相続で預金を引き出す方法は?死亡後のリスクと仮払い制度を解説

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家族が亡くなった後、口座がまだ凍結されていなくても、故人の預金を無断で引き出すことは避けるのが安全です。他の相続人とのトラブル、相続放棄への影響、相続税申告で使途を確認されるリスクがあります。

葬儀費用や当面の生活費が必要な場合は、相続人が単独で一定額の払戻しを受けられる「預貯金の仮払い制度」を利用できる可能性があります。

この記事では、相続で預金を引き出す方法について、口座凍結前に引き出すリスク、仮払い制度の150万円の上限と必要書類、口座の解約・払戻し手続きまで状況別に解説します。

※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。

被相続人の死亡後、口座凍結前に預金を引き出してもいい?

相続人の間でのリスク|トラブルになる可能性がある

被相続人の死亡後、口座の預金は相続財産の対象となります。

しかし、被相続人が亡くなってから遺産分割が決まる前に相続人の1人が無断で多額を引き出した場合、他の相続人から「遺産の使い込み」として不当利得返還請求や損害賠償請求を起こされる可能性があります。

遺産分割の話し合いが争いに発展するケースも少なくありません。

すでに使途が明確でない引き出しが行われている場合は、早めに相続人全員で話し合い、記録を残しておくことが重要です。トラブルが起きた場合や起きそうな場合は、弁護士への相談を検討してください。

税務的なリスク|使途不明金として指摘される可能性

被相続人の死亡後に口座から引き出した預金は、相続開始時に存在していた預金を現金化したものです。引き出しただけで相続財産から外れるわけではありません

一方、死亡前に引き出した預金は、相続開始時の状況に応じて扱いが異なります。

相続開始時に残っていた現金は、手許現金として相続財産に含まれます。被相続人の生活費や医療費などに使われ、相続開始時に残っていない金額は、原則として引出額そのものを相続財産に加算しません。

ただし、現金の使途や残額を説明できないと、相続開始時にも現金が残っていたのではないかと税務署から確認を受けることがあります。特に、多額の現金を引き出しているにもかかわらず、使途や残額が不明な場合は、使途不明金として指摘されるおそれがあります。

相続税の税務調査では、相続開始前後の預金口座の入出金履歴も確認の対象です。死亡直前や死亡後まもなく多額の引出しがあると、その現金の保管場所や管理者について説明を求められることもあるでしょう。

たとえば、次のようなケースには注意が必要です。

  • 死亡直前または死亡後に多額の現金を引き出している
  • 引き出した現金の使途を説明できない
  • 引き出した現金を相続財産として申告していない

申告漏れが判明した場合は、不足する相続税を追加で納めなければなりません。

期限内に申告していた場合は過少申告加算税、期限内に申告していなかった場合は無申告加算税の対象となる可能性があります。さらに、隠ぺいや仮装が認められた場合は、過少申告加算税または無申告加算税に代えて重加算税が課されることがあり、納付時期に応じて延滞税も生じます。

預金の引き出しと重加算税に関する裁決例

被相続人の預金から引き出した現金を相続財産として申告しなかった場合でも、直ちに重加算税が課されるとは限りません。重加算税の対象となるかは、現金を相続財産と認識していたか、税理士へどのような説明や資料提供をしたか、隠ぺいや仮装に当たる行為があったかなどを踏まえて判断されます。

過去の事例では、相続人が被相続人の口座から引き出した現金を保管し、相続開始時に相続財産であると認識していたにもかかわらず、その全額を税理士へ説明せず、一部を申告していなかったことが問題となりました(平成28年4月19日裁決)。

国税不服審判所は、税理士に渡した資料に現金の正確な残額が記載されておらず、現金の存在や金額も十分に説明していなかったことなどから、一部を隠ぺいしたと判断し、重加算税の適用を認めました。

