事業譲渡手続きの流れは?会社譲渡の方法や手順を知ってスケジュールを立てよう

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事業譲渡の手続き
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事業譲渡をして将来の老後資金を貯めたい、会社譲渡の譲渡益を新規事業にあてたい、あるいは相続した会社を売却したいなどとお考えの方はいませんか。

その場合、今後必要となる会社譲渡の手続き、手順などを正しく把握しなければなりません。

この記事では、会社譲渡のスケジュールを上手く立てられるように、事業譲渡の概要や、事業譲渡の手続きの流れなどを解説しています。

是非さいごまでご覧ください。

事業譲渡と簡易事業譲渡とは?

事業譲渡とは?

事業譲渡の定義

事業譲渡とは、株式会社が事業を取引行為として他に譲渡することです。

譲渡の対象が事業の全部または重要な一部に当たる場合は、譲渡する側の会社において、株主総会の特別決議による承認が必要になります。

事業の重要な一部とは?

事業の全部であればその判断は簡単だと思いますが、重要な一部というのは何を指すのでしょうか。

「事業の重要な一部」に該当するかどうかは、売上高・利益・従業員数等が事業全体の10%を超えるものかという量的基準、および会社の事業内容や沿革などから大きな影響があるかという質的基準によって判断されます。

事業譲渡の手続き

株主総会の特別決議で承認を受けるには、議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、かつその出席した株主の議決権の三分の二以上の賛成(賛成数)が必要になります。

簡易事業譲渡に当たる場合や、譲受会社が特別支配会社である場合などは、株主総会の特別決議は不要です。しかし、これらに該当しない場合に、株主総会の承認決議がないときは、その事業譲渡の効力は無効となってしまいます。

また、事業譲渡に反対する株主は、事業譲渡をする株式会社に対して、自分が保有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できます。この反対株主による株式買取請求権を行使された場合は、会社は対応を余儀なくされます。

そのほか、事業譲渡にかかわる社員の雇用を維持するためには、譲渡先企業との交渉をおこなう必要があります。
社員の同意が無ければ移籍はできないので、社員ごとに、移籍同意書を締結するといった手続きも必要です(民法625条参照)。

事業譲渡の手続き

  • 株主総会の特別決議が必要
  • 事業譲渡の対象とするかどうかは資産・負債ごとに個別に判断
  • 反対株主の株式買取請求権がある
  • 社員ごとに移籍の同意をとる
    etc.

簡易事業譲渡とは?

通常の事業譲渡では、株主総会の承認決議が必要となります。

しかし簡易事業譲渡に当たる場合は、株主総会の承認決議を省略して、事業譲渡が可能です。

簡易事業譲渡とは、「事業の全部」または「重要な一部の譲渡」について、譲渡する資産の帳簿価格が当該会社の「総資産の五分の一」を超えない場合(定款の定めにより五分の一を下回る割合を定めることは可能)には、株主総会の承認決議がなくても、事業譲渡の効力が生じるという手続きです(会社法467条1項2号)。

株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
一 事業の全部の譲渡
二 事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)

会社法467条1項1号,同2号

通常の事業譲渡の手続きとの違い

簡易事業譲渡の場合、冒頭でもお話ししたとおり、通常の事業譲渡とは異なり、事業の全部または重要な一部の譲渡にあたるときでも、株主総会の特別決議が不要です。

これに加えて、簡易事業譲渡は(会社法468条の「事業譲渡等」に該当しないので、)反対株主の株式買取請求権は認められません。

簡易事業譲渡の手続き

  • 株主総会の特別決議が不要
  • 反対株主の株式買取請求権がない
    etc.

事業譲渡の手続きの流れは?

事業譲渡の手順は?スケジュールを確認

事業譲渡の手順は、次のようなスケジュールになります。

事業譲渡の手順

① 事業譲渡の準備を開始する
② 事業譲渡先を見つける
③ 基本合意書の締結
④ デューデリジェンス
⑤ 取締役会決議
⑥ 事業譲渡契約書の締結
⑦ 株主への通知・公告
⑧ 株主総会の特別決議
⑨ 事業譲渡の効力発生

