取得費加算の特例とは?計算式・要件をわかりやすく解説【チェックシートあり】

取得費加算の特例とは、相続した不動産や株式などを売却したときに、支払った相続税の一部を取得費に加算し、譲渡所得にかかる税負担を抑えられる制度です。正式には「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」といいます。
ただし、相続税を支払っていれば必ず使えるわけではありません。相続や遺贈によって取得した財産であることや、原則として相続開始から約3年10か月以内に売却することなど、一定の要件があります。
この記事では、取得費加算の特例の適用要件や計算式をわかりやすく解説するとともに、不動産・株式を売却する場合の計算例、確定申告の方法や必要書類まで紹介します。
※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。
目次
取得費加算の特例とは?相続税の一部を取得費に加算できる制度
取得費加算の特例とは、正式には「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(租税特別措置法第39条)といい、相続した不動産や株式などを売却したときに、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。
相続した財産を売却して利益が出ると、原則として譲渡所得に対して所得税や住民税がかかります。
譲渡所得
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
取得費とは「その財産を取得するためにかかった購入代金など」を指しますが、取得費加算の特例を適用すると、相続税の一部も取得費に上乗せできます。
これにより、譲渡所得が少なくなり、譲渡所得にかかる所得税や住民税も抑えられるのです。
取得費加算の特例の適用要件|チェックシートあり
取得費加算の特例を利用するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
【取得費加算の特例の要件】
- 相続や遺贈によって財産を取得した
- その財産の取得に対して相続税が課税されている(相続税を支払っている)
- 「相続開始日の翌日」から「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日」までに譲渡している
自身のケースで取得費加算の特例を適用できるか確認したい場合は、国税庁の「相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例チェックシート」も活用できます。
相続・遺贈による取得や相続税の課税、譲渡期限などの要件を順番に確認できるため、申告前のチェックに便利です。
なお、取得費加算の特例は相続税の申告が適切に行われていることが前提となります。申告漏れや修正が必要な場合は、まず相続税の申告を正確に完了させましょう。
ここからは、3つの要件について詳しく解説していきます。
(1)相続や遺贈で財産を取得していること
取得費加算の特例の対象となるのは、相続(法定相続)または遺贈(遺言による取得)によって取得した財産です。
原則として、生前贈与によって取得した財産は対象になりません。
ただし、生前贈与でも相続税の課税対象に含まれる場合には、その財産に対応する相続税額がある限り、特例の適用対象となる可能性があります。
【生前贈与でも相続税がかかるケース】
- 相続時精算課税
贈与時に、贈与税について毎年110万円の基礎控除と、累計2,500万円の特別控除がある代わりに、相続発生時には贈与財産が相続財産に加算される(基礎控除分は対象外)
複数の贈与者から受ける場合は、110万円を各贈与者の贈与額で按分する - 暦年贈与
相続開始前3~7年以内(段階的に延長)に贈与された財産は、相続財産に加算される。(下表)
| 相続開始日 | 遡る期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 相続開始前3年以内 |
| 2027年1月1日~2030年12月31日 | 2024年1月1日から死亡日まで |
| 2031年1月1日以降 | 相続開始前7年以内 |
※2027年1月2日以後に相続が開始した場合、相続開始前3年超7年以内(延長された4年分)の贈与については、その合計額のうち100万円まで相続財産への加算対象外となります。
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- 暦年贈与の相続財産への加算について:暦年贈与7年ルールとは?廃止されるのはいつから?持ち戻しや経過措置を解説
(2)相続税が課税されていること(相続税を支払っていること)
取得した財産に対して、実際に相続税が課税されていることが必要です。
たとえば、相続税の基礎控除である「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」の範囲内に収まり相続税が発生しなかった場合は、この特例を適用できません。
※相続放棄した人も、法定相続人の数に含められます
※法定相続人の数に含められる養子は、原則として、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです
基礎控除を超える場合でも、配偶者の税額軽減(相続税がゼロでも申告必須)や未成年者控除などによって相続税がゼロになるケースでは、取得費加算の特例は使えません。
取得費加算の特例を適用するには、財産を取得した人に相続税が課税されていることが必要です。
相続税が課税されているかどうかは、相続税申告書の控えで確認できます。
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(3)相続開始翌日から3年10か月以内の期間内に譲渡していること
取得費加算の特例は、譲渡のタイミングに厳格な期限が設けられています。
具体的には、「相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」に売却している必要があります。
相続税の申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
そのため、実務上は「相続開始から約3年10か月以内」に売却することが目安となります。
ただし、正確な期限は「申告期限の翌日」を起算日として3年を経過する日で判定されるため、個別に日付を確認することが重要です。
【たとえば】
2026年6月1日に被相続人が死亡した場合、相続税の申告期限は2027年4月1日となり、取得費加算の特例の適用期限はその翌日から3年を経過するまで、つまり2030年4月1日となります。
【注意】取得費加算の特例を適用できないケース
取得費加算の特例は、譲渡所得の計算において取得費を増加させる制度です。
そのため、不動産や株式の売却であっても、課税区分が譲渡所得ではなく、たとえば事業所得や雑所得として申告する場合には、この特例を適用できません。
また、取得費加算の特例は、個人に対する所得税の特例です。
そのため、法人が遺贈により取得した財産を譲渡しても、取得費加算の特例は適用できません。
取得費加算の特例の計算式・計算方法
取得費に加算できる相続税額の計算式
取得費に加算できる金額は、支払った相続税額の全額ではありません。
自分にかかった相続税のうち、売却した財産に対応する分だけを取得費に上乗せします。
取得費加算額の計算式は、次の通りです。
取得費加算額の計算
取得費加算額=その人の相続税額 × {譲渡した相続財産の相続税評価額 ÷ (その人の相続税の課税価格+その人の債務控除額)}
計算式に含まれる各用語の意味は、次の通りです。
- その人の相続税額
その相続人に係る相続税の申告税額。 - 譲渡した相続財産の相続税評価額
今回売却する財産が相続税申告書において評価された金額。
小規模宅地等の特例などの適用を受けた土地の場合は、特例適用により減額された後の金額を使用します。 - その人の相続税の課税価格+その人の債務控除額※
その人の相続税の課税価格をもとに、債務控除額などを調整した金額です。単純に債務控除後の課税価格をそのまま使用するわけではありません。詳しくは次項で解説します。
※「相続税の課税価格」には、相続時精算課税適用財産や、課税価格に加算される暦年贈与財産の価額も含まれます。
ポイント(1) 計算式は債務控除前の財産価額を使う
取得費加算額を計算する際は、相続税の課税価格をそのまま分母に使用するのではなく、「債務控除額(借入金や葬式費用など)」を足し戻した金額を使用します。
相続税の計算では、被相続人の借入金などの債務や一定の葬式費用を財産の価額から差し引くことができます。一方、取得費加算額を計算するときは、これらを差し引く前の財産価額をベースにします。
たとえば、相続税の課税価格が8,000万円で、その計算時に1,000万円の債務・葬式費用を控除していた場合、取得費加算額の計算では、原則として8,000万円に1,000万円を足し戻した9,000万円を用います。
正確な金額を確認する際は、相続税申告書の第1表や第11表、第13表などを確認しましょう。
相続税の課税価格については、関連記事『相続税の課税対象が一覧でわかる!課税対象外の財産も解説』でも確認可能です。
ポイント(2)取得費加算額は譲渡益が上限
計算式で求めた相続税額を無制限に取得費へ加算できるわけではありません。
取得費に加算できる金額は、この特例を適用する前の譲渡益が上限です。
たとえば、計算式で求めた取得費加算額が500万円でも、特例適用前の譲渡益が300万円であれば、取得費に加算できるのは300万円までとなります。
つまり、取得費加算の特例を適用することで譲渡所得をマイナス(譲渡損失)にすることはできません。
【参考】取得費加算の特例は2015年から計算方法が変更された
2014年度(平成26年)の税制改正により、取得費加算の特例において取得費に加算できる金額は、売却した土地等に直接かかる相続税のみとなっています。
改正前の特例では、相続人が複数の土地を相続してそのうちの1つを売却した場合、相続した土地のすべてに課せられる相続税が取得費の計算対象に含まれていました。
たとえば土地A、B、Cを相続して土地Aを売却した場合、改正前はすべての土地の相続税額をもとに加算額を計算することができたのです。
改正後は譲渡した財産(土地Aなど)のみに対応する相続税額のみが対象となります。
これは土地に限らず、株式や建物など相続財産全般に共通のルールです。
取得費加算の特例を不動産に適用する場合
不動産を売却する場合の計算例
以下の流れで、不動産を売却するときの計算例を見てみましょう。
