労災保険のアフターケア制度|利用できる条件や請求方法を解説
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労災保険には労災に遭った場合の給付金だけではなく「アフターケア制度」というものがあります。
アフターケア制度とは、労災による怪我や病気が治った後も、一部の傷病を対象に無料で診察や検査などが受けられるという制度です。どんな怪我や病気でもアフターケア制度が受けられる訳ではないので、注意が必要です。
本記事では、どのような条件に当てはまればアフターケア制度が受けられるのか、アフターケア制度の請求方法などについて解説しています。
目次
労災保険のアフターケア制度とは
労災保険の「アフターケア制度」の概要について解説していきましょう。
労災保険のアフターケア制度とは何か
業務中や通勤中に怪我を負ったり、病気になったりした労働者は、労災保険から給付金を受給できます。
さらに、怪我や病気が治った場合も、再発や後遺障害を伴う新しい病気の発症を防ぐために必要であれば、診察・保険指導・保険のための処置、検査などを受けることができるようになります。これが「アフターケア制度」と呼ばれるものです。
なお、怪我や病気が「治った」とは、完全に症状が回復する場合のみならず、症状が安定して治療を受けてもそれ以上改善が期待できない状態も含まれています。(治療を受けてもそれ以上改善が期待できない状態のことを「症状固定」と呼びます。)
アフターケアを受けるには条件がある
アフターケアには、対象となる怪我や病気について一定の類型が定められています。
怪我や病気が治癒・症状固定した後も、身体に障害が残った場合、障害の程度に応じて「後遺障害等級」が第1級から第14級までの14段階に区分されています。
その障害の程度に応じて、アフターケアの対象者となるか否かが定められているのです。
労災保険のアフターケアの対象となる条件
それでは、アフターケア制度の対象となるのはどのような人か、みていきましょう。
アフターケアを受けることができる20の傷病を解説
アフターケア制度を受けることができる条件として、20個の傷病が決められています。
具体的な傷病名と対象となる条件については以下のようになっています。
(1)せき髄損傷
- 脊椎損傷者で障害等級第3級以上の障害給付を受けている方や受けると見込まれる方で医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められた方
- 障害等級第4級以下の障害給付を受けている方であっても医学的に特に必要と認められた方
(2)頭頸部外傷症候群等
- 頭頸部外傷症候群/頸肩腕障害/腰痛にり患し、障害等級第9級以上の障害給付を受けている方や受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
- 障害等級第10級以下の障害給付を受けている方であっても医学的に特に必要があると認められている方
(3)尿路系障害
尿道狭さくの障害を残す方又は尿路変向術を受けた方で障害給付を上けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(4)慢性肝炎
ウイルス肝炎にり患した方で障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち、医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(5)眼疾患
- 白内障、緑内障、網膜剥離、角膜疾患、眼瞼内反等の眼疾患の傷病者で障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
- 障害給付を受けていない方であっても医学的に特に必要があると認められる方
(6)振動障害
振動障害の傷病者で障害補償給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(7)大腿骨頸部骨折及び股関節脱臼・脱臼骨折
- 大腿骨頸部骨折及び股関節脱臼・脱臼骨折の傷病者で障害給付を受けている方又は受けると見込まれている方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められる方
- 障害給付を受けていない方で医学的に特に必要があると認められる方
(8)人工関節・人工骨頭置換
人工関節・人工骨頭を置換し障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方で医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(9)慢性化膿性骨髄炎
骨折等により化膿性骨髄炎を併発し、引続き慢性化膿性骨髄炎に移行した方で障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方で医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(10)虚血性心疾患等
- 虚血性心疾患にり患した方
- 虚血性心疾患にり患した方で障害等級第9級以上の障害補償給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
- 障害等級第10級以下の障害補償給付を受けている方で医学的に特に必要があると認められる方
- ペースメーカー・除細動器を植え込んだ方
- ペースメーカー・除細動器を植え込んだ方で障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(11)尿路系腫瘍
尿路系腫瘍にり患し療養補償給付を受けている方でこの尿路系腫瘍が症状固定したと認められる方で医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(12)脳の器質性障害
- 外傷による脳の器質的損傷/一酸化炭素中毒/減圧症/脳血管疾患/有機溶剤中毒等に由来する脳の器質性障害が残存した方で障害等級第9級以上の障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められる方
- 障害等級第10級以下の障害給付を受けている方であっても医学的に特に必要があると認められる方
(13)外傷による末梢神経損傷
外傷により末梢神経損傷に起因し症状固定後も激しい疼痛が残存する方で障害等級第12級以上の障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(14)熱傷
熱傷の傷病者で障害等級第12級以上の障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(15)サリン中毒
いわゆる「地下鉄サリン事件」によりサリンに中毒した方で療養補償給付を受けてサリン中毒が症状固定した方のうち、以下のような後遺障害によって医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
- 縮瞳、視覚障害等の眼に関連する障害
- 筋萎縮、筋力低下、感覚障害等の末梢神経障害及び筋障害
- 記憶力の低下、脳波の異常等の中枢神経障害
- 心的外傷後ストレス障害
(16)精神障害
業務による心理的負荷を原因として精神障害を発症した方で療養補償給付を受けて症状固定した方のうち、以下のような後遺症状によって医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
- 気分の障害(抑うつ、不安等)
- 意欲の障害(低下等)
- 慢性化した幻覚性の障害又は慢性化した妄想性の障害
- 記憶の障害又は知的能力の障害
