不当解雇で会社を訴える!裁判の手順と費用を解説

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不当解雇

「不当解雇で会社を辞めさせられてしまった」
「不当解雇で会社を訴えたいが、どうすればいいかわからない」

不当解雇で会社に対して訴訟を起こしたいと思っても、どんな手順でどれだけ費用がかかるのか、不安な人も多いと思います。

今回の記事では、不当解雇で会社を訴える場合、どんな補償を請求できるのか、どういう手順で請求するのか、どれくらいの費用がかかるのかについて解説します。

不当解雇で訴えられるケース|労働法による解雇の制限・禁止

不当解雇とは、労働基準法などの労働法の規定や会社の就業規則などに違反して、従業員の意思に関係なく会社が一方的に労働者を解雇することです。

不当解雇の種類は、法律で禁止されている解雇を行う場合と、解雇権濫用にあたる場合とに分けることができます。

法律で禁止されている解雇を行う場合

労働基準法などで解雇が制限または禁止されているにもかかわらず、会社が解雇を行った場合は不当解雇となります。主な制限・禁止は下記の通りです。

①労働基準法による解雇制限

労働基準法19条では、下記期間の解雇制限(解雇の禁止)を規定しています。

労働基準法19条:解雇制限の期間

  • 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間
  • 産前産後の休業期間とその後の30日間

②労働組合法で禁止されている解雇

労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇が当てはまります。

③男女雇用機会均等法で禁止されている解雇

たとえば、労働者の性別を理由とする解雇や、女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇が当てはまります。

④育児・介護休業法で禁止されている解雇

労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、または育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇が該当します。

解雇権濫用にあたる場合

会社が解雇権を濫用した場合は、解雇は無効です。

労働契約法16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と規定されています。

裁判でも問題となるのが「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」をどう判断するかです。解雇権の濫用とみられるケースには以下のようなものがあります。

①新入社員の「能力不足、成績不良」を理由とした解雇

新入社員が十分な教育・訓練を受けないまま業務に就き、うまく仕事ができなかった場合、「能力不足、成績不良」は客観的合理的な理由にはなりません。これを理由に解雇すれば不当解雇になります。

②就業規則にない事由での懲戒解雇

就業規則にない事由で懲戒解雇することは、不当解雇にあたります。労働基準法89条で、懲戒処分を行うには懲戒事由を就業規則に記載することを定めているからです。

たとえば、業務上横領など悪質な犯罪行為であっても、就業規則に定めがなければ懲戒解雇も退職金の支払い拒否もできないのです。

③財務内容に問題のない会社の整理解雇

会社の売上や利益が減少していても、財務内容に余裕がある場合や黒字を確保している場合、業績不振を理由とした整理解雇は不当解雇になる可能性が高いです。

整理解雇(リストラ)は、従業員に責任のない会社都合の解雇であるため、整理解雇が有効かどうかは下記事項を考慮して厳しく判断されます。

整理解雇が有効かどうか判断される基準

  • 人員削減の必要性
  • 解雇回避の努力
  • 人選の合理性
  • 解雇手続の妥当性

整理解雇(リストラ)が有効かどうか判断される基準について詳しく知りたい方は、『リストラに納得がいかない!リストラを弁護士に相談するメリットを解説』の記事をご覧ください。

不当解雇で訴えるときに請求できること

不当解雇における訴訟で請求できることは、以下の4つがあります。

不当解雇の訴訟で請求できること

  • 不当解雇の撤回(解雇の無効)
  • 解雇予告手当の請求
  • 未払い賃金の請求
  • 慰謝料の請求

不当解雇の撤回(解雇の無効)

裁判などで解雇が不当であることを主張して、会社に解雇の撤回を求めることを、「解雇無効の訴え」または「地位確認(※)の請求」といいます。

(※)解雇は無効なので現在も社員としての地位にあることの確認

解雇が無効と認められれば、「会社への復帰」や「解雇された日から現在までの賃金の請求」が可能となります。

ただし、実際には会社と従業員の関係が悪化していて復職を希望する人も少ないので、多くの場合、「解雇無効の訴え」は次で説明する「未払い賃金の請求」へのステップと考えることができます。

解雇予告手当の請求

使用者は労働者を解雇する際、少なくとも30日前には使用者に対して解雇する旨を通知する義務があります。

もし通知を怠った場合には、使用者は30日分以上の平均賃金を支払う義務を負います。これを解雇予告手当といいます。

不当解雇で訴えた場合には、解雇予告手当を請求することができるケースもあります。

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解雇予告手当とは?制度の内容を弁護士がわかりやすく解説

未払い賃金の請求

解雇の無効が確定したら解雇日から現在までの賃金が発生するので、未払い賃金として請求することができます。

懲戒解雇で退職金が支払われていないケースで、訴えにより普通解雇に切り替わったときは、退職金の請求も可能です。

実際の裁判では、解雇の無効が確定的になった段階で和解により和解金や解決金などの名称で金銭が支払われ決着するケースが多いようです。和解金の額は会社と従業員の話し合いで決まりますが、給与の数か月分から1年分くらいが相場です。

従業員が職場復帰を強く希望し会社が退職を望む場合、解雇日から現在までの未払い賃金相当額に、退職を前提として和解金が上乗せされるケースもあります。

慰謝料の請求(損害賠償請求)

