介護事故における裁判の流れと有利な結果を得るための方法
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昨今、介護事故の裁判は、メディアで多く紹介をされています。しかし、介護事故で介護施設はどういった義務を負っているのか、裁判ではどういった点が争点になるのかなど詳しく説明されることはあまりありません。
本記事では、介護事故により裁判になった場合の基本的な法的知識について説明をいたします。
本記事がお役に立てれば幸いです。
目次
介護事故の類型・裁判までの流れ
介護事故といってもその態様は多々あり、ひとくくりにすることはできません。
また、介護事故が起こったらすぐに裁判を起こすというわけではなく、話し合いから始めることが多いです。
介護事故がどのようなものか、介護事故の発生から裁判までの流れをみていきましょう。
介護事故における多い事故の類型
介護事故で多い類型としては、転倒・転落事故、誤嚥誤飲事故、無断外出による事故、入所者間トラブルなどが考えられます。
また、介護サービスも、入所サービスだけでは無く、訪問サービスや通所サービスなどもあり、それぞれの介護サービスによって、起こりうる事故も変わってきます。
介護事故の発生から裁判までの流れ
介護事故が発生してから裁判になるまでの流れは、以下の通りです。
- 介護事故の原因について確認、調査
- 介護施設側との話し合い(示談交渉)
- 話し合いにより解決できないのであれば裁判所への訴訟提起
介護サービスの途中で介護事故が発生した場合、まずは、その原因について調査をしなければなりません。
介護中の事故であるため、基本的には介護施設がしっかりと原因を調査し、その結果を説明することが必要です。
しかし、調査結果が介護施設側にとって不利益な証拠となる場合には、介護施設がきちんと調査や説明を行わない恐れがあることに注意してください。
そのため、介護事故に遭われた被害者やその家族も、積極的に証拠の収集を行うべきでしょう。
十分に調査を行い、介護施設に問題があると考えた場合は、介護施設に対して、義務違反を理由に損害賠償等の請求をすることになります。
いきなり訴訟をすることも考えられるところではありますが、基本的には、まずは話し合いをすることから始めた方が良いでしょう。第三者を介入させた話し合いである調停という方法もあります。
介護事故の裁判において行うべき主張
裁判では安全配慮義務違反の主張がなされる
利用者側は裁判において、基本的に介護施設の安全配慮義務違反を理由とした債務不履行責任を追及することになるでしょう。
介護施設は、利用者との間になされている福祉契約にもとづいて、利用者が安全に介護施設を利用することができるように適切な配慮を行うという義務を有しています。
このような義務を安全配慮義務といい、安全配慮義務違反が認められる場合は介護施設に過失があると判断されるため、利用者側の債務不履行責任を主張することが可能となるのです。
裁判では、証拠や当事者からの尋問を通じて、安全配慮義務の有無について裁判官の心証形成がなされます。
もっとも、全ての裁判が判決まで行くものではなく、裁判官から和解を勧められるといったことも多いでしょう。
裁判における判断基準|安全配慮義務違反について
裁判上では、安全配慮義務違反の有無に関して互いの主張が異なり、争点となることが多いでしょう。この場合、損害賠償請求を提起している被害者が、安全配慮義務違反の存在について立証を行わなければなりません。
ここでは、安全配慮義務の判断基準について解説を行います。
危険を予見することができたのか
福祉契約における契約上の義務により、介護施設に安全配慮義務にあるということを解説しましたが、義務があるからといって全ての責任が介護施設にあるというわけではありません。
安全配慮義務違反があったかどうかを考える上では、危険を予見する事が出来たかという点が重要になります。危険を予見できたかと考えると、あらゆる危険を予見する義務が介護施設にあるように考える方もいらっしゃるかと思いますが、実務上はそのようには考えられておりません。
危険については抽象的なものでは無く、ある程度具体的な危険が予見されることが必要となります。
当然ながら、介護を受ける方は高齢の方が多いでしょう。抽象的には、施設内で怪我などをされる可能性はいつでもあることになります。
しかし、そう考えると、怪我をさせないためにするに施設職員は、手足を縛って動けなくする以外に方法は無くなり、十分な介護活動を行うことが出来ません。そのため、ある程度具体的な危険が求められるということになるのです。
予見できる危険を回避するために必要な行為があったのか
安全配慮義務における義務違反とは、予見可能性を前提とした上で結果を回避すべき義務をしっかりと果たしたのかという点になります。どのような義務があり、その義務に反していたかも具体的に考えなければなりません。
