不当解雇されたら慰謝料(損害賠償)請求できる?相場と判例を解説

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不当解雇の慰謝料

不当解雇されたら解雇無効を主張して未払い賃金を求めることができますが、状況によっては慰謝料も請求できる可能性があります

ただし、すべての不当解雇で慰謝料が発生するわけではなく、慰謝料請求が認められるのは、解雇の違法性・悪質性が高いケースに限られます。

不当解雇の慰謝料の相場は、50万~100万程度です。

そこで今回は、どのような不当解雇で慰謝料請求が認められるのか、実際に慰謝料請求が認められた裁判例を詳しく解説します。

不当解雇に対する慰謝料請求を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。

不当解雇されたら慰謝料を請求できる?

不当解雇されたら必ず慰謝料請求できるわけではない

不当解雇されたからとって、必ず慰謝料を請求できるわけではありません。

なぜなら、解雇された労働者の精神的な苦痛は、「解雇期間中の賃金が支払われることで償われる」と考えられているからです。

ただし、解雇期間中の賃金を支払ってもなお、精神的苦痛に対する償いができていないと考えられるケースは、慰謝料の請求が認められます。

不当解雇で慰謝料請求できるのは、解雇の違法性・悪質性が高いケースに限定されるといえるでしょう。

慰謝料が認められるためには不法行為の事実と立証が必要

そもそも慰謝料とは、加害者の不法行為によって被害者が受けた精神的苦痛に対する損害賠償金です。

慰謝料が認められるためには、相手に「不法行為」の事実があることを立証する必要があります。

不法行為とは「故意や過失にもとづく違法行為により、相手に損害を与える行為(民法709条)」を意味します。単に「解雇が法律に則していない」というだけでは、不法行為とはいえません。

不当解雇の慰謝料の相場は50万~100万円

不当解雇の慰謝料の相場は、50万円〜100万円程度です。

具体的な金額は、個々の事情を考慮して判定されます。

また、ヘッドハンティングに応じて転職したのに、その直後に不当解雇されたようなケースでは、慰謝料に加えて逸失利益の損害賠償請求が認められる場合があります。

慰謝料請求が認められる可能性があるケース

慰謝料請求が認められる可能性があるケースは、以下が挙げられます。

(1)労働者の精神的苦痛が著しい解雇

具体的には、以下のようなケースで慰謝料請求が認められる可能性があります。

  • 解雇の理由がまったく無い
  • 解雇に至る決定、通知の手続きに著しい不備があった
  • セクハラを拒絶したら報復的に解雇された
  • 残業代請求・未払い給料の請求に対する報復としての解雇
  • 解雇行為に伴い、労働者の身心や名誉権を侵害する行為があった

