負担付死因贈与契約とは?負担付遺贈との違い・手続き・税務などを解説

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「介護してくれるなら、この家をあげる」「一緒に住んでくれるなら、財産を渡す」、そんな条件つきで財産を残したい場合に役立つのが、負担付死因贈与契約という法的な仕組みです。

一定の負担を負わせる代わりに、自身の財産を譲り渡すことが可能となります。

遺言書での対応を考えている方も多いと思いますが、遺言とは異なるルールが適用されるため、違いを正しく理解し、より適切な方法を選択するべきでしょう。

この記事では、負担付死因贈与契約の基本的な仕組みから、よく比較される「負担付遺贈」との違い、契約の作り方、守られなかった場合の対処法、税務の扱いまでをわかりやすく解説します。

負担付死因贈与契約とはどんな契約なのか

負担付死因贈与契約とは、贈与者(財産を渡す人)が亡くなったことを条件に、一定の「負担(条件・義務)」を受贈者(財産をもらう人)に課した上で財産を渡す契約のことです。

少し難しく感じるかもしれませんので、言葉を分解して整理しましょう。

用語意味
死因贈与贈与者が亡くなったときに効力が生じる贈与契約
負担財産をもらう側が果たさなければならない義務・条件
負担付死因贈与契約上記2つを組み合わせた契約。「一定の義務を果たしてくれるなら、死後に財産を渡す」という合意

負担付死因贈与の法的根拠

死因贈与契約は、民法554条に規定されており、「その性質に反しない限り遺贈の規定に従う」とされています。

ただし、契約であるという点が遺言とは異なる部分があるのです。

負担付死因贈与契約については、民法553条(負担付贈与)の規定も準用され、「双務契約に関する規定が準用される」ほか、民法551条により「負担の限度で売主と同じく担保の責任を負う」という取り扱いがされるため、単なる贈与より厳格なルールが適用される場面があります。

負担付死因贈与の効力が生じるタイミング

財産の移転そのものは贈与者が亡くなったときに生じますが、受贈者側の「負担(義務)」は契約成立後すぐに始まるケースが多いという点が重要です。

たとえば「今から介護をしてくれるなら、死後に家を渡す」という内容であれば、介護という負担は生前から始まります。

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負担付死因贈与の「負担」とは|具体例紹介

負担付死因贈与契約における「負担」とは、受贈者が財産を受け取るかわりに果たすべき義務や役割のことです。

法律上は、公序良俗に反しない限り特に制限はなく、当事者同士が合意した内容であれば幅広く設定できます。

よく使われる負担の例を見てみましょう。

負担付死因贈与における「負担」の具体例

介護・生活支援に関するもの

  • 贈与者の老後の介護・身の回りの世話をする
  • 同居して日常的な生活支援を行う
  • 入院・通院の付き添いをする

居住・不動産に関するもの

  • 贈与者が亡くなるまで同居し、住居を提供する(または同じ家に住み続ける)
  • 特定の不動産を処分しないで管理し続ける

金銭・債務に関するもの

  • 贈与者の借金・ローンを引き継いで返済する
  • 葬儀費用を負担する
  • 他の相続人に一定額を支払う

その他

  • 特定の家業・農地を継ぐ
  • ペットの世話をする

「負担」設定の注意点

負担の内容は、財産の価値に見合った合理的なものであることが望ましいとされています。

あまりにも軽微な負担では「事実上の贈与ではないか」と問題になるケースもあります。

また、内容があいまいだと後でトラブルになるため、できるだけ具体的・定量的に記載することが重要です。

  • あいまいな例:「できる限り面倒をみる」
  • 具体的な例:「週3回以上訪問し、食事・入浴・通院の補助を行う」

負担付死因贈与と負担付遺贈の違い

負担付死因贈与契約と混同されやすいのが、負担付遺贈(ふたんつきいぞう)です。

どちらも「条件つきで財産を渡す」という目的は同じですが、法的な性質が大きく異なります。

そもそも「遺贈」とは?

