【雛形紹介】秘密保持契約書(NDA)とは?作成方法と弁護士に任せるメリット
秘密保持契約書は、取引先との間で秘密情報を共有する際に、その情報の漏えいを防止するために締結される契約書です。
企業には営業秘密や顧客情報など、重要な秘密情報が多数存在します。これらの情報の漏えいは、企業の競争力を損なったり、顧客の信頼を失ったりするなど、重大な損害を招く可能性があります。
あるいは不利な秘密保持契約書では自社にばかり負担が押し付けられることになりかねません。
秘密保持契約書には雛形も存在しますが、「なぜその文言や規定が必要か」を理解することが大切です。秘密保持契約書を作成・締結する際には、雛形のままで問題ないのか、修正を加えるべきなのかを判断していきましょう。
秘密保持契約書の作成やリーガルチェックを弁護士に任せるメリットも解説しますので、秘密保持契約書の作成方法に不安がある方は、弁護士への相談・依頼も検討してみてください。
秘密保持契約書の意味と作成の目的
秘密保持契約書とは何を決めるものか
秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement、NDA)とは、顧客情報・営業秘密・技術情報などの機密情報を提供するとき、その情報を第三者に教えたり、開示者との仕事以外に使ったりしないよう、企業間での取り扱いを決める契約書です。
例えば、A社が新しい商品の開発をしていて、その商品の設計図や製造方法などの情報を、B社に開示するとしましょう。
A社はB社とのあいだで秘密保持契約書を締結することで、B社がその情報を勝手に使って、A社のビジネスの妨害、勝手に利益を得ること、他社とのビジネスに流用することなどを防ぐことができます。
秘密保持契約書を作成する目的
秘密保持契約書を作成する主な目的は、以下の3つです。
(1)自社の秘密情報を守るため
企業は、技術情報、営業情報、顧客情報、財務情報など、さまざまな秘密情報を有しています。これらの秘密情報は、企業の競争力や利益に直結する重要な情報であり、第三者に流出すると、企業に大きな損害を与える可能性があります。
秘密保持契約書を締結することで、秘密情報の開示を禁止し、適切に保持することを約束させることができます。これにより、秘密情報の悪用や流出を防ぐことができます。
(2)取引先との信頼関係を築くため
秘密保持契約書を締結することは、取引先に対して自社の秘密情報を守る意思を示すことになり、信頼関係の構築につながります。
(3)法律上の責任を回避するため
秘密保持契約書を締結していれば、秘密保持契約違反があった場合に、受領者に対する損害賠償請求が認められる可能性が高まります。
不正競争防止法では、営業秘密を不正に取得・使用した者に対して、損害賠償を請求できる規定があります。
秘密保持契約書を作成するタイミング
秘密保持契約書を作成するタイミングは、秘密情報が相手方に開示される前に締結するのが基本です。
具体的には、以下のような場合に秘密保持契約書をを作成するケースが考えられます。
- 業務提携や共同研究を行う場合
- 取引先に業務委託する場合
- 新製品やサービスを開発する場合
- 新規事業を立ち上げる場合
- 従業員を採用する場合
秘密保持契約書を作成しないまま秘密情報を相手方に開示すると、秘密保持義務の範囲が明確に定められないため、トラブルの原因になる可能性があります。
秘密保持契約書の作成方法と項目【雛形紹介】
ここでは経済産業省のホームページでも公開されている秘密保持契約書の雛形にそって、作成方法と要点を説明します。
本記事内「【雛形】秘密保持契約書」にて雛形を紹介しているので参考にしてみてください。
秘密保持契約書の作成方法・締結の流れ
秘密保持契約書の作成の流れは、次の通りです。
- 秘密保持契約書の素案を作成する
- 双方で秘密保持契約書の内容を確認して、合意する
- 秘密保持契約書に署名または記名押印する
秘密保持契約書の素案を作成する際には、経済産業省のホームページで公開されている雛形を用いたり、自社の雛形を利用したりすると良いでしょう。
内容を確認する際には、弁護士のリーガルチェックが有効です。どんな法的リスクがあるのか、自社にとって不利な内容になっていないかなど、専門家の意見をもらいましょう。
秘密保持契約書の内容に双方が納得したら、署名または記名押印をおこないます。
