事業承継の方法は?手続きの流れは?現経営者が踏むべき5つの手順とは

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事業承継の方法
  • 事業承継の方法は?手続きの流れは?
  • 事業承継を円滑に進めるための手順とは?
  • 中小企業と個人事業主の事業承継の手続きは違う?

後継者不足、経営者の高齢化、事業環境の変化など、様々な課題に直面する中小企業にとって、事業承継は存続の鍵となる重要な取り組みです。

しかし、事業承継はスムーズに進むとは限りません。

この記事では、事業承継の基本的な知識から、具体的な方法、手続き、成功させるためのポイントまでを網羅的に解説します。

事業承継を成功させ、未来へ繋がる確かな一歩を踏み出しましょう!

事業承継とは?

事業承継とは?

会社や事業を、経営者から後継者に引き継ぐことを「事業承継」と呼びます。

これは、経営者自身の引退や高齢化、事業継続の意思がない場合などに必要となる重要なプロセスです。

近年では、中小企業を中心に後継者不足が深刻化しており、事業承継は企業の存続を左右する重要な課題となっています。

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事業承継と事業譲渡との違いは?

事業承継と混同されやすい言葉に「事業譲渡」があります。

事業譲渡とは、会社の事業の一部または全部を第三者に譲り渡すことを指します。

現経営者は、事業譲渡をおこなっただけでは、会社の経営権を失いません。そのため、事業譲渡後も、譲渡しなかった事業については運営し続けることができます。

一方、事業承継といった場合、一般的には、後継者に今後の会社全体の運営を託すことを意味します。事業承継を行うと、現経営者は経営の最前線から離れ、会社を手放すこととなります。

事業承継で引き継ぐものは?

事業承継では、以下のようなものが引き継がれます。

事業承継の構成要素(一例)

  • 経営権
  • 資産
    株式、事業用資産(土地、建物、設備、商品、在庫)、資金(運転資金、借入金)、許認可
  • 知的資産
    経営理念、経営者の信用、取引先、従業員の技術・ノウハウ、顧客情報
    etc.

事業承継問題とは?解決方法は?

事業承継問題とは、後継者不在により、会社が廃業になるリスクのことです。

近年、事業承継問題は深刻化しており、多くの企業が後継者不足に悩んでいます。

帝国データバンクの調査によれば、2023年度の中小企業の後継者不在率は53.9%にのぼります(全国「後継者不在率」動向調査(2023 年))。

また、日本政策金融公庫の調査によれば、2023年度に廃業予定である企業のうち約3割が後継者難による廃業とされています(中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)11頁)。

事業承継問題が起こる原因としては、以下のような事情をあげることができます。

事業承継問題の原因

  • 後継者不足: 適切な後継者が見つからない
  • 経営者が事業承継の時期を先送り: 現経営者の高齢化により後継者候補の選定・育成が間に合わない
  • 事業の不振: 事業が不振で、引き継ぎ手が現れない
  • 資金不足: 事業承継に必要な資金が不足している
  • 税制上の問題: 事業承継に伴う税金負担が重い

事業承継問題の解決方法としては、まず、早期に後継者を選定して育てることが大切です。

また、後継者候補となる者が、後継者となる自覚を持つために、明確な意思疎通を図り、後継者教育を施す必要があります。約10年くらいの期間をかけて、事業を次の世代に引き継ぐ計画を進め、人材を育てることが理想的です。

親族や従業員など周囲の人材から後継者候補を選定できない場合は、M&Aによる事業承継を検討することになるでしょう。

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親族による事業承継の方法・流れ

事業承継には、親族内承継という方法があります。現経営者が我が子や兄弟姉妹など親族に対して、事業承継をする方法が親族内承継です。

中小企業の場合、所有と経営が分離されていないことが多いものです。そのため、会社の株式を承継することによって、親族内承継を実行できることが多いでしょう。

親族内承継の具体的な方法としては、自社株式の生前贈与や、相続などが考えられます。

生前贈与による事業承継の方法

現経営者がご存命のうちに、後継者に事業承継をおこなうには、生前贈与という方法があります。

生前贈与による事業承継の場合、相続争いによる会社運営の不安定化を防ぐことができ、後継者の会社運営が軌道に乗るまでサポートをすることもできます。

ただし、生前贈与の場合、受贈者である後継者には多額の贈与税がかかることや、生前贈与は遺留分減殺請求の対象となる可能性があるといった注意点があります。経営承継円滑化法にもとづく制度をうまく活用するなどして、計画的に進める必要があるでしょう。