遺贈とは、遺言書によって財産を特定の人に渡すことです。

「負担付遺贈」は、その際に受け取る側(受遺者)に一定の義務を課すものとなります。

負担付死因贈与契約と負担付遺贈の比較

負担付死因贈与と負担付遺贈の違いには、以下のようなものがあります。

比較項目負担付死因贈与契約負担付遺贈
法的性質契約(双方の合意が必要)遺言(一方的な意思表示)
相手方の同意必要不要
撤回・解除原則として一方的な撤回は困難(相手方の同意が必要)遺言者はいつでも自由に撤回できる
受取人の放棄一方的に「放棄」できる制度はない(合意解除・法定解除等によって結果として取得しない形になる可能性はある)いつでも放棄できる
法的根拠民法554条・553条民法1002条(負担付遺贈)等
負担不履行時の扱い解除できる可能性がある相続人が履行を請求できる・取り消せる場合がある
不動産取得税かかる相続人への遺贈ならかからない

撤回・解除の可否の違いが大きい

遺言は、遺言者がいつでも自由に撤回・変更できます(民法1022条)。

一方、負担付死因贈与契約は双方が合意した契約ですので、一方の意思だけで撤回することができないケースがあります。

特に、すでに負担行為を履行している場合には、「負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り」、撤回することができないとされているのです(最高裁昭和57年4月30日判決)。

「特段の事情」に該当するかどうかは事案によって判断が分かれるため、気になる場合には専門家である弁護士に確認を行いましょう。

そのほかに比較すべき違い

すでに述べている部分以外で比較すべき点について、「形式の厳格性」や「登録免許税・不動産取得税」があげられます。

形式の厳格性の違い

負担付死因贈与と負担付遺贈では負担付死因贈与のほうが、より簡易な方法で成立することができます。

負担付死因贈与は口頭でも成立することが可能となっていますが、負担付遺贈は遺言の形式として正しいものであることが必要です。

仮に、自筆証書遺言で負担付遺贈を行う場合には、原則として全文が自筆でなければならず、日付や署名・押印などが必要となり、一つでも要件が欠けると無効なものとして扱われてしまいます。

負担付死因贈与は遺言方式に縛られないため、形式面では柔軟に利用できます。ただし、口頭契約では後日の立証が難しくなるため、書面化・公正証書化が重要です。

登録免許税・不動産取得税の違い

負担付死因贈与では、贈与による不動産登記を移転する際の登録免許税が、固定資産税評価額の2%となります。

一方、負担付遺贈では、相続人に対して遺贈を行う場合なら登録免許税が、固定資産税評価額の0.4%となるのです。

また、負担付死因贈与により不動産を取得した場合は不動産取得税が発生しますが、負担付遺贈により相続人が不動産を取得した場合には不動産取得税は生じません。

このような違いがあるため、相続人に負担付で不動産を渡したい場合には、負担付遺贈とするほうが金銭的な負担を抑えることができます。

どちらを選ぶべきか?

  • 相手方の確実な同意と義務の確保を重視する→負担付死因贈与契約
  • 柔軟に内容を変えられる自由度を重視する→負担付遺贈(遺言)

受贈者・受遺者になる方が「本当にその条件を引き受けてくれるのか」を事前に確認・合意しておきたい場合は、契約形式である死因贈与のほうが安心です。

負担付死因贈与契約の作り方・手続き

負担付死因贈与契約は、当事者双方の合意があれば、法律上は口頭でも成立します。

ただし、トラブル防止のために以下のような流れで書面化・公正証書化することを強くお勧めします。

(1)内容の話し合い・合意

まず、贈与者と受贈者の間で以下の内容を具体的に決めます。

  • 渡す財産の内容(不動産・現金・株など)
  • 受贈者が果たすべき負担の具体的な内容・頻度・期間
  • 負担が履行されなかった場合の取り扱い
  • 贈与の条件となる「死亡」以外に特別な条件があるか

(2)契約書の作成

合意した内容を書面に残します。このとき、次の点を明記することが重要です。

  • 当事者の氏名・住所
  • 贈与する財産の特定(不動産なら地番・家屋番号まで)
  • 負担の内容(できるだけ具体的に)
  • 効力発生の条件(贈与者の死亡)
  • 負担不履行の場合の解除条件
  • 契約締結日

