事業承継対策とは?中小企業の事業承継対策3つのポイントと支援機関

  • 事業承継対策とは?
  • 事業承継で対策すべきポイントは?
  • 事業承継対策を相談できる支援機関は?

この記事では、事業承継対策のポイントについて解説しています。

中小企業では、事業承継対策を講じることができずに、廃業に至るケースも多いものです。

この記事では、事業承継で対策が必要になるポイント、事業承継の支援機関等を解説しています。

ぜひ最後までご覧ください。

事業承継に必要な対策とは?

事業承継とは?

事業承継とは、現在の会社の経営者が退任し、後継者に事業を引き継ぐことをいいます。

事業承継の方法には、親族内承継、従業員承継、M&A等があります。

事業承継の方法

  • 親族内承継
    経営者の実子や親戚に、事業承継すること。
  • 従業員承継
    社内の役員や従業員に、事業承継すること。
  • M&A
    経営者の親族や社員以外の相手に、事業承継すること。

親族内承継や従業員承継が難しい場合、M&Aによる第三者承継が選択されるケースも増えているようです(2023.12.13 東京商工会議所 「「中小企業の経営課題に関するアンケート」調査結果について」)。

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事業承継対策①後継者問題(教育・後継者不在の対策)

事業承継において重要な課題は、後継者問題です。

後継者がいない、決まっていないという問題は、事業承継ができるかどうかに関わる深刻な問題です。

実際に、中小企業に対するアンケート調査では、後継者が決まっているとこたえた60歳代の経営者は48.7%、70歳代の経営者でも66.2%にとどまっています(中小企業庁「2023年版 中小企業白書」)。

