家族信託で相続税はかかる?相続時の手続きや節税効果も解説
家族信託とは、主に高齢者が認知症などで資産の管理が難しくなる前に、信頼できる家族に資産の管理・運用を託すことをいいます。
財産の所有者である高齢者が亡くなると信託した財産に相続税がかかりますが、だれに相続税の支払い義務があるかは、委託者が死亡したあと、信託契約を続けるかどうかで変わります。
この記事では、信託した財産にかかる相続税や相続時の手続き、相続税の節税効果の有無を解説します。その他の税金、家族信託のメリット・デメリットもわかるので、ご確認ください。
目次
家族信託とは?相続税対策にメリットはある?
まずは、家族信託の概要と相続税対策におけるメリットの有無を見ていきましょう。
家族信託とは家族に財産の運用・管理を任せること
家族信託とは、家族に不動産や株、現金などの財産の運用・管理を任せることです。
家族に財産の運用・管理を任せた人を「委託者」、運用・管理を任せられた人を「受託者」と言います。
また、財産の運用・管理によって生じた利益を受け取る人を「受益者」と言いますが、家族信託では委託者が受益者を兼ねます。
家族信託の例
父親が、自身が持つ投資用不動産の管理・運用を息子に委託した場合
- 委託者:父親
財産の持ち主で、財産の管理・運用を委託する人 - 受託者:息子
委託者から財産の管理・運用を委託された人 - 受益者:父親
財産の管理・運用で生じた利益を受け取る人
財産の管理・運用で生じた利益を受け取る権利を「受益権」と言います。また、委託者と受益者が同じ信託のことを「自益信託」と呼びます。
なお、家族信託では財産の運用・管理を担うのは受託者ですが、その財産の持ち主や、運用・管理による利益を受け取るのは引き続き委託者=受益者です。
財産の所有権などが移動するわけではないので贈与には当たらず、贈与税はかかりません。
家族信託に相続税の節税効果はない
家族信託に、相続税対策の効果は期待できません。
家族信託していた財産の相続税評価額は、その他の現金や不動産などと同じ方法で決まります。通常の相続と同じく、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを適用することもできます。
しかし、「家族信託していたから」といって通常とは別の控除・特例が適用されることはなく、家族信託してもしなくても、相続する時点での財産の評価額は変わらないのです。
したがって、例えば「父親が管理・運用していた賃貸物件を相続する」のも、「父親が息子に家族信託した賃貸物件を相続する」のも同じなのです。
財産の評価額が同じということは、そこから算出される相続税額も同じものになるため、節税を行うための対策としては効果がないといえます。
家族信託では受益者死亡で相続税が発生する
家族信託していた財産は、その持ち主である委託者が死亡すると相続財産となり、相続税が発生します。
ただし、だれが相続税を払うかは、委託者兼受益者の死亡時に信託契約が終了するかしないかによって変わります。
以下のケースに分けて見ていきましょう。
- 信託契約を終了した場合
- 信託契約を継続した場合
なお、家族信託していた財産でも、相続税に適用される各種控除・制度や税額の計算方法はその他の財産と同じです。詳しくは『相続税の計算方法がわかる|課税される条件や節税に役立つ制度も解説』をご覧ください。
(1)受益者死亡で信託契約が終了する場合
まずは、信託契約に受益者の死亡により信託契約が終了する旨の定めがある場合です。
この場合は、信託契約時に設定した帰属権利者が信託財産を相続します。帰属権利者とは、信託契約が終了、もしくは合意のもと解除された場合に、残りの信託財産の帰属先(引き継ぎ先)となる人のことです。
この場合、帰属権利者が信託財産を相続する形になるため、帰属権利者は相続税を支払わなければなりません。
(2)受益者死亡後も信託契約を継続する場合
家族信託には、受益者が亡くなった場合に次の受益者の指定がされている「受益者連続型信託」があります。
この場合は、受益権を引き継いだ新たな受益者が相続税を払います。
