労働審判とは?制度の内容や手続きの流れを弁護士がわかりやすく解説

更新日:
労働審判

「労働審判とはどういう制度?」
「労働審判を利用すれば労働問題を訴訟以外で解決できる?」

労働審判は、労働トラブルでお困りの方に強い味方になる制度ですが、実際に利用を検討するとどういった制度か分からない方が多いでしょう。

労働審判は、簡単に言うと、解雇・賃金問題で多く利用される紛争解決制度です。

この記事では、労働審判の制度の内容や具体的に解決できるトラブル、労働審判のメリット・デメリットを詳しく解説しています。

労働審判を利用するべきケースも最後に解説しているので、労働審判を利用すべきかお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。

労働審判とは?解決できることは?

労働審判とは?

労働審判とは、会社と個々の労働者との間で生じた労働トラブルを、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的とした裁判所の制度です。

裁判をするほどではないものの、相談・交渉といった簡便な手続きでは解決しにくい問題に対応できる制度として、2006年4月より労働審判法として施行されています。

労働審判手続きは、裁判の手続きと異なり非公開で行われ、労働審判官(裁判官)1名と労働問題の専門家である労働審判員2名で組織された労働審判委員会に審理されます。

労働審判で解決できるトラブルは?

労働審判で解決できるトラブルは、個別の労働関係の民事紛争です。

主に、解雇、雇い止め、配転、出向、未払い賃金・退職金請求権、懲戒処分、労働条件変更の拘束力などが挙げられます。

平成28年の厚生労働省のデータによると、労働審判での取り扱い事例内容の割合は以下になっています。

  • 解雇問題:45.4%
  • 賃金問題:39.6%
  • その他の問題:14.9%

【参考】:厚生労働省「労働審判制度等について」

データ上では、全体の80%以上が解雇問題と賃金問題となっています。

解雇問題と賃金問題は双方の主張が異なることが多く、簡易な話し合いでは解決できないケースがあります。その場合、交渉から労働審判へと解決の場を移行することが多いです。

労働審判で解決できないトラブルは?

一方、労働審判の対象とならない代表的なトラブルは、労働組合関係のトラブルです。

労働審判で解決できるのは個別の労働紛争であり、労働組合と会社との紛争といった当事者が多数いるようなトラブルの場合は利用できません。

また、加害者個人を相手にするセクハラ・パワハラなどのハラスメントにおけるトラブルも対象となりません。

労働審判のメリット

労働審判のメリットは、以下が挙げられます。

労働審判のメリット

  • 裁判より簡易迅速に解決できる
  • 相談や交渉で解決できなかった内容を解決できる
  • 解決率が約80%ある
  • 強制執行力がある
  • 当事者の片方が欠席をしても審理は行われる

裁判より簡易迅速に解決できる

労働審判のメリットとして、問題の早期解決が見込める点が挙げられます。

通常の裁判で労働紛争を争った場合の平均審理期間は17.2か月と長期間になりますが、原則最大3回の期日で審理がされる労働審判であれば平均90.3日で解決しています。

労働審判は、調停による和解がベースであり約70%の事件が調停で解決しています。調停に至らず審判が下されるのは全体の15%ほどです。

参考:2022年|最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書

相談や交渉で解決できなかった内容を解決できる

労働審判の特徴は、裁判より簡易迅速な解決が期待でき、かかる日数や費用が少なく済むことです。労働トラブルが発生すれば、だれでも利用できます。

2022年は全国で3,208件の労働審判件数があり、直帰10年間は毎年3,500件前後で推移しています(日本弁護士連合会『弁護士白書 2023年版』)。

解決率が約80%ある

労働審判での解決率は約80%で解決力は高いです。

また、解決内容の90%以上は、企業が労働者に解決金を支払うかたちで解決となっています。

強制執行力がある

労働審判委員会から出された裁定は、2週間以内に当事者が異議を申立てなければ、裁判上の和解と同一の効力を持ちます(労働審判法21条4項)。

そのため、差し押さえといった強制執行も可能になります。

当事者の片方が欠席をしても審理は行われる

労働審判を進めるにあたって相手方(会社側)が裁判所からの呼び出しに応じなかった場合でも、労働者側の立証・主張のみで審理を進めることが可能です。

そのため、会社が不当に応じないことで、どうにもできなくなるということは労働審判ではありません。

労働基準監督署の指導や労働局のあっせん、労働組合による団体交渉などで解決できなかった紛争でも、労働審判であれば問題を解決することが見込めます。

労働審判のデメリット

労働審判のデメリット

  • 申立手数料や弁護士などの費用がかかる
  • 専門性が高く、自分だけではできないことが多い
  • 労働審判で解決できないこともある

申立手数料や弁護士などの費用がかかる

労働審判は費用がかかります。必ずかかる費用は申立手数料です。申立手数料は500円~133,000円に設定されており、訴訟額に応じて金額が上下します。

参考:手数料早見表

また、弁護士を依頼した場合には弁護士費用がかかります。

弁護士費用は弁護士事務所で差があり一概に言えませんが、労働審判の一般的な金額は20万~40万+成功報酬(請求金額の20%前後)です。

専門性が高く、自分だけではできないことが多い

労働審判は自身だけ行うこともできますが、会社とのやり取りや適切な証拠による主張が必要など、実際には専門的な知識や経験が求められます。

弁護士を立てない場合には、審判の専門性についていけずに、不利な解決になるデメリットを考慮する必要があるでしょう。

なお、実際に労働審判を起こす申立人(労働者)の90.1%は弁護士に依頼しています(日本弁護士連合会『弁護士白書 2023年版』)。

また、統計的に見ても弁護士に依頼したほうが労働審判で紛争を解決しやすくなっています。

労働審判において労働者が弁護士に依頼せず、会社側のみが弁護士に依頼していたケースでは、58.8%で調停が成立しています。

しかし、労働者・会社側双方が弁護士に依頼していたケースでは、76.0%で調停が成立しています(日本弁護士連合会『弁護士白書 2023年版』)。

このことからもわかる通り、弁護士に依頼すれば手間を削減できるだけではなく、紛争解決もしやすくなるため、労働審判制度を利用する際は弁護士に依頼することをおすすめします。