経営者の影響力を維持したいという気持ちや、死亡を連想させるので不吉だから考えたくないといったことから、事業承継の対策は先送りになりがちです。

しかし退任が目前に迫ってきた段階で、急いで後継者教育にとりかかることには、かなりのリスクが伴います。

実際に後継者教育をおこなったところ経営者としての資質が無かった、後継者候補となる者から事業承継を断られてしまった等の問題が発生する可能性があるからです。

そのため、後継者問題に対する対策は、できる限り早期に開始する必要があります。

具体的な後継者問題への対策としては、以下のようなものになります。

親族内承継・従業員承継を希望する場合

対策

  • 後継者候補を選定し、経験と知識を習得させる
  • リーダーシップを学ばせる
  • 経営理念をたたきこむ

親族や社員から後継者を選定した場合、会社の各部門に従事させ、経験と知識を習得させます。

その後、役員等の責任のある地位に就かせることにより、リーダーシップを発揮できる環境を与えます。

そして、経営者みずから、後継者候補に対して、会社の経営理念をたたきこむ等の指導もおこなっていきます。

いうまでもなく、これらの対策を実行できる時間を確保することは非常に重要です。

M&Aをおこなう場合

対策

  • 経営理念を理解してくれる買い手を見つける
  • M&A仲介業者や国の支援機関を活用して、効率良く買い手を探す

親族や社員から後継者候補を選定できない場合M&Aによる事業承継を検討しなければなりません。

中小企業の場合は、手続きの簡便さから、株式譲渡にM&Aが実施されることが多いでしょう。

M&Aの場合は、後継者教育の時間や手間はかかりませんが、経営理念を理解して事業承継に応じてくれる会社の買い手を見つける必要があります。

将来にわたって会社を存続させるためには、後継者候補探しは慎重におこないたいところです。

とはいえ、後継者候補が見つかった後は、買収監査(DD)や詳細条件のすり合わせ等をおこなう必要があるので、後継者候補探しだけに長い時間を費やすわけにもいきません。

そのため、M&A仲介業者や国の支援機関などを活用して、効率的に事業承継の相手方を探す必要があるでしょう。

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事業承継対策②親族・取引先・従業員の理解

後継者問題を解決できたとしても、事業承継を円滑に進めるためには、関係者の理解が欠かせません。事業承継の関係者には、親族・取引先・従業員がいます。

親族の理解を得る

まず親族の理解を得るためには、事業承継の必要性や、後継者候補の能力等を説明し、理解を得るようにします。

親族間で経営権の争いが生じないように、親族の意向や経営方針を十分に確認して進める必要があるでしょう。

取引先の理解を得る

取引先の理解を得るためには、事業承継後も取引関係を継続していきたいことを丁寧に説明して、理解を得るようにします。

とくに中小企業の取引では、社長同士の個人的なつながりを重視して取引をおこなっている場合も多いものです。

そのような中で、M&Aによる事業承継をおこない、経営者が変わってしまったら、取引先から取引停止を告げられてしまうという事態も想定されます。

この場合、事業承継は失敗に終わる可能性が高まるでしょう。

たしかに、事業承継に関する無用な情報漏洩は避けたいところではあります。
しかし、情報開示ができる段階になったら即座に、取引先に丁重な説明をする必要があるでしょう。

そして、後継者の代においても信頼関係を維持できるよう、最大限の力を尽くすべきです。

従業員の理解を得る

従業員の理解を得るためには、事業承継後も雇用や待遇を守ることを説明し、理解を得るようにします。

親族内承継やM&Aによる事業承継の場合、社員のモチベーション低下につながるおそれがあります。

これを回避する対策としては、事業承継の手続きとの兼ね合いもありますが、できる限り早期に丁寧な説明をおこなうことです。

また事業承継の後も、新しい経営者のもとで従来どおりの待遇を継続できるよう調整をおこない、その旨を従業員に伝えて安心してもらう必要があるでしょう。

従業員は、従来から会社に尽くしてきてくれた仲間であり、これからの事業を支えてくれる人的資源でもあります。

事業承継を成功させるための対策として、従業員の理解を得ることも欠かせません。

事業承継対策③「見える化」と「磨き上げ」

事業承継を成功させるためには、現状の「見える化」をおこないます。

そして、事業計画の策定等により、会社の魅力の「磨き上げ」をおこなうという対策も非常に重要です。

会社の魅力の磨き上げは、後継者候補に会社の魅力を伝えるために必要不可欠な過程です。

「磨き上げ」のメリットは?

会社の魅力の磨き上げをするメリットは、後継者候補に「魅力的な企業である、後継者になる価値の高い企業である」と認識してもらえることです。

その結果、売り手側にとっては、親族や社員が後継者を辞退する、M&Aの相手が見つからないなどの事態を回避できる可能性があがります。

また、後継者となる第三者にとっても、メリットはあります。強みを理解したうえで事業承継をおこなうため、あやまって強みを切り捨ててしまいシナジー効果を享受できないといった事態を回避することができます。

事業承継を成功させるための対策して、会社の魅力の磨き上げは、売り手側・買い手側の双方にとって不可欠と言えるでしょう。

そもそも「磨き上げ」とは?

「磨き上げ」

  • 弱点を補強する
    例)会社の会計・法務などの不備を是正する
  • 強みを強化する
    例)他者にない知的財産を育てる
    etc.

会社の魅力の「磨き上げ」とは、簡単にいえば、後継者になりたくなるような良い会社にするということです。弱点を補強し、強みを強化することで、より魅力的な会社にすることができます。

具体的な「磨き上げ」の内容としては、会計帳簿や法務における不備があれば是正するという対策を講じることが考えられます。

また、目に見えない知的資産(人材、技術、ブランド、ネットワーク、組織力、経営理念等の経営資源のこと)を磨き上げることも、企業価値の高い評価につながります。

現状の把握を踏まえたうえで、将来の収益性や成長性の見通しを立てることで、会社の魅力を磨き上げていくことができるでしょう。

事業承継計画の策定

会社の魅力の磨き上げをおこなっていくうえで、事業承継計画の策定・事業承継計画書の作成は欠かせないものでしょう。

事業承継計画書は、中長期の経営計画・事業承継を達成するためのロードマップとなるものです。

step1

事業承継計画を作成するにあたっては、会社の経営資源の状況、経営リスク、株式の保有状況、後継者候補の有無、後継者教育あるいはM&Aの進展状況、法定相続人および相互の人間関係・株式保有状況、相続財産の特定・相続税額の試算といった現状の把握をおこないます。

step2

そして中長期的な経営ビジョンや事業承継の具体的な時期を設定し、それらを達成するための具体的な対策を練ります。

step3

これらの情報を事業承継計画書に落とし込みます。

補足

事業承継計画書の書式は、中小機構のホームページからダウンロードすることができます。

事業承継の専門家やM&A仲介会社に相談している場合は、そのような支援機関が準備してくれることもあるでしょう。

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事業承継対策の支援機関は?支援制度は?