家族信託の場合、契約時に次の受益者を決めておくことが多いため、契約の時点で相続税についても確認しておきましょう。
家族信託中に相続が生じた場合は手続きが必要
家族信託の契約が継続している最中に受益者が亡くなり、相続が発生した場合、信託契約を終了する場合でもしない場合でも税務署での手続きが必要です。
また、信託財産の中に不動産があるなら登記関連の手続きもしなければなりません。これらの点について解説します。
税務署での家族信託終了・受益者変更の手続き
受益者が亡くなったら、信託契約が終了する場合でも受益者が変わる場合でも、以下の書類を税務署に提出しましょう。
- 信託に関する受益者別調書
- 信託に関する受益者別調書合計表
提出期限は受益者の死亡の翌月末までです。ただし、信託財産の相続税評価額が50万円以下の場合は、書類の提出は不要です。
信託不動産の登記関連の手続き
信託財産の中に不動産がある場合は、信託契約を終える場合でも受益者が変わる場合でも、それぞれ登記関連の手続きが必要です。
それぞれのケースにおける手続きを解説します。
受益者死亡で家族信託を終了する場合
受益者死亡で家族信託が終了する場合は、信託不動産の名義を受益者から帰属権利者に変更する「所有権移転登記」が必要です。
この際、以下の点に注意しましょう。
- 帰属権利者と受託者が違う場合
帰属権利者が登記権利者、受託者が登記義務者となり、両者による共同申請で手続きする - 帰属権利者と受託者が同じ場合
帰属権利者となる受託者が単独で手続きできる
また、合わせて信託の抹消登記も必要です。
受益者死亡で受益者が変わる場合
受益者が亡くなった後も受益者を変更して家族信託を継続する場合は、不動産登記の際に登録していた委託者・受益者の変更手続きが必要です。
なお、この場合は信託契約が終了するわけではないため、信託の抹消登記は不要です。
家族信託では相続税以外の税金も発生しうる
家族信託において、相続税以外にもかかる税金があります。受益者にかかる税金と、受託者にかかる税金をそれぞれ解説します。
受益者にかかる税金
受益者にかかりうる税金としては、贈与税・譲渡所得税・信託期間中の税金がかかります。
贈与税
信託契約時に委託者と受益者が同一である場合は、実質の所有権は移転していないと考えられるため、課税の対象にはなりません。
しかし、信託契約時に委託者と受益者が異なる信託を設定した場合、実質の財産の所有権は委託者から受益者に移転したと考えられるため、受益者に贈与税が課税されます。
譲渡所得税
受益者が信託受益権を他人に売却した場合には、売却から生じた利益に対して受益者に所得税・住民税がかかります。
信託期間中の税金
信託期間中に信託財産により収益が生じた場合には、受益者に所得税及び住民税が課税されます。
受託者にかかる税金
受託者にかかりうる税金としては、登録免許税・固定資産税があります。
登録免許税
委託者と受益者が異なり、信託財産が不動産である場合には、受託者が登録免許税を払う必要があります。
信託を原因とする所有権の移転、信託の登記を行う必要があることから、受託者に登記の際の登録免許税が課税されます。
固定資産税
信託財産が不動産である場合には、受託者に固定資産税が課税されます。固定資産税とは、「その年の1月1日における、不動産の所有者に課税される税金」です。
ここで、「不動産の所有者は受託者ではなく委託者なのに、なぜ受託者に固定資産税がかかるのか?」という疑問を感じた方もいるでしょう。
確かに受託者は不動産を預かり、管理・運用を任されているだけです。しかし、受託者は自身の意思で不動産の売買取引ができるなど、形式上はその不動産の所有者とみなされます。
こうした理由から、所有者ではない受託者に固定資産税がかかるのです。
帰属権利者にかかる税金
帰属権利者には、受益者が死亡して相続財産を継承するにあたり、相続税だけではなく以下の税金も発生します。
- 登録免許税:信託登録抹消登記で発生
- 固定資産税の2%:所有権移転登記にあたり発生
- 不動産取得税:不動産の取得にあたり発生
家族信託で得られる相続に関するメリット
家族信託によって得られる相続に関するメリットは、以下のとおりです。
- 認知能力が衰えても財産を安全・適切に管理できる