①事業譲渡の準備を開始する

事業譲渡をおこなうか否か、事業譲渡をおこなう目的は何かを明らかにして、さまざまなM&Aのうちいずれの手法を選択するかを吟味します。

また自社の強みや、強化すべき点を検討し、現在の市場価値や将来性などを把握していきます。

②事業譲渡先を見つける

事業譲渡をするには、譲渡先を見つけなければなりません。しかし、自力で事業譲渡先を見つけるのは、非常に時間と手間のかかる作業になるでしょう。

会社売却先・事業譲渡先を効率的に見つける方法としては、M&A仲介会社への依頼がおすすめです。

M&A仲介会社であれば、全国規模で譲渡先を探せるので、候補先の母数が増える分、好条件の相手に巡り合える確率も上がるでしょう。

ほかにも、銀行や商工会議所が、M&Aの仲介をしてくれるケースもあります。

仲介手数料の有無や、M&Aコンサル業の経験値、信頼できる譲渡先を見つけられる可能性などを加味して、相談相手を上手く見つけるのがポイントです。

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③NDAの締結・基本合意書の作成

秘密保持契約書(NDA)

理想的な譲渡先にめぐり会えた場合は、これから進めていく事業譲渡契約について、譲渡会社と譲受会社の間で方針を話し合って行きます。

お互いにM&Aの話し合いのなかで知り得た情報を秘匿しあうことを約束するために、秘密保持契約(NDA)の締結も忘れずにおこないます。

基本合意書の締結

トップ面談(TOP面談)などを終え、事業譲渡の方針について話がまとまれば、基本合意書を作成します。

基本合意書には、譲渡対象事業の特定や、譲渡価格、調査事項などを記載します。

基本合意書の内容で、最終合意となる訳ではありませんが、たたき台となる大切な草案です。

事業譲渡について希望条件などがある場合は、この段階から提示しておいてもよいでしょう。

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④デューデリジェンス(DD)

M&Aを進めるうえで、いわゆるデューデリジェンス(買収監査。通称DD)も非常に重要です。

デューデリジェンスとは、譲渡先企業が、M&Aに応じるかどうかの最終判断をくだすためにおこなう「調査」のことです。

デューデリジェンスはとくに専門的な判断が必要となるので、多くの場合、公認会計士や税理士、弁護士などの専門家に依頼することが多いでしょう。

注意点

売り手の注意点としては、デューデリジェンスの結果をもとに、買い手側から売却代金の値下げなどを要求されることがあるので、それに耐えうる反論を用意しておくことがあげられます。

また、決算書類の記載漏れなどが、信頼関係に影を落として、M&Aが決裂してしまうこともあります。そのため必要がある場合は、DDを行う前にフォローを施しておく必要があります。

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⑤取締役会の決議

事業の全部または重要な一部の譲渡を行う場合は、取締役会を設置する会社では、取締役会での事業譲渡の承認決議が必要とされています(会社法362条4項1号)。

取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け

会社法362条4項1号

取締役会の決議要件は、基本的には、決議に参加できる取締役の過半数が出席し(定足数)、かつ出席した取締役の過半数の賛成(賛成数)が必要になるというものです(会社法369条1項)。

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。

会社法369条1項

なお取締役会を設置しない会社では、2人以上取締役がいる場合、その過半数による賛成が必要です。

⑥事業譲渡契約の締結

取締役会決議を経た後は、譲渡会社と譲受会社が事業譲渡契約を締結します。

事業譲渡契約では、通常、譲渡対象事業、譲渡期日、譲渡資産、対価およびその支払方法、財産移転手続、競業避止義務、従業員の引継ぎに関する事項、株主総会決議の期日などが記載されます。

事業譲渡契約の内容

  • 譲渡対象事業
  • 譲渡期日
  • 譲渡資産
  • 対価・支払方法
  • 財産移転手続き
  • 競業避止義務
  • 従業員の引き継ぎ
  • 株主総会決議
    etc.

事業譲渡や株式売却では、相場を意識した企業価値の評価が重要です。
事業譲渡契約締結の段階は、売却価格の交渉ができる最終段階です。相場を参考にしつつも、将来性や強みを推して、買い手に希望する価額で取引に応じてもらえるよう説得していく必要があるでしょう。

また、譲渡会社の善管注意義務、事情変更による契約解除、契約に定めのない事項に関する協議義務などを規定することも多いでしょう。

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⑦事業譲渡の通知・公告

事業譲渡の効力発生日の20日前までに、事業譲渡をおこなうことについて、株主への通知や公告が必要です。

⑧株主総会の特別決議

事業の全部または事業の重要な一部の譲渡(譲渡する資産の帳簿価額が譲渡会社の総資産額の五分の一(五分の一を下回る割合を定款で定めた場合はその割合)を超えるときには、原則として、譲渡日の前日までに株主総会の特別決議が必要になります。

