遺産分割協議書は税理士に依頼できる?条件・費用・専門家ごとの役割

親族が亡くなったとき、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決め、その結果を書面にまとめたものが遺産分割協議書です。この書類の作成を「税理士に頼んでいいのか」と疑問に思う方は少なくありません。
結論からお伝えすると、相続税申告に付随する範囲において、税理士は遺産分割協議書の文案作成を支援することができます。ただし、すべてのケースで対応できるわけではなく、状況によっては司法書士や弁護士に依頼すべき場面もあります。
この記事では、税理士に依頼できるケース・できないケースの違い、費用の相場、遺産分割協議書作成の流れをわかりやすく整理します。
※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。
目次
遺産分割協議書とは?
遺産分割協議書とは、相続人全員が遺産をどのように分けるかを話し合い(遺産分割協議)、その合意内容を記録した書類です。
遺産分割協議書が必要なケース・不要なケース
この書類が必要になる主な場面は以下のとおりです。
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 預貯金の解約・払い戻し
- 相続税の申告
- 自動車や株式の名義変更
一方で、以下の場合は遺産分割協議書は必要ありません。
- 相続人が1人だけ:分割を協議する相手がいないため不要
- 遺言書がある:遺言に従い遺産分割するため不要なことが多い
- 法定相続分に従う:法定相続分に沿って遺産分割するため不要
※銀行手続きや不動産登記などをする場合は、トラブル防止や手続きの円滑化のために作成を求められるケースが一般的です。
遺産分割協議書に法律で定められた統一の書式はありませんが、相続人全員が合意した内容であるとわかる形にする必要があります。
相続人全員の合意が得られていない遺産分割は無効となることがあるため、記載漏れや間違いがないかよく確認しましょう。
遺産分割協議書は誰が作る?誰に頼む?
遺産分割協議書は自分で作成することも可能です。
しかし、不備があると作成し直さねばならず、結果的に相続税の申告までに間に合わなくなる可能性があります。
また、次に解説するように遺産分割協議書の内容は各相続人の相続税負担にも影響するため、遺産分割協議で決まった内容そのものに問題がないかどうかの確認も重要です。
こうした点から、遺産分割協議や遺産分割協議書の作成については専門家を頼る方が安心です。
遺産分割協議書の作成を頼める専門家としては、税理士をはじめ司法書士、弁護士、行政書士などがいます。どの専門家に頼むとよいかはケースにより異なるので、後ほど詳しく解説します。
遺産分割協議書は相続税負担にどう影響する?
遺産分割協議書の内容は、以下の点から各相続人の相続税負担に影響します。
- 算出した相続税の総額は、各相続人が実際に引き継いだ財産の割合(課税価格の比率)に応じて分け合い負担する
- どの遺産を誰が受け取るかによって適用できる特例・控除が変わる
例えば相続税の場合、配偶者の税額軽減や未成年者控除、障害者控除、小規模宅地等の特例などが相続税を抑えられる特例・控除として挙げられますが、すべてのケースで使えるわけではありません。
どのような控除・特例を誰がどういった要件のもとで使えるのかを踏まえ、遺産分割を決めることが、相続税額を抑えることにつながります。
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相続税の控除・特例一覧表|控除の金額や対象・要件をわかりやすく解説
税理士は遺産分割協議書を作成できる?