- 誰に財産の管理を任せるか確実に指定できる
- 二次相続以降の受益者(相続人)も指定できる
それぞれについて詳しく解説します。
認知能力が衰えても財産を安全・適切に管理できる
財産の管理運用の決定権は、本来所有者に帰属します。
よって、所有者の認知能力が衰え適切な判断ができなくなった場合でも、原則として所有者以外が管理運用を行うことはできません。
しかし、所有者の認知能力が衰える前に、信頼のおける家族に財産を信託譲渡すると、所有者の認知能力が衰えても家族が適切かつ安全に、財産を管理できます。
例えば財産の一部を事前に売却しておき、相続税の発生を防ぐことも可能です。
誰に財産の管理を任せるか確実に指定できる
認知能力の衰えの備えとして、家族信託ではなく成年後見制度を利用するケースもあります。
しかし成年後見制度では、誰が後見人となるのか家庭裁判所が選任します。希望通りの人が後見人になるとは限らず、場合によっては親族以外が後見人になることもあります。
それに対して家族信託では、受託者を委託者の意思で定められます。
「この人に財産の管理を任せたい」「この人には任せたくない」という希望がある場合は、家族信託の方がメリットが大きいのです。
二次相続以降の受益者(相続人)も指定できる
家族信託を受益者連続型信託にし、例えば第1受益者を子、その次の第2受益者を孫、というようしておけば、二次相続以降にその財産を継承する人も指定できます。
通常の相続でも、遺言によって誰に財産を相続させるか指定することは可能です。しかし、指定できるのはあくまでも一次相続であり、その後の二次相続までは指定できません。
この点でも、家族信託にはメリットがあるといえます。
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家族信託を行う場合の注意点
家族信託にはメリットがある一方、以下のようなデメリットもあります。
- 家族信託での不動産所得は所得税と損益通算不可
- 税務申告の負担が大きい
- 受益者連続型信託はトラブルに発展するリスクがある
それぞれについて確認していきましょう。
家族信託での不動産所得は、他の所得と損益通算不可
信託財産によって生まれた利益には所得税がかかりますが、この所得は所得税の計算において、損益通算できません。
所得税における損益通算とは、「黒字の所得と赤字の所得を相殺させ、課税対象となる所得額を減額させる」というものです。
例えば不動産所得が赤字の場合、損益通算で他の所得の黒字と相殺させれば課税所得が少なくなり、所得税が少なくなります。
しかし、家族信託の不動産によって不動産所得が生じた場合、この不動産所得が赤字であっても、他の所得の黒字と相殺させられません。
税務申告の負担が大きい
家族信託の賃貸不動産は、税務申告の際に以下の2段階を踏まなければなりません。
- 受託者が信託の計算書として不動産所得を集計する
- 受益者が信託の計算書をもとに確定申告を行う
家族信託をしていなければ、所有者が不動産所得の集計から確定申告まで単独で行います。
こうしたことから、家族信託を行った賃貸不動産では、確定申告での負担が増加します。
受益者連続型信託はトラブルに発展するリスクがある
受益者連続型信託には、複数の世代に受益者を定められるメリットがあります。しかし、長期間その財産の所有者を指定することから、信託契約の当事者を長期間拘束することになってしまいます。
第1受益者が契約内容に同意をしていても、第2受益者や、受益者以外の相続人がその内容に不満を感じ、トラブルの元となる可能性があるのです。
家族信託における相続税の相談は専門家へ
家族信託は相続税対策の効果こそ薄いものの、自分の財産を託す相手を自分で選択できるなど、さまざまなメリットがあります。
しかし、家族信託には相続税をはじめとした色々な税金が関わってくるため、正しく理解していない状態で信託契約をするのは危険です。
もし、家族信託における税金について不安がある方は、ぜひ一度専門家に相談してみてください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士