生前贈与による事業承継のおおまかな手続きの流れは、以下のようなものです。

必要になる手続き

  1. 現経営者と後継者の間で、贈与の合意をする。贈与契約書を作成しておく
  2. 株式譲渡について株主総会の承認決議をとる
  3. 株主名簿の名義書き換えをする
  4. 株主総会や取締役会で後継者を代表取締役に選出し、役員変更の登記をおこなう
  5. 後継者は贈与税を支払う

相続による事業承継の方法

現経営者の死亡にともない、後継者に事業承継をおこなうには、相続という方法があります。

相続による事業承継の場合、周囲からの理解を得やすいとういメリットがあります。また、相続の優先順位が低い親族を後継者にしたい場合も、遺言を活用できます。

ただし、相続人には、多額の相続税が課税されるリスクもあります。事業承継税制などをうまく活用して対応する必要があるでしょう。

また、後継者に指名したい人物に、議決権の3分の2以上の株式を集約できるよう、遺言を残しておくことが大切です。

相続による事業承継の大まかな手続きの流れは、以下のようなものです。

必要になる手続き

  1. 遺言書の作成(公正証書遺言を作成するには、公証役場を利用)
  2. 株主名簿の名義書き換えをする
  3. 株主総会で後継者を代表取締役に選任し、役員変更の登記手続きをおこなう
  4. 後継者は相続税を支払う

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従業員による事業承継の方法・流れ

事業承継には、従業員承継という方法があります。会社の役員や従業員を後継者として、事業承継をする方法が従業員承継です。

従業員承継の具体的な方法としては、MBOや経営権のみの譲渡などが考えられます。

MBOによる事業承継の方法

MBOとはManagement Buy Outの略称で、現経営者から役員や従業員が事業承継することを指します。

社長以外の経営陣や経営者の資質のある従業員が、投資ファンドなどから金融支援を受けることで、会社の一部を買収し、事業を承継するという手法です。

MBOによる事業承継の場合、従業員は株式を取得するための資金を自分で準備する必要がなくなり、経済的負担が軽減されます。

ただし、投資ファンドが経営権を握ると、後継者は雇われ社長となります。そのため、自身の首を繋ぐためには会社の利益を上げ続けるか、いずれはお金をためて会社の株式を買い取るなどの対応が必要になるでしょう。

MBOのおおまかな手続きの流れは、以下のようなものです。

必要になる手続き

  1. 現経営者と後継者の間で、株式譲渡の合意をする。株式譲渡契約書を作成する
  2. 株式譲渡について株主総会の承認決議をとる
  3. 株主名簿の名義書き換えをする
  4. 株主総会や取締役会で後継者を代表取締役に選出し、役員変更の登記手続きをおこなう
  5. 先代経営者は所得税を支払う

経営権のみ引き継ぐ事業承継の方法

こちらの方法は、現経営者から後継者となる従業員に対して、経営権だけを譲り、会社の株式は現経営者が保有し続けるというものです。

こうすることで、株式を取得するための費用を調達する必要がなくなるため、後継者となる従業員の経済的負担はなくなります。

ただし、先代の発言権が強くなり、旧態依然の会社運営が続き、会社運営に必要な判断をくだせない事態もしばしばあります。また、いずれ相続が起これば、株式の相続に関連して事業承継問題が再燃するおそれがあるでしょう。

