歯科の医療訴訟事例|裁判例から医療過誤の紛争解決方法を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

歯科の医療訴訟事例|裁判例から医療過誤の紛争解決方法を解説

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歯科の医療訴訟事例|裁判例から医療過誤の紛争解決方法を解説

歯科医院で治療を受け、何らかの障害が残ったとしたら、どのような対応をとっていくべきなのでしょうか。

過去に実際に行われた歯科に関する医療訴訟の判例を確認し、どのような紛争解決方法があるのかみていきましょう。

本記事では、歯科で発生した医療過誤の裁判例と医療訴訟をはじめとした損害賠償を請求する際のポイントについて解説していきます。

判例(1)インプラント治療で感覚障害の後遺障害が残った

概要と争点|歯科治療と神経障害の因果関係

7本の歯についてインプラント治療を受けた患者は、治療によって神経が傷つけられて感覚鈍磨や感覚異常の障害が残ったと主張しました。患者は、歯科医院を運営する院長である歯科医師に対して損害賠償請求を求めて訴訟を起こしたのです。(東京地方裁判所 平成27年(ワ)第8689号 損害賠償等請求事件 平成28年9月8日)

患者側と歯科医師側の主な争点は以下の通りです。

  1. 埋入したフィクスチャー(人工歯根)が神経を傷つけたために後遺障害が発生したのか
  2. 後遺障害が残ったことで生じた患者の損害内容と損害額
  3. インプラント治療の診療代金の返還は認められるか

判決|損害賠償請求が一部認められた

裁判所は、インプラント治療と感覚障害の後遺障害残存には因果関係があるものとして、歯科医師側に約350万円の損害賠償を命じました。ただし、患者が主張するインプラント治療の診療費返還について、裁判所は一部否定しています。

裁判所の判断

裁判所は、インプラント治療で埋入したフィクスチャーが、患者の右側下顎管に達して下歯槽神経または頤神経を傷害したために後遺障害が残ったと認定しました。

裁判所が認めた損害賠償額

裁判所は、傷害の治療に要した治療費や通院交通費、患者に対する慰謝料として通院慰謝料と後遺障害慰謝料などを認めています。

もっとも、本件の人的損害による労働への影響は及ばなかったとして、休業損害と逸失利益に関しては認められませんでした。

裁判所が認めた主な損害賠償内容と損害賠償金は、以下の通りです。

損害の内訳と賠償金額

損害の内訳賠償金額
治療費(薬剤費を含む)等約10.4万円
通院交通費約1.9万円
通院慰謝料163万円
後遺障害慰謝料110万円
弁護士費用30万円
返還すべき既払代金額など31万円
合計約346.3万円

判例(2)麻酔剤でアナフィラキシーショックを発症し死亡した

概要と争点|歯科医師に求められる義務と死亡との因果関係

当時4歳の幼児が歯科医院で虫歯治療を受けた際に、局所麻酔剤を原因とするアナフィラキシーショックによって呼吸循環不全に陥り、搬送先の病院で死亡しました。
幼児の遺族は、歯科医院に対して損害賠償請求を起こしました。(さいたま地方裁判所 平成18年(ワ)第987号 損害賠償請求事件 平成22年12月16日)

遺族側と歯科医院側の主な争点は以下の通りです。

  1. バイタルサインを観察する義務を怠った過失
  2. 迅速・適切な救急処置を行うべき義務を怠った過失
  3. 過失と幼児が死亡したことの因果関係や相当程度の可能性
  4. 死亡した幼児の損害内容と損害額

判決|慰謝料に関する損害賠償請求が認められた

歯科医がとるべきバイタルサインを観察すべき注意義務に違反したという過失があった点については認められましたが、この過失と死亡の因果関係は否定されました。もっとも、裁判所が認めた注意義務違反に関しては歯科医院側に慰謝料など440万円の損害賠償を命じています。

裁判所の判断

歯科医師が幼児に薬物アレルギーがないことをアンケートで事前に確認し、アレルギーはないとの回答を両親から得ていたものの、アンケートだけでは本当にアレルギーがないかどうか判断しきれないと裁判所は判断しました。さらに、治療中にアナフィラキシーを発症していないか意識・呼吸状態・循環動態を確認するといった十分な注意を歯科医師が怠ったとも裁判所は判断しています。

もっとも、歯科医師が局所麻酔剤を注入してから幼児の異変に気付いた後の救急措置については、迅速で適切に行われたと判断しました。また、歯科医師が救急措置を行ったとしても、幼児が生存していた高度の蓋然性があるとはいえないことから、歯科医師の過失と幼児の死亡の間に因果関係は認められないとしています。

裁判所が認めた損害賠償額

当時わずか4歳という幼い命が失われた精神的苦痛は察するに余り、バイタルサインの注意義務を歯科医師が十分に尽くしていなかったこと、注意義務が尽くされていても幼児の救命の可能性が高くないこと、救命が可能であっても幼児の完全な回復は望めなかったことなどの事情を酌み、裁判所は慰謝料400万円を認めています。