不動産については、登記事項証明書に記載されている事項を正確に記載しましょう。

また、預貯金については、「金融機関名」「支店名」「口座の種類」「口座番号」「名義人」について明示することが必要となります。

(3)公正証書の作成(強く推奨)

公正証書とは、公証人(法務大臣が任命する公的な証人)が作成する公文書です。私文書(自分たちで作った書面)と比べて以下のメリットがあります。

メリット詳細
証拠力が高い内容の真正性が公的に認証される
紛失・改ざんのリスクがない公証役場に原本が保管される
不動産登記に使いやすい死亡後の所有権移転登記に必要な書類として活用できる
贈与者の意思能力の証明認知症リスクがある場合の予防策になる

公正証書を作成する際は、公証役場に事前予約をした上で、当事者または代理人が出向く必要があります。費用は財産の価額によって異なりますが、一般的に数万円程度です。

不動産には仮登記を

不動産が対象の場合、贈与者の生存中に仮登記(条件付所有権移転仮登記)をしておくことで、将来的な二重譲渡や抵当権の設定を防ぐことができます。

贈与者が生前に財産を処分してしまうリスクを抑えるために有効な手段です。

執行者の指定を行うべき

負担付死因贈与契約を行う際には、執行者を指名しておくと手続きがスムーズに進みやすいでしょう。

執行者が指名されていると、死因贈与による不動産の移転登記をする際に、相続人全員の同意がなくても執行者により登記手続きを行うことが可能です。

また、相続人と受贈者の利害が対立する場合でも、適切に手続きを進めることができます。

執行者としては、専門家である弁護士や司法書士を指定しておくとよいでしょう。

受贈者が負担を果たさない場合はどうなる?

負担付死因贈与契約において最も心配されるのが、「受贈者が約束通りに介護・同居などを行わなかった場合どうなるのか」という点です。

契約の解除が可能

民法553条は、負担付贈与について「双務契約に関する規定を準用する」と定めています。

これにより、受贈者が負担を履行しない場合、贈与者(または相続人)は契約を解除できるとされているのです。

解除の方法は不履行の態様によって異なり、催告の上で解除する場合(民法541条)と、催告なく解除できる場合(民法542条)とが、一般の債務不履行解除の規律に従って検討されます。

ただし、以下の手順を踏むことが一般的です。

  1. 受贈者に対して相当の期間を定めて催告する(「○日以内に負担を履行してください」)
  2. 期間内に履行されない場合に解除の意思表示をする
  3. すでに財産が移転している場合は返還を求める

解除が認められるためのポイント

解除が認められるかどうかは、以下の事情によって異なります。

  • 不履行の程度(軽微な不履行では解除が認められない場合もある)
  • 契約書に解除条件が明記されているか
  • 履行が可能な状態かどうか(病気・経済的困難などの事情)

このため、契約書の段階で「どのような状態が不履行にあたるか」を明記しておくことが非常に重要です。

贈与者が先に亡くなった後は?

贈与者が亡くなり財産が移転した後も、相続人が受贈者に対して負担の履行を請求したり、解除を主張したりすることができます。

実際に解除が認められるかは契約内容や不履行の程度などによって異なるため、専門家への相談が重要です。

ただし、すでに不動産の登記が移転している場合の返還は、手続き的にも時間的にも複雑になります。トラブルが起きてからでは遅いため、生前からの契約書設計が重要です。

負担付死因贈与の税務上の取り扱い

負担付死因贈与契約には税金が関わります。どの税金がかかるのかを正しく理解しておきましょう。

税務の取り扱いは個別の事情によって異なります。必ず専門家である税理士にご相談ください。

負担付死因贈与は相続税の対象

死因贈与契約によって取得した財産は、相続税法上「遺贈」に準じて扱われ、相続税の課税対象となります。

贈与契約という形式をとっていても、死亡を条件とする財産の移転は、税務上は相続税の枠組みで処理されます。

死因贈与の受贈者が一親等の血族(子・親)・配偶者・代襲相続人である孫以外(兄弟姉妹・内縁の配偶者・友人など)場合は、相続税額に2割加算される点に注意が必要です。

負担がある場合の評価額

負担付死因贈与契約では、受贈者は財産を受け取ると同時に「負担」も引き受けています。税務上の課税価格への影響は負担の性質によって大きく異なります。

  • 負担が金銭債務の引受など客観的に金額算定できる場合:相続税法上の債務控除等の要件を満たせば、実務上その分が控除・調整され得ます。
  • 負担が介護・同居などの労務である場合:金銭的評価が難しく、課税価格に反映されない、または取り扱いが争点となる可能性があります。