(2)外部機関に関与・申告したことを理由とする解雇

外部機関に申告したことを理由とする解雇は、不当解雇とみなされるかつ、慰謝料請求が認められることがあります。

  • 労働組合員であることを理由とする解雇
  • 労働基準監督署への申告を理由に報復的に解雇した
  • 内部告発に対する報復としての解雇

不当解雇の慰謝料が高額になるケース

以下のような場合、不当解雇の慰謝料が高額になりやすいといえるでしょう。

違法性が高い

会社が労働基準法による解雇制限を無視して強硬に解雇した場合、セクハラを拒絶された報復として解雇したなど、違法性が高いと慰謝料は高額になりやすい傾向があります。

労働者側の被った損害が大きい

不当解雇によって労働者の被った損害が重大な場合、慰謝料額が高額になりやすい傾向がみられます。

たとえば。労働者に小さい子どもや妊娠中の妻などの扶養家族がいて解雇によって大きな影響を受けると、精神的苦痛が大きくなると考えられるでしょう。

こういった労働者側の事情によって慰謝料が増額されます。

解雇の動機が不当

会社側が解雇した動機が不当であれば、慰謝料の金額が増額されやすいといえます。

たとえば、労働基準監督署へ通報したことへの報復措置として解雇した場合、比較的高い慰謝料が認められやすいです。

不当解雇で認められる慰謝料の金額は、状況によって大きく変わります。適正な慰謝料額を知りたい場合には、不当解雇に強い弁護士に相談しましょう。

裁判で不当解雇による高額な慰謝料が認められた例

会社の不法行為の違法性・悪質性が高く、労働者の権利侵害が多大な場合は、高額な慰謝料が支払われる可能性があります。

では、実際にどのようなケースで慰謝料が認められたのか、高額な慰謝料が支払われるケースの特徴は何か、裁判例をご紹介します。

100万円以上の慰謝料が認められたケース

一般に、会社側の違法性・悪質性が高く、労働者の受けた損害が大きいほど、慰謝料が高額になる傾向があります。

実際に極めて悪質なセクハラ・パワハラや嫌がらせがあった場合、会社からの行為により精神疾患を患った場合などに、100万円以上の慰謝料が認められています。

100万円以上の慰謝料が認められたケース

  • 100万円】退職時に会社から訴えられ、双極性感情障害を発症した(横浜地裁H29.3.30)
  • 100万円】会社代表者から丸刈りにされる、長時間土下座させられるなどの著しいパワハラを受けた(福岡高裁H31.3.26)
  • 180万円】長期の性的嫌がらせや強姦未遂を受けたうえ不当に解雇され、PTSDを発症した(東京地判H12.3.10)

懲戒解雇でも慰謝料が認められたケース【70万】

懲戒解雇とは、従業員の服務規律違反行為に対する制裁として行われる解雇です。

具体的には業務に関連した犯罪行為、重大な経歴詐称、業務命令への繰り返しの違反などにより懲戒解雇となる可能性があります。

しかし、懲戒解雇を言い渡された場合であっても、その理由が不当であったり、また懲戒解雇に伴う不法行為があると慰謝料請求が認められます。

実際に、スーパーマーケットで商品の持ち帰りを理由に懲戒解雇された社員について、70万円の慰謝料請求を認めた事例があります。

これは、スーパーマーケット側が「従業員が窃盗行為に及んだ」という旨の掲示を多数の店舗に行ったことが不法行為と判断されたためです。

不当解雇された!慰謝料以外に請求できるお金は?

不当解雇された場合、慰謝料以外に請求できるお金には、以下のようなものがあります。

慰謝料以外に請求できるお金

  1. 未払いの賃金
  2. 未払いの残業代
  3. 未払いの退職金
  4. 解雇予告手当

それぞれどのくらいの金額がもらえるのか、もらえる条件は何なのか、一緒に確認していきましょう。

(1)未払い賃金

不当解雇による解雇無効を主張する場合、一定期間の賃金を請求することができます。

もしも不当解雇が無効であったと認められた場合、和解や判決などで従業員の地位が確認されるまでの間は、有効な雇用関係が成立していることになります。

雇用期間が成立している以上、その期間に支払われるべきであった賃金も当然に請求できることになるためです。

既に再就職し、そこで給与を受け取っている場合には、就職後の期間において最大4割分の未払い賃金(賞与を除く)が控除されます。

(2)未払いの残業代

就業中に賃金の支払われないサービス残業があったような場合には、未払い残業代も同時に請求することができます。

(3)未払いの退職金

不当解雇の裁判においては、第一次的には、退職金は請求しません。退職金の請求は解雇が有効なことが前提だからです。

もっとも、裁判が進む過程で解雇が有効となりそうな場合は、解雇が有効であることを前提に、退職金の支払いを請求することがあります。

とくに懲戒解雇の場合、就業規則にも「懲戒解雇のときには退職金を支給しない」という規定がよく置かれていますが、実際は退職金の一部支払いが認められた事例も多くあります。

これは、退職金に「長年の労働に報いる」という性格があり、仮に懲戒解雇されたとしてもそれまでの功労が全て帳消しとはなりにくい、と考えられているためです。

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(4)解雇予告手当

会社から「明日から来なくていい」「すぐにクビ」などと指示される、いわゆる即日解雇の場合には、労働者は解雇予告手当を受け取れる可能性があります(労働基準法20条)。

解雇予告手当とは、解雇予告期間が30日未満のときに支払われる、30日に満たないぶんの平均賃金に相当する手当です。

ただし解雇予告手当を請求するということは、解雇された事実を認めるということですので、解雇無効を前提とする未払い賃金などとは同時に請求できないことには注意が必要です。

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契約社員・アルバイトなども不当解雇の慰謝料が認められる?

契約社員・アルバイトであっても、不当解雇に対する慰謝料請求は可能です。

雇用形態ごとの扱いを確認しましょう。

契約社員の場合は?

契約社員の不当解雇でとくに問題になるのは、契約期間の途中の解雇です。

契約社員に関しては、労働契約法17条で「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間、労働者を解雇することができない」と定められています。

契約期間途中の解雇は、原則として無効です。

また、雇い止めに関しても、契約社員の契約更新に対する合理的な期待が保護されています。労働契約法18条で無期雇用契約への転換権が、同法19条で契約更新への申込みの権利が保障されています。

これらの権利を無視する会社の横暴に対しては、解決金に慰謝料を加えて請求できる場合があります。

アルバイトの場合は?

