相続税と遺留分の関係は?もらった側と支払った側の税務手続きを解説

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遺留分侵害額請求によって受け取った金銭は、原則として相続税の対象です。遺産を相続したものとして課税されます。

遺留分を受け取る側は、すでに相続税の申告を済ませている場合には修正申告(相続税法第31条)、新たに申告が必要になる場合には期限後申告(同第30条)を行います。

一方、支払う側は、相続税法第32条に基づき更正の請求(払いすぎた税金の還付申請)が可能です。

この記事では、遺留分と相続税の関係を基礎からわかりやすく解説します。受け取る側・支払う側それぞれの税務上の扱いをはじめ、修正申告や更正の請求の手続きと期限、具体的な計算例まで確認できます。

※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。

遺留分と相続税の基礎知識

遺留分とは

遺留分とは、一定の相続人が最低限受け取ることのできる遺産の割合のことです。

民法によって保障された権利であり、遺言書の内容にかかわらず、遺留分を下回る相続しか受け取れなかった場合には、侵害された分を金銭で請求できます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。

遺留分権利者と遺留分の割合

遺留分を主張できるのは、以下の相続人に限られます。

権利者遺留分の割合(遺産全体に対して)
配偶者のみ1/2
子のみ1/2
配偶者と子配偶者1/4
子全員で1/4
配偶者と直系尊属配偶者1/3
直系尊属全員で1/6
直系尊属のみ1/3

兄弟姉妹には遺留分がありません。相続人が複数いる場合、子や直系尊属の遺留分はその人数で等分します。

法定相続分との違い

法定相続分は遺言がない場合に民法が定める相続割合であり、遺留分はその最低保障ラインです。

法定相続分の割合は遺留分を上回るケースがほとんどです。ただし、遺言によって取り分をゼロにされた場合でも、遺留分だけは請求できます。

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遺留分減殺請求との違い

2019年7月1日施行の民法改正により、「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」へと改められました。

項目旧制度
(遺留分減殺請求)
現行制度
(遺留分侵害額請求)
請求の内容財産そのものの返還を請求金銭による支払いを請求
物権的効果あり(共有状態が生じ得る)なし
税務上の取り扱い現物取得に準じる場合あり金銭債権として取り扱う

旧制度では物権的効果が認められており、不動産や株式などが対象になると当事者間で共有状態になるケースがありました。税務上の処理も複雑になりやすく、現物の代わりに金銭で精算した場合には譲渡所得税が課されることもありました。

現行制度では金銭請求に一本化されたため、課税関係は比較的シンプルです。ただし、金銭の支払いに代えて不動産などの資産を移転した場合は、譲渡所得税の対象となる点に注意が必要です。

なお、2019年7月1日より前に開始した相続には旧制度が適用されます。

遺留分をもらったらどんな税金がかかる?

原則として相続税の対象

遺留分侵害額請求によって取得した財産は、相続または遺贈によって取得した財産とみなされ、相続税の課税対象となります。

遺留分権利者はもともとその遺産を相続する権利があった人であるため、受け取った金銭も相続税の枠内で課税されます。

受け取り方による課税の違い

受け取り方課税される税目注意点
金銭で受け取る相続税最も一般的なケース
不動産などで受け取る
(代物弁済)
相続税+譲渡所得税の可能性支払う側に譲渡所得が生じる場合がある
調停・審判等で受け取る金銭原則として相続税実質的に遺産の取得と認められる場合

代物弁済(現金の代わりに不動産などを渡す方法)が行われた場合、支払う側には譲渡所得税が課される可能性があります。受け取る側は「金銭を取得したもの」として相続税の対象となるため、その不動産に対して小規模宅地等の特例(相続税の負担を軽減できる制度)を適用できない可能性があります。