- 取得費加算額の計算
- 譲渡所得の計算
- 譲渡所得にかかる税額の計算
(1)取得費加算額の計算
相続人Aが納付した相続税額が800万円、Aの「相続税の課税価格+債務控除額」が8,000万円、今回売却する土地の相続税評価額が4,000万円とします。
この場合の取得費加算額は、800万円 ×(4,000万円 ÷ 8,000万円)=400万円となります。
(2)譲渡所得の計算
次に、譲渡所得を計算します。売却価格が5,000万円、取得費(購入時の価格)が1,500万円、譲渡費用が200万円とすると、取得費加算額を反映した譲渡益は次のとおりです。
5,000万円 −(1,500万円+400万円)− 200万円 = 2,900万円
取得費加算を適用しない場合、取得費加算額の400万円は計算に含まれず、譲渡益は3,300万円となります。
(3)譲渡所得にかかる税額の計算
譲渡所得に税率をかけて、所得税・住民税などの税額を計算します。
税率は、譲渡した年の1月1日現在における所有期間が5年を超えるかどうかによって異なります。
相続した不動産の所有期間は、相続人が相続した日からではなく、被相続人がその不動産を取得した日から引き継いで計算します。
今回は所有期間が5年を超えているものとして、長期譲渡所得の税率20.315%を適用します。
| 項目 | 5年以下 | 5年超 |
|---|---|---|
| 所得の区分 | 短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 |
| 所得税率 | 30% | 15% |
| 住民税率 | 9% | 5% |
| 復興特別所得税 | 0.63% | 0.315% |
| 合計 | 約39.63% | 約20.315% |
取得費加算の特例を利用した場合(譲渡益2,900万円)と利用しなかった場合(譲渡益3,300万円)の譲渡所得税額の違いは、以下の通りです。
| 特例利用あり | 特例利用なし |
|---|---|
| 589万1,350円 | 670万3,950円 |
取得費加算の特例を適用し、譲渡益を2,900万円とすることで、約81万円の節税効果となります。
※長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率である20.315%を適用した場合
相続した不動産の取得費がわからない場合
相続した不動産や株式について、被相続人の取得費(購入時の価格)が分からないケースも少なくありません。
このような場合には、「概算取得費」として売却価格の5%を取得費とする方法を選択することができます。
ただし、概算取得費は実際の取得費より大幅に低くなることがあり、その分、譲渡所得が大きくなって税負担が増える可能性があります。
そのため、売買契約書が見つからない場合でも、まずは取得当時の資料などから取得費を確認できないか検討するとよいでしょう。
取得費加算の特例を株式に適用する場合
取得費加算の特例は、不動産だけでなく、相続した株式(上場株式・非上場株式)を売却する場合にも適用できます。
ここでは、株式に取得費加算の特例を適用する場合の計算例を紹介するとともに、以下のケースにおける考え方も解説します。
- 相続した株と以前から持っていた株の銘柄が同じ場合
- 相続した株式の一部だけを売却する場合
なお、相続時における株式の評価方法(相続税計算の基礎となる評価額の算定方法)については、別記事で詳しく解説しています。
関連記事
株式の相続税はいくらかかる?上場・非上場株式の評価額と計算方法を解説
上場株式を売却する場合の計算例
上場株式の取得費加算額も、次の計算式で求めます。
取得費加算額
取得費加算額=納付した相続税額 × {譲渡した株式の相続税評価額 ÷ (その人の相続税の課税価格 + その人の債務控除額)}
上場株式の相続税評価額は、相続税申告書の控えに記載されています。
具体的には、株式の明細が記載された表(第11表の付表2など)に評価額が記載されているため、その金額を計算式に用います。
具体例で確認してみましょう。
(1)取得費加算額の計算
相続人Bが納付した相続税額が600万円、Bの「相続税の課税価格 + 債務控除額」の合計が6,000万円、相続したA社株式の相続税評価額が1,200万円とします(今回すべて売却)。
この場合の取得費加算額は、600万円 ×(1,200万円 ÷ 6,000万円)=120万円となります。
(2)譲渡益の計算
売却価格が1,500万円、取得費が1,000万円、譲渡費用が10万円とすると、取得費加算額を反映した譲渡益は次のとおりです。
1,500万円 −(1,000万円+120万円)− 10万円 = 370万円
取得費加算を適用しない場合、取得費に120万円は加算されず、譲渡益は490万円となります。
上場株式の譲渡所得は原則として申告分離課税となり、税率は20.315%です。
ただし、特定口座の区分や損益通算の有無によって実際の税額は変わる場合があります。
相続した株と以前から持っていた株の銘柄が同じ場合
相続前から保有していた株式と、相続によって取得した株式が同じ銘柄の場合、「売却したのがどちらの株式なのか」が問題になります。
たとえば、もともとA社株を500株保有していた人が、相続によって同じA社株を1,000株取得し、その後500株を売却したケースです。