税理士に遺産分割協議書の作成を頼めるケース
「遺産分割協議書は法律文書だから、税理士には頼めないのでは?」と思う方もいるでしょう。
たしかに、相続人同士の交渉の代理や法律トラブルへの対応は弁護士の独占業務です。
ただし、相続税申告に必要な範囲であれば、税理士が遺産分割協議書の作成支援を行うケースは実務上広くあります。
たとえば、以下のようなケースです。
- 相続税申告が必要になる
- 配偶者の税額軽減を適用したい
- 小規模宅地等の特例を利用したい
- どの財産を誰が取得するかで相続税額が変わる
- 相続税申告書とあわせて一体的に進めたい
相続税申告では、遺産分割協議書の写しを添付書類として提出することがあります。
そのため、税務面を踏まえながら遺産分割協議書を作成できる点は、税理士へ依頼する大きなメリットです。
ただし、相続人同士で意見が対立している場合や、法的な判断・交渉が必要になる場合は、税理士では対応できません。
税理士以外の専門家に頼むべきケース
遺産分割協議書は、状況によって依頼すべき専門家が異なります。
相続税申告が必要なケースでは、税務面を踏まえて税理士へ依頼することが多いです。一方で、不動産の名義変更が中心であれば司法書士、相続人同士で争いがある場合は弁護士への依頼が適しています。
場合によっては行政書士への依頼ができる場合もあるので確認していきましょう。
司法書士
司法書士は、不動産の相続登記(名義変更)の専門家です。
2024年から相続登記が義務化されたこともあり、不動産を相続する場合には司法書士へ依頼するケースが増えています。
相続登記に必要な書類として、遺産分割協議書の作成支援を行うことも一般的です。
特に、相続税申告が不要で、「不動産の名義変更をしたい」というケースでは、司法書士への依頼が適しています。
弁護士
弁護士は、相続トラブルがある場合に依頼すべき専門家です。
たとえば、以下のようなケースでは弁護士への相談が必要になります。
- 相続人同士で話し合いがまとまらない
- 遺産の分け方でもめている
- 遺留分を請求したい
- 一部の相続人と連絡が取れない
- 調停や審判に発展する可能性がある
遺産分割の代理交渉や法的紛争への対応は、弁護士のみが行える業務です。
行政書士
行政書士も、遺産分割協議書の作成支援を行うことがあります。
相続人同士で争いがなく、書類作成のみを依頼したい場合には選択肢の一つになります。
ただし、相続登記の代理や相続税申告はできません。
そのため、不動産の名義変更や相続税申告が必要な場合には、司法書士や税理士との連携が必要になることがあります。
税理士に遺産分割協議書を依頼するメリット
節税を意識した分割方法の提案を受けられる
遺産分割の方法によって、相続税額が大きく変わるケースがあります。
たとえば、配偶者の税額軽減を活用すれば、配偶者が取得する財産について相続税を大幅に抑えられる場合があります。
なお、この特例を適用する場合、たとえ相続税がゼロになっても相続税申告は必要です。また、原則として期限までに遺産分割が完了している必要があります。
また、小規模宅地等の特例を使うことで、自宅や事業用土地の相続税評価額を減額できるケースもあります。
ただし、目先の相続税だけで分割方法を決めると、将来の「二次相続」でかえって税負担が増えることもあります。
税理士へ依頼すれば、現在の相続税だけでなく、将来の相続まで見据えた分割方法についてアドバイスを受けられる点がメリットです。
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手続きを一元化できる
相続では、遺産分割協議書の作成だけでなく、相続税申告や財産評価、必要資料の収集など、多くの手続きが発生します。
税理士へ依頼することで、これらの手続きをまとめて進めやすくなります。
特に、相続税申告が必要なケースでは、以下を並行して進める必要があります。
- 財産評価
- 相続税額の計算
- 特例適用の判断
- 申告書の作成
- 遺産分割協議書との整合性確認
相続手続きを個別に専門家へ依頼すると、何度も同じ説明が必要になることがありますが、税理士へ一体的に依頼することで、手間や負担を軽減しやすくなります。
遺産分割協議書を税理士などに依頼する費用・報酬の相場
税理士に依頼する場合
税理士に遺産分割協議書の作成を依頼する場合の費用は、相続税申告の報酬に含まれることが多いです。
費用は一般的に「基本報酬+加算報酬」となっており、基本報酬の目安は遺産総額(預貯金・不動産などプラスの財産の合計額)の0.5%~1%程度です。

遺産総額別に基本報酬の目安を掲載すると、以下の通りです。
| 遺産総額 | 基本報酬の目安 |
|---|---|
| ~5,000万円 | 25万円~50万円 |
| ~6,000万円 | 30万円~60万円 |
| ~7,000万円 | 35万円~70万円 |
| ~8,000万円 | 40万円~80万円 |
| ~9,000万円 | 45万円~90万円 |
| ~1億円 | 50万円~100万円 |
| ~2億円 | 100万円~200万円 |
| ~3億円 | 150万円~300万円 |
| ~4億円 | 200万円~400万円 |
| ~5億円 | 250万円~500万円 |
加算報酬は、以下のような場合に発生することがあります。
