過去の逮捕記事が表示される検索結果は削除できる?

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過去の逮捕記事を削除してほしい!

過去に逮捕された事実が報道され、インターネット上に拡散されるケースは少なくありません。多くのサイトに逮捕記事が掲載されてしまえば、それらをすべて削除することは非常に困難です。

では、検索結果そのものを削除することはできないのでしょうか。この記事では検索結果の削除に関して、裁判所がどのような判断をしたのかについて解説しています。

検索結果の削除に関する判例|傾向を解説

平成29年Google検索結果の削除に関する判例

Googleで氏名・住所を検索すると児童買春の罪で逮捕された事実の検索結果が出ることから検索結果の削除を請求した訴訟で、最高裁は検索結果の削除に関して厳しいと思われる基準を示し、削除を認めませんでした。

最高裁は「検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を持つ上に、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。そのため、検索結果の削除は、表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもある。」とし、

「(検索結果を削除できるかどうかは)事実を公表されない法的利益とURL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきである。その結果、事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる」という基準を示しました。

結論として、児童買春は公共の利害に関する事項であるし、氏名・住所で検索した場合の検索結果の一部であり、事実が伝達される範囲はある程度限られることから、事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえないとして削除を認めませんでした。

Twitter検索結果の削除を命じた最高裁判例【令和4年6月24日】

令和4年6月24日、最高裁はTwitter社に対して、過去の逮捕歴に関する投稿の削除を命じました。Twitterの投稿に関する最高裁の判断が示されたのは初めてのことです。

最高裁はTwitterの投稿に関して「逮捕された事実を公表されない利益が、投稿を閲覧させ続ける理由に優越する場合に削除が認められる」との基準を示しました。これはGoogleの検索結果削除に関する最高裁判決(平成29年判決)が示した基準より緩やかなものとなっています。

そして、男性の逮捕から年月が経過していること、転載元の記事が既に削除されていること、男性が公的立場にないこと等を考慮し、削除の基準を満たしているとして削除を命じました。

この最高裁判断を受けて、Twitterの削除に関する運用がどのようになされるのか注目されます。

Twitter検索結果に関する判例|一審からの流れ

Twitterの検索で約7年前の逮捕歴が表示され、人格権を侵害されたなどとして、北日本の男性が削除を求めた訴訟において、東京地裁は令和元年10月11日に、「Twitterの検索は、投稿順に表示しているに過ぎないから、検索サイトが持つ表現行為としての側面は(Twitterには)ない。情報流通の基盤になっているとまでは言えない」として、平成29年の判例よりも緩やかな基準で削除請求を認めました。

もっとも、この判決は東京高裁における控訴審(令和2年6月29日控訴審判決)で覆されています。

一審と違い東京高裁は、TwitterにGoogleと同様の価値を認め、平成29年の示した基準を適用しました。本件の検索結果はすでにGoogleなどで検索しても表示されなくなっており、社会的な不利益を受ける可能性は低下している、とも指摘しました。さらにTwitter検索の利用頻度はGoogleなどより低いことにも触れ、投稿を残すことよりも逮捕歴を巡るプライバシーの保護が明らかに優越するとはいえないとして、削除請求を認めませんでした。

平成29年判例の基準で削除を認めた判例

嫌疑不十分で不起訴処分となった過去の逮捕事実(旧強姦容疑)がGoogleの検索結果に出てくることの削除を求めた訴訟において、札幌地裁は令和元年12月12日、平成29年判例の基準を使いつつ、「7年経過」「嫌疑不十分で不起訴処分」という事実を重視し、削除請求を認めました。現在この訴訟は控訴されています。

検索結果の削除に関する近時判例のまとめ

平成29年判例は、検索結果を提供する利益よりもプライバシー権の保護が【明らかに】優越する利益といえる場合に削除を認めると判断し、削除のハードルは低くないものと考えられます。平成29年の最高裁判例が出て以降、ほとんどの裁判でGoogle検索結果の削除請求は認められていません。

ただし、Twitter検索結果に関する訴訟に関して最高裁は令和4年6月24日に投稿の削除を命じる判決を出しました。この裁判例がTwitterの運用に与える影響が注目されます。

