誤診で病院を訴えるなら医療訴訟?見落としの損害賠償と診断ミスの相談先 | アトム法律事務所弁護士法人

誤診で病院を訴えるなら医療訴訟?見落としの損害賠償と診断ミスの相談先

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誤診で病院を訴えるなら医療訴訟?

「誤診で治療開始が遅れた」
「見落としで病気を放置してしまった」

自分や家族が診断ミスによって何らかの被害を受けた場合、どのような対応をとるのが正解なのでしょうか。

医療過誤に関する紛争を解決するにあたっては、裁判を通して病院を訴えたいと考えられる方も多いです。しかし、裁判以外にも示談や調停といった方法で被害を訴えていくこともできます。

本記事では、誤診や病気の見落としに関する医療訴訟の判例からどのような結果を迎えたのか確認し、ご自身のケースではどのような対応方法をとるのが最適なのか検証していきたいと思います。判例では実際に認められた損害賠償の金額もわかるので、しっかり確認していきましょう。

判例(1)癌の見落としで治療不能な末期状態で死亡した

概要と争点|医師が精密検査を勧めなかったことと死亡の因果関係

亡Aは、健康診断で肺に影が見つかってから約5年半にわたり定期的に経過観察を受けたが、医師が肺がんを見落としたため、他の病院で肺がんと診断された時点ではすでに治療不能な末期状態となり、死亡したと遺族は主張しました。亡Aの遺族は医療法人を相手取り、損害賠償を求めて医療訴訟を起こしました。(神戸地方裁判所 平成25年(ワ)第762号 損害賠償請求事件 平成27年5月19日)

遺族と医療法人の主な争点は以下の通りです。

  1. 肺がんの可能性に気づいていながら精密検査を進めるなどの義務を医師が怠ったという過失があったか
  2. 医師の過失と死亡に因果関係があるか
  3. 死亡したことで生じた亡Aの損害内容と損害額

判決|遺族の損害賠償請求が認められた

裁判所は、医師が精密検査を勧めて早期に外科手術が行われれば根治していた可能性があったとして、病院側に約4200万円の損害賠償を命じました。

裁判所による判断

裁判所は、医師が肺の影が癌である可能性を認識しつつも、約5年以上もいたずらに経過観察をつづけ、早期に外科治療を受ける機会を失ったため死亡に至ったと認定しました。

裁判所が認定した賠償金額

裁判所は、逸失利益・死亡慰謝料・葬儀費用・弁護士費用を認めています。裁判所が認定した損害賠償の内訳と賠償金額は、以下の通りです。

損害の内訳と賠償金額

損害の内訳賠償金額
逸失利益1202万9915円
死亡慰謝料2500万円
葬儀費用150万円
弁護士費用384万円
合計※4236万9915円

※ 原告3名分の合計額

判例(2)誤診による不必要な検査で死亡した

概要と争点|検査の必要性と死亡との因果関係

肝生検という検査を受けた亡Bは、さらに肝臓に腫瘤様の塊が見られたので肝穿刺を受けたところ腹腔内出血が発生して死亡しました。肝穿刺後の術後管理にも適切な対応が取られていなかったと亡Bの遺族は主張し、病院を相手取って損害賠償を求めて医療訴訟を起こしました。(東京地方裁判所 平成18年(ワ)第20728号 損害賠償請求事件 平成22年1月22日)

遺族側と病院側の主な争点は以下の通りです。

  1. 肝生検を実施したことに関する過失の有無
  2. 肝穿刺を実施したことに関する過失の有無
  3. 肝穿刺後の術後管理に関する過失の有無
  4. 肝生検・肝穿刺・術後管理それぞれと死亡との間の因果関係の有無
  5. 死亡したことで生じた亡Bの損害内容と損害額

判決|一部の損害賠償請求が認められた

肝穿刺に関しては過失と死亡との間に因果関係がある認められましたが、肝生検と術後管理は適切に行われたとしてその過失は否定されています。裁判所は、病院側に慰謝料など2120万円の賠償を命じています。

裁判所による判断

裁判所は、緊急に肝穿刺を実施しなければならない必要性は必ずしも高くはなく、肝穿刺を実施すれば腹腔内出血などの合併症が生じる危険性が高いと考えられることから、肝穿刺を実施すべきではなかったと判断しています。

裁判所が認定した賠償金額

裁判所は、死亡慰謝料・亡Bの配偶者固有の慰謝料・葬儀費用・弁護士費用を認めました。もっとも、逸失利益に関しては、過失による損害ではないと否定しています。たとえ、患者が生存していたとしても、退院後に就労可能な程度まで回復できたとは認められないことを理由としてあげています。

裁判所が認定した損害賠償の内訳と賠償金額は、以下の通りです。

損害の内訳と賠償金額

損害の内訳賠償金額
死亡慰謝料1650万円
配偶者固有の慰謝料120万円
葬儀費用150万円
弁護士費用200万円
合計※2120万円

※ 原告3名分の合計額

誤診や診断ミスで病院を訴える時の注意と弁護士の役割

誤診や診断ミスによって被害を受けたと思っても、患者側が主張するすべての内容が認められる訳ではありません。医師や病院に賠償責任がある場合に限り、賠償金が支払われることになります。