- 土地を相続する
- 非上場株式を相続する
- 相続人が複数人いる
- 申告期限まで3カ月未満
- 書面添付制度を利用する
ただし、税理士報酬の金額は各事務所で設定されており、成功報酬を請求されることもあります。
同じ案件でも具体的な費用は事務所によって異なることが多いので、複数の事務所に見積もりを取ることをおすすめします。
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その他の専門家に依頼する場合
司法書士や弁護士、行政書士に遺産分割協議書の作成を依頼する場合、費用の目安は以下の通りです。
| 専門家 | 費用の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 司法書士 | 3万〜10万円程度 | 登記費用とセットになることが多い |
| 弁護士 | 10万〜30万円以上 | 争いがある場合はさらに高額になる場合も |
| 行政書士 | 3万〜8万円程度 | 登記・申告の代理は別途費用が発生 |
これらの専門家についても、厳密な費用は事務所や具体的な依頼内容により異なります。
あくまでも目安として参考にしてみてください。
遺産分割協議書の基本的な作成手順
遺産分割協議書の作成の流れは次の通りです。
- 相続人の確定
- 遺産の調査・財産目録の作成
- 遺産分割協議の実施
- 遺産分割協議書の作成・署名押印
- 各種名義変更・申告手続き
各フェーズについて解説します。
ステップ1:相続人の確定
まず、誰が相続人になるかを確定します。被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せ、すべての相続人を特定します。
相続人に漏れがあると基礎控除や相続税の計算に影響が出るだけでなく、あとからトラブルになったり相続税申告のやり直しが必要になったりする可能性があります。
認知した子や養子縁組した子がいる場合に漏れが生じやすいため、注意が必要です。
ステップ2:遺産の調査・財産目録の作成
不動産・預貯金・有価証券・自動車・生命保険など、被相続人の財産をすべて洗い出し、財産目録を作成します。負債(借金・ローンなど)も確認が必要です。
見落としている財産があると申告漏れとして、あとから延滞税などのペナルティが発生する可能性があるので、よく確認しましょう。
相続税の対象となる遺産については、関連記事『相続税の課税対象が一覧でわかる!課税対象外の財産も解説』にて詳しく解説しています。
ステップ3:遺産分割協議の実施
相続人全員が参加し、遺産の分け方を話し合います。全員の合意が原則であり、一人でも反対する人がいると協議はまとまりません。
ステップ4:遺産分割協議書の作成・署名押印
合意内容を書面にまとめます。記載が必要な主な項目は以下のとおりです。
- 被相続人の氏名・死亡日・本籍地
- 相続財産の具体的な内容(不動産は地番・地積まで)
- 各相続人の取得財産
- 相続人全員の氏名・住所・署名・実印での押印
※※不動産登記や金融機関の手続き、相続税申告では、印鑑証明書の提出を求められるのが一般的
ステップ5:各種名義変更・申告手続き
協議書が完成したら、金融機関の手続き、不動産の相続登記、相続税の申告など各種手続きを進めます。
なお、相続税の申告・納付期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。
この期限を過ぎると、加算税や延滞税が発生する可能性があります。
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遺産分割協議書の作成を依頼する税理士の選び方
税理士であれば誰でも相続案件を得意としているわけではありません。遺産分割協議書の作成を含む相続手続きを安心して任せるためには、相続税に強い税理士を選ぶことが重要です。
選ぶ際のポイントとしては、以下の点が挙げられます。
- 相続税申告の実績・件数が豊富か
- 司法書士・弁護士など他士業との連携体制があるか
- 初回相談が無料か、費用の見積もりを明示してくれるか
- 遺産分割の税務上の最適化(節税提案)に対応しているか
具体的な税理士の選び方・見極め方については、以下の記事で詳しく解説しています。
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相続税に強い税理士の探し方とは?評判の良い税理士の見極め方7選
まとめ|遺産分割協議書の作成は税理士への依頼がおすすめ
遺産分割協議書は、相続財産の分け方を正式にまとめる重要な書類です。不動産の名義変更や預貯金の解約、相続税申告など、多くの相続手続きで必要になります。
特に相続税申告が必要な場合は、遺産分割の内容によって適用できる特例や控除、最終的な相続税額が変わることもあるため、税務面を踏まえて作成することが重要です。
税理士へ依頼すれば、相続税申告と遺産分割協議書を一体的に進められるほか、二次相続まで見据えた節税アドバイスを受けられる場合もあります。一方で、相続人同士で争いがある場合には弁護士、不動産登記が中心なら司法書士など、ケースに応じた専門家選びも大切です。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士