一方、重加算税の適用が認められなかった事例もあります。この事例では、被相続人が倒れた後に親族が預金を引き出し、親族名義の口座へ入金していたことが問題となりました(平成30年3月29日裁決)。

引き出した金銭の大半または一部は、被相続人の葬式費用や法要費用などに使われていました。また、申告を担当した税理士は、相続人に預金通帳の提示や相続開始前後の入出金の説明を求めていませんでした

国税不服審判所は、相続人が引き出した金銭を相続財産と十分に認識していたとは認めにくいと判断しました。当初から過少申告する意図や、その意図を外部からうかがえる行動も認められないとして、重加算税の適用を認めていません

死亡前後に多額の預金を引き出した場合は、通帳や出金記録、領収書、現金の残額を整理し、相続税申告を依頼する税理士へ正確に伝えましょう

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相続上のリスク|相続放棄ができなくなる可能性がある

被相続人の預金を勝手に引き出して使用した場合、相続放棄が認められなくなる可能性があります。

相続放棄は、相続財産を一切受け継がないことを前提とした制度です。そのため、相続人が被相続人の財産を処分したり、自分のために使ったりすると、「相続を承認した」とみなされることがあります。

相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合は、民法上、単純承認をしたものとみなされることがあります。単純承認が成立すると、その後に相続放棄をすることはできません。

特に問題となりやすいのは、次のようなケースです。

  • 被相続人の預金を生活費や借金返済などに充てた
  • 引き出した預金を自分名義の口座へ移した
  • 引き出した現金を相続人間で分けた

ただし、どのような場合に相続放棄が認められるかは個別の事情によって判断されます。相続放棄を検討している場合は、安易に預金を引き出したり使用したりせず、事前に弁護士などの専門家へ相談することが重要です。

【補足】葬儀費用への充当は認められる?

葬儀費用を被相続人の預金から支払いたいというケースもあるでしょう。

実務上は、葬儀費用への充当であることが明確であり、かつ金額が常識的な範囲内であれば、他の相続人が問題にしないケースも多いです。

また、葬儀費用や入院費、介護費用など、被相続人に関する必要な支出のために預金を引き出した場合は、直ちに単純承認と判断されるとは限りません。

しかし、トラブルを避けるためにも事前にほかの相続人に相談したり、税理士などの専門家に確認をとったりすることがおすすめです。

なお、葬儀費用は故人が残した債務(借金など)とは異なりますが、相続税の計算上は葬式費用として遺産総額から差し引くことができます。

詳しくは関連記事『葬式費用は相続税で控除できる!どこまでが対象か、控除できる人は誰かも解説』をご確認ください。

被相続人の死亡後に引き出した預金に相続税はかかる?

凍結前・凍結後にかかわらず、故人の預金は相続財産として相続税の課税対象になります。「引き出してしまったから申告しなくていい」ということにはなりません。

相続税の申告では、相続開始時点で被相続人が所有していた預金や現金を確認します。死亡後に引き出した預金は、死亡時点の預金残高に含まれているため、相続財産として申告が必要です。

死亡前に引き出した預金は、相続開始時に現金として残っていれば手許現金として相続財産に含まれます。一方、死亡前に被相続人の生活費や医療費などとして使用され、相続開始時に残っていなければ、その引き出し額を一律に相続財産へ加算するわけではありません。

使途と残額を確認できるよう、領収書や出金記録を保管しておくことが重要です。

なお、相続税の課税価格の合計額が基礎控除額以下である場合は、原則として相続税の申告・納付は不要です。

相続税の基礎控除

3,000万円+600万円×法定相続人の数

  • 相続放棄した人も、法定相続人の数に含められます
  • 養子がいる場合、実子がいれば1人まで、いなければ2人まで法定相続人の数に含められます

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預貯金の相続税は?申告時の注意点や引き出す手続きを解説

預貯金の仮払い制度とは?150万円まで引き出せる仕組み

預貯金の仮払い制度とは?