経営権のみ引き継ぐ事業承継の方法としては、以下のような手続きが必要になります。

必要になる手続き

  • 株主総会や取締役会で、後継者を代表取締役に選出し、会社の役員変更の登記をおこなう

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M&Aによる事業承継の方法・流れ

M&Aとは、複数の企業をひとつの企業にまとめること(合併)や、ある企業が他の企業の株式や事業を買い取ること(買収)をいいます。

中小企業がM&Aによる事業承継をおこなう場合、その多くは、株式譲渡によって実行されるものでしょう。

M&Aによる事業承継には、後継者候補が親族や従業員に限定されないため、後継者の選択肢が広がるメリットがあります。一方、条件に見合う、誠実な買い手を見つける難しさもあるでしょう。

株式譲渡による事業承継を進めるには

中小企業の株式は、譲渡制限がついた非上場株式であることが多いため、証券取引所における売却ではなく、独自に買い手を探す必要があります。

買い手探しの進め方としては、事業承継・引継ぎ支援センターや、民間のM&A仲介会社に相談するといった方法があります。

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M&Aによる事業承継の流れ

M&Aによる事業承継をおこなう場合、大まかな流れとしては、以下のようなものになります。

段階ごとに必要な手続きや契約書があります。M&Aによる事業承継の場合、秘密保持契約書、M&A仲介契約書、基本合意書、最終契約書(株式譲渡契約書etc.)などが必要になります。

会社売却の流れ(書類)

なお、株式譲渡による事業承継を行う場合、最終的に締結する契約書(最終契約書)は、株式譲渡契約書になります。

クロージングの段階で必要となる手続きとしては、以下のようなものです。

必要となる手続き

  1. 株式譲渡契約を締結する
  2. 株主総会で承認決議をとる
  3. 株主名簿の書き換え
  4. 株主総会で後継者を代表取締役に選出し、役員変更の登記手続きをおこなう
  5. 売り手は所得税を支払う

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事業承継を成功させる5つの手順

事業承継の準備から計画の策定、実行までには、5つの手順があるといわれています。

ここでは、その5つの手順について解説していきましょう。

手順①事業承継の必要性を認識する

事業承継を着実に進めるには、事業承継に向けて早期に準備を開始することが大切といわれています。ですが、日々の業務に追われ、事業承継の必要性を認識できていない経営者も多くおられます。

一般的にいわれるところは、60歳ころから事業承継の準備を進めることが望ましいということです。

経営陣で次の後継者についての話し合いの場を設けたり、事業承継の支援機関に相談をしたりすることが必要でしょう。

何から始めればよいのか分からない場合は、まずは情報収集から始めてみてください。

情報収集の方法

  • 専門家への相談
  • セミナーへの参加
  • 政府・自治体の支援制度

事業承継によって、会社の未来が変わるだけでなく、従業員や取引先にも影響が生じます。

後継者の選定や経営資源の承継については、時間に余裕をもって計画的に進めていく必要があります。

手順②経営状況・経営課題の見える化

事業承継を成功させるためには、現状把握、すなわち経営状況・経営課題の見える化が非常に重要です。

見える化に取り組むことで、会社の事業の強みや弱みをあらためて認識することができ、その結果おのずと取り組むべき課題が明確になります。

また、後継者に承継できる資産・経営資源を明確にすることで、後継者の不安の解消にもつながります。

そのほか、財務状況の確認も重要です。後継者の代における資金調達や取引の円滑化を図るためには、今から適正な会計処理につとめる必要があり、まずは現状把握が必須です。

手順③会社の磨き上げ

見える化ができたら、会社の磨き上げにとりかかります。会社の磨き上げとは、会社の価値を上げることです。

会社を最善の状態に仕上げることは、事業承継を円滑に進めることにつながります。

事業の強みをさらに強化したり、弱みを改善したりすることによって、後継者となることに魅力を感じてもらえるレベルを目指して、経営改善をおこないましょう。

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手順④事業承継計画の策定・M&Aマッチング

事業承継計画の策定

事業承継計画とは、事業承継を着実に進めるための青写真になるものです。

親族内承継や従業員承継を予定しており、すでに後継者が決定している場合などは、綿密な事業承継計画を立てることで、一歩ずつ着実に事業承継を進めることができるでしょう。