代物弁済を選択すると受け取る側・支払う側の双方に想定外の税負担が生じるケースがあり、慎重な検討が必要です。

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遺留分をもらった側の相続税の手続き

相続税の申告が必要になるケース

遺留分侵害額請求を行い、金銭を受け取った場合、修正申告または期限後申告の手続きが必要になります。

もともと財産を取得していなかったなどの理由で相続税の申告をしていなかった場合でも、遺留分を受け取ることで課税対象となるケースがあります。

相続税申告の手続きと期限

遺留分侵害額請求は、相続税の申告期限(相続開始から10か月)後に解決することも珍しくありません。この場合、受け取る側(税額が増える側)は、請求が解決した時点から速やかに申告手続きを進めることが推奨されます。

受け取る側は、すでに申告済みの場合は相続税法第31条に基づく修正申告、未申告の場合は同第30条に基づく期限後申告を行います。

状況手続きの種類根拠・期限
申告済みで税額が増える修正申告相続税法第31条。確定後、速やかに申告
未申告で新たに申告が必要期限後申告相続税法第30条。確定後、速やかに申告
遺留分を支払い税額が減る更正の請求相続税法第32条。確定を知った日の翌日から4か月以内

ここでいう「確定を知った日」とは、当事者間で和解が成立した日、または調停・審判が確定した日を指します。支払う側の更正の請求については、次章で詳しく解説します。

遺留分侵害額の確定を理由とする修正申告や期限後申告は、通常「正当な理由がある」として取り扱われ、過少申告加算税・無申告加算税は原則として課されません

延滞税についても、申告書の提出日に納付すれば課されません。修正申告・期限後申告のいずれも、申告書の提出日が納期限となるためです。遺留分侵害額が確定したら、速やかに申告・納付を行いましょう。

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遺留分を支払った側の相続税の手続き

更正の請求で相続税が還付される仕組み

遺留分を支払う側は、当初の遺産取得額から支払った遺留分侵害額を差し引いて相続税を再計算できます。支払い前より相続税が減る可能性があります。

更正の請求が認められる根拠は、相続税法第32条第1項第3号にあります。同号は、申告後に「遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと」により申告額が過大となった場合に、更正の請求ができると直接定めています。

支払い確定前は取得財産が多い状態で相続税を納付していたわけですが、支払い確定後は実質的に取得財産が減少したことになり、これが更正の請求の法的根拠となります。

更正の請求の手続きと必要書類

提出先被相続人の住所地を管轄する税務署
提出期限遺留分侵害額の支払いが確定したことを知った日の翌日から4か月以内(相続税法第32条)
必要書類更正の請求書、和解調書・審判書などの確定を証明する書類、修正後の相続税計算書など

提出期限を過ぎると還付を受けられなくなる可能性があるため、注意が必要です。

なお、自主的に遺留分を支払った場合でも、相手方が遺留分侵害額請求権を行使していない(または時効が成立している)状況での支払いは、課税関係が異なる場合があります。必ず専門家に確認してください。

遺留分と相続税の計算方法

遺留分請求前後の相続税の計算例

遺留分侵害額請求が絡む相続税の計算は、請求前と請求後で課税対象となる財産額が変わる点がポイントです。ここでは、以下の前提条件をもとに具体的な数字を使ったシミュレーションで確認します。

なお、相続税はいったん法定相続分で按分して税額の総額を計算したうえで、実際の取得割合に応じて各人に配分する仕組みです。

前提条件

  • 被相続人:父
  • 相続人:長男・次男の2名
  • 遺産総額:1億円
  • 遺言の内容:「全財産を長男に相続させる」
  • 基礎控除額:3,000万円+600万円×2人=4,200万円
  • 課税遺産総額(当初):1億円-4,200万円=5,800万円

①遺留分侵害額請求前

相続人取得額相続税(概算)
長男1億円770万円
次男0円0円

②遺留分侵害額請求後

相続人取得額相続税(概算)
長男7,500万円577.5万円
次男2,500万円192.5万円

上記はあくまで概算です。実際の計算は各種控除や財産評価によって異なります。相続税の計算方法をより詳しく知りたい方は『相続税の計算方法をわかりやすく解説!概算の早見表や節税できる制度も』の記事をご覧ください。

課税財産の変動と手続きのポイント

遺留分侵害額請求が確定すると、課税対象の財産が以下のように変動します。

相続人課税対象の財産必要な手続き
長男(支払う側)減る更正の請求(還付を受けられる可能性)
次男(受け取る側)増える修正申告または期限後申告(追加納付が必要)

