相続税の連帯納付義務とは?対象者・金額・回避方法を解説

相続税は、原則として各相続人がそれぞれ納めます。しかし、相続人の一人が相続税を滞納した場合、他の相続人や受遺者が代わりに納付を求められることがあります。これが「連帯納付義務」です。
とはいえ、誰でも無制限に負担するわけではありません。請求額には上限があり、対象者や免除されるケースも法律で定められています。
この記事では、相続税の連帯納付義務の対象者や請求額、実際に請求されるまでの流れ、回避方法をわかりやすく解説します。
目次
相続税の連帯納付義務とは
まずは、相続税の連帯納付義務の概要と、義務を負う人について確認していきましょう。
相続税未納の相続人の肩代わりをする義務
相続税の連帯納付義務とは、同じ被相続人から財産を取得した人が2人以上いる場合、その全員が互いに連帯して相続税を納付する義務のことです(相続税法34条1項)。
相続税は基本的に各相続人がそれぞれ個別に支払いますが、財産を取得した人のうち誰か1人でも未納の人がいると、他の取得者が代わりに納付を求められることがあります。
たとえば
- 被相続人:父
- 相続人:長男、長女
上記の場合、もし長男が相続税を支払っていなかったら、税務署は長女に未納分を請求できます。
なお、肩代わりを求められる金額は、自分が相続や遺贈で受け取った利益の範囲内(受け取った財産の総額-支払った相続税額)が上限です。
たとえば上記のケースで長女は財産を2,000万円受け取り、相続税として100万円を支払っていたとします。
この場合、長男の未納分がいくらであっても、長女が連帯納付義務で肩代わりするのは1,900万円までです。
連帯納付義務と連帯保証人の違い
連帯納付義務は、銀行の借入れなどで契約する「連帯保証人」とは異なります。
連帯保証人は本人の意思で契約を結ぶことで責任を負いますが、相続税の連帯納付義務は契約の有無に関係なく、同一の被相続人から相続や遺贈によって財産を取得した時点で発生します。
そのため、「保証人になった覚えがないから支払わなくてよい」と主張することはできません。
連帯納付義務を負う人の範囲
相続税の連帯納付義務を負う人は、以下の通りです。
- 同一の被相続人から相続または遺贈により財産を取得した人
- 被相続人から相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受けていた人
なお、相続放棄をした人は、原則として連帯納付義務を負いません。ただし、相続放棄後も受け取ることができる生命保険金や死亡退職金(みなし相続財産)がある場合は、その受け取った利益の範囲内で連帯納付義務の対象となることがあります。
相続放棄の手続きは、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で申述する必要があります。他の相続人に口頭で「放棄する」と伝えるだけでは法的な相続放棄にはならないため、注意が必要です。
連帯納付義務により肩代わりが発生する可能性があるケース
相続税の連帯納付義務は、相続人の一人が相続税を納められず、滞納した場合に問題となります。
例えば、以下のような場合は、未納が発生し連帯納付義務による肩代わりが発生するおそれがあるため注意が必要です。
- 相続財産の大半が土地や建物である人がいる
- 相続税の対象となる生前贈与を多く受け取っている人がいる
- 資力の少ない人がいる
相続財産の大半が土地や建物である人がいる
相続税は原則として現金での納付になりますが、土地や建物はすぐに売却して現金化できないことも多いです。そもそも売却するつもりはないといったケースもあるでしょう。
こうした場合は納税資金が用意できず、連帯納付義務者による肩代わりが必要になる可能性があります。
相続税の対象となる生前贈与を多く受け取っている人がいる
生前贈与の中でも、相続時精算課税を使って贈与された財産(基礎控除部分を除く)や、暦年課税で生前贈与加算の対象となる財産(相続開始前一定期間以内の贈与)については、相続財産に持ち戻されます。
この場合、相続税の負担が大きくなりがちで、未納が発生する可能性があります。
生前贈与が相続税の対象になるケースについては、関連記事『生前贈与をわかりやすく解説!メリット・デメリットや注意点などがわかる』で詳しく解説しています。
資力の少ない人がいる
資力が少ない人の場合、相続で財産を受け取ると、それを生活費やその他の支払いに充てなければならない場合があります。
その結果、相続税の納付に充てる資金がなくなってしまい、未納が発生する可能性があります。
申告期限から5年で免除される
相続税の連帯納付義務は、相続税の申告期限から5年を経過する日までに、税務署長から連帯納付義務者に対して納付通知書が発せられなかった場合、免除されます(相続税法34条1項1号)。
ただし、5年以内に納付通知書が発せられていた場合は、5年経過後も義務は消滅しません。
また、本来の納付義務者が期限後に申告した場合や、税務調査等で税額が修正された(更正・決定)場合は、その「申告や更正等があった日」から5年となります。
税務署からは納付通知書の前段階として「完納されていない旨等のお知らせ」が送付されることがありますが、これは通知書とは別の書類です。
このお知らせが届いた段階では義務の免除には影響しないため、5年を経過する日までに納付通知書が発せられていなければ、連帯納付義務は免除されます。
本来の納付義務者が延納などをした場合も免除となる
また、本来の納付義務者が延納の許可を受けた場合や、農地や非上場株式などの相続税の納税猶予の適用を受けた場合は、その延納許可を受けた分の連帯納付義務がなくなります。
納税に困っている相続人がいる場合は、延納申請を検討することで他の相続人の連帯納付義務を解消できます。
連帯納付義務で払う金額は?