2019年施行の改正民法により、「遺産分割前の預貯金債権の払戻し制度」が設けられました。

各相続人は、金融機関所定の手続きにより、遺産分割の協議が完了する前でも、一定限度で単独払戻しを求めることができます。

急ぎの葬儀費用や生活費の支払いを、相続手続きが完了するまで待てない方にとって、大変有用な制度です。

ただし、遺言の内容や金融機関の取扱いによっては、仮払い制度の利用に制限が生じる場合があります。詳細は金融機関へ確認しましょう。

また、仮払い制度で受け取った金銭を自己のために消費した場合などは、単純承認に該当すると判断される可能性があります。相続放棄を検討している場合は、事前に弁護士へ相談しましょう。

預貯金の仮払い制度の上限額

仮払い制度で引き出せる金額の上限は、以下の通りです。

各口座の相続開始時の預貯金残高 × 1/3 × 払戻しを求める共同相続人の法定相続分

各口座について上記の計算式で払戻し可能額を求めます。ただし、1人の共同相続人が同一の金融機関から単独で払戻しを受けられる金額は、各口座の計算額を合算して150万円が上限です。

複数の金融機関に口座がある場合は、それぞれの金融機関ごとに上限額を計算します。

計算例

条件内容
故人の預金残高(A銀行)600万円
法定相続人配偶者(法定相続分1/2)と子2人(各1/4)
配偶者が引き出せる金額600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円
子1人が引き出せる金額600万円 × 1/3 × 1/4 = 50万円

この例では、配偶者は100万円、子それぞれは50万円まで引き出せます(いずれも150万円の上限以内)。

150万円を超える預金が必要な場合

金融機関の窓口で相続人が単独で利用できる仮払い制度には、同一の金融機関につき150万円の上限があります。ただし、実際に払い戻せる金額は、口座ごとに「相続開始時の預貯金残高 × 1/3 × 払戻しを求める共同相続人の法定相続分」で計算した額までです。

窓口で払い戻せる金額を超える資金が必要な場合は、遺産分割の調停または審判を申し立てたうえで、家庭裁判所へ預貯金の仮分割の仮処分を申し立てる方法があります。

家庭裁判所が、生活費や葬儀費用などのために払戻しが必要であり、ほかの共同相続人の利益を害さないと認めたときは、裁判所が定める金額の払戻しを受けられます。

この手続きは、金融機関の窓口で利用する仮払い制度とは、要件や必要書類が異なります。窓口で払い戻せる上限を超える資金が必要な場合は、申立ての前に弁護士へ相談するとよいでしょう。

仮払い制度の手続きでの必要書類

仮払い制度を利用するには、金融機関の窓口で手続きを行います。必要書類は金融機関により異なりますが、一般に以下が求められます。

  • 被相続人の改製原戸籍、除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 預金の払い戻しを希望する相続人の印鑑証明書

金融機関によって必要書類が異なる場合があるため、事前に窓口または電話で確認することをおすすめします。

仮払い制度で受け取った金額は遺産分割でどう扱う?

仮払い制度を利用して引き出した金額は、その相続人が遺産の一部を先に受け取ったとみなされます。そのため、最終的な遺産分割において、その分は受け取り済みとして精算されます。

遺産分割が完了した後に「仮払いで受け取った分が多すぎた」となるケースもあるため、引き出す金額は必要最小限にとどめることがおすすめです。

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相続で預金を正式に引き出す手続きと必要書類

口座の解約・払い戻し手続きの流れ

預金の取得者が確定した後は、金融機関に相続手続きを申し出て、口座の解約や払い戻しを受けます。手続きの根拠は相続の状況によって異なり、遺言書、遺産分割協議書、法定相続分、家庭裁判所の調停調書・審判書などに基づいて進めます。

