代表相続人とは?役割・選び方・遺産分割協議書への記載方法

代表相続人とは、相続人の代表として、被相続人の預貯金の解約・払い戻しの手続きなどを行う人のことです。
代表相続人を立てた場合、代表相続人が指定した口座へ預貯金を一括して払い戻す運用が採られることが一般的ですが、金融機関によって取扱いは異なります。払い戻された預貯金は、その後、代表相続人から各相続人へ分配されます。
また、遺産分割協議書の作成や、金融機関所定の相続手続書類・委任状(必要な場合)の準備なども必要になります。
この記事では、代表相続人の意味や役割、決め方をはじめ、遺産分割協議書の記載例、他の相続人への分配方法、分配時の振り込み手数料の扱いまで、実務上の疑問を網羅的に解説します。
※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。

目次
代表相続人(相続人代表者)とは?
代表相続人とは、相続の実務、特に金融機関での預貯金の解約・払い戻し手続きにおいて、複数の相続人を代表して手続きを進める人を指します。
被相続人(亡くなった方)が亡くなった後に口座が凍結されると、預貯金の解約や払い戻しといった手続きが必要になります。
この際、相続人全員が手続きに関わるよう求められることが多いですが、相続人が複数いる場合、全員が一度に窓口へ行くのは現実的ではありません。
そこで相続人の中から1人が窓口担当として選ばれ、他の相続人から委任を受けて手続きを進める役割を担います。これが「代表相続人」です。
代表相続人は民法などで定められた法的な立場ではなく、金融機関の手続きを円滑に進めるために実務上選ばれる人です。
代表相続人は、必要に応じて以下のようなことを行います。
代表相続人の役割
- 被相続人の預貯金の解約・払い戻し手続き
- 固定資産税の納税通知書の受け取り
- 不動産の相続登記に向けた手続きのとりまとめや、司法書士との窓口対応
なお、「相続人代表者」という言葉が使われる場面もあります。例えば、固定資産税では多くの市区町村が納税通知書などの送付先として相続人代表者の届出を求めています。
また、相続税など国税についても、共同相続人が複数いる場合は、税務署から送付される書類を受け取る代表者を定める制度があります。
これらは金融機関でいう「代表相続人」とは目的や根拠が異なるため、本記事では主に金融機関での預貯金手続きにおける代表相続人について解説します。
代表相続人の決め方・選定方法
全員の合意が大前提
代表相続人は法律上の制度ではないため、法的に決め方が定められているわけではありません。
しかし、金融機関で手続きを行う際には、ほかの相続人全員の合意を証明する書類の提出が求められるため、実務上は「相続人全員の合意」が不可欠です。
これは、被相続人が亡くなってから遺産分割が成立するまでの間、預貯金を含む相続財産が相続人全員の共有に属するためです(民法第898条)。共有財産である以上、一部の相続人が単独で解約・払い戻しをすることは原則としてできません。
代表相続人を決める流れは以下の通りです。
- 相続人全員で話し合いをして、誰を代表相続人とするか決める
- 他の相続人が代表相続人に対して委任状を作成・交付(金融機関が求める場合)
- 必要に応じて、遺産分割協議書に代表相続人が払い戻しを受ける旨を記載する(金融機関によって要否が異なる)
代表相続人に向いている人の特徴
代表相続人は、金融機関や市区町村役場などでの手続きを責任をもって進めていかなければなりません。
また、被相続人の預貯金の解約・払い戻しの手続きをした場合、多くの金融機関では、預貯金はいったん代表相続人の口座へ払い戻されます。
したがって実務上は、次のような事情を考慮して選ばれることが多いです。
- 被相続人の生前の財産管理に関わっていた
- 金融機関や市区町村役場に行きやすい場所に住んでいる
- 相続人の中で最も時間的な余裕がある
- 他の相続人から信頼されている
長男・長女が選ばれることが多い傾向はありますが、代表相続人としての役割をきちんと果たせそうかという点を踏まえ、全員の合意のもと選出するようにしましょう。
代表相続人が準備すべき書類・委任状
金融機関や役場に提出する書類
たとえば代表相続人として預貯金の解約・払い戻し手続きを行う際、金融機関から求められる主な書類は以下のとおりです。
| 書類 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 被相続人の戸籍謄本(除籍謄本) | 出生から死亡まで連続したものが必要な場合あり |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 現在の戸籍が必要 |
| 遺産分割協議書 | 相続人全員の署名・実印押印済みのもの |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 発行から3~6か月以内のものを求められることが多い |
