介護施設で爪切りは危険?事故が起きた時の対応や相談先を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

介護施設で爪切りは危険?事故が起きた時の対応や相談先を解説

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爪切りは危険!!事故時の対応や相談先

身体に障害を抱える方や高齢者の方は自分で爪切りを行うことも難しくなります。介護施設の利用者にあっては、食事や排せつと同様、爪切りも施設職員に代わりにやってもらいたいと感じる場合もあるでしょう。

しかし、介護施設において爪切りは危険な行為の一つであり、爪切り中に事故が起きたために介護施設への責任を追及することが必要なケースが生じることは珍しくありません。

本記事では、爪切り事故が起きた際に被害者側が知っておくべき情報について解説しています。困った際の相談先についても解説するので、ぜひご一読ください。

介護施設の爪切りによる事故に関して知っておくべきこと

介護施設において爪切りによる事故が生じることがあります。
良く起きる事故事例や、爪切りに関する基本的な知識を知っておけば、介護施設に対する責任を追及する必要がある際に役に立つでしょう。

介護施設における爪切りの事故事例

年齢を重ねると爪が硬くなったり、厚くなったりするため、爪切りが困難になる傾向があります。したがって、介護施設で爪切りをする際もうまくいかず、事故が起きる場合もあります。

たとえば、爪と皮膚が癒着していることに気付かず爪を切ったため、出血や痛みが生じたり深爪になったりしてしまうのです。転倒や誤嚥といった事故に比べ、爪切りは大事に発展しづらいですが、怪我を負った際の精神的ストレスなども考えると起きてはいけない事故の一つです。

医療行為に該当する爪切りはできない

介護施設では利用者の爪切りを禁止している場合があります。爪切りは所定の条件を満たした場合だけ実施できるケア・サービスなのです。介護施設での爪切りがどういった規制を受けるのか見ていきましょう。

基本的に医療行為は医師や看護師が実施するものであり、介護の資格がある介護職でも行うことはできません。爪切りは日常行為の一つに感じますが、場合によっては医療行為に該当します。

爪を切られる利用者に以下の特徴が見受けられると、その爪切りは医療行為に該当します。

  • 爪そのものに異常がある
  • 爪周辺の皮膚に炎症や化膿が見受けられる
  • 糖尿病等、専門的な管理を必要としている

爪を切ることで持病が悪化したり、新たな病気を誘発したりする可能性がある場合、爪切りは医療行為に該当し、医師や看護師でなければ行うことはできません。

また、糖尿病の場合、その他の人と比べて爪切りには気を遣う必要があります。なぜなら糖尿病患者は皮膚がダメージを受けやすく治癒もしづらい状態だからです。皮膚のバリア機能が落ちてしまうので、些細な事でも傷を受けやすくなります。傷から侵入した病原体によって感染症がもたらされると、足が壊死したり、最悪の場合、命に関わる恐れもできます。

さらに、巻き爪も状態によっては医療行為に該当するので注意が必要です。爪切りは介護施設の職員でも医療行為に当たるのか判断に迷うこともある行為です。

健康な人にとっては気軽な行為に思えますが、高齢者にあっては非常にセンシティブな問題がつきまとうと認識しておきましょう。

医療行為に該当する爪切りを行い、介護事故が生じたのであれば、介護施設側に責任を追及できる可能性が高いといえます。

介護施設における爪切りの方法

介護施設では安全な爪切り方法を定めています。手の爪を切る場合、利用者の腕を介護者の腕で巻き込むようにつかみ、きちんと固定しなくてはなりません。

自分の爪を切るのと同じ角度・位置にもっていき、切りやすい体勢でカットしていきます。認知症の方や体の動きが激しい方の場合、予想外の挙動を取り、手元が狂う恐れがあるため注意が必要です。

足の爪を切る際は、まず椅子やベッドなど安定したところに座ってもらいます。介助者はベッドに横たわるようにするか、低い椅子があれば利用し、できるだけ安定した姿勢を作りましょう。そして、腕を使って利用者のひざ下部分を全体的に支え、膝の上に利用者の足をのせて爪を切っていきます。

コミュニケーションが取りやすいので、対面で向き合って切った方がよいと思うかもしれませんが、死角が増え爪を切りにくくなるため、タブーだといわれています。
また、足先だけ持ち上げる行為も、利用者がバランスを崩し後ろに倒れる危険があるため、良くありません。