つづいて秘密保持契約書の内容について項目別にみていきましょう。
契約書の項目(1)秘密情報の定義
秘密情報を定義することは、本秘密保持契約書の範囲を決めることで非常に大切な項目です。
秘密情報の定義(記載例)
本契約における「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報をいう。ただし、開示を受けた当事者が書面によってその根拠を立証できる場合に限り、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。
① 開示を受けたときに既に保有していた情報
② 開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
③ 開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報
④ 開示を受けたときに既に公知であった情報
⑤ 開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報
※引用:経済産業省:「【参考資料2】各種契約書等の参考例」より一部抜粋
このほか、規定したもの以外であっても「秘密情報であると指定した情報は秘密情報とする」など、規定以外のものの取り扱いについても定めておきましょう。
また秘密情報の内容が分かっている場合には、くわしく明示しておくこともポイントです。
たとえばECサイトなら、顧客の氏名・住所・プロフィール・メールアドレス・決済情報、クレーム情報などが具体例として挙げられるでしょう。
契約書の項目(2)秘密情報等の取扱い
秘密情報等を取扱う人や目的、複製時のルールについても定めておきましょう。また、万一に秘密情報が漏洩・紛失・盗難・盗用した際の対処法についても規定すべきです。
- 秘密情報を知りえる人物の範囲を決める
- 秘密情報を管理する人物(立場)を決める
- 複製禁止とするか、一定のルールの範囲内で複製を認めるかを決める
- 漏洩・紛失・盗難・盗用した際の報告期限と方法を決める
契約書の項目(3)秘密情報の返還・消去義務
一度提供した秘密情報であっても、返還を求めることができるように定めておきましょう。
同時に、秘密情報は消去しなければならないこと、消去後には消去の完了報告を書面で求めるなどの規定を設けることもおすすめです。
契約書の項目(4)秘密保持契約違反時の損害賠償等
秘密保持契約に違反した場合には、損害賠償請求の措置を講じることと、賠償の必要性についても記載しておきましょう。
また、契約違反時には「業務委託契約自体の解除」の一部または全部を解除できるようにすることを明記しておくことも検討することをおすすめします。
契約書の項目(5)秘密保持契約の有効期限
秘密保持契約の有効期間について定めておきましょう。
また、有効期間満了後にも一定の手順をとることで秘密保持契約が保持されるような規定を明記しておくべきです。そうでなければ、契約が終了したと同時に、秘密情報の悪用・乱用が懸念されます。
【雛形】秘密保持契約書
秘密保持契約書の雛形は経済産業省のホームページ内の「【参考資料2】各種契約書等の参考例」よりダウンロード可能です。具体的には、「第4 業務提携・業務委託等の事前検討・交渉段階における秘密保持契約書の例」が参考になるでしょう。
弁護士のリーガルチェックも有効
もっとも企業の事業内容によっては項目を追加する必要があったり、内容を加筆・修正したりする必要が出てくるものです。
雛形の内容をよく確認し、自社に合う形式の秘密保持契約書を作成するべきでしょう。その際には、弁護士に相談して内容のチェック・アドバイスを受けておくと、様々な法的リスクに対処できます。
秘密保持契約書作成におけるよくある質問
秘密保持契約書に印紙は必要?
秘密保持契約書には収入印紙は不要です。印紙法上の課税文書にはあたりません。
ただし、秘密保持契約書のなかに課税文書の内容が含まれていると、課税文書と見なされる可能性もあります。
第1号文書である不動産などに関連するもの、土地の権利に関連するもの、消費賃貸に関連するもの、運送に関するものの場合は注意しましょう。
課税文書の具体例としては、不動産売買契約書、土地賃貸借契約書、金銭借用証書、運送契約書などがあげられます。
秘密保持契約書に割印は必要?