| 代表相続人の本人確認書類 | 運転免許証・マイナンバーカード等 |
| 委任状 | 他の相続人から代表相続人への委任を証明する書類 |
| 通帳・キャッシュカード | 被相続人名義のもの(紛失の場合は申告) |
また、代表相続人が固定資産税の納税通知を受け取る手続きをする際には、以下のような書類が必要です。
| 書類 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 相続人代表者指定届出書 | 各自治体の窓口やホームページからダウンロードできる |
| 代表者の本人確認書類 | 運転免許証・マイナンバーカードなど |
| 戸籍謄本 | 自治体によっては不要な場合もある |
具体的な必要書類は金融機関や市区町村役場によっても異なることがあります。必ず事前に確認しておきましょう。
委任状に記載する内容
委任状は、他の相続人が代表相続人に対して「自分の代わりに手続きをしてよい」と権限を与える書類です。金融機関によっては所定の様式が用意されている場合があります。
委任状に記載すべき主な内容は以下のとおりです。
- 委任者(ほかの相続人)の氏名・住所・生年月日・実印
- 受任者(代表相続人)の氏名・住所
- 委任する内容(預貯金の解約・払い戻し手続き一切など)
- 対象口座の情報(銀行名・支店名・口座番号)
- 日付
委任状の要否や様式は金融機関ごとに異なります。遺産分割協議書と所定の相続届のみで手続きできる場合もあるため、口座が複数の金融機関にある場合は、それぞれの窓口で必要書類を確認しましょう。
遺産分割協議書への代表相続人の書き方・記載例
金融機関にて凍結された口座の払い戻し手続きをする際、金融機関から「遺産分割協議書に代表相続人が払い戻しを受ける旨の記載が必要」と言われることがあります。
よって、以下のような内容を遺産分割協議書の中に盛り込みましょう。
第〇条(預貯金の払い戻し) 被相続人〇〇〇〇(以下「被相続人」という。)が有していた下記の預貯金については、相続人〇〇〇〇(以下「代表相続人」という。)が相続人全員を代表して払い戻し手続きを行い、払い戻した金員を各相続人の法定相続分(または協議により定めた割合)に従い分配する。
〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇 口座名義 〇〇〇〇
金融機関等の手続きでは、合わせて相続人全員の署名(または記名)と実印の押印、および印鑑証明書の添付を求められるのが一般的です。具体的な要件は取扱機関の指示に従ってください。
遺産分割協議書の記載内容が不十分だと手続きが進まないこともあります。不安な場合は専門家に作成を依頼することも選択肢のひとつです。
代表相続人への預貯金入金後の分配方法・手順
代表相続人の口座に預貯金が入金された後の流れ
被相続人の預貯金の解約・払い戻しの手続きをすると、通常、預貯金は代表相続人が指定した口座に一括で入金されます(金融機関によって取扱いが異なります)。その後、遺産分割協議書の内容に従って、各相続人に分配する必要があります。
手順の流れは以下のとおりです。
- 遺産分割協議書で各相続人の取り分を確認する
- 各相続人の振り込み先口座情報を確認する(口座番号・名義人名等)
- 振り込み手続きを行う(インターネットバンキングまたは銀行窓口)
- 振り込み明細・記録を保管する(後日のトラブル防止のため)
- 分配完了を相続人全員に連絡する
代表相続人からの分配に贈与税はかかる?
遺産分割協議書に基づいた分配であれば、代表相続人からの振り込みを受けても原則として贈与税はかかりません。
代表相続人から他の相続人への振り込みは「贈与(自分の財産を無償で与えること)」ではなく、遺産分割の結果として各相続人が本来受け取るべき財産を渡しているにすぎないからです。税務上も、遺産分割に基づく分配は相続として扱われます。
贈与税が課税されるリスクがあるケース
ただし、次のような場合は、代表相続人から受け取った預貯金が贈与とみなされ、贈与税が課される可能性があります。
これは、対価を支払わずに利益を受けた場合には、贈与によって取得したものとみなして贈与税が課されることがあるためです(相続税法第9条)。
- 遺産分割協議書に不備がある
分配の根拠が曖昧だと、遺産分割による取得ではなく贈与と判断される可能性 - 協議書の内容と異なる金額を分配した
協議のやり直しや代償分割などの正当な法的根拠がないまま、協議書で定めた内容を超える財産を渡すと、超過分が贈与と評価されるおそれ - 相続や遺贈による取得者以外に分配した
相続人や受遺者以外の人へ無償で財産を渡した場合は、贈与に該当する可能性
こうしたリスクを避けるには、遺産分割協議書に「代表相続人が代表して払い戻しを受け、各相続人へ分配する」旨を記載しておくことが大切です。
また、払い戻しから分配までの流れが通帳などの記録で確認できるようにしておくと、遺産分割に基づく分配であることを説明しやすくなります。
代表相続人からの振り込み手数料はどちらが負担する?