事業承継計画では、「見える化」「磨き上げ」によって浮彫にされた課題を盛り込みつつ、会社の将来に向けた中長期的な経営計画や経営ビジョンを決めていきます。
経営理念、事業規模、事業の方向性などを踏まえたうえで、会社の10年後を見据えて、中長期的な売上高や経常利益について具体的な数値目標を立てます。

また、関係者への根回しも非常に重要です。

将来の会社のリーダーを支えてもらえるよう、適切な時期を見計らって、会社の関係者には、後継者の存在を周知させるとともに、丁寧な説明をおこなうべきでしょう。

関係者(一例)

  • 従業員
  • 取引先
  • 金融機関

M&Aマッチング

M&Aの場合、見える化・磨き上げを経た後、自分の会社に合う買い手を探します。

マッチングができたら、トップ面談や基本合意、買収監査を経て、M&Aの成約を目指します。

手順⑤事業承継の実行

策定した事業承継計画にしたがい、事業承継を実行したり、M&Aによる事業承継を実行したりする段階です。

事業承継の方法によって、必要となる手続きや契約書が異なります。不安がある場合は、法律の専門家に相談してみると良いでしょう。

相談できる専門家(一例)

  • 弁護士
    株式譲渡や遺言書作成などの法的手続きについて相談できる
  • 司法書士
    登記手続きなどについて相談できる
  • 行政書士
    許認可の申請手続きなどについて相談できる

また、MBOやM&Aの場合、先代は事業承継によって利益を得ることになるので、税務署に税金をおさめることになります。税理士に相談して、納税や税金対策をサポートしてもらう必要もあるでしょう。

事業承継の方法でよくある質問

Q.経営者の個人保証をはずす方法は?

会社の経営者は、その会社の保証人になっていることが多く、事業承継によってその保証人の地位が引き継がれることも往々にしてあります。

ですが、経営者の個人保証をはずす方法が一切ないというわけではありません。

一定の条件がそろえば、交渉しだいで、個人保証をはずせる可能性があります。

経営者保証ガイドライン3つの条件

  1. 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
  2. 法人の財務基盤の強化
    主たる債務者である法人の財産状態がよく、法人の財産で返済できる状況であること
  3. 法人財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

事業承継をおこなうことによって、後継者に生じる負担をできる限り軽減させることも、事業承継を成功させるポイントです。

Q.個人事業主の事業承継の方法は?

法人成りしていない個人事業主の場合、現経営者が廃業をしたうえで、後継者が同じ屋号で開業するという方法によって、事業承継をおこなうことが考えられます。

事業承継の具体的な方法としては、株式譲渡ではなく、事業用資産の有償譲渡・贈与・相続などがあげられます。
現経営者が後継者に事業を引き継ぐためには、事業譲渡契約書や遺言書などを作成する必要があるでしょう。

加えて、以下のような届出手続きも必要です。

個人事業主の事業承継手続き

  • 現経営者(先代)の廃業手続き
    廃業等届出書
    青色申告の取りやめ届出書
    消費税の事業廃止届出書
    給与支払事務所等の廃止届出書
    所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書
    etc.
  • 後継者の開業手続き
    開業届
    青色申告承認申請書
    青色事業専従者給与に関する届出書
    減価償却方法・棚卸資産の評価方法の選択届
    消費税課税事業者選択届出書
    消費税簡易課税制度選択届出書

また、事業をおこなう際に許認可が必要になる場合は、後継者が新規取得する必要があります。

そのほか、事業用資産の名義変更や、先代の取引先との契約、従業員の引継ぎなどについても手順よく進める必要があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

事業承継には様々な方法があり、手続きの流れも違いますが、手順よく進めるためには情報収集から始めてみましょう。

本サイトの記事をお読みになったり、M&Aの専門家に相談したりして、スムーズな事業承継を目指してください。

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