労災で歯が折れたら労災保険による治療は可能?口の後遺障害を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

労災で歯が折れたら労災保険による治療は可能?口の後遺障害を解説

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労働災害で歯が折れた|口の後遺障害を解説

仕事中や通勤中の災害によって歯が折れたり口に関連する障害を負った場合、労災保険により補償を受けることができるのでしょうか。

歯科診療の場合の疑問点や、口に関連する後遺障害について詳しく解説していきます。

労災で歯が折れた場合も補償を受けられるか

労災で歯が折れた場合、被災労働者は労災保険によってどのような救済を受けられるのでしょうか。

歯の治療の場合、労災保険を受けられるか

労災保険とは、労働者が仕事中や通勤の途中に被災して負傷・疾病・傷害・死亡した場合に医療費などが給付される制度のことです。

医療費に関する労災保険の給付は以下のようなものがあります。

  • 労災指定医療機関による「療養の給付」
  • 非指定医療機関による「療養の費用の支給」

「療養の給付」とは、労災病院や労災保険指定医療機関・薬局などで、治療や薬剤の支給などを無料で受けられることを指します。(このような場合を現物給付といいます。)

他方で、「療養の費用の支給」は最寄りに指定医療機関がないために、指定医療機関以外の医療機関・薬局で治療を受けた場合に、その療養にかかった費用を支給する現金給付のことをさします。

歯科診療の場合は、非指定医療機関であることがほとんどだと考えられるので、「療養の費用の支給」を受けることができるか否かが問題となるケースが多いでしょう。

療養の給付を請求する方法

療養を受けている指定医療機関を経由して、あなたがお住まいの地域を管轄する労働基準監督署の署長に対して所定の療養給付請求の書類を提出する必要があります。  

療養の費用を請求する方法

療養の費用を請求する場合には、所轄の労働基準監督署長に対して所定の療養費用請求書を提出する必要があります。

労災による歯の傷害を負った場合、「療養の給付」と「療養の費用の支給」とで大きく異なる点は、歯科診療を受けた医療機関の「窓口での支払い」があるかないかという点だということができるでしょう。

歯科診療の労災診療費はどのように算定されているのか

それでは、歯科診療を受けた場合、労災診療費についてはどのように計算されているのでしょうか。 

労災診療費の算定基準

労災保険において歯科診療によって発生する治療費については、健康保険の診療報酬点数表に準じて算定されることが一般的です。

ただし、一部は以下のように労災保険独自の算定基準を定めています。(なお、非指定医療機関を受診した場合であっても、支給限度額の算定については以下の基準にもとづいて算定されます。)

  • 診療単価:12円
  • 初診料:3820円(医科・歯科ともに)

すでに、傷病の診療を継続している期間(災害発生当日を含む)中に、診療を継続している医療機関で診療に係る事由以外の業務上の事由・通勤による負傷・疾病により初診を行った場合は初診料を算定することができます。

  • 救急医療管理加算:入院外 1250円

初診時(継続診療中の初診時を含む)に入院外で救急医療を行った場合には1250円が算定されます。

  • 療養の給付請求書取扱料:2000円

労災指定医療機関等において「療養(補償)給付たる療養の給付請求書(様式第5号または第16号の3)」を取り扱った場合に2000円を算定できます。

  • 再診料:1400円

一般病床の病床数200床未満の医療機関および一般病床の病症数200床以上の歯科・歯科口腔外科において算定します。再診料についても初診料と同様に点数ではなく上記金額で算定されます。

  • 再診時療養指導管理料:920円

これは、外来患者に対して再診時に療養上の指導(食事・日常生活動作・機能回復訓練・メンタルヘルスに関する指導)を行った場合、指導の都度算定することができます。

歯科治療を自由診療で行った場合は自費となるか

労災診療費については前述のように健康保険の診療報酬に準拠して算定されますが、保険適用外の材料を用いた自己負担相当額については診療報酬が定められていません。

ここで、自己負担額相当額すべてが補償されないわけではなく、「個別判断」によって労災保険が支給されるか否かが決定されています。

「歯冠補修や欠損補綴」の歯科医療については、次のように取り扱われることが一般的です。

まず、業務災害や通勤災害により保険適用外の材料を用いた補綴等を破損した場合、この破損した補綴等を原状復帰するためにかかった費用については「療養補償給付」の対象と考えられています。

次に、業務災害や通勤災害によって補綴等が必要となり、前述以外の場合で保険適用外の材料を用いた場合の材料と費用については、以下のように取り扱われます。

  • オートセラミック:全体がセラミック(陶器)でできている
  • ハイブリッドセラミック:セラミックとレジンを混ぜた材質でできている
  • メタルボンド:中身は金属で外から見える部分はセラミックでできている

これらの材料費については「1本あたり原則8万円」を上限として療養補償給付の対象とされます。

口に関する後遺障害について

口の障害について、労災保険は後遺障害等級に応じて支給されます。

人事院の運用通達には口の障害についての後遺障害等級について以下のように定められています。

咀嚼(そしゃく)および言語機能障害

第1級2号咀嚼および言語の機能を廃したもの
第3級2号咀嚼または言語の機能を廃したもの
第4級2号咀嚼および言語の機能に著しい障害を残すもの
第6級2号咀嚼または言語の機能に著しい障害を残すもの
第9級6号咀嚼および言語の機能に障害を残すもの
第10級2号咀嚼または言語の機能に障害を残すもの

咀嚼機能障害は、上下咬合・排列状態・下顎の開閉運動などによって総合的に判断されるものです。

「咀嚼機能を廃した」とは、流動食以外は摂取できない状態を指します。

また、「咀嚼機能に著しい障害を残すもの」とは粥食程度の飲食物以外は摂取できない状態をいい、「咀嚼機能に障害を残すもの」とは固形食物の中に咀嚼できないものや咀嚼が十分でないものがあり、そのことが医学的にできる場合に認められます。

「言語の機能を廃した」とは、口唇音・歯舌音・口蓋音・喉頭音の4種類の語音のうち3種類以上について発音ができなくなった状態です。

「言語の機能に著しい障害を残すもの」とは、4種の語音のうち2種の発音不能または綴音機能に障害があるため言語のみを用いては意思疎通することができないものを指し、「言語機能に障害を残すもの」とは4種の語音のうち1種の発音不能を指します。

歯牙(しが)障害

第10級3号14歯以上に対し歯科補綴(ほてつ)を加えたもの
第11級3の2号10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
第12級3号7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
第13級3の2号5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
第14級2号3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

「歯科補綴を加えたもの」とは現実に喪失・著しく欠損した歯牙に対する補綴を指します。また、喪失した歯牙が大きいか、または歯間に隙間があったため喪失した歯数と義歯の歯数が異なる場合には、喪失した歯数により等級が決定されるのです。

具体的に、3本の歯を喪失したのに対して4本の義歯を補綴した場合には3歯の補綴として取り扱われるということです。

嚥下(えんげ)障害

舌の異常や咽喉支配神経の麻痺などによって生じる「嚥下障害」については、その障害の程度に応じて咀嚼機能障害に係る等級が準用されます。

味覚障害

第12級相当味覚脱失
第14級相当味覚減退

味覚障害についての取り扱いは、以下の通りです。

「味覚脱失」とは、頭部外傷その他顎周囲組織も損傷および舌の損傷によって生じた味覚障害のうち、基本4味質すべてが認知できないものを指します。

「味覚減退」とは、基本4味質のうち1以上が認知できないものを指します。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了