代表相続人が預貯金を各相続人へ振り込む際にかかる手数料について、法律上、誰が負担するかを定めた明確なルールはありません。 基本的には、相続人同士で話し合って決めます。
実務では、次のような方法がよく採られています。
- 遺産全体から差し引く
振り込み手数料を遺産総額から差し引いたうえで、残額を分配する - 受け取る相続人が負担する
各相続人へ振り込む金額から、振り込み手数料を差し引いて送金する - 代表相続人が立て替え、後で精算する
代表相続人がいったん手数料を負担し、その後、相続人間で精算する
振り込み手数料は、あとから意見が食い違いやすいポイントです。
払い戻しの手続きを始める前に、誰がどのように負担するかを相続人全員で確認しておきましょう。金額が大きい場合は、メールや書面など記録が残る形で合意内容を残しておくと安心です。
代表相続人からの分配の期限は?分配しない時はどうする?
代表相続人からの分配の期限
代表相続人が預貯金を受け取ったあと、いつまでに各相続人に分配しなければならないかについては、法律上特に決まってはいません。
ただし、相続税の申告・納税期限は「被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内」なので、それまでに預貯金を含めた相続財産をどう分配するのか決め、分けておくことが重要です。
遺産分割が間に合わない場合は?
期限までにどう遺産分割するか決まらなかった場合は、「未分割」として相続税申告をすることが可能です。
ただし、この時点では配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などは使えません。
相続税の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して相続税申告書と一緒に提出しておき、3年以内に遺産分割を成立させたうえで、「分割が成立した日の翌日から4か月以内」に更正の請求をすれば、後から特例を適用できます。
「申告期限後3年以内の分割見込書」は後から単独で提出することはできません。
やむを得ない理由により3年経っても遺産分割が成立しない場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出しましょう。
やむを得ない事情がなくなった後に遺産分割をし、分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることで、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できます。
なお、承認申請書は申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に提出する必要があります。
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代表相続人が分配しない時の対処法
代表相続人が遺産分割協議書に定められた分配を行わない場合、まずは話し合いでの解決を試みましょう。分配がされない背景に、何か事情があるかもしれないからです。
代表相続人に払い戻し手続きを任せた場合、その法律関係は委任として扱われることが多く、受任者は委任事務で受け取った金銭を委任者に引き渡す義務を負います(民法第646条第1項)。
そのため、正当な理由なく分配が行われない場合は、遺産分割協議書の内容に従って支払いを求めることができます。
話し合いで問題が解決されない場合は、以下のような対応を検討してみてください。
- 内容証明郵便で正式に分配(支払い)を請求する
- 遺産分割協議がまだ成立していない場合は、遺産分割調停を申し立てる
- 協議書どおりに支払われない場合は、履行を求める民事訴訟を検討する
調停と訴訟が分かれるのは、遺産分割協議書が有効に成立すると、原則として相続人全員の合意がない限り協議をやり直せないためです。
協議成立後の未分配は「遺産の分け方の争い」ではなく「決まった支払いが実行されない問題」となるため、家庭裁判所の遺産分割調停ではなく、地方裁判所・簡易裁判所での民事訴訟が受け皿になります。
代表相続人に関するよくある質問
Q. 代表相続人は変更できますか?
相続人全員が合意すれば、代表相続人を変更することは可能です。
ただし、すでに金融機関に届け出ている場合は、改めて変更の手続きが必要になることがあります。
Q. 代表相続人を複数人選ぶことはできますか?
金融機関の実務上は1名が一般的ですが、相続人間で合意があれば複数名で対応することも理論上は可能です。
ただし手続きが複雑になるため、1名に絞るほうがスムーズです。
Q. 委任状がなくても代表相続人は手続きできる?
金融機関によっては、委任状がなくても相続人全員が署名・実印押印した遺産分割協議書と所定の相続届で払い戻しに対応する場合があります。
必要書類は各金融機関の相続手続き窓口で事前に確認しましょう。
Q. 固定資産税の相続人代表者指定届出書を出さないとどうなる?
相続人代表者を届け出る書類(指定届出書)を提出しない場合、市区町村が相続人のうち1人を指定して納税通知書を送付します(地方税法第9条の2)。
意図しない相続人に通知が届くのを避けるため、代表者を決めて届け出るのが確実です。
まとめ|代表相続人の役割と注意点
代表相続人は、相続人全員を代表して預貯金の解約・払い戻しなどの手続きを進める実務上の役割です。
法律上の正式な地位ではありませんが、金融機関とのやり取りや相続人間の調整を担う重要な存在となります。
特に、払い戻された預貯金を各相続人へ分配する際には、遺産分割協議書の内容に沿って適切に対応することが大切です。協議書がないまま分配すると、贈与税の問題や相続人間のトラブルにつながるおそれもあります。
また、振り込み手数料の負担方法など細かな点も事前に話し合っておくと安心です。相続手続きを円滑に進めるためにも、相続人全員で十分に合意形成を図りながら進めましょう。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士
