相続税の連帯納付義務|対象者や金額、回避法を徹底解説

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相続税の連帯納付

相続人の中に相続税を延滞している人がいた場合、他の相続人が未納分を代わりに支払わなければなりません。各相続人には、「連帯納付義務」があるからです。

この記事では、実際に連帯納付義務で未納分を納めることになった場合、どれくらい支払わなければならないのか、どのようなタイミングで支払い義務が生じるのかなどを解説しています。

連帯納付義務を回避する方法もご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。

相続税の連帯納付義務とは?

まずは、相続税の連帯納付義務の概要と、義務を負う人について確認していきましょう。

相続税未納の相続人の肩代わりをする義務

相続税の連帯納付義務とは、同じ被相続人から相続や遺贈によって財産を取得した人が2人以上いる場合、その取得した財産に関する相続税について、財産の取得者全員が、互いに連帯して納付する義務のことです。(相続税法34条)

相続税は基本的に各相続人がそれぞれ個別に支払いますが、相続人のうち誰か1人でも相続税を納付していない人がいた場合には、他の相続人たちが未納の相続税額を納付しなければならないのです。

連帯納付義務は相続放棄を除く相続人全員が負う

相続税の連帯納付義務がある人は、「同一の被相続人から相続または遺贈により財産を取得した人」と「被相続人から相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受けていた人」です。

借金の債務整理で適用されるような「連帯保証人」とは違い、連帯納付義務は同一の被相続人から財産を取得した時点で、自動的に発生します。

ただし、相続放棄した人には相続税の連帯納付義務がありません。

なお、相続放棄を選択するには、相続開始日から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。

ほかの相続人に、相続放棄をする旨を伝えるだけでは相続放棄とはならないので、以下の記事から相続放棄の手続きをご確認ください。

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自分で相続放棄の手続きをする方法|放棄すべきケースや注意点も解説

相続税の連帯納付義務で払う金額

相続税の連帯納付義務では、ただ他の相続人の未納分を払えば良いというわけではありません。連帯納付義務で支払わなければならない金額はどれくらいなのか、見ていきましょう。

未納分の金額と利子税を払う|上限あり

相続人の中に相続税を払わない人がいた場合、連帯納付義務者たちは各人が「相続または遺贈により受けた利益の価額」(相続税法34条1項)を上限として、未納分の金額と利子税とを支払います。

  • 連帯納付義務の限度額=相続した財産の価額-納付済の相続税額
  • 利子税
    本来の納税義務者の納期限の翌日から、完納する日までの期間に応じて年0.9%の利率で計算される(令和5、6年)。利子税の利率は毎年見直される。

たとえば、相続人Aが2,000万円の相続財産を取得し、相続税として100万円を納付したとします。

この場合の相続人Aの連帯納付義務の限度額は、1,900万円(=2,000万円-100万円)です。

したがって、他の相続人Bが3,000万円の相続税を滞納したとしても、相続人Aは1,900万円の限度で連帯納付義務を負い、残りの1,100万円については連帯納付義務を負いません。

場合によっては連帯納付をすることで、相続した財産分の金額がすべてなくなってしまうこともあるのです。

「納付基準日」をすぎると延滞税もかかる

連帯納付義務者が納付基準日までに未納の相続税を納付しなかった場合は、利子税に加えて延滞税も納付しなければなりません。

納付基準日とは、連帯納付義務者に納付通知書(連帯納付義務により未納分を支払うよう求める通知書)が発せられた日の翌日から2か月が経過する日です。

滞納税は令和5、6年であれば、納付基準日の翌日から2か月経過するまでの期間については年2.4%で計算され、納付基準日の翌日から2か月を経過した日以後の利率は年8.7%となります。

滞納税の税率も、毎年見直されます。

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相続税の延滞税とは|税額・計算方法と追加ペナルティを解説

【注意】連帯納付義務では延納・物納はできない

相続税の納付では、どうしても支払いが困難な場合、一定の要件を満たせば「延納(納付期間の延長)」や「物納(金銭以外の納付)」という制度を利用できます。

しかし、連帯納付義務者が滞納分の相続税を支払う場合、この延納や物納の制度は利用できません。

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相続税の延納・物納|利用条件や利子税、担保、申請手続きを解説

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相続税の連帯納付義務が発生するまでの流れ

相続税の連帯納付義務者に納付の義務が課せられるまでには段階があります。

いきなり「相続人の1人が相続税を滞納しています。あなたが代わりに納付してください」と、請求の連絡が来るわけではないので安心してください。

相続税の連帯納付義務が発生するまでの流れは以下の通りです。

  1. 相続税を滞納している本人に督促状が届く
  2. 連帯納付義務者に滞納の通知がくる
  3. 納付通知書が届く|連帯納付の義務発生
  4. 督促状が届く

(1)相続税を滞納している本人に督促状が届く

相続人の中に相続税を滞納している人がいる場合には、まず滞納している本人に税務署から督促状が届きます。督促状は通常、相続税の申告期限から50日以内に送られます。

それでも相続税が支払われない場合には、税務署によって、滞納している相続人に滞納処分が行われます。

滞納処分とは、相続税を滞納している人の財産を差し押さえてその財産を公売にかけ、滞納している相続税の支払いに充てる処分です。

(2)連帯納付義務者に滞納の通知がくる

相続税を滞納している本人に督促状が送られてから、1か月経っても相続税が完納されない場合には、連帯納付義務者に「完納されていない旨等のお知らせ」が届きます。

この段階ではまだ、「相続人の中に相続税を滞納している人がいますよ」というお知らせだけなので、連帯納付義務者が相続税を納付する必要はありません。

これ以上相続税が納付されない期間が続くと連帯納付義務者にも納付の義務が生じるので、この時点で相続税を滞納している相続人と連絡を取り、解決をはかることをおすすめします。