⑴事業承継・引継ぎ支援センター(M&A仲介)

事業承継対策には、専門的な知識やノウハウが必要となります。事業承継の支援機関を活用することも、事業承継を成功させる対策のひとつといっても過言ではないでしょう。

事業承継対策の支援をしてくれる機関には、税務や法務の有資格者のほか、総合的なサービスを提供してくれるM&A仲介機関があります。

たとえば公的な相談窓口でいえば、国が全国47都道府県に設置している「事業承継・引継ぎ支援センター」という機関があります。

事業承継・引継ぎセンターは、中小企業・小規模企業に対して、親族内承継の事業承継計画策定、従業員承継やM&A承継の課題解決に向けた助言・情報提供、後継者不在の企業に後継者候補を引き合わせるマッチング等のサービスをおこなっています。

事業承継・引継ぎ支援センターの連絡先(一例)

郵便番号住所電話番号
北海道060‐0001札幌市中央区北1条西2丁目
北海道経済センター6階
011‐222‐3111
東京都100‐0005千代田区丸の内3-2-2
丸の内二重橋ビル6階
03‐3283‐7555
大阪府540‐0029大阪市中央区本町橋2‐806‐6944‐6257
沖縄県900‐0015那覇市久茂地1‐7‐1
琉球リース総合ビル5階
095‐941‐1690

※2024.1.9現在の情報です。詳細につきましては、「中小機構 事業承継・引継ぎポータルサイト」のホームページ(https://shoukei.smrj.go.jp/)等でご確認ください。

メリット

事業承継・引継ぎセンターは、国が設置している機関ということで安心感もあり、相談だけであれば無料です。事業承継のはじめの一歩としては、気軽に利用することができます。

注意点

ただし注意点としては、事業承継・引継ぎセンターの利用であっても、単なる相談を超えて、事業承継の実務を依頼する場合には、利用料が発生することがあるという点です。

事業承継対策の視点

なお民間のM&A仲介でも相談については、無料で対応してくれる機関はあります。

そのため、事業承継・支援センターも含め、複数のM&A仲介機関に相談し、仲介手数料やサービス内容を見比べ、実際に無料相談を活用するなどしたうえで、自身にあったM&A仲介業者を選ぶのがよいのではないでしょうか。

⑵事業承継税制

事業承継税制とは、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」といいます。)にもとづいて、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納付が猶予されるという制度です。

事業承継税制には、法人版事業承継税制と、個人版事業承継税制があります。

法人版事業承継税制とは?

法人版事業承継税制とは、後継者となる受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合に、その非上場株式等にかかる贈与税・相続税について、一定の要件のもと、納税が猶予される制度です。

また、法人版事業承継税制では、後継者の死亡等の事情が発生すれば、納税が猶予されている贈与税や相続税については、免除されることになります。

法人版事業承継税制の適用を受けるには、円滑化法にもとづく認定を受けたり、申請書を提出する必要があり、その窓口となるのは会社の主たる事務所がある都道府県です。

各都道府県のお問合せ先については、国税庁「円滑化法の認定等に関する窓口について(法人版)」をご確認ください。

個人版事業承継税制とは?