請求前後で税額が大きく変わるケースもあるため、遺留分侵害額が確定したら速やかに税理士へ相談することをおすすめします。

遺留分侵害額請求後の修正申告と更正の請求の流れ

申告期限内に遺留分が確定した場合

相続税の申告期限(10か月)以内に遺留分侵害額が確定した場合は、当初申告にその内容を反映させることができます。申告後に修正申告や更正の請求を行う必要はありません。

手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 相続開始(被相続人の死亡)
  2. 遺留分侵害額請求の提起
  3. 交渉・調停・審判などで金額が確定
  4. 確定した内容を反映した相続税の申告・納付(10か月以内)

申告期限後に遺留分が確定した場合

遺留分侵害額請求は交渉・調停・審判を経て解決することが多く、相続税の申告期限後に確定するケースがほとんどです。

遺留分侵害額が未確定の段階では、遺言書の内容に従って当初申告を行います。確定後に受け取る側・支払う側それぞれが税務署に申告・請求を行い、税額を精算します。

手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 相続開始(被相続人の死亡)
  2. 遺留分侵害額請求の提起(請求権の時効は原則1年)
  3. 相続税の申告・納付(10か月以内)
  4. 交渉・調停・審判などで金額が確定
  5. 税務署への申告・請求
  6. 税務署が確認・処理(還付または追徴)

受け取る側は修正申告または期限後申告を確定後速やかに、支払う側は更正の請求を確定を知った日の翌日から4か月以内に行います。

遺留分と相続税についてよくある質問

Q. 遺留分の時効はいつまで?

遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効消滅します。知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過すると請求できなくなります(民法第1048条)。

Q. 遺留分を放棄した場合、相続税への影響はある?

放棄の方法によって、法的性質や効果が変わります。相続開始前の生前放棄(家庭裁判所の許可が必要)と、相続開始後に請求しない、または合意で受け取らないといった事実上の不行使・合意とでは、扱いが異なるためです。

税務上の取り扱いも放棄の態様や合意の内容によって変わるため、個別のケースは税理士に確認してください。

Q. 調停で遺留分の代わりに現物をもらった場合は?

不動産や有価証券など現金以外の財産で受け取った場合、その相続税評価額をもとに相続税が計算されます。この場合、渡す側には譲渡所得税が課される可能性があります。

受け取る側は「相続や遺贈による取得」ではなく「代物弁済による取得」とみなされるため、小規模宅地等の特例は原則として適用できません。

双方が税理士に確認することが重要です。

Q. 遺留分侵害額請求の交渉中でも相続税の申告は必要?

必要です。相続税の申告期限(相続開始から10か月)は、遺留分の交渉状況に関係なく進みます。

請求が未解決の段階では遺言書の内容に従って当初申告を行い、解決後に修正申告・更正の請求で対応するのが一般的な流れです。

遺留分と相続税に関する手続きは専門家に相談を

遺留分と相続税の問題は、放置すると期限を過ぎて申告漏れや還付機会の喪失につながる可能性があります。「自分のケースでは何をすればいいのか」がわからないときは、税理士や弁護士に早めに相談することが解決への近道です。

遺留分侵害額請求が絡む相続税の手続きは、民法(相続)と税法(相続税)の両方の知識が必要な複雑な分野です。特に以下のようなケースでは、早めに専門家へ相談することを強くおすすめします。

  • 遺言書の内容に納得できず、遺留分侵害額請求を検討している
  • 遺留分侵害額請求を受け、支払い後の相続税申告をどうすればいいかわからない
  • 修正申告・更正の請求の期限が迫っている
  • 不動産などの現物で遺留分のやり取りをする可能性がある

相続税を扱う税理士と、遺留分交渉を担う弁護士が連携しているケースでは、税務と法務の両面をスムーズに進められます。

高部孝之税理士

監修者


高部孝之税理士事務所

税理士高部孝之

2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。

保有資格

税理士・FP技能士1級・相続診断士

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