猶予期間中は毎年、都道府県への「年次報告書」や税務署への「継続届出書」の提出が義務付けられており、手続きを怠ると猶予が打ち切られることもあります。
事業承継における贈与税の猶予・免除の仕組み
オーナーが生前に株式を後継者に贈与する場合も、事業承継税制を活用することで贈与税の100%が猶予されます(特例措置・一般措置ともに贈与税は100%猶予)。
贈与税の猶予から「免除」に切り替わるタイミング
贈与税の猶予が最終的に「免除」されるのは、主に以下のケースです。
- 贈与者(先代経営者)が亡くなったとき→猶予されていた贈与税は免除され、贈与された株式は相続財産に加算されて相続税の対象となる(相続税についても事業承継税制の適用が可能)
- 後継者が次の後継者へ再承継したとき
贈与税の猶予・免除は相続税の取り扱いと連動しているため、制度全体の流れを把握することが大切です。また、通常の贈与税の節税手法である相続時精算課税制度との違いも理解しておくと、より適切な判断ができます。
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贈与税の猶予が「取り消し」になるリスクにも注意
取り消し事由・継続届出の義務などは相続税の場合と同様です。猶予中の条件を破ると、猶予分の贈与税に利子税を加えて支払わなければなりません。詳細は前述の相続税の項をご参照ください。
事業承継税制を活用する手続きの大まかな流れ
事業承継税制を利用するには、複数のステップにわたる手続きが必要です。以下に大まかな流れを示します。
- 特例承継計画の策定・提出(2027年9月30日まで)
認定支援機関(税理士、中小企業診断士など)の指導・確認のもとで特例承継計画を作成し、都道府県知事に提出する。 - 贈与・相続の実施 計画に基づき、実際に株式の贈与または相続を行う
特例措置の適用対象になるのは2027年12月31日までに発生した贈与・相続。 - 都道府県知事の認定申請
贈与・相続が発生してから申告期限までに、都道府県知事へ認定申請を行う。 - 税務申告・納税猶予の申告
税務署に相続税または贈与税の申告を行い、同時に納税猶予の適用を申請する。 - 継続届出書の提出(以後5年間は毎年、その後は3年ごと)
猶予期間中は定期的に税務署へ継続届出書を提出するとともに、都道府県への年次報告等(認定維持に関する報告)も必要になる。要件を満たし続けていることを継続的に報告する。
手続きは多岐にわたり、書類の不備や期限超過が致命的なミスになる可能性があります。早期に税理士へ相談し、専門家のサポートを受けながら進めることを強くおすすめします。
事業承継税制以外の税金対策
事業承継税制は非常に強力な制度ですが、要件や手続きが複雑なため、活用できないケースや、他の対策と組み合わせることが有効なケースもあります。ここでは、事業承継時に使える代表的な税金対策を紹介します。
生前贈与の活用(暦年課税)
毎年110万円以下の贈与であれば贈与税がかからない「暦年贈与」を活用して、少しずつ株式を後継者に移転する方法です。
なお、相続開始前の一定期間内(2026年時点では相続開始前3年以内の贈与は原則加算対象。2024年以降の贈与から加算期間が段階的に延長され、2031年以降の相続開始分からは最長7年以内の贈与が対象。)に行われた贈与は相続財産に加算されてしまうため、早い段階から計画的に実施することで、相続財産(=株式)を圧縮できます。
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持株会社(ホールディングス)の設立
持株会社を設立し、オーナーが持株会社の株式を保有する構造にすることで、株式の分散や承継のしやすさの向上が期待できます。設計によっては株式評価のコントロールにつながる場合もあり、事業承継税制と組み合わせて活用されることもあります。
生命保険の活用
オーナーを被保険者とした生命保険に加入しておくことで、相続発生時に後継者が保険金を受け取り、相続税の納税資金に充てることができます。
また、後継者が被相続人の「相続人」である場合、受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人数」の非課税限度額が設けられています。
直接的な節税ではありませんが、資金繰りリスクを軽減できます。
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株式の評価額を下げる対策
会社の純資産や利益の状況を踏まえて適正に経営を行うことで、結果として相続税・贈与税の評価額が抑えられる場合があります。役員報酬の見直しや不要資産の整理などが該当します。
個人の財産全般に活用できる相続税・贈与税の節税方法については、以下の記事もあわせてご覧ください。
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事業承継税制を活用する際のリスク・注意点まとめ
事業承継税制は非常にメリットが大きい制度ですが、リスクや注意点もあります。利用を検討する際は以下の点を念頭に置いてください。
①猶予取り消しリスク
前述のとおり、猶予中は各種の要件(会社の要件・先代経営者の要件・後継者の要件など)を継続して満たす必要があります。これらの要件を満たせなくなると猶予が取り消され、利子税を含む税金を一括で支払わなければなりません。廃業やM&Aを検討する場合も要件への影響が生じる可能性があるため、事前に専門家に相談することが重要です。
②継続的な手続き負担
猶予期間中は毎年(申告期限から5年間は毎年、その後は3年ごと)の届出が必要です。これを怠ると猶予が打ち切られるため、長期間にわたる管理が求められます。
③特例措置の期限が迫っている
特例措置の適用には2027年9月30日までに特例承継計画を提出し、さらに2027年12月31日までに贈与または相続を実行する必要があります。検討から実際の手続き完了まで時間がかかるため、今すぐ行動を開始する必要があります。
④制度の改正リスク
税制は法改正によって内容が変わる可能性があります。最新の情報を税理士や専門機関から入手するようにしましょう。
事業承継の税金対策は専門家への相談が不可欠
事業承継税制は中小企業のオーナー経営者にとって大きな節税効果をもたらす制度ですが、要件・手続き・リスク管理のすべてにおいて専門知識が必要です。
とくに特例措置は2027年9月30日という特例承継計画の提出期限があり、時間的な余裕はそれほど多くありません。「うちは使えるのか?」「何から始めればいいのか?」という疑問を抱えている段階でも、まずは認定支援機関(税理士、中小企業診断士など)に相談することをおすすめします。
事業承継の準備は、早ければ早いほど選択肢が広がります。ぜひ早期に専門家へご相談ください。
まとめ|事業承継税制の要点
事業承継税制は、自社株にかかる相続税・贈与税の負担を大幅に軽減できる有効な制度です。特例措置を使えば、一定の要件を継続して満たすことで、最終的に納税が免除される可能性がありますが、一方で会社・先代経営者・後継者それぞれに細かな要件があり、長期間にわたって継続して満たす必要があります。
要件を満たせなくなった場合には猶予が取り消され、利子税を含めた税額を一括で納付しなければならないリスクもあるため、制度の利用には慎重な判断が求められます。
また、特例措置には期限があり、計画の提出や承継の実行までに時間を要する点にも注意が必要です。事業承継は一度きりの重要な経営判断であり、準備の早さによって選択肢の幅も大きく変わります。
制度のメリットを最大限に活かすためにも、早い段階から税理士などの専門家に相談し、自社の状況に合った承継プランを検討していくことが重要です。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士