割印が必ず必要という法律はありませんので、目的に応じて判断しましょう。割印をするメリットは、複数の文書が同じ内容であることの証明や、偽造を防止する点にあります。
なお、秘密保持契約書には署名もしくは記名押印が必要です。
署名とは、氏名や名称を手書きで記載することをいいます。記名押印とは、印刷された氏名や名称の横に印鑑を押すことです。
秘密保持契約書の作成にかかわる法律とは?
秘密保持契約書の作成にあたっては、自社と他社間の契約であっても、法律の範囲内で作成しなくてはいけません。とくに個人情報保護法と不正競争防止法は深くかかわる法律です。
個人情報保護法とは?
個人情報保護法とは、個人の個人情報を適切に保護するために定められた法律です。個人情報保護法が定める「個人情報」については、秘密保持契約書の秘密情報として含めて適切に扱わねばなりません。
個人情報保護法が定める個人情報とは、生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できる情報もしくは周辺情報とあわせて個人の識別につながる情報です。
代表例 | |
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個人を識別できるもの | 氏名、生年月日、住所 |
身体のデータ | 指紋認識データ、虹彩、声紋、歩行の態様、手指の静脈、掌紋 |
個人の公的な番号 | 旅券番号、基礎年金番号、免許証番号、住民票コード、マイナンバー、保険者番号 |
不正競争防止法とは?
不正競争防止法とは、企業間の公正な競争を促進するために定められた法律です。
不正競争とは、企業の営業活動を妨害したり、不当に利益を得たりする行為のことです。不正競争防止法では、以下の行為を禁止しています。
- 営業秘密の侵害
- 不当表示
- 取引妨害
- 不正な利益を得るための行為
とくに秘密保持契約書は「営業秘密の侵害」や「不当な利益を得るための行為」がおこなわれないために作成する一面もあります。
営業秘密とは、企業にとって重要な価値を持つ情報のことで、例えば、技術情報、営業情報、ノウハウなどが該当します。
不正な利益を得るための行為とは、不当に競争相手を排除したり、顧客を奪ったりする行為のことです。
秘密保持契約書の作成を弁護士に依頼するメリット
自社ビジネスに最適な秘密保持契約書を作成してもらえる
弁護士であれば法律の知識をもとに依頼者のビジネス内容や取引先の状況などを踏まえて、適切な内容の秘密保持契約書を作成できます。
雛形は有効なツールではありますが、ときに自社の実情に合わせて適宜修正する必要もあるでしょう。
また、秘密保持契約書の作成にあたっては、以下のような点にも注意が必要です。
- 法律に即した内容になっているか
- 相手方の同意を得られる内容になっているか
- 自社に不利な内容が含まれていないか
弁護士に依頼すれば、企業の業種や取引内容に合わせて、最適な秘密保持契約書の作成も可能です。
法律に即した秘密保持契約書かどうかをチェックしてもらえる
秘密保持契約書は、秘密情報を共有する際に、その情報を第三者に漏らさないことを約束する契約書です。この契約書は、民法や個人情報保護法といった法律を適切に守れるように作成しなくてはいけません。
法律に即した秘密保持契約書を作成しておくと、以下のようなメリットがあります。
- 秘密情報を漏らした相手方へ損害賠償を請求する際の法的根拠が明確です。
- 取引先との信頼関係を築くことができます。
- 働く人にとっても安心できる環境整備の一環といえます。
弁護士は、法律の専門家として、秘密保持契約書が法律に適合しているかどうかをチェックすることができます。
取引先や委託先と秘密保持契約書を作成している段階の方や、見直しを検討している方は、一度弁護士に相談してみましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了