連帯納付義務の発生を回避する方法は、本記事内でも後ほど解説します。

(3)納付通知書が届く|連帯納付の義務発生

「完納されていない旨等のお知らせ」が届いた後も相続税の滞納が続いていると、ついに連帯納付義務者に「納付通知書」が送られてきます。

この納付通知書の到着をもって、連帯納付義務者に滞納分の相続税を納める義務が発生したことになります。

納付通知書は連帯納付義務者に相続税の納付を求める書類で、納付額や納付期限が記載されています。

先述の通り、「納付通知書が発せられた翌日から2か月経過する日」までに未納分が完納されないと、延滞税も発生してくるため早急に対応しましょう。

(4)督促状が届く

連帯納付義務者に納付通知書が送られてから2か月経過しても、滞納分の相続税が完納されない場合には、連帯納付義務者に督促状が送付されます。

督促状が送られてからは、連帯納付義務者も滞納処分の対象に含まれます。

【注意】連帯納付時は金銭消費貸借の合意が必要

連帯納付義務者が未納の相続税を支払う場合は、連帯納付義務者と本来の納税義務者との間で、金銭消費貸借の合意が必要です。この合意がなければ連帯納付義務者が肩代わりした金額が贈与とみなされ、贈与税が発生する可能性があります。

必ず契約書の形で契約書を残しておきましょう。

金銭消費貸借

債務者が債権者から金銭を借り入れ、将来、同じ金額を返すと約束すること

なお、金銭消費貸借の合意を取らずに贈与税が発生した場合、贈与税の支払い義務があるのは贈与を受けた側、すなわち相続税を滞納している人になります。

連帯納付義務を回避する方法は?

ここでは、連帯納付義務を回避する方法を3つ紹介します。

滞納の通知が来た時点でもできる対策、被相続人の生前にしておくべき対策、遺産分割時にしておくべき対策があるので、現在の状況に合わせた対策をしていきましょう。

本来の納税義務者が延納申請する

連帯納付義務を回避する方法として、本来の納税義務者が延納を申請することが挙げられます。

本来の納税義務者に延納の許可が下りれば、延納の許可を受けた相続税について、連帯納付義務はなくなります。

延納の申請期限は、原則として相続開始の翌日から起算して10か月以内です。

もし納税に困っている相続人がいれば、延納について情報を教えてあげたり、税理士などの専門家へ相談することが重要です。

関連記事『相続税は誰がいつまでに払う?遺産から払う方法や納め方』では、相続税の支払いに充てるお金を用意する方法を紹介しています。こちらも参考にしてみてください。

生前から納税資金対策をとっておく

連帯納付義務を回避する最も確実な方法は、被相続人の生前から納税資金対策をとっておくことです。

相続税は現金一括納付が原則とされているため、特に相続財産の大半を不動産が占めるケースは、納税資金対策が不可欠です。

不動産は、いざ売却しようとしてもすぐに売れるとは限りません。そのため、相続財産に不動産が多いケースでは、すぐに現金を用意できず、納税資金の確保に苦労する可能性が大きいのです。

このようなリスクを避けるには、できる限り早期に税理士に相談して、相続税のシミュレーションをしてもらうことがおすすめです。

そのシミュレーション結果をもとに、どうすれば納税資金を確保できるか税理士に相談してみましょう。

遺産分割の段階で納税方法をよく話し合っておく

連帯納付義務を回避するには、遺産分割の段階で納税方法をよく話し合っておくことも有効です。

相続税の支払いに困る相続人が出ないよう、遺産の分け方を工夫するのです。

この話し合いをうまくまとめるポイントも、やはり専門家への相談です。

相続税では相続人の属性ごとに適用される控除なども違うので、専門家に相続税の試算を依頼し、それぞれが無理なく相続税を納められるような遺産分割を検討しましょう。

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相続税の専門家と依頼できる内容を紹介|誰に相談すべきか一目でわかる

相続税の相続税の無料相談

相続税の連帯納付義務のお悩みは専門家へ

相続税の連帯納付義務では延納や物納の対象外とされているため、その負担は思っている以上に大きいものです。受け取った遺産がすべて連帯納付に消えてしまう可能性もあります。

連帯納付義務者が想定外の税負担を負わないようにするためには、いかに早く相続対策をとっておくかがポイントです。

相続税のシミュレーションや納税資金対策、そして節税対策については相続税に強い税理士へぜひご相談ください。

高部孝之税理士

監修者


高部孝之税理士事務所

税理士高部孝之

2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。

保有資格

税理士・FP技能士1級・相続診断士

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