関連記事

労働審判の弁護士費用相場は?労働審判を弁護士に依頼すべき理由

労働審判で解決できないこともある

労働審判は、労働問題を必ずしも解決できる制度ではありません。

労働審判の手続きの中で調停(和解)が成立しなかったり、労働審判委員会から出された裁定(審判)に対して当事者が異議を申し立てた場合は、裁判に移行して争うことになります。

裁判に発展すると解決までの期間が長期化する可能性が高いです。

労働審判の流れ

労働審判を実際に行うことになった場合の流れについて解説していきます。

労働審判の手続きは、①申立て、②期日における審理、③終了(調停や審判)の三段階に大きく分けられます。

解雇や給料・退職金のトラブルは、労働審判の制度を使えば、この手続きを経て、申立てから終了までおよそ2か月〜4か月くらいの期間で解決することが多いです。

①申立て

労働審判の申立ては、本人または代理人が申立書を作成し、地方裁判所内の民事受付窓口にて提出することで完了します。

申立て書には、以下の内容の記載が必要です。

  • 何を請求するか
  • 請求の理由
  • 予想される争点・その争点に関する重要な事実
  • 争点ごとの証拠

申立てには、申立手数料や、郵便切手などが必要になります。申立手数料は、先述したように訴訟額によって異なります。訴額が10万円なら500円、100万円なら5,000円になります。

②期日における審理

申立てを行うと、労働審判官から第1回期日が指定されます。第1回期日は、申立て受領から原則40日以内に設定されます(労働審判規則13条)。

第1回期日

第1回審理は労働関係の専門家である労働審判員2名、労働審判官(裁判官)、労働者本人、企業側、それぞれの代理人(弁護士)と、合計7名での話し合いになることが多いです。

審理では、事実関係や法律論が整理され、必要があれば証拠の取り調べが行われます。一般的には、労働者・会社側の双方から別々に話を聞いて、それぞれの主張を整理されます。

話し合いによる解決の見込みがあれば、第1回目の期日から調停案が提示されることも多いです。和解が成立すれば、1回目の期日で終了します。

第2回期日

第1回で和解が成立しなかった場合には、第2回期日が開かれます。第2回期日は1回期日の2週間~1か月ごとに設定されることが多いです。

2回目期日では、調停のための話し合いが行われます。

実際のところ、労働審判は第2回期日までで終了するケースが多いです。

③労働審判の終了

労働審判は原則として3回以内の期日で、調停成立、もしくは労働審判委員会が労働審判を下すことにより終了します。

労働審判が下された場合には、2週間以内に異議申し立てがなければ審判が確定します。

労働審判を利用するべきケースは?

労働審判を利用するべきケースは、以下のようなケースです。

労働審判を利用するべきケース

  • 賃金未払い問題で早期の解決を望んでいる
  • 会社との話し合いが一向に前に進まない
  • 会社の違法行為を客観的に証明する証拠がある

上記のいずれかに該当する場合には、労働審判を利用するメリットが大きいと言えます。

賃金未払いは生活に直結する問題であり、早期の解決が望まれるでしょう。労働審判は訴訟と比較しても早期解決が実現できる可能性が高いです。

また、会社との話し合いが前に進まないケースでも、専門家である第三者を挟むことによって話し合いがスムーズに進めばトラブルを解決できます。

さらに、会社の違法行為を客観的に証明する証拠がある場合には、労働審判を行うことで権利が認められる可能性が高いでしょう。

労働審判を検討するなら弁護士に相談!

労働審判を検討される方は、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。

弁護士に相談すれば、法律の専門家としての知識やアドバイスはもちろんのこと、実際の労働審判の経験に基づいた意見を聞くことができます。

たとえ、労働審判を弁護士を依頼せずに自分でやるつもりであっても、自分でやる際の対応や注意点を明確にできるでしょう。

労働審判を自分でするメリット・デメリットを詳しく知りたい方は、『労働審判は自分でできる?自分でやる方法とメリット・デメリット!』の記事をご覧ください。

弁護士に依頼するメリットは、代理人として労働審判の手続きを代理で行ってくれることです。

労働審判へ代理人として出席するだけでなく、労働審判の申立書の作成も行ってくれます。

労働者の多くは初めて労働審判を利用することになるはずです。

弁護士に依頼して煩雑な手続きや相手方との問答などを代わりにやってもらったほうがより納得できる結果につながる可能性が高いでしょう。

弁護士事務所によっては、無料相談を受け付けている事務所もあります。労働審判についてお悩みの方は、弁護士に相談しましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

残業代・不当解雇など

全国/24時間/無料

弁護士に労働問題を共有する