精神科で起きた医療過誤の裁判例を弁護士が解説|薬の過量服用や身体拘束の事例 | アトム法律事務所弁護士法人

精神科で起きた医療過誤の裁判例を弁護士が解説|薬の過量服用や身体拘束の事例

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精神科で起きた医療過誤の裁判例を弁護士が解説|薬の過量服用や身体拘束の事例

医療現場で医療過誤が疑われる事故が起こったとき、医療機関に対する損害賠償請求を考える方もいるでしょう。

医療従事者を信頼して任せているからこそ、家族が怪我をしたり、死亡に至ってしまうようなことがあれば、「何があったのかを知りたい」、「正当に賠償してほしい」という気持ちになるのは自然なことです。

この記事では、精神科で起こった医療過誤の裁判例と損害賠償請求のポイントについて整理していきます。損害賠償請求における弁護士の役割の理解にもお役立てください。

判例|服薬指導における注意義務違反

概要と争点|抗うつ薬の過量服用後に死亡

うつ病で通院中の患者が、抗うつ薬を過量服用後に病院に搬送されて死亡しました。
患者の夫は、クリニックの院長ならびに医療法人に対して損害賠償請求請求を起こしました。(大阪地方裁判所 平成20年(ワ)第5089号 損害賠償請求事件 平成24年3月30日)

遺族側と医療機関側の主な争点は以下の通りです。

  1. 処方量に関する注意義務違反
  2. 大量服用時の副作用と処置に関する説明指導義務違反
  3. 服薬管理に関する指導義務違反
  4. 因果関係の有無
  5. 患者側の損害額

結果|損害賠償請求が認められた

当該医薬品の過量服用と死亡には因果関係があるものとして、病院側に約5,800万円の損害賠償を命じました。

裁判所の判断

裁判所は、事件当時には書籍などで当該医薬品の大量摂取による死亡の可能性が認識されていたと認定しました。

さらに、被害者が過量服用を繰り返した後の受診時には、過量服用時は110番通報も含めて直ちに医療機関を受診するように指導すべき注意義務があったと認定したのです。

裁判所が認めた損害賠償額

裁判所は亡くなったご本人への慰謝料1,600万円、夫および子への慰謝料として400万円(各200万円)などの損害賠償金を認めました。

病院側は家族が服薬管理の義務を負っていたことを主張したものの、裁判所は本人や家族の過失を認めず、過失による賠償金減額はおこなわれていません。

裁判所が認めた主な損害賠償内容および損害賠償金は以下の通りです。

損害の内訳と賠償金額

損害の内訳賠償金額
慰謝料1,600万円
近親者固有の慰謝料※400万円
逸失利益約3,130万円
葬儀費用150万円
弁護士費用※520万円
合計約5,800万円

※原告2名分

判例|身体的拘束下での注意義務違反

概要と争点|急性肺動脈血塞栓症による死亡

不安や独語などの症状を訴えて入退院を経て通院を継続していた患者が、家族の同意のもとで再度医療保護入院することになったのです。
入院後には隔離および身体的拘束がおこなわれ、数日後に死亡が確認されました。死因は急性肺血栓塞栓症でした。(金沢地方裁判所 平成30年(ワ)第409号 損害賠償等請求事件 令和2年1月31日)

遺族と医療機関のあいだでは、急性肺血栓塞栓症が身体的拘束に起因することは争われませんでした。両者の主な争点は以下の通りです。

  1. 身体的拘束の開始および継続は違法だったか
  2. 拘束中に入血栓塞栓症の予防措置をすべき注意義務に違反したか
  3. 注意義務違反と死亡に因果関係はあるか
  4. 損害はいくらになるか

結果|損害賠償請求は認められない

遺族側の損害賠償請求は認められませんでした。以下に裁判所の判断を示します。

裁判所の判断

裁判所は、医療機関が「多動」「不穏」が顕著であるとして患者に身体的拘束を開始したこと、以後の経過から見て拘束を継続したことは不合理なものではないと認めました。

また、医療機関側が早期離床に向けて積極的運動を促していたことなどを認め、遺族の訴えていた手法や予防措置は、当該病院に実施の義務があったとは言えないと判断したのです。

一方で、肺血栓塞栓症予防の一環である弾性ストッキングの着用をしていなかった点において、医療機関側が注意義務を怠ったと指摘しました。

しかし、弾性ストッキングを装着した患者の死亡事例が多数存在すること、身体的拘束自体のリスクレベルが低くないことをあげました。

これを踏まえて、弾性ストッキングを付けていても急性肺血栓塞栓症による死亡を確実に回避できたとは認められないとしたのです。

医療過誤の損害賠償請求のポイントと弁護士の役割

医療過誤かもしれないと感じる事故が起こっても、患者側の訴えが全て認められるわけではありません。
医療機関側に賠償責任があるときには、賠償金の支払いを受けることができます。

