労働基準監督署に訴える方法は?留意点と3つの方法を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

労働基準監督署に訴える方法は?留意点と3つの方法を解説

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労働基準監督署に訴える方法は?留意点と3つの方法

残業代の未払いや違法解雇など、会社が労働基準法に違反する行為を行っている場合、労働者は労働基準監督署にその事実を訴えることができます。

もっとも、労働基準監督署に訴えると、そのことが会社にバレるのではないか? バレてしまうと不利益な扱いを受けるのではないか? と心配になることもあるでしょう。労働基準監督署に労働問題を訴える場合には、その後のことも考えて慎重に動くことが大切です。

今回の記事では、労働問題を労働基準監督署に訴える方法とその際の留意点などを中心に解説します。

労働基準監督署に訴えることのできる問題とは

労働に関するトラブルは労働基準監督署に訴えることができます。
残業問題、パワハラをはじめとしたハラスメント、不当解雇など、労働トラブルの内容はさまざまです。

もっとも、訴えたからといって、労働基準監督署がすぐに動いてくれるとは限りません。

労働基準監督署は労働基準法違反の訴えに対応する

労働基準監督署は、管轄する企業が労働基準法を遵守して営業を行っているかどうかを監督する機関です。

そのため、労働基準法に違反している問題に対して対応可能となっています。労働基準法に違反する事実とは、具体的に以下のようなものとなります。

  • 賃金が支払われない
  • サービス残業をさせられており残業代の支払いがない
  • 休憩時間がもらえない・短い
  • 有給休暇が取得できない
  • 退職させてくれずに仕事を強要してくる
  • 法令で禁止されている理由で解雇された
  • 労災に遭ったのに会社が必要な対応を行わない

ただし、対応可能な問題であるとしても、労働基準監督署は法令違反の有無に関する調査や是正勧告になります。
会社との交渉を代わりに行ってくれるようなことはありません。

労働基準監督署に訴えることが難しい問題

一方、以下のような相談内容については、労働基準法に違反する行為ではないため、労働基準監督署に相談をしても解決に至らない可能性が高いです。

  • 職場でパワハラやセクハラにあっている
  • 育児・介護休業を取らせてくれない
  • 配置転換に納得がいかない

このように、労働基準監督署はあくまで労働基準法に違反する企業を取り締まる機関であるため、労働基準監督署に訴える場合には、問題となっている事実が労働基準法に関係することかどうかを確認する必要があります。

労働基準監督署への訴えでは解決しない問題については、法律の専門家である弁護士に相談するべきでしょう。
弁護士に依頼する場合には、相談料や着手金などの弁護士費用が掛かることに注意してください。

労働基準監督署に訴える方法

労働基準監督署に訴える場合の流れは、以下のようになります。

労働基準監督署に訴える|方法は3通り

訴えるための事前準備が整ったら、実際に労働基準監督署に訴えます。
訴える方法は、直接労働基準監督署に出向いて訴える方法、電話で訴える方法、メールで訴える方法の3通りです。

労働基準監督署に直接訴える

労働基準監督署に出向いて訴える場合、会社の所在地を管轄する労働基準監督署または自宅付近にある労働基準監督署のいずれでも訴えることができます。

労働基準監督署の所在地については厚生労働省のホームページで確認可能です。

もっとも、労働基準監督署が動いている時間帯は平日の午前9時から午後5時までであることが多いでしょう。
仕事との関係で都合がつかない場合は、有給を取得して出向くか、もしくは、他の方法で訴えることを検討することが必要です。

労働基準監督署に直接訴える際には、「相談できました」ではなく「申告できました」と告げることをおすすめします。
相談であると判断されると、話を聞いたうえで解決策を示してくれるだけで、会社に対して何らかの対処を取ってくれない可能性が高いためです。

電話で訴える

電話で訴える場合は、厚労省が設置している「労働条件相談ほっとライン」を利用します。労働条件相談ほっとラインは、労働者が抱えている問題について専門の相談員が対応を行う電話相談です。

もっとも、労働条件相談ほっとラインはあくまで相談窓口ですので、一般的な解決方法を助言してくれるのみで、会社に対して直接指導を行ってはくれません。
そのため、会社に対して何らかの働きかけをして欲しいという方は、労働基準監督署に直接出向くことをおすすめします。