危険な姿勢で爪を切ったために事故が生じた場合、事故防止の対策が不十分であったとして、介護施設側に責任を追及できる可能性が高いでしょう。

爪切りによる事故が発生した場合における介護施設の行動

介護施設は事故が発生しないよう十分注意して介護サービスを提供する必要があります。

しかし、そうはいっても人為的な作業が大半を占めていますから、不注意や過失による事故が発生する確率をゼロにはできません。

介護施設は事故が発生した場合、迅速かつ適切な処置を行う必要があります。事故が発生した際に、介護施設が取るべき手続きを解説します。

介護施設がどのような手続きを取るのかを理解しておくと、介護施設側に対する責任を追及する必要がある際に役立つでしょう。

介護施設は事故報告書を書く必要がある

介護施設で何らかの事故が起きた場合、介護施設側は事故報告書を書く必要があります。介護保険法では施設内で治療を要する事故が発生した場合、行政に報告する義務があると規定されています。

事故報告書はこの報告の際に用いられる書類です。
また、事故を振り返り発生原因を特定し、二度と同じ事故を起こさないよう改善するためにも重要な書類です。

介護事故報告書の対象となる事故には、転倒・誤嚥・表皮剥離、創傷・離設(利用者が施設を飛び出しどこかに行ってしまうこと)・感染症・食中毒・交通事故など多様な種類が挙げられます。

このうち、爪切りが関係するのは表皮剥離、創傷です。高齢者は皮膚が乾燥し弾力が失われているため、ちょっとした傷でも出血や損傷が生じるので十分な注意が必要です。

介護事故報告書は事故の正確な状況を把握するために、利用者本人や家族が閲覧する場合もあります。介護事故報告書の記載が不十分だったり、そもそも書かれていなかったりするケースでは施設側の落ち度を問うことができる可能性もあります。

被害にあった利用者やその家族が介護施設側に責任追及をするための損害賠償請求を検討してるのであれば、介護事故報告書の内容がポイントとなるので、しっかりと確認すべきでしょう。

介護施設側からの謝罪

事故の被害者である本人や家族と加害者となる介護施設側の間では、事故後すみやかに話合いの場が設けられます。介護施設側は誠実かつ真摯な姿勢を見せるために、「事故を起こしてしまい、申し訳ありません。」と謝罪を行うでしょう。

謝罪があったからといって、施設側は事故に関する法的な責任を認めたわけではない点に注意が必要です。この謝罪はあくまでも道義的責任を果たしたに過ぎず、法的な責任の所在とは別の問題です。

ですから、介護施設側が謝罪をしてきたからといって、損害賠償を請求できるわけではありません。逆にいうと、謝罪がないことを原因に法的な責任を追及することもできないとも考えられます。

損害賠償を請求するためには、介護施設側が事故の原因を作っていたり、安全配慮義務違反を犯していたりといった事情が求められます。
そのため、損害賠償請求を行うのであれば、証拠を揃えるといった準備が必要です。

損害賠償請求の方法については『介護事故の損害賠償とは?賠償項目や適正相場と請求に必要な手続き』の記事をご覧ください。

介護事故の相談先

介護事故で施設側と交渉すると「提示された賠償額に納得がいかない」、「説明もきちんとしてくれないし、介護施設の対応が悪い」などの不満が生じるケースもあります。

介護事故に関して、不安や疑念に悩まされるときは介護事故に強い弁護士への相談がおすすめです。介護事故に遭った際に弁護士相談するメリットや弁護士ができることなどを紹介します。

介護事故では弁護士への相談がおすすめ

介護事故の経験が豊富な弁護士であれば、具体的な事例における損害賠償の相場を知っています。

施設側から提示された金額が相当な水準なのか判断してくれ、また適切な金額を教えてくれるでしょう。施設側との交渉を代理してくれることもメリットの一つです。

介護事故の知識が不足している一般の方では施設側との交渉で不利に立たされる場合もありますが、弁護士に依頼すれば対等な立場で交渉を進められます。交渉が難航した場合、後に訴訟へ移行する可能性も考えると、早めに弁護士へ頼っておくのが得策だといえるでしょう。

介護事故について弁護士に相談するメリットを詳しく知りたい方は『介護事故の相談先は?窓口一覧と弁護士の法律相談がおすすめな理由』の記事をご覧ください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了