相続税の連帯納付義務では、ただ他の相続人の未納分を払えば良いというわけではありません。連帯納付義務で支払わなければならない金額はどれくらいなのか、見ていきましょう。
連帯納付義務には上限額がある|内訳は未納分と利子税
相続人の中に相続税を払わない人がいた場合、連帯納付義務者は各人が相続または遺贈により受けた利益の価額(相続税法34条1項)を上限として、未納分の金額と利子税を支払います。
連帯納付義務者の負担額の上限
相続または遺贈により受けた利益の価額=取得した財産の価額-債務控除額-自身の相続税額-取得財産に係る登録免許税額
【例】
※債務控除額および登録免許税額はないものとします。
- 2,000万円を相続し、相続税100万円を支払っていた場合、上限は1,900万円。
- 2,000万円を相続し、配偶者の税額軽減などで相続税が0円だった場合は、2,000万円が上限。
※配偶者の税額軽減は、相続税が0円でも申告必須
場合によっては、相続または遺贈により受けた利益のすべてを、連帯納付義務で支払うことになる可能性があります。
税金を延滞している場合、本来は延滞税が課されますが、連帯納付義務者が代わりに納付する場合は特例により延滞税が軽減され、利子税として計算されます。
利率は、本来の納付義務者の納期限の翌日から完納する日までの期間に応じて年1.3%です(令和8年1月1日~令和8年12月31日)。利子税の利率は毎年見直されるため、国税庁「延滞税の割合」でご確認ください。
なお、連帯納付義務により請求された相続税については、延納や物納は利用できません。そのため、原則として現金で一括納付する必要があります。
連帯納付義務で払った相続税には求償権がある
連帯納付義務者が本来の納付義務者の代わりに相続税を納付した場合、税務上は肩代わりした金額の返還を求める「求償権」が自動的に発生します。
この求償権を行使しない(返還を求めない)場合や放棄した場合は、本来の納付義務者に贈与税が課される可能性があります。
肩代わりした金額が本来の納付義務者への贈与とみなされるからです。
肩代わりした金額を回収するためにも、本来の納付義務者に贈与税がかかることを回避するためにも、返済期日・利息・返済方法などを取り決めた金銭消費貸借契約書を作成し、実際に返済の事実を記録として残しておくことが重要です。
ただし、本来の納付義務者が資力を失っていて返済が著しく困難な状況にある場合は、その弁済が困難な部分について例外的に贈与税が課されないケースもあります(相続税法8条ただし書)。
実際の状況に応じて、相続税に強い税理士・弁護士などの専門家へご相談ください。
納付基準日を過ぎると延滞税が加わる
連帯納付義務者が納付基準日までに相続税を納付する場合は、原則として利子税(令和8年は年1.3%)がかかります。
納付基準日とは、納付通知書が発せられた日の翌日から2か月を経過する日と、連帯納付義務者への督促状が発せられた日のいずれか早い日です。
納付基準日を過ぎると延滞税が加わり、令和8年中は、その翌日から2か月を経過する日までは年2.8%、それ以後は年9.1%となります。
なお、延滞税の割合は毎年見直されます。最新情報は国税庁「延滞税の割合」にてご確認ください。
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相続税の延滞税はいくら?税率・計算方法と無申告・過少申告加算税との違い
相続税の連帯納付義務が発生するまでの流れ
相続税の連帯納付義務は財産を取得した時点ですでに発生していますが、いきなり「相続人の1人が相続税を滞納しています。あなたが代わりに納付してください」と請求の連絡が来るわけではないので安心してください。
実際に連帯納付を求められるまでの段階は以下の通りです。
- 相続税を滞納している本人に督促状が届く
- 連帯納付義務者に滞納の通知がくる
- 納付通知書が届く|連帯納付の具体的な請求
- 督促状が届く
(1)相続税を滞納している本人に督促状が届く
相続人の中に相続税を滞納している人がいる場合には、まず滞納している本人に税務署から督促状が届きます。督促状は通常、相続税の納期限から50日以内に送られます。
それでも相続税が支払われない場合には、税務署によって、滞納している相続人に滞納処分が行われます。
滞納処分とは、相続税を滞納している人の財産を差し押さえて公売にかけ、滞納している相続税の支払いに充てる処分です。
(2)連帯納付義務者に滞納の通知がくる
相続税を滞納している本人に督促状が送られてから1か月経っても完納されない場合には、連帯納付義務者に「完納されていない旨等のお知らせ」が届きます。
この段階では「相続人の中に相続税を滞納している人がいますよ」というお知らせにとどまり、まだ具体的な納付の請求は行われません。
これ以上滞納が続くと連帯納付義務者にも具体的な請求が来るため、この時点で滞納している相続人と連絡を取り、解決をはかることをおすすめします。
連帯納付義務の発生を回避する方法は、本記事内でも後ほど解説します。
(3)連帯納付義務者に納付通知書が届く|連帯納付の具体的な請求
「完納されていない旨等のお知らせ」が届いた後も滞納が続いていると、連帯納付義務者に「納付通知書」が送られてきます。
納付通知書の到着をもって、連帯納付義務者に対して具体的な納付の請求が行われたことになります。
納付通知書には納付額と納付期限が記載されており、指定された期限を過ぎると延滞税が加算されるため、早急に対応しましょう。
(4)連帯納付義務者に督促状が届く
納付通知書が発せられた日の翌日から2か月を経過する日までに完納されない場合、連帯納付義務者に督促状が送られます。
督促状が送られてからは、連帯納付義務者も滞納処分の対象に含まれます。
連帯納付義務を回避する方法は?