誤嚥事故を裁判例に挙げて解説をします。大阪高裁平成25年5月22日の判決では以下の点から、事業者(看護施設)側の安全配慮義務違反が認められました。
この事案は、Y施設に入所していたAが朝ご飯であるロールパンを誤嚥し、窒息死したという事案です。Yは、食事中に誤嚥のおそれをうかがわせる具体的症状は見られなかったこと、見回りなども適切に行っていたことを理由に安全配慮義務違反はないと主張をしました。
しかし、裁判所はAの診療情報提供書から、食後に嘔吐があったこと、誤嚥の危惧が予想されるものであると認定し、予見可能性を認め、食事中の見回りを頻回にし、ナースコールの手元配置等を講じる等するべき義務があったとし、義務違反も認定をしました。
ただし、この事案は一審では義務違反を認めないとの判断になっており、かなり難しい判断だったということがわかります。
以上のように、予見できた危険な結果を回避するために、現場の状況から十分な対応を取っていたと評価できるのかが重要となるでしょう。
裁判を起こすために必要な証拠・手続
前述したとおり、裁判では証拠の存在がとても大切になります。証拠としてどのようなものを収集すべきか、収集のために必要に応じて取りうる手続も解説をします。
介護記録、診療録
介護記録とは、以下のようなものをいいます。
- 利用者の住所等が記載されている「フェイスシート」
- 利用者の身体能力などが分析されている「アセスメントシート」
- 介護の計画が記載されている「介護計画書」
- 日常の介護状態等を記録する「介護経過記録」
- 事故の内容を報告した「事故報告書」
介護記録は介護事故の際、基本となる証拠になります。
また、診療録(カルテ)の記載も大変重要です。とくに被害者の怪我が介護事故によるものであるのか、因果関係が問題になってくる事案では、証拠として診療録の提出が必須になるでしょう。
要介護認定調査票・介護保険主治医意見書
要介護認定調査票には、介護施設を利用している方がどのような介護が必要なのかの調査事項が記載されております。この調査票を参考にすることで、安全配慮義務違反の検討に役立つでしょう。
介護保険主治医意見書とは、要介護認定を行う際に参考にされるもので、主治医による疾病等の意見が記載をされております。この意見書も上記の調査書と同様に義務違反の検討に役立ちます。
証拠保全手続の検討も検討しよう
これらの証拠は、本人が開示を求めれば、本来開示をされるべきものです。しかしながら、悪質な施設では証拠を改ざんするという可能性もあります。そういったことを防ぐためにも、証拠保全手続きを利用する事により、現状のままの資料を確認できます。
なお、裁判所に申請する際には、証拠保全対象となる資料は何か、証拠保全が必要となった理由などを併せて証拠保全手続を取る必要があります。これらは弁護士に任せることで、よりスムーズに進めることができるでしょう。
介護事故の裁判や証拠の収集は弁護士に依頼すべき
介護事故をめぐる裁判の争点は、施設側の安全配慮義務違反が認められるかどうかです。
それらを裁判を通して客観的に示すためには、法律の専門家である弁護士のサポートは心強いものとなるでしょう。
ここからは弁護士に介護事故の裁判対応を依頼するメリットと、無料の法律相談窓口を案内します。
弁護士に依頼するメリット
上述したように、介護事故において裁判を行う場合には、適切な証拠集めと、安全配慮義務違反の主張が必要です。
しかし、どちらも法的知識が必要であり、いち個人が判断するのは難しいでしょう。
また、介護事故に遭った利用者の治療と経験のない裁判の準備を並行することは困難を伴うものです。
特に、介護事故により利用者が死亡した場合には、請求できる金額も高額となる見込みです。証拠の収集や裁判手続きにミスが出ると、請求できる金額が大幅に低下してしまう恐れがあります。
そのため、介護事故の裁判を行う場合は法律の専門家である弁護士に依頼を行いましょう。
弁護士であれば、どのような証拠を集めるべきなのか、証拠の収集に向けて何をすべきなのかを知っているため、適切な証拠の収集を行ってくれます。
また、代理人として代わりに裁判手続きをおこなえます。依頼者は裁判所で証言するようなケースを除いて出廷する必要もなくなるので、利用者の治療に専念することが可能です。
無料の法律相談がおすすめ
介護事故でご家族を亡くされたり、重い障害が残った場合は、アトム法律事務所の無料法律相談をご利用ください。
裁判を行うために必要な証拠や、安全配慮義務違反の主張方法などについて費用の負担を気にせず相談を行うことが可能です。また、裁判だけでなく示談交渉によって解決に導ける可能性のある案件かどうかについてもお話しできるでしょう。
実際に弁護士に依頼するかどうかを悩んでいる方にとって、法律相談費用は低額におさえたいと思います。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了