ここからは医療過誤における安全配慮義務と因果関係、損害賠償請求の方法と賠償金額についてみていきましょう。

安全配慮義務に違反しているかを検討する

安全配慮義務とは、患者が危険な目にあうことのないように安全に配慮するというものです。
医師や看護師など医療従事者には、それぞれの役割や責務において求められる安全配慮義務のレベルは異なります。

安全配慮義務に違反しているかどうかは、予見性と結果回避性の2点から検討されます。
予見できたはずの事故や、適切な対応によって回避できた事故は損害賠償請求が認められるでしょう。

なお、医療従事者の落ち度が認められ賠償責任を負うときは、雇用主である医療機関も同様に賠償責任を負います。これは「使用者責任」といい、資力の期待がうすい医療従事者個人よりも、使用者に対して請求するケースが多いです。

過失と結果との因果関係を示す

医療機関側に一定の過失があっても、結果に影響がなかったと判断されれば、因果関係がないとして損害賠償請求は認められません。

先ほど紹介した判例でも、注意義務が果たされていないために死亡に至ったとは言えないと判断されたため、損害賠償請求は認められませんでした。因果関係の有無は損害賠償請求の可否に大きく影響するのです。

因果関係の立証には色々な要素が関連しますが、患者やご家族の主張を立証するためには各資料や証拠の提示は欠かせません。

「医療過誤かもしれない」と思ったら弁護士に相談してみることをおすすめします。損害賠償請求が認められうる事故なのか、今後の方針を含むアドバイスを受けられるでしょう。

適切な損害賠償請求の方法を選択する

損害賠償請求というと、裁判を思い起こす人は多いでしょう。
しかし医療過誤をはじめとして民事上の損害賠償請求をするうえで、まず最初は示談交渉による解決を目指すケースが多いです。

示談交渉とは相手方との話し合いによって、お互い納得できる解決内容を決め、争いを終結させる方法になります。

お互いに一定の納得をして争いを終えられること、双方の譲歩しだいでは早く解決できること、裁判費用など第三者に支払う事務手数料がかからないというメリットがあげられます。

その一方、相手の言い分にどうしても納得ができなかったり、金額面で折り合いがつかないなどで難航することもあるでしょう。その場合は示談による解決を断念して、裁判所を介して話し合う調停や、医療機関側を相手に裁判を起こすことも検討していく必要があります。

最適な解決方法はその時の状況により異なりますので、弁護士に問い合わせるなどして方針を立てることをおすすめします。関連記事では示談金の相場や示談交渉の流れを解説中です。

弁護士に損害賠償額を見積もってもらう

医療機関に損害賠償請求するときには、どんな損害を負ったか、損害額はいくらかという2点を適切に判断しなくてはなりません。

以下は医療過誤における損害の代表例と、損害の基本的な算定方法です。

損害の代表例と基本的な算定方法

損害算定方法
慰謝料負傷:治療期間や怪我の程度
後遺症:部位や症状
死亡:家庭における役割
逸失利益事故前の収入や年齢など
治療費実費
葬儀費用実費(上限150万円)

このほかにも、医療過誤で生じた損害によって請求するべき賠償金は異なります。

たとえば医療過誤で寝たきりになってしまったり、死亡してしまった場合には、近親者固有の慰謝料も認められる可能性があるでしょう。

一方で、事故発生前からの既往症や就労の不安定さなどの事情は、減額事由になる可能性もあります。

しかし減額事由となる場合でも、不当に低い賠償金提示を受けている可能性もあるので、安易にうのみにしてはいけません。

弁護士ならば個々の事情をふまえて損害賠償金の見積もりが可能です。また正式に依頼を結んだ場合には、示談交渉から訴訟まで損害賠償請求を一任できます。

まとめ|後遺障害や死亡につながったら弁護士相談を検討

精神科で起こった医療過誤の裁判例を解説し、損害賠償請求ができるかどうかのポイントなどについて解説してきました。あらためて、内容を簡潔にまとめておきます。

  • 医療過誤における損害賠償請求は必ず認められるわけではない
  • 医療機関側の安全配慮義務違反の有無を検討する必要がある
  • 過失と損害に因果関係があれば、損害賠償請求が認められる可能性がある

精神科で医療過誤が発生し、大きな後遺障害が残ったりご家族が亡くなられた場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。無料相談をご希望の場合は、まず予約をお取りいただきますようお願いします。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了