安易に解雇できないことは正社員や契約社員の場合と同様です。アルバイトの場合も、仕事や立場の性質に応じて、解雇規制の法律が適用されることになります。

会社から安易にクビを切られた場合は、法律に基づいて、地位を主張し、解決金や慰謝料を請求することができます。

内定取り消しの場合は?

違法かつ悪質な内定取り消しに対しては、損害賠償として慰謝料を請求することができます。

内定取消しとは、内定通知により成立した雇用契約を、会社の側から一方的に解約することです。入社前の内定期間であっても、会社は一方的に雇用契約を解約できるわけではありません。

解約権の行使が認められるのは、従業員側に学歴詐称の落ち度があった等、一定の合理的な場合に限られます。

たとえば、転職を勧誘されて内定を受領した後、一方的に内定を破棄され、雇用契約を解約された事案につき、慰謝料300万円の請求が認められたケースがあります。また、新卒の場合は、慰謝料請求が認められやすいです。

試用期間の場合は?

試用期間とは、一定の期間を「見習い」期間として、その間の評価をもとに本採用を決定するという制度です。

注意が必要なのは、試用期間がある場合でも、試用期間の最初から雇用契約自体は有効に成立しているという点です。試用期間だからといって、無制限の解雇が認められるわけではありません。

試用期間中であっても、不合理な解雇・解約は違法と評価されます。その場合は、法律にもとづいて、慰謝料を請求できるケースがあります。

たとえば、政治や宗教を理由とした差別的な解雇や、業績不振を理由とした強引かつ一方的な解約の場合は、違法性が高く、慰謝料の請求が認められる可能性が高いです。

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不当解雇で慰謝料を請求する手順

最後に会社から不当解雇されたときの対処法を解説します。

解雇理由証明書を要求する

解雇されたら、まずは会社に解雇理由証明書を請求しましょう。

解雇理由証明書とは、会社が考える解雇理由を記載した書面です。雇用者が労働者を解雇したとき、労働者からの要求があれば会社側は遅滞なく解雇理由証明書を発行しなければならないと法律で規定されています。

不当解雇した当初は会社も油断しているため、解雇理由証明書を求められると安易に「法律上認められない理由」を書いてくるケースがあります。

そういった書類があると、後に不当解雇を主張して争うときに有力な証拠となるでしょう。

不当解雇されたら、労働基準法にもとづいて解雇理由証明書を発行するよう会社へ要求してみてください。会社が解雇理由証明書の発行に応じないときには、弁護士から通知すると効果的です。

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証拠を集める

不当解雇として未払い賃金や慰謝料を請求するには、解雇が不当である証拠が必要です。たとえば以下のようなものを集めましょう。

  • 雇用契約書
  • 解雇理由証明書
  • 就業規則
  • 解雇に関して会社とやり取りしたメール
  • 会社から送られてきた書類
  • 経緯を詳細に記した日記、手帳、スケジュールアプリなど

労働審判、訴訟をする

労働審判は、裁判官と労使の専門委員が仲介を行い、3回以内の話し合いで問題解決を図る制度です。

いきなり裁判で争うという方法もありますが、裁判にかかる費用と時間を考えれば、まずは労働裁判の選択をおすすめします。

労働審判の結果に不服があるときは、審判の日から2週間以内に裁判所に対し「異議の申立て」ができます。申立てがなければ労働審判は確定し、裁判上の和解と同一の効力を持つことになります。

労働審判について詳しく知りたい方は『労働審判とは?制度の内容や手続きの流れを弁護士がわかりやすく解説』の記事をご覧ください。

労働審判で異議の申立てがあった場合や、直接訴訟を起こした場合は裁判になります。

不当解雇で裁判をする場合の流れを詳しく知りたい方は、『不当解雇で会社を訴える!裁判の流れと費用を解説』の記事をご覧ください。

不当解雇の慰謝料請求は弁護士に相談

不当解雇されて未払い賃金や慰謝料を請求するとき、労働者1人で対応できることには限界があります。

労働者1人では、証拠集めが難しいケースがあり、証拠を収集できたとしても、会社との交渉で不利に扱われてしまうおそれがあります。慰謝料請求しても無視されるかもしれません。

不当解雇で慰謝料の請求を検討されている方は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、状況に応じたアドバイスをしてくれますし、必要に応じて会社との交渉も任せられるでしょう。

弁護士が対応すると態度が変わる会社も少なくありません。

不当解雇されたとき、泣き寝入りする必要はありません。困ったときには労働問題に詳しい弁護士の力を借りて、慰謝料や未払い賃金を適切に払ってもらいましょう。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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