(17)循環器障害
- 心臓弁を損傷/心膜の病変の障害/人工弁に置換した方
障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方 - 人工血管に置換した方
人工血管に置換した方で症状固定し医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(18)呼吸機能障害
呼吸機能障害を残す方で障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(19)消化器障害
消化吸収障害等を残す方又は消化器ストマを造設し方で障害給付を受けている方又は受けると見込まれる方のうち医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
(20)炭鉱災害による一酸化炭素中毒
炭鉱災害による一酸化炭素中毒について療養補償給付を受けて症状固定した方で医学的に早期にアフターケアの実施が必要であると認められる方
労災のアフターケアの請求方法を解説
労災でアフターケアを受けるには、被災労働者の所属事業場を管轄する都道府県労働局に申請する必要があります。
アフターケア健康管理手帳の新規・更新手続
アフターケアを受けるためには、怪我が治ってから労働局長に「健康管理手帳交付申請書」を提出しなければなりません。労働局で審査を受け「決定通知」の受領後、「健康管理手帳」が届きます。
この健康管理手帳を提示して、労災保険指定医療機関でアフターケアを受診できるようになるのです。
労災のアフターケアの申請はいつまでか
健康管理手帳の申請は、怪我や病気が治った日の翌日から起算して、健康管理手帳の新規交付の有効期間として定められた期間内に行わなければなりません。
申請や更新できる期間は対象となる怪我や病気によって異なります。怪我や病気ごとに一覧にまとめてみましたので、以下の表をご確認ください。
せき髄損傷 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日からいつでも |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から5年間 |
頭頚部外傷症候群等 | 期間 |
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申請期間 | 治った日の翌日から2年間 |
有効期間 | 交付日から2年間 |
更新 | 更新不可 |
尿路系障害 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
慢性肝炎 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
眼疾患 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から2年間 |
有効期間 | 交付日から2年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
振動障害 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から2年間 |
有効期間 | 交付日から2年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
大腿骨頸部骨折及び股間接脱臼・脱臼骨折 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
人工関節・人工骨頭置換 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日からいつでも |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から5年間 |
慢性化膿性骨髄炎 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
虚血性心疾患等 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 虚血性心疾患:治った日の翌日から3年間 ペースメーカー等: 治った日の翌日からいつでも |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 虚血性心疾患:更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 ペースメーカー等: 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から5年間 |
尿路系腫瘍 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
脳の器質性障害 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から2年間 (脳血管疾患/有機溶剤中毒等の場合は3年間) |
有効期間 | 交付日から2年間 (脳血管疾患/有機溶剤中毒等の場合は3年間) |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
外傷による末梢神経損傷 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
熱傷 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
サリン中毒 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
精神障害 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
循環器障害 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 心臓弁損傷及び心膜病変:治った日の翌日から3年間 人工弁又は人工血管: 治った日の翌日からいつでも |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 心臓弁損傷及び心膜病変:更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 人工弁又は人工血管:更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から5年間 |
呼吸機能障害 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
消化器障害 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
炭鉱災害による一酸化炭素中毒 | 期間 |
---|---|
申請期間 | 治った日の翌日から3年間 |
有効期間 | 交付日から3年間 |
更新 | 更新前の手帳の有効期限が満了する日の翌日から1年間 |
通院費も認められる場合がある
対象となる傷病の類型は限定されているものの、アフターケアを受けるための「通院費」も一定の要件を満たした場合に支給されます。アフターケア制度は、手厚い保護が与えられているといえるでしょう。
まとめ
今回は、労災のアフターケアについて解説してきました。
アフターケア制度は、20個の傷病と限定されていますが、診察や検査が無料で受けられ、通院費まで補償される手厚い制度です。労災保険の給付とあわせて利用することで、労災事故後も安心して過ごすことができるでしょう。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了