それでは、医師や病院に賠償責任がある場合とは、どのような場合をいうのでしょうか。

本章では、医師や病院の過失と因果関係、賠償請求する方法は医療訴訟の他にもあることなどについて解説します。

医師や病院の過失を検討する

医師による過失の有無を判断するには、医師の安全配慮義務違反があったのかという点がポイントになってきます。

安全配慮義務違反とは、患者を危険にさらして安全に配慮しなかったことです。

医師の安全配慮義務違反があったのかは、予見可能性と結果回避性から判断されます。
もう少し具体的にいうと、予見できたはずの事故や、適切な対応を怠ったために生じた事故であれば損害賠償請求が認められることになるのです。

また、医師の過失で賠償請求を行う場合、雇用主である病院も同様に賠償請求が可能です。雇用主にも同様に賠償請求できることを「使用者責任」といいます。医師本人だけでは、賠償できるだけの資力に限界があるので、病院に対して請求するケースが多くなるでしょう。

過失と結果の間に因果関係があることを証明する

病院側に過失があったとしても、その過失と結果の間に関係性がないと判断されれば、因果関係なしとして損害賠償を請求することはできません。

先述した判例でも、不必要な検査によって患者が死亡したと判断されたので、慰謝料は認められたものの、逸失利益に関しては否定されています。このように、過失と結果に因果関係があると認められなければ、損害賠償を請求することができないのです。

事故が起きた時の状況など、さまざまな要素から因果関係は判断されますが、カルテや検査画像といった資料は患者側の主張を立証するための証拠として扱われます。

ただし、証拠がただ単に揃っていればいいという話でもありません。その証拠を用いて、いかに法的な観点から論理だてて主張していくかが重要になるでしょう。弁護士であれば証拠などを確認したうえで、法的な観点からどのようなところに問題があったのか、損害賠償請求可能な案件なのかといった話をしてもらえます。

「誤診されたかもしれない」、「医師の見落としがなければ家族はまだ生きていたかもしれない」と感じたら、弁護士に相談してアドバイスをもらいましょう。

病院に賠償請求する方法は医療訴訟だけじゃない

病院に賠償請求する場合、医療訴訟をイメージする方は多いと思います。しかし、賠償請求する方法としては、医療訴訟のほかにも示談や調停が用いられることもあるでしょう。

多くの事案では解決に向けて、病院との示談が最初に選ばれます。示談とは、問題が起きた原因や損害賠償の金額などについて病院と話し合いを行い、お互いが納得できる内容を決めていく方法です。事案の内容によっては、はじめから医療訴訟を提起する場合もありますが、示談が決裂したら医療訴訟に発展するのがポピュラーです。

というのも、示談はお互いが納得すれば解決に至るので、示談がスムーズに進めばそれだけ解決までの期間が短く済みます。示談は話し合いを行うだけなので、基本的に手数料がかかることもありません。

一方、医療訴訟は裁判所が介入して、慎重に判断が進められるので解決までの期間が長くなることが予想されます。さらに、訴訟費用といった手数料も必要です。

こういった事情から、損害賠償請求の方法としては示談からはじめることが多くなっています。

調停は示談より手間はかかりますが、訴訟よりも手続きが簡単で費用もかからないため、示談と訴訟の間のような立ち位置といえるでしょう。

いずれの方法をとるにせよ、事案ごとに最適な選択は異なるので、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。特に、病院側と争われる可能性の高い示談金の相場については、しっかりとおさえておく必要があるので、以下の関連記事を紹介します。示談交渉の流れも解説しているので、興味のある方はあわせてご覧ください。

正しい損害賠償額や慰謝料の算定が必須

誤診や診断ミスによって被った損害について病院を訴えたいと思っても、その損害がどのくらいの損害額となるのか算定する必要があります。

誤診や診断ミスといった医療過誤で生じる主な損害の内訳と、基本の算定方法は以下の通りです。

主な損害の内訳と基本の算定方法

損害算定方法
慰謝料入通院慰謝料:治療期間や怪我の程度
後遺障害慰謝料:障害の部位や程度
死亡慰謝料:家庭内の役割
休業損害・逸失利益事故前の収入や年齢にもとづく
治療費実費
葬儀費用150万円を上限とした実費

ここで紹介した損害はあくまで主なものに限られます。事案ごとに生じる損害はさまざまなので、事案に即した損害の算定が重要です。

診断ミスが原因で寝たきりになったり、死亡したりしたのであれば、被害者本人に対する慰謝料の他にも近親者固有の慰謝料が認められる可能性が高いです。

ただし、医療事故事案の場合、問題が起きる前から既往症などさまざまな事情があるなどして、損害額に影響を受けることが考えられます。

もっとも、さまざまな事情があるからといって、不当に低い金額を受け入れる必要はありません。不当に低い金額かどうかや、妥当な金額まで増額できる可能性はあるのかなどについて、弁護士にご相談ください。

診断ミスの相談先は弁護士がおすすめ

誤診や病気の見落としに関する判例を紹介するとともに、病院を訴える時の注意点などについて解説してきました。最後にポイントをまとめておきます。

  • 病院側に対する損害賠償請求は、誤診や診断ミスが過失であると認められる場合などに可能となる
  • 過失は医師や病院に安全配慮義務違反があったかどうかで判断される
  • 損害賠償請求するにあたっては、医療訴訟のほかに示談や調停といった方法もある

誤診によって人的損害を被ったら、今後どのような対応をとっていくべきなのか弁護士に相談してみましょう。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了