労働審判は自分でできる?自分でやる方法とメリット・デメリット!
「自分で労働審判を起こしたいが、やり方がわからない」
「労働審判は弁護士なしでも起こせるのか」
会社に対して労働審判を申し立てたい方の中に、このような悩みをお持ちの方もいると思います。
労働審判とは、個人の労働者と事業主の労働問題を解決するための制度です。
期日が原則として3回と定められているため、裁判よりも迅速な解決が望めます。
今回は、労働審判を弁護士に依頼せず自分でおこなうメリット・デメリットや流れについて解説します。
目次
労働審判を自分で申し立てるメリットは費用面
労働審判を自分で申し立てるメリットとして、解決金や着手金といった弁護士費用がかからず安く済むことが挙げられます。
以下のようなケースであれば、労働審判を自分で申し立てることを検討してみるのもよいでしょう。
自分で申し立てることを検討できるケース
- 弁護士に依頼をする費用がない、もしくは請求できる額が低いなど依頼をしても費用倒れになる
- 紛争の内容が複雑ではなく、会社の違法性・不当性が明らかで、事実関係も明確で証拠もそろっている
- 請求金額が、労働契約や法の規定に基づいて形式的に決められる など
上記のケースと異なり、違法性や不法性、事実関係に争いがあるなど、法的な評価が問題となりやすい紛争は、弁護士でなければ適切な主張が難しいかもしれません。
慰謝料などの損害賠償請求をしたい場合についても、自身で会社の不法行為や損害を法的に主張・立証する必要があるため、専門知識がなければ難しい請求となってきます。
労働審判を自分で申し立てるデメリット
労働審判はもちろん自分で申し立てることはできますが、以下のようなデメリットもあります。
労働審判を自分で申し立てるデメリット
- 自分で申立書や証拠の準備をする必要がある
- 期間が短く臨機応変な対応が必要
自分で申立書や証拠の準備をする必要がある
労働審判を1人で申し立てる際には、予想される争点に関する有効的な証拠を集めたり、申立書を作成して裁判所に提出したりといった作業を自分でおこなう必要があります。
弁護士なしで自分で労働審判を起こそうとすると、かなりの手間がかかることに注意してください。
期間が短く臨機応変な対応が必要
労働審判は最大3回の期日で終了するスピーディーな審理がおこなわれます。
そのため、短い期間で法的なポイントを押さえた主張をするよう準備しておく必要があります。
また、労働審判の場では、その場において口頭で回答や主張をおこなう必要があります。
したがって、「裁判官からどのような質問が飛んでくるかを予想する」「自分の主張はどういったものかを明確にしておく」などの準備に加えて、その場その場で臨機応変に対応しなくてはなりません。
労働審判を自分で申し立てるときの手続きと流れ
労働審判を1人で申し立てるときにすべきことと労働審判の流れは、以下のようになっています。
自分で労働審判を申し立てる場合の流れ
- 労働審判の申し立て
- 会社の答弁(言い分)に対する反論
- 和解案や審判に対する諾否の判断
1.労働審判の申し立て
労働審判を申し立てる最初のステップは、以下の書類を地方裁判所に提出することです。労働審判では、提出された申立書と証拠に基づいて話し合いがおこなわれるため、最も重要なステップといえます。
労働審判を申し立てるときに必要な書類
- 労働審判申立書
- 証拠書類の写し
労働審判申立書は、申し立てる内容によって異なりますが、以下のような内容を記載します。
労働審判申立書に記載すること
- 申し立ての趣旨(具体的な請求内容)
- 申し立ての理由(申立てを特定し理由付けする具体的事実を含める)
- 予想される争点や当該争点に関連する重要な事実
- 予想される争点ごとの証拠
- 当事者間においてされた交渉、その他の申立てに至る経緯の概要
労働審判ではスピーディーな審理を実現させるため、申し立て時点で申し立てる内容と証拠書類を可能な限り提出する必要があります。
会社側の非を証明する明確な証拠を集め、労働審判委員会を納得させる申立書ができれば、審判は有利に進みます。
2.会社の答弁(言い分)に対する反論
訴えられた会社は、第1回目の審理までに申立書を見て答弁書を作成・提出します。
労働審判が始まると、「申立書」に沿って申立をおこなうとともに、会社側の提出した「答弁書」で納得できない部分について反論をおこないます。
双方の主張を記載した「申立書」と「答弁書」を使って、事実確認をおこない解決策を模索するのです。
3.和解案や審判に対する諾否(承諾するか拒否するか)の判断
第1回目から第3回目までの審理の中で、和解案が出されたり審判が下されたりします。
和解案や審判の内容に納得できれば、承諾して問題解決となります。納得できない場合は和解案を拒否したり、審判に異議を申立てたりして訴訟へと移行することになります。
弁護士に依頼するメリット
労働審判は弁護士なしで利用できる制度ですが、有利に進めるためにも弁護士への依頼をおすすめします。
労働審判を弁護士に依頼するメリットとして、以下のようなものが挙げられます。
弁護士に依頼するメリット
- 弁護士にほとんどのことを任せられる
- 解決できる可能性が高くなる
- 証拠がない場合でも開示請求が可能
弁護士にほとんどのことを任せられる
弁護士に依頼することのメリットは、代理人としてほとんどのことを代理でおこなってくれることです。
自分で申立書を書いたり、証拠を集めたり、相手と交渉したりといった煩雑な手続きを弁護士に一任できます。
解決できる可能性が高くなる
また、統計的に見ても弁護士に依頼したほうが労働審判で紛争を解決しやすくなっています。
労働審判において労働者が弁護士に依頼せず、会社側のみが弁護士に依頼していたケースでは、58.8%で調停が成立しています。
しかし、労働者・会社側双方が弁護士に依頼していたケースでは、74.6%で調停が成立しています(日本弁護士連合会『弁護士白書 2022年版』)。
面倒な手続きを任せられるだけでなく、トラブルの解決もしやすくなるというところがポイントです。
証拠がない場合でも適切な収集が可能
労働審判では証拠が非常に重要となります。
もし手元になかったり、会社が管理していたりする場合は、労働審判において「証拠保全」や「文書提出命令」などの手続により証拠を確保しなければならないことがあるでしょう。
弁護士であれば証拠確保のための手続きを適切に行ってくれるため、自身の手間を省きつつ証拠を入手しやすくなるというメリットがあります。
労働審判を弁護士に依頼するメリットについてさらに詳しく知りたい方は、『労働審判の弁護士費用相場は?労働審判を弁護士に依頼すべき理由』の記事もご覧ください。
まとめ
労働審判は弁護士なしで自ら申し立てることはできますが、自分で煩雑な手続きをおこなう必要があったり、審理の場で適切に法的な主張や回答をしなければならなかったりと、さまざまなデメリットがあります。
労働審判を有利に進め、トラブルについて納得のいく結果を得るためにも、費用はかかってしまいますが、弁護士に相談することをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了