取得費加算の特例では、一定の要件のもと、相続によって取得した株式から先に売却したものとして取得費加算額を計算できます。
一方、株式そのものの取得費については、相続前から保有していた株式と相続した株式を区別して、それぞれの取得費をそのまま使用するわけではありません。同一銘柄の株式について「総平均法に準ずる方法」により計算するため、注意が必要です。
相続した株式の一部だけを売却する場合
相続した株式を一部のみ売却する場合は、「譲渡した株数に対応する相続税評価額」を使って計算する必要があります。
たとえば、相続した株式が1,000株で評価額が1,000万円、そのうち500株を売却したときは、評価額も1/2の500万円として計算します。
この対応関係を誤ると取得費加算額を過大・過少に計算してしまうため、株数ベースで正確に按分することが重要です。
非上場株式にも取得費加算の特例を適用できる
非上場株式(同族会社の株式など)についても、取得費加算の特例を適用することは可能です。
ただし、非上場株式の相続税評価額は、類似業種比準方式や純資産価額方式などを用いて算定されるため、評価自体が非常に複雑になります。
さらに、売却時の価格算定や税務上の論点も多くなるため、非上場株式を譲渡する場合は税理士への相談を強くおすすめします。
関連記事
非上場株式(未公開株)を相続したら?評価方法・手続き・換金方法を総合解説
取得費加算の特例の申告方法・必要書類
取得費加算の特例は、確定申告によって適用を受けます。
自動的に適用されるものではないため、必ず申告が必要です。
取得費加算の特例を適用する流れ
取得費加算の特例は、次の流れで確定申告を行うことで適用を受けます。
ステップ1. 財産を売却する
まずは、相続によって取得した不動産や株式などの財産を売却します。
この売却があって初めて、取得費加算の特例の適用対象となります。
ステップ2. 相続税申告書の控えを準備する
取得費加算額の計算には、相続税申告書に記載された評価額や納付税額を使用します。
相続税申告書の控え(第11表・第13表など)を手元に用意しておきましょう。
ステップ3. 取得費加算額を計算する(計算明細書に記入)
計算式に基づいて取得費加算額を算出し、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」に記入します。
ここでの計算結果が、確定申告書に反映される重要な数値となります。
ステップ4. 確定申告書(第三表)・譲渡所得の内訳書を作成する
売却した年の翌年に行う確定申告で、確定申告書(第三表)および譲渡所得の内訳書を作成します。
取得費加算額を反映させたうえで、譲渡所得を計算します。
ステップ5. 計算明細書を添付して申告書を提出する(翌年2月16日~3月15日)
作成した申告書に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」などの必要書類を添付し、確定申告期間内に提出します。
提出期限を過ぎると特例を適用できない可能性があるため注意が必要です。
確定申告で必要な書類
取得費加算の特例を適用する際には、主に次の書類が必要となります。
特に、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」は、この特例を適用するうえで重要な書類です。
国税庁のウェブサイトから様式をダウンロードし、計算式に従って数値を記入したうえで申告書に添付します。
「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」の書き方・記載例
「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」では、取得費加算額の計算過程を具体的に記載します。
主な記載項目は次のとおりです。
- 所在地
- 種類
- 利用状況/数量
- 譲渡した年月日
- 相続税評価額
- 相続税の課税価格
- 相続税額
- 取得費加算額
これらの数値は、相続税申告書(第1表、第11表やその付表、第13表など)に基づいて正確に転記する必要があります。
記載内容に誤りがあると、特例が適用されない可能性や、修正申告が必要になる場合もあるため注意が必要です。
取得費加算の特例を適用するときの注意点・ポイント
取得費加算の特例は、適用を誤ると節税効果が得られないだけでなく、過少申告につながるおそれもあります。
次のポイントを必ず確認しておきましょう。
代償分割で節税効果が薄れることがある
代償分割とは、特定の相続人が財産を多く取得する代わりに、他の相続人に対して現金などを支払ってバランスを取る遺産分割の方法です。
たとえば、不動産のように分けにくい財産がある場合に、一人がその不動産を相続し、代わりに他の相続人へお金を支払うことで公平に分けるケースがあります。
このような分割方法をとると、不動産を取得した人は代償金の支払いによって実質的に取得した財産額が調整されます。その結果、相続税の負担も変わることがあります。
その結果、相続税の負担が小さくなると、取得費に加算できる金額も小さくなります。
そのため、代償分割を行った場合は、想定していたよりも節税効果が小さくなる可能性があります。
遺産分割が長引くと3年10カ月の期限に間に合わないことがある
取得費加算の特例は、「相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」に譲渡することが要件となっています。