慰謝料の請求(損害賠償請求)は、解雇の無効ではなく不当解雇によって損害を受けたので慰謝料を請求するというものです。

未払い賃金請求と比較すると、慰謝料請求は難易度が高くなるにもかかわらず見返りが少ない方法だといえます。

慰謝料を請求するには、会社が不法行為を行ったことを立証しなければなりません。

不法行為とは「故意・過失により相手の権利を違法に侵害し損害を与えること(民法709条)」で、不法行為が認められるのは不当解雇の中でより違法性が高いケースに限られます。

未払い賃金は不当解雇が認められれば請求可能ですが、慰謝料の請求には、より難易度の高い不法行為の立証が必要となります。

また、慰謝料の金額は裁判事例では数十万円から100万円くらいが相場だといわれ、相場が給与の数か月から1年分くらいの未払い賃金請求と比べると見劣りします。

ただし、金額の大小はケースバイケースで、セクハラ問題が絡む場合などでは慰謝料の方が高額になることもあります。

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不当解雇を訴える手順|訴訟までの流れ

不当解雇を直接、または労働組合を通して会社に訴えたり、労働基準監督署に相談するという方法もありますが、裁判所に訴える場合の手順は下記の通りです。

不当解雇を訴える手順

  • 解雇理由証明書の取り付け
  • 不当解雇を証明する証拠の収集(訴訟準備)
  • 労働審判をする
  • 裁判をする

解雇理由証明書の取り付け

解雇理由証明書は、会社が解雇した従業員に対して発行するもので解雇理由が記載されています。退職する従業員が請求すれば、会社は退職理由(解雇の場合は解雇理由)を証明する書類を発行することが法律で義務付けられています。

会社から証明書を取り付けて解雇理由を確認し、納得が出来なければ訴訟などを検討します。

訴訟になった場合、訴訟を有利にするため会社が解雇理由を変更することもあるので、解雇されたらすぐに証明書を請求しましょう。

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不当解雇を証明する証拠の収集(訴訟準備)

次に、訴訟などを前提として不当解雇を証明する証拠を収集します。解雇の内容によって証拠となる書類は異なりますが、下記のものが考えられます。

不当解雇を証明し得る証拠

  • 雇用契約書、就業規則
  • 解雇通知書、解雇理由証明書
  • 在職時の人事評価や人事面談記録
  • 解雇について会社との話し合い経緯がわかる書類(メールや記録など)

労働審判をする

労働審判は、裁判官と労使の専門委員が仲介を行い、3回以内の話し合いで問題解決を図る制度です。いきなり裁判で争うという方法もありますが、裁判にかかる費用と時間を考えれば、まずは労働裁判の選択をおすすめします。

労働審判の結果に不服があるときは、審判の日から2週間以内に裁判所に対し「異議の申立て」ができます。申立てがなければ労働審判は確定し,裁判上の和解と同一の効力を持つことになります。

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裁判をする

労働審判で異議の申立てがあった場合や、直接訴訟を起こした場合は裁判になります。裁判をする場合は通常、事前に弁護士を選任してそのアドバイスに従って訴訟を進めることになります。

労働審判は和解を前提に裁判を大幅に簡素化したものといえるので、会社と従業員の主張が大きく異なる場合や、争点が複雑になる場合には、労働審判を経ずに最初から裁判所に訴えるという方法もあります。

また、請求内容によって請求可能な期間(時効)がありますので注意しましょう。

請求可能な期間

  • 解雇無効の請求:時効なし
  • 賃金の請求  :時効は3年
  • 退職金の請求 :時効は5年
  • 慰謝料の請求 :会社の不法行為を知ったときから3年

不当解雇の裁判で必要になる費用

不当解雇について不服を申し立てて裁判を弁護士に依頼する際、以下のような費用が必要になります。

裁判を依頼するときに必要となる費用

  • 裁判手数料
  • 相談料
  • 着手金
  • 成功報酬

裁判手数料

不当解雇についての訴訟を起こす場合、裁判所に裁判手数料を納める必要があります。

裁判手数料の内訳は、印紙代や郵便切手代といったものがありますが、印紙代は訴訟の内容に応じて金額が決められていたり、郵便切手代は裁判所によって金額が異なっていたりするため、事前に確認をしておくことが重要です。

相談料

弁護士に相談する際には、相談料が必要です。こちらの相場は1時間あたり1万円となっています。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もあるので、よく調べてみることが重要です。

着手金

着手金とは、弁護士が事件に取り掛かるうえで必要となる費用のことをいい、依頼が成功したか失敗したかに関わらず必要となります。

相場としては10~20万円程度に設定されていることが多いですが、会社に対して金銭の請求をおこなう場合には、その請求額の10%ほどを着手金として設定している弁護士事務所もあります。

成功報酬

成功報酬とは、依頼の成果に応じて弁護士に支払う報酬のことをいいます。

こちらの相場は30~40万円に設定されていることが多いですが、着手金と同様に請求額の10~30%程度に設定している弁護士事務所もあります。

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まとめ

不当解雇をされた際には、訴訟を起こすことで職場に復帰したり、未払い賃金を請求したりすることが可能です。

不当解雇についてお悩みの方は、無料相談をおこなっている弁護士事務所もありますので、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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