なお、労働条件相談ほっとラインは、夜間も対応していますので、日中は仕事で都合がつかないという方も利用でき、匿名で相談することも可能です。

メールで訴える

メールで訴える場合には、厚生労働省サイトの「労働基準関係情報メール窓口」を利用しましょう。
メール相談は24時間受付ているため、休日でも行えるというメリットがあります。

もっとも、メールで送信した情報は、関係する労基署において、立入調査対象の選定に活用されるにとどまり、送信情報に関する照会や相談には対応してくれません。
そのため、電話で訴える場合と同様、会社に対する働きかけを求めている場合には、労働基準監督署に直接出向くことを検討してみてください。

労災保険を利用したいだけなら訴える必要まではない

労災に遭ったために会社側が労災保険を利用するための対応を行ってくれない場合も、労働基準監督署に訴えることのできる問題です。

しかし、労災保険を利用して労災保険給付を受けるだけなら、労働基準監督署に申請手続きを行うだけで十分なため、訴える必要まではありません。
具体的な手続きに関しては『労災申請で会社が認めない時の対処法。労災の認定基準や給付の種類も解説』の記事をご覧ください。

もっとも、会社が労災保険の申請手続きに協力してくれない、いわゆる労災隠しを行っていることを申請の際に労働基準監督署に伝えることになるので、訴えた場合と同様の対応を労働基準監督署が行う可能性があることに注意しましょう。

労働基準監督署に訴えるために準備すべきこと

既に見たように、労働基準監督署に訴えたからといって、すべてのケースにおいて労働基準監督署が動いてくれるわけではありません。
そのため、労働基準監督署に動いてもらえるために準備すべきことや、ポイントについて解説します。

証拠を集めよう

そのため、まずは、会社が労働基準法に違反していることを裏付ける証拠をできるだけ多く収集することが重要です。
労働基準法に違反する事実を裏付ける証拠があれば、悪質な法令違反があるとして労働基準監督署が優先的に動いてくれる可能性は高まります。

たとえば、残業代が未払いとなっている場合は、以下なような証拠を揃えましょう。

  • 勤怠状況がわかるタイムカードや業務日報
  • 残業代が未払いであることがわかる給与明細
  • 残業代の計算根拠となる雇用契約書

労働基準法に違反する事実が存在し、その事実を裏付ける証拠があれば、労働基準監督署が積極的に動いてくれる可能性は高いです。

訴えたい内容を整理しよう

証拠を集めたのであれば、証拠をもとに、会社にどのような違法行為が存在し、どのような被害が発生しているのかを整理しましょう。

労働基準監督署側としても、どのような違法行為が行われているのかが分かりやすいと、適切な対応を取りやすくなります。

労働基準監督署に訴えると会社にバレる?

労働基準監督署に訴えようという思いは強いものの、訴えたことが会社にバレるて、何らかのデメリットが生じるという点が不安になって躊躇することもあるのではないでしょうか。

会社にバレるとクビになるのでは? と思っている人もいらっしゃるかもしれません。

事実上、不利益な扱いを受ける可能性がある

労働問題を労働基準監督署に訴えた場合、その事実が疑われるだけの証拠が揃っているようなときには、労働基準監督署が調査に乗り出す可能性は高いです。調査の過程で、労働基準監督署に訴えたということが会社にバレる可能性はあります。

もっとも、労働者が労働基準監督署に訴えたことをもって、会社がその労働者に対し減給を命じたり解雇したりすることは労働基準法で禁止されています(労働基準法104条2項)。
仮に、このルールに違反した場合、会社は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性があります(労働基準法119条1号)。

このように、法律上は労働基準監督署に訴えたことを理由に不利益な扱いを受ける可能性は低いといっていいですが、事実上、不利益な扱いを受ける可能性はあります。たとえば、上司から嫌がらせを受けたり、仕事を与えられなくなったりする可能性がゼロとはいえません。

労働基準監督署への訴えは慎重に判断することが大切

労働基準監督署が会社に是正勧告を行うことにより、職場環境が改善されるケースもあります。

ですが、事がうまく進むとは限りません。労働基準監督署に訴えたことにより事実上、不利益な扱いを受けたり、会社との争いに発展したりする可能性もあります。
このような事態になると、本人にとっては会社に出勤すること自体、精神的負担となりますし、一個人が会社という組織を相手に一人で立ち向かっていくことためには相当のエネルギーが必要です。

このように、労働基準監督署への訴えを検討する場合には、その後自身が置かれる状況も考慮したうえで、最終的な判断を行うことが必要になります。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了