もっとも、歯科医師の過失と幼児の死亡の間の因果関係は否定していることから、遺族が主張した逸失利益・葬儀費用などの請求は認められませんでした。

損害の内訳と賠償金額

損害の内訳※賠償金額
慰謝料400万円
弁護士費用40万円
合計440万円

※ 幼児の両親である原告2名分

医療訴訟におけるポイントと弁護士の役割

医療過誤にあったと思っても、患者側の主張がすべて通るわけではありません。
歯科医院側に賠償責任があるとき、賠償金の支払いを受けることができるのです。

それでは、どういった場合に賠償責任があるといえるのでしょうか。

ここからは医療過誤における過失と因果関係、医療訴訟など損害賠償を請求する方法や適正な賠償金額について簡単に解説します。

歯科医院側の過失の有無を検討する

過失があったかどうかは、歯科医院側が安全配慮義務を全うしていたかどうかで判断されることになります。

安全配慮義務とは、患者が危険にさらされないよう安全に配慮することです。
歯科医師や歯科助手など、それぞれの役割や責務に応じて求められる安全配慮義務のレベルが異なります。

安全配慮義務違反に当たるかどうかは、予見可能性と結果回避性で検討されます。
事故を予見できたはずであった場合や、適切な対応で事故を回避できた場合は損害賠償請求が認められるでしょう。

なお、歯科医師の過失が認められて賠償責任を負うときは、雇用主である歯科医院も同様に賠償責任を負います。雇用主も同様に賠償責任を負うことを「使用者責任」といいます。歯科医師個人では、資力の期待がうすいと考えられるので、雇用主に対して請求するケースが多くなっているのです。

過失と結果との因果関係を明らかにする

歯科医院側に一定の過失が認められたとしても、結果に影響を及ぼさなかったと判断されれば、因果関係がないとして損害賠償請求は認められません。

先ほど紹介した判例でも、バイタルサインを確認する注意義務に違反があったことは認められましたが、死亡に至った原因とまではいえないと判断されたため、死亡したことに関する損害賠償請求は認められませんでした。過失と結果の因果関係は損害賠償請求の可否に大きく影響するのです。

因果関係を明らかにするためにはさまざまな要素が必要になりますが、患者側の主張を立証するにはカルテや検査画像といった各資料・証拠は欠かせません。

「歯医者の治療を受けて怪我を負ったので医療過誤かもしれない」と思ったら弁護士をはじめ、さまざまな専門家に相談してみることをおすすめします。お悩みの事案では、損害賠償請求が認められる可能性がある事故なのかや、今後とっていくべき対応などについてアドバイスがもらえるでしょう。

医療訴訟・示談・調停の中から適切な請求方法を選ぶ

損害賠償を請求する方法は主に、訴訟・示談・調停の3つが選択肢としてあげられます。

損害賠償請求というと、訴訟をイメージする人は多いでしょう。
場合によっては、いきなり医療訴訟を提起することもありますが、多くの民事上の損害賠償請求をするケースでは、最初に示談で解決を目指すことが多いです。

示談とは、民事上の紛争相手とお互いが合意できる解決内容を話し合いで決める方法になります。

双方が一定の納得をしたうえで争いを終えられること、話し合いがスムーズにすすめば早く解決できること、裁判費用などの手数料がかからないといったメリットがあります。

もっとも、相手が提示する内容や金額に納得できなかったりして示談交渉が決裂することもあるでしょう。こういった場合、示談での解決は断念し、裁判所を第三者として入れて話し合う調停や、歯科医院側を相手取って訴訟を起こすことも検討していく必要があります。

事案によって最も適した解決方法は異なるので、弁護士に問い合わせるなどしてみましょう。関連記事では、損害賠償請求で主な争点となる示談金の相場について解説しています。示談交渉の流れもわかるのであわせてご確認ください。

弁護士に適正な損害賠償額を計算してもらう

歯科医院側を相手に訴訟をするにしても、示談や調停をするにしても、まずはどんな損害を負って損害額はどのくらいなのかを判断する必要があります。

医療過誤における損害の主な内訳と損害の基本的な算定方法は、以下の通りです。

主な損害の内訳と基本的な算定方法

損害算定方法
慰謝料入通院慰謝料:怪我の治療期間や怪我の程度
後遺障害慰謝料:障害の部位や症状
死亡慰謝料:家庭における役割
休業損害・逸失利益事故前の収入や年齢など
治療費実費
葬儀費用実費(上限150万円)

こちらで紹介した内訳のほかにも、医療過誤で生じた損害ごとに請求すべきものは違うので、どのような損害を被ったのか適切に把握することが大切です。

たとえば、医療過誤で植物状態になったり、死亡した場合には、被害者本人の慰謝料以外に近親者固有の慰謝料も認められる可能性があるでしょう。

もっとも、医療過誤の事案では、事故発生前からの既往症などの事情が損害額の算定に複雑に絡むことになるでしょう。ただし、たとえ既往症などの事情が損害額の算定に影響して減額することになったとしても、不当に低い金額を相手が提示している可能性もあります。

ご自身だけの判断で安易に提示額を受けるのではなく、弁護士に相談・依頼して、適切な金額の損害賠償はどのくらいなのか算定してもらうことをおすすめします。

歯科の医療事故は弁護士に相談しよう

歯科の医療訴訟に関する判例を確認しつつ、歯科医院に対する損害賠償請求が可能なケースなどについて解説してきました。再度にもう一度、簡単に内容をまとめておきたいと思います。

  • 医療過誤の損害賠償請求は過失などが認められる場合に可能となる
  • 歯科医院側の安全配慮義務違反の有無で過失があったかどうかが検討される
  • 過失と損害に因果関係があることで損害賠償の請求は認められうる

歯科医院で医療事故が発生し、大きな後遺障害が残ったりご家族が亡くなられた場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。無料相談のご予約は24時間年中無休で対応中です。気軽にお問い合わせください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了