Google検索結果の削除請求に関して平成29年判例の基準でも、「嫌疑不十分」による不起訴処分が出されているなどの理由で、逮捕事実の検索結果を削除請求できるとする判例がいくつか存在します。ただし、平成29年判例基準でGoogleの検索結果の削除請求が認められるとした最高裁判例はまだありません。令和元年12月12日の判例が控訴審以降でどう判断されるかが注目されます。

検索結果の削除訴訟は難しい

平成29年の最高裁判例が基準になる

先述のように、検索結果の削除に関して最高裁は、厳しいと考えられる基準を採用しています。最高裁の判断である以上、以降の検索結果の削除に関する裁判は、最高裁の判断基準を参考になされます。したがって、削除訴訟で勝訴することは難しいといえそうです。

GoogleやTwitter相手だと最高裁まで争う?

削除に関する訴訟は半年から1年以上と長期間に渡ることが多いです。GoogleやTwitterが相手だと、判例基準で削除相当な場合を除いて、相手方が最高裁まで争ってくるケースも想定されます。勝訴判決が出る可能性が高くないことや、訴訟にかかるコストのことを考えても、個人にとって削除訴訟は難しいものと言えそうです。

なお、Twitterの検索結果に関する訴訟に関しては令和4年6月24日に削除を命じる最高裁判例が出ています。

削除の仮処分で「保全の必要性」は認められにくい?

以前は「インターネットの記事は常に公開されており、 日々、人格権侵害の結果が生じている」という主張で保全の必要性が認められました。しかし近時は、長期間放置していた記事の削除仮処分では保全の必要性が認められないのではないかと指摘されています。

一方で、Googleなど外国法人である検索事業者に本案訴訟を提起するとなれば、訴状送達だけで5~8か月かかってしまうのだから、保全の必要性を肯定することは可能と考えることもできます。

※これは情報が「犯罪事実」に関するものであるからで、放置すると侵害が拡大する情報(病気、LGBT、性的指向、宗教など)については従来通り「保全の必要性」は認められやすいと思われます。

任意の削除請求|弁護士に相談すべき理由

任意の削除請求に判例は関係ない?

裁判になると、必ず最高裁の判断が参考にされます。しかし、任意の削除請求なら、そうとは限りません。相手方が情報の価値が低くこれ以上ネット上に残す意味はないと判断すれば、任意の削除依頼に応じる可能性も十分に考えられます。そのため、まずは任意の削除請求を検討する価値はあります。

なお、Twitterの検索結果に関する訴訟に関して、原告側勝訴となる最高裁判決が出ており、任意による削除請求が認められやすくなる可能性があります。

判例基準で削除相当なものは、検索事業者が削除する

平成29年の判例によっても、検索結果で出てくる情報が個人のマイナンバー、宗教的信条、金融口座番号などの場合は、事実を公表されない利益が優越することが明らかと言える可能性が高いです。なぜならこれらの情報は、公表する価値が高くない一方で、公開された場合に個人が受ける社会的な不利益が大きいからです。このような場合は、検索事業者が自ら削除に応じるケースが考えられます。訴訟を提起するよりも任意による削除請求の方が、コスト面を考えても依頼人に有利と言えるでしょう。

任意による削除請求のコスト

任意による削除請求を弁護士に依頼する場合、弁護士費用は完全成功報酬としている法律事務所もあります。完全成功報酬の場合、削除に成功した場合にのみ報酬が発生し、削除に失敗した場合には報酬が発生しない(0円)こととなります。完全成功報酬の場合、「コストばかりかかってなんの結果も得られない」ということがなく、依頼者としては納得感があるでしょう。

まとめ

ネット削除の分野に強い弁護士事務所へ相談することで、法律だけでなくネットや各サイトの仕組み等の観点からも適切な提案が受けられるでしょう。

弁護士費用は法律事務所ごとに異なるため、相談時には費用についても確認しておくことをおすすめします。

相談する弁護士を探す際のポイントを知りたい方は、下記バナーより解説記事をお読みください。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了