個人版事業承継税制とは、個人事業の事業承継を促進するために、一定の要件のもと、事業用資産の承継の際にかかる相続税や贈与税の納税が猶予されるという制度です。

また、個人版事業承継税制でも、後継者の死亡等の一定の事由が発生すれば、猶予されていた税金の納税が免除されます。

なお個人版事業承継税制の対象となるのは、特定事業用資産です。

これは、先代が事業に利用していた一定の資産で、贈与や相続等のあった年の前に青色申告書の貸借対象表に計上されていた資産に限られます。

個人版事業承継税制の適用を受けるにも、円滑化法にもとづく認定を受けたり、申請書を提出したりする必要があり、その窓口となるのは先代の経営者の主たる事務所があった都道府県になります。

各都道府県のお問合せ先については、国税庁「円滑化法の認定等に関する窓口について(個人版)」をご確認ください。

より詳しく知りたい方は、「事業承継税制とは?納税が猶予・免除される要件とメリット・デメリットを解説」の記事もご覧ください。

事業承継税制についてのコメント

事業承継税制は、中小企業の後継者の税金の負担を減少させるメリットがあります。

しかしその一方で、デメリットもあります。適用期限があること、認定を受けるための申請手続きが必要となること、認定を受けられた場合でも一定期間ごとに都道府県と税務署に報告する必要があること等、要件や手続きが複雑で難しいというデメリットです。

たとえば、事業承継税制による特例措置を受けられる期限については、現行の制度では、2027年(令和9年)12月3日までにおこなわれた贈与または相続とされています。

そして特例の認定を受けるためには、特例事業承継計画を令和6年(2024年)3月31日までに提出する必要もあります。(なお、2024年(令和6年)4月1日以降は、すでに提出した特例承継計画の変更は可能です。)

事業承継税制を活用するには、まずは制度の概要やメリット・デメリットをよく理解する必要があるでしょう。

必要があれば、事業承継対策を支援する機関等のプロに相談してみるとよいでしょう。

⑶事業承継対策に役立つ支援先一覧

事業承継の支援機関としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 民間のM&A仲介会社・M&Aマッチング
    買い手探しや手続きのサポート
  • 事業承継・引継ぎ支援センター
    買い手探しや手続きのサポート
    https://shoukei.smrj.go.jp/relative_inherited_support.html
  • 中小企業庁
    事業承継に関する情報発信、事業承継引継ぎ補助金などの支援をおこなう。
    https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html
  • 商工会議所
    中小企業の相談・中小企業関連施策に関する情報提供。
    http://www.jcci.or.jp
  • よろず支援拠点
    中小企業基盤整備機構が主導する活動支援。中小企業の経営に関する相談が可能。
    https://yorozu.smrj.go.jp
  • 弁護士
    M&Aの手法選択、株式譲渡契約書等の法的書面作成。相続・生前贈与・遺言の対応。
    http://www.nichibenren.or.jp
  • 税理士
    税務対策の相談。株式譲渡の譲渡益にかかる税金や、相続税の対策等を相談できる。
    http://www.nichizeiren.or.jp
  • 公認会計士
    企業価値の評価・デューデリジェンス等の経営・財務のサポートが可能。
    http://www.hp.jicpa.or.jp
  • 司法書士
    商業登記・法人登記・中小企業のアドバイスが可能。
    http://www.shiho-shoshi.or.jp
  • 行政書士
    許認可の承継等の事業承継に必要な手続きのサポートが可能。
    http://www.gyosei.or.jp
  • 中小企業診断士
    事業承継・中小企業の経営課題のコンサルティングを行う。会社の魅力の磨き上げにかかわる助言も可能。
    http://www.j-smeca.jp
  • 金融機関等
    事業承継に関する資金調達の相談が可能。

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事業承継対策を成功させる相談先は?

事業承継の対策を練るには多角的な視点が必要不可欠です。

どこに相談するのが正解なのかは一概には言えず、ケースバイケースです。

ただし専門家の視点を取り入れる機会があるならば、それを活用しない手はありません。

懇意にしている専門家に相談する、M&A仲介業者の無料相談するなどしながら、事業承継の対策を立てて行きましょう。

事業承継対策で遅れをとらないためには?

事業承継対策で遅れをとった場合、後継者不在で廃業になる、生涯にわたり会社の個人保証や債務の負担から解放されないといったリスクを抱えることになります。

事業承継対策で遅れをとらないためには、今すぐ動き出すことが大切です。

親族や社員で後継者候補が見つからない場合は、M&Aによる事業承継を考える必要があります。

ですが事業承継の相手は、一朝一夕には見つかりません。

まずはM&A仲介会社や、事業承継・支援センターの無料相談等を利用して、事業承継対策の第一歩を踏み出してみましょう。

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