ここでは、連帯納付義務を回避する方法を3つ紹介します。
滞納の通知が来た時点でもできる対策、被相続人の生前にしておくべき対策、遺産分割時にしておくべき対策があるので、現在の状況に合わせた対策をしていきましょう。
本来の納付義務者が延納申請する
連帯納付義務を回避する方法として、本来の納付義務者が延納を申請することが挙げられます。
本来の納付義務者に延納の許可が下りれば、延納の許可を受けた相続税について連帯納付義務はなくなります。
延納の申請期限は、相続税の申告期限と同じく、原則として相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人の死亡の日)の翌日から起算して10か月以内です。
なお、本来の納税義務者が農地や非上場株式などの納税猶予の適用を受けた場合も、その分の連帯納付義務は免除になります。
生前から納税資金対策をとっておく
連帯納付義務を回避する方法として、被相続人の生前から納税資金対策を進めておくことも挙げられます。
相続税は原則として現金一括納付のため、特に相続財産の大半が不動産の場合は、納税資金を用意できずに滞納が発生するおそれがあります。
納税資金を確保する方法としては、次のような対策が考えられます。
- 相続税の納税資金として預貯金を確保しておく
- 生命保険を活用し、死亡保険金で納税資金を準備する
- 生前に換金しやすい資産へ組み替える、または不要な不動産を売却する
あらかじめ相続税額を試算しておけば、どの程度の納税資金が必要かを把握できます。早い段階で税理士に相談し、相続税のシミュレーションを行ったうえで、家庭の状況に合った納税資金対策を検討しましょう。
また、死亡保険金が相続税対策として有効かについては、関連記事『生命保険の死亡保険金に相続税はかかる?非課税枠や税金の計算を解説』で詳しく解説しています。
遺産分割の段階で納税方法をよく話し合っておく
連帯納付義務を回避するには、遺産分割の段階で各相続人が相続税を無理なく納付できるよう、遺産の分け方を検討することも重要です。
例えば、一人の相続人が換金しにくい不動産ばかりを取得すると、納税資金を準備できず、相続税を滞納してしまうおそれがあります。
相続税額を事前に試算したうえで、現金や預貯金も含めてバランスよく分割できないか検討しましょう。必要に応じて税理士に相談すれば、納税資金も考慮した遺産分割を提案してもらえます。
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相続税の連帯納付義務についてよくある質問
Q1. 連帯納付義務は拒否できる?
拒否することはできません。
連帯納付義務は、同一の被相続人から財産を取得した時点で相続税法34条1項により法律上当然に発生するものであり、当事者間の合意がなくても成立します。
ただし、申告期限から5年以内に納付通知書が発せられなかった場合は、義務が免除されます(相続税法34条1項1号)。
Q2. 連帯納付義務はいつなくなる?
相続税の申告期限から5年を経過する日までに、税務署から連帯納付義務者に対して納付通知書が発せられなかった場合、連帯納付義務は免除されます(相続税法34条1項1号)。
5年以内に通知書が発せられていた場合は、その後5年を過ぎても義務は消えません。
Q3. 連帯納付した金額は返してもらえる?
連帯納付義務者が本来の納付義務者に代わって相続税を納付した場合、肩代わりした金額の返還を求める求償権が発生します。
この返還を求めない場合は、肩代わり分が贈与とみなされ、本来の納付義務者に贈与税が課税される可能性があります(相続税法8条)。
Q4. 遺言で財産をもらった人(受遺者)も連帯納付義務を負う?
負います。
相続税法34条1項は同一の被相続人から相続または遺贈により財産を取得したすべての者を対象としているため、法定相続人だけでなく、遺言により財産を取得した受遺者も連帯納付義務を負います。
なお、相続放棄をした人は原則として対象から除かれますが、生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産を受け取った場合は、相続放棄をしていても連帯納付義務を負うことがあります。
相続税の連帯納付義務のお悩みは専門家へ
相続税の連帯納付義務では延納や物納の対象外とされているため、その負担は思っている以上に大きいものです。受け取った遺産がすべて連帯納付に消えてしまう可能性もあります。
連帯納付義務者が想定外の税負担を負わないようにするためには、いかに早く相続対策をとっておくかがポイントです。
相続税のシミュレーションや納税資金対策、節税対策については、相続税に強い税理士へぜひご相談ください。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士