一方、事業を譲受ける会社においては、事業の全部の譲渡の対価として、譲受会社の総資産の五分の一を超える財産を交付する場合は、譲受会社においても株主総会の特別決議が必要になります。

反対株主の株式買取請求

事業譲渡に反対する株主(反対株主)は、事業譲渡をする会社に対して、自身の保有する株式を買い取るよう請求できる権利(反対株主の株式買取請求権)を行使することができます。

事業譲渡をおこなう過程で、譲渡会社は、反対株主の株式買取請求権を行使されることがあるので、留意しておきましょう。

⑨事業譲渡の効力発生

事業譲渡の効力が発生したら、事業譲渡契約に定めた財産の引き渡しなど、順次、履行する流れとなります。

事業譲渡以外の会社譲渡の手続きは?

事業譲渡以外の手続き①株式譲渡

株式譲渡は事業承継のための方法の一つです。株式会社においては、後継者に事業承継する場合、生前贈与、相続、会社売却(第三者への株式譲渡)の3つのパターンが考えられます。

同族承継ができない場合は、経営能力のある第三者を次世代の後継者として選び、株式譲渡の方法で会社のオーナーとしての地位を譲ることになるでしょう。

会社売却(株式譲渡)の方法

株式譲渡の流れとして、まず、買い手に株式譲渡をうけるに十分な資金の準備をしてもらう必要があります。

上場会社の場合は、証券取引所にて自由に株式を売却することができます。

一方、非上場会社の株式譲渡の場合は、譲渡制限付き株式であることが多く、株式譲渡については会社の承認決議が必要です。

中小企業の場合は、社長が自社の株式を保有し、譲渡制限をつけて、経営権を把握していることが多いでしょう。

非上場株式に譲渡制限がついている場合の株式譲渡の手順としては、まず取締役会や臨時株主総会の承認決議がおりた後、買い手と売却価格の協議をおこないます。そして代金支払いや株主名簿の書き換えなどの手続きを終えれば、株式譲渡が完了となります。

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事業譲渡以外の手続き②会社分割

会社分割とは、会社を事業ごとに分割して、別の会社に事業を承継させるM&Aの手法です。

会社分割の場合、譲渡企業に対して、譲受企業の株式を対価として交付する運用がなされることが多いものです。

事業譲渡と違って、会社分割では、現金で譲渡対価を受け取れない実情があります。

老後や新規事業のために資金調達をしたいなど、現金化が必要な場面では、会社分割は不向きな手続きといえるでしょう。

会社譲渡の手続きはどれが良い?選び方は?

株式譲渡が向いている場合

事業譲渡、株式譲渡、会社分割はいずれも事業承継する際の手法です。

会社のオーナーとしての地位を完全に譲渡したい場合や、譲渡益を現金で欲しい場合などは、事業譲渡や会社分割ではなく、株式譲渡を選択すべきでしょう。

また、株式譲渡は、他の手続きよりも簡便であるといわれています。

株式譲渡が向いている場合

  • オーナーの地位を譲渡したい
  • 株式譲渡の対価を現金で欲しい
  • 簡便な手続きで進めたい
    etc.

事業譲渡・会社分割について

事業譲渡を選択するメリットとしては、不採算事業がある場合、個別に資産や負債の譲渡を交渉できるため、買い手が見つかりやすいという点があげられます。

しかし、事業譲渡や会社分割の場合、会社そのものはその後も存続するため、会社運営から完全に開放されるためには、別途、会社の解散手続きをとる必要があります。

また、事業譲渡は諸々の手続きが複雑で、譲渡益を取得するまでに手間がかかります。会社分割も、株式が対価として交付されるため、譲渡益の現金化には時間がかかってしまいます。

まとめ

M&Aの手法は一長一短です。

個別のケースにもよりますが、中小企業を譲渡する場合や、譲渡益の確保に主眼がある場合は、株式譲渡が最適なのではないでしょうか。

会社を存続させたいケースや、すべての譲渡益に変えるのではなく資産を会社に残しておきたいケースなどは、事業譲渡や会社分割が向いているでしょう。

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会社譲渡の手続きで悩んだ場合の対策

会社譲渡の手続きで悩んだ場合の対策としては、たとえば以下の3つが考えられます。

3つの対策

①ネットで調べる
②書籍で調べる
③M&A仲介会社を利用する

ネットや本で分からない部分がある場合や、実際にご自身の事業がいくらで譲渡できるのかを知りたい場合などは、M&A仲介会社に相談してみてもよいでしょう。

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