遺産分割が未了のままでは売却ができないケースも多く、結果としてこの期限に間に合わなくなるリスクがあるのです。
特に、不動産の売却を前提としている場合は、遺産分割協議を早めにまとめ、スケジュールに余裕を持って売却手続きを進めることが重要となります。
ほかの制度と併用できるケースがある
取得費加算の特例は、他の特例と併用できる場合があります。
ただし、制度ごとに併用可否が異なるため、事前の確認が必要です。
居住用財産の3,000万円特別控除
自宅を売却した際に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
取得費加算の特例と併用することができます。
特定居住用財産の買換え特例
自宅を売却して新たな住宅に買い替えた場合に、譲渡所得の課税を将来に繰り延べる制度です。
取得費加算の特例と併用することができます。
ただし、適用にあたっては「2027年12月31日までにマイホームを売ること」、「売ったマイホームと買い換えたマイホームは、日本国内にあるものであること」などの要件が定められています。
また、令和8年度改正では、一定のハザードエリア内への買い換えが対象外となる新要件も追加されています。
小規模宅地等の特例
相続した土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
取得費加算の特例と併用できますが、計算に用いる相続税評価額は特例適用後の減額された金額となる点に注意が必要です。
もしこの特例を使って相続税がゼロになったら、取得費加算の特例は使えません。
なお、小規模宅地等の特例を適用する場合は、相続税がゼロになったとしても相続税申告が必須です。
小規模宅地等の特例については、関連記事『小規模宅地等の特例とは?要件・計算方法をわかりやすく解説【フローチャート付き】』にて詳しく解説しています。
【注意】空き家に係る3,000万円特別控除について
被相続人が一人で住んでいた家屋を売却した場合に適用できる特例です。
取得費加算の特例とは併用できず、いずれか有利な制度を選択する必要があります。
どちらを選ぶほうが節税に有利なのかはケースバイケースのため、税理士による試算を確認することがおすすめです。
空き家特例については、関連記事『空き家に相続税はかかる?計算方法や空き家特例による3000万円控除を解説』にて詳しく解説しています。
取得費加算の特例についてよくある質問
Q. 相続税の申告前に確定申告の期限が来た場合はどうする?
いったん取得費加算の特例を適用せずに譲渡所得を計算し、確定申告・納税を行います。
手順は以下の2ステップです。
- まずは期限内に確定申告
相続税額が確定していないため、いったん「取得費加算の特例」を適用せずに申告・納税を済ませます。 - 相続税申告後に還付手続き
相続税の申告書を提出した翌日から2か月以内に「更正の請求」を行います。これにより、特例を適用した場合との差額が還付されます。
所得税の確定申告期限の翌日から相続税の申告期限までの間に相続税の期限内申告書を提出した場合
この場合の還付手続き(更正の請求)は、通常の5年ではなく「2か月以内」という非常に短い期限が適用されます。相続税申告後は、速やかに手続きを行いましょう。
なお、この2か月以内の更正の請求は、所得税の確定申告期限の翌日から相続税の申告期限までの間に相続税の期限内申告書を提出した場合に限られます。
相続税を期限後申告した場合は適用対象外となるため注意が必要です。
Q. 相続放棄をしたが遺贈で財産を受け取った場合、特例は使える?
相続放棄をした場合でも、遺言によって財産を取得する「遺贈」を受けたときは、その財産について取得費加算の特例を適用できる可能性があります。
取得費加算の特例は、「相続または遺贈により取得した財産」であり、かつ「その財産に対して相続税が課税されていること」が要件です。
そのため、遺贈によって取得した財産に相続税が課税されていれば、特例の適用対象となります。一方で、相続税が課税されていない場合は適用できません。
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【まとめ】取得費加算の特例を使えるか売却前に確認しよう
相続した不動産や株式を売却する予定がある場合は、取得費加算の特例を使えるか早めに確認しておくことが大切です。
特に注意したいのが、原則として相続開始から約3年10か月以内という期限があることです。遺産分割や不動産の売却には時間がかかることもあるため、「売却するときに考えればいい」と後回しにすると、特例を利用できる期間を過ぎてしまうおそれがあります。
また、取得費加算の特例が使える場合でも、ほかの特例との組み合わせによって最終的な税負担が変わることがあります。単に取得費加算を適用するのではなく、相続税と売却時の税金をあわせて考えることが重要です。
相続した財産の売却を検討しているものの、「自分は取得費加算の特例を使えるのか」「どの方法がもっとも税負担を抑えられるのか」と判断に迷う場合は、相続税や譲渡所得に詳しい税理士に相談するとよいでしょう。
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監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士