たとえば負担が金銭債務の引受であれば、財産評価額3,000万円から引き受けた債務500万円を差し引いた2,500万円が課税の基礎となり得ますが、具体的な扱いは個別事情によるため、必ず税理士に確認してください。

贈与税が課されることはある?

負担付死因贈与契約は、贈与者の死亡を条件とするため、原則として生前に贈与税は課されません。

ただし、契約の内容によっては課税関係が変わることもあるため、締結前に税理士へ相談することを強くおすすめします。

負担付死因贈与が向いているケースとは

負担付死因贈与契約は便利な手段ですが、万能ではありません。活用が向いているケースと、慎重に検討すべきケースを整理します。

負担付死因贈与が向いているケース

負担付死因贈与契約が向いているケースとしては、以下の4つが考えられます。

①介護を条件に財産を渡したい場合

子どもや親族に「老後の面倒を見てくれるなら家をあげる」という合意を確実に形にしたいときに有効です。

遺言と違い、相手方の同意を得た契約として残せます。

②受贈者に事前に心構えをさせたい場合

契約書を交わすことで、受贈者が「自分には義務がある」と意識しやすくなります。

遺言書は亡くなるまで内容が伝わらないこともありますが、契約であれば生前から共有できます。

③不動産を特定の人に確実に渡したい場合

仮登記と組み合わせることで、贈与者の生前における第三者への売却や担保設定を防ぐことができます。

④他の相続人への一定額支払いを義務づけたい場合

「〇〇に財産を渡す代わりに、他の兄弟に△△万円を支払うこと」という負担を設定することで、相続人間の不満を軽減する工夫ができます。

負担付死因贈与を慎重に検討すべきケース

負担付死因贈与契約を行うことに慎重となるべきケースについては、以下の3つが考えられます。

①贈与者が将来的に気が変わる可能性がある場合

契約である以上、一方的な撤回が難しくなります(履行着手後は特に)。

状況の変化に柔軟に対応したい場合は、遺言の活用も検討してください。

②受贈者の履行能力が不明確な場合

受贈者が介護などを継続できる健康状態・生活環境にあるかどうかを慎重に見極める必要があります。履行できないまま財産だけが移転するリスクを考慮しましょう。

③相続人の遺留分を侵害する場合

負担付死因贈与契約が遺留分(相続人に最低限保障される相続分)を侵害する場合、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあります。

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まとめ|負担付死因贈与をすべきかは専門家へ相談を

この記事では、負担付死因贈与契約の基本的な仕組みから、負担付遺贈との違い、手続き、解除・税務の扱いまでを解説しました。最後に要点を整理します。

ポイント内容
基本的な仕組み贈与者の死亡を条件に、一定の義務を課して財産を渡す契約
遺贈との最大の違い契約(双方合意)である点。一方的な撤回ができない場合がある
負担の内容介護・同居・債務弁済など幅広く設定できるが、具体的に記載すること
書式法律上は口頭でも可だが、公正証書化を強く推奨
不履行の場合催告の上、契約解除・返還請求ができる(不履行の態様により催告不要の場合も)
税務相続税の対象(遺贈に準じた扱い)。不動産取得税も生じる
向いているケース介護・同居などの確実な合意形成が必要な場合など

負担付死因贈与契約は、正しく設計すれば「財産を渡す側・受け取る側」双方にとって安心できる仕組みです。

一方で、契約内容があいまいだったり、税務上の配慮が不十分だったりすると、かえってトラブルの原因になりかねません。

弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談しながら進めることを強くおすすめします。

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高部孝之税理士

監修者


高部孝之税理士事務所

税理士高部孝之

2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。

保有資格

税理士・FP技能士1級・相続診断士

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