大まかな流れは以下のとおりです。

  1. 必要書類の準備
  2. 銀行所定の相続届と必要書類を提出
  3. 口座が解約され預金が払い戻される、あるいは名義変更が完了する

なお、代表相続人が手続きを行い払い戻しを受ける場合、預金はいったん代表相続人がすべて受け取り、その後に各相続人に分配されます。

詳しくは関連記事『代表相続人とは?役割・選び方・遺産分割協議書への記載方法』にてご確認ください。

口座の解約・払い戻し手続きの必要書類

口座の解約・払い戻しに必要な書類は、手続きの根拠や金融機関によって異なります。一般的には、次のような書類が必要です。

遺言書がある場合

  • 遺言書
  • 検認調書または検認済証明書(公正証書遺言や法務局の遺言書保管制度を利用した遺言書など、検認が不要な場合を除く)
  • 被相続人の死亡を確認できる戸籍謄本など
  • 預金を取得する人の印鑑証明書
  • 遺言執行者の印鑑証明書や選任審判書謄本(遺言執行者が手続きをする場合)
  • 銀行所定の相続届

遺産分割協議書に基づく場合

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 法定相続人全員が署名・実印を押した遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 銀行所定の相続届

法定相続分または調停・審判に基づく場合

法定相続分に基づく場合は、被相続人と相続人の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書などが必要になります。家庭裁判所の調停・審判に基づく場合は、調停調書謄本や審判書謄本、預金を取得する人の印鑑証明書などが必要です。

金融機関や相続の状況によって追加書類を求められることがあるため、手続きを始める前に取引金融機関へ確認しましょう。

法定相続情報証明制度の活用

複数の金融機関で手続きを行う場合、戸籍謄本の束を何セットも用意するのは大変です。そのような場合は、「法定相続情報証明制度」の活用をおすすめします。

法務局に一度書類を提出すれば、相続関係を一覧にした「法定相続情報一覧図」の写しを複数枚交付してもらえます。各金融機関に戸籍謄本の原本を提出する手間が省け、手続きがスムーズになります。

被相続人の死亡後の預金引き出しについてよくある質問

Q. 相続預金を150万円より多く引き出す方法はある?

遺産分割の調停や審判を申し立てている場合は、家庭裁判所へ仮分割の仮処分を申し立てる方法があります。生活費や葬儀費用などの必要性があり、他の相続人の利益を害しないと認められた範囲で払戻しを受けられます。

Q. 被相続人の死亡直前に引き出した預金は相続税の対象になる?

相続開始時に現金として残っていた金額は、手許現金として相続税の対象になります。死亡直前に引き出した預金であっても、被相続人の手元や自宅、貸金庫などに残っていれば、申告が必要です。

一方、死亡前に被相続人の生活費や医療費などとして実際に使われ、相続開始時に残っていない金額まで、一律に相続財産となるわけではありません。

税務署は必要に応じて預金口座の入出金履歴を確認します。死亡直前に多額の引出しがある場合は、現金の保管場所や使途を説明できるよう、領収書などの資料を残しておきましょう。

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まとめ|被相続人の預金の引き出しは適切に

被相続人の死亡後、口座が凍結される前であっても、預金を安易に引き出すことはおすすめできません。無断で引き出した場合、他の相続人とのトラブルに発展するだけでなく、相続税の申告において使途不明金を疑われたり、相続放棄ができなくなったりするリスクがあります。

一方で、葬儀費用や当面の生活費など緊急の支出が必要な場合には、「預貯金の仮払い制度」を利用することで、一定額を単独で引き出すことが可能です。

預金の取得者が決まった後は、遺言書、遺産分割協議書、法定相続人全員による手続、家庭裁判所の調停調書・審判書など、相続の状況に応じた必要書類を金融機関へ提出し、口座の解約や預金の払い戻しを受けます。

被相続人の預金は相続財産であり、引き出した後も相続税の課税対象となります。トラブルや申告漏れを防ぐためにも、引き出しの必要性や方法を慎重に検討し、不安がある場合は税理士や弁護士などの専門家に相談しましょう。

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