理科の授業中に事故!怪我の補償と学校側の責任を解説
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理科の授業中には、実験において危険な器具を使用することもあり、事故が起きることも珍しくありません。
そのため、授業中の事故で子供が怪我を負った場合には、誰にどのような請求が可能であるのかを知っておくべきでしょう。
本記事では、理科の授業中に起きる事故の内容や、事故により怪我を負った場合の請求方法について解説していきます。
また、学校で起こる事故の責任の所在をどのように考えるべきかもみていきましょう。
目次
理科の授業中に起きる事故事例
全国の小学校・中学校・高校で起こった理科の実験中の事故はどのようなものがあるのかを解説します。
器具や工具の取り扱いに関する事故
まず、理科の授業中の事故として発生しやすいのが、器具・工具の取り扱い中の事故です。
理科の授業・実験で扱う器具の例としては、ガラス器具・ハンマー、解剖器具や減圧装置などがあげられるでしょう。
ガラス器具は、スタンドへの取付けミスやひび割れ・ひずみが原因でガラスが割れて負傷する可能性があります。
また、ハンマーや工具については、切傷や打撲を負うほか、器物が周囲にいた児童・生徒に接触したり、破片が飛散したりして周囲の人が負傷するリスクもあるのです。
危険な薬品の取り扱いに関する事故
薬品については、熱源や加熱に関する事故があります。たとえば、アルコールランプの取り扱い中に不注意によってやけどを負ったり、周囲に引火するといった事故が考えられます。
水素やアセチレンについては、捕集して点火した際に発生装置が爆発してしまい、破損した器具で負傷する事故も考えられるでしょう。
また、強酸性の物質が顔や手に付着して怪我を負うほか、塩酸から発煙する塩化水素ガスを吸引してしまい、頭痛になったり、呼吸困難になったりするなどの事故も想定されます。
野外活動中の事故
野外指導に関する事故としては、自然観察学習中に堤防から落下したり、障害物につまずいて負傷するケース、田植えや稲刈りの体験の際にガラス片で足を切ったり、鎌で怪我をしたりするケースも考えられるでしょう。
海や川での野外活動では足を滑らせて転倒した際、足元の岩に身体を強打して負傷することもあります。
理科の実験中の事故で利用できる保険制度
学校の管理下では、さまざまな状況下で児童・生徒が怪我を負う可能性があります。そのような場合には「災害共済給付制度」の利用を検討しましょう。
災害共済給付制度について
「災害共済給付制度」とは、児童・生徒が学校の管理下で怪我などをしたときに保護者に対して災害共済給付という給付金が支給される制度です。
この制度は、独立行政法人日本スポーツ振興センターと学校設置者との間の災害強制給付契約がある場合に利用できます。
支給される内容は、医療費や障害見舞金、死亡見舞金などです。
運営に要する経費は「国」・「学校の設置者」・「保護者」の三者で負担するため、保護者が掛金を負担することで給付を受けることが可能となります。
給付の対象となる範囲と給付金額
給付の対象
給付の対象となる「学校の管理下」とは、学校で編成下教育課程に基づく授業を受けている場合であることいいます。
各教科や学級活動・遠足などの特別活動中も含まれますので、理科の授業中による事故で負傷をした場合や、学校外での課外活動中に怪我をした場合も対象となります。
給付内容とその金額
災害共済給付の給付内容は、怪我をしたときの医療費、障害見舞金、死亡見舞金の3つに大別できます。
「負傷」の場合、治療費用に5000円以上必要となったといえれば、「医療費」として支給されます。基本的には、健康保険による3割負担で1500円以上を支払った時です。災害共済給付からの給付額は治療費用の4割なので、実際に健康保険を使って負担した金額よりも少し多めに支払われます。
「障害」の場合には、学校の管理下の負傷または疾病が治った後に後遺障害が残ったといえれば「障害見舞金」が支給されます。
日本スポーツ振興センターによって後遺障害が残ったと認定されることが必要です。
障害見舞金の金額は、障害の等級に応じて88万円~4000万円の範囲です。
「死亡」の場合には、学校の管理下において発生した事件に起因する死亡及び疾病に直接起因する死亡にあたれば、「死亡見舞金」が支給されます。
死亡見舞金の金額は3000万円です。
給付項目 | 給付金額 |
---|---|
医療費 | 治療費用の40% |
障害見舞金 | 88万円~4000万円 |
死亡見舞金 | 3000万円 |
※医療費は初診から治癒までの総額が5,000円以上(3割負担で1,500円以上)であること
給付金の請求手続
災害共済給付で医療費を請求する際の手続について、順を追って説明します。
まず、保護者は医療機関等で医療費の証明を受け、学校へ提出しましょう。
学校は怪我の発生状況の報告書と医療費の証明を設置者に提出します。
設置者は管内の学校分をとりまとめて、怪我の発生状況の報告書と医療費の証明を日本スポーツ振興センターへ提出する流れです。
日本スポーツ振興センターが提出された書類を審査して、給付額を決定し設定者を通して保護者へ災害共済給付が支払われます。
保護者がすべきこと
保護者は治療を受けた医療機関に所定の書類を提出して、医療費の証明を受けましょう。書類は学校からもらえます。
医療費の証明は、月単位で必要です。治療が長期間におよぶときには、複数回医療費の証明を提出しなくてはなりません。
理科の授業中におきた事故の責任について
理科の授業中に起きた事故について、事故のいきさつを知るうちに、学校側に事故の責任を問えるのかどうかが気になる方もいるでしょう。
理科の授業のように、学校で起こった事故は安全配慮義務違反の有無が争点になります。
事故の責任は誰に請求できるのか
理科の授業中に起きた事故の責任について請求できる相手は、学校が公立なのか私立なのかにより異なります。
公立学校の場合には、市町村や区などの地方自治体に責任が生じ、公務員である教員個人に損害賠償請求することはできません。
これに対して私立学校の場合には、学校だけではなく、教員個人に対する賠償請求も問題になります。
教員の安全配慮義務違反が問題
理科の授業中に起きた事故について責任を請求するためには、教員に何らかの過失があり、その過失が原因で生徒である子供が怪我をしたといえなければなりません。
そして、過失があるといえるためには、教員が負っている義務に反する行為があったことが必要になります。その義務は安全配慮義務です。
理科の実験や観察学習は授業の一環として必要なものですが、教員としては事故を未然に防ぐための安全配慮義務を負っています。
安全配慮義務とは?
児童・生徒の生命および健康などを危険から保護するように配慮すべき義務
教員が安全配慮義務に違反する行為を行っていたのであれば教員に過失が認められるため、責任を請求することが可能となります。
危険を伴う実験指導の場合には、広範囲で高度な安全配慮義務があると考えられています。
つまり、児童や生徒が実験・活動に関する危険性について知識が乏しく、児童・生徒自身ではその危険を回避することが難しいと想定される場合には、そのようなことも想定したうえで安全対策を講じておかなければならないということです。
なお、安全配慮義務が認められる場合に請求できる内容については『学校事故の損害賠償|請求相手と請求内容は?示談についても解説』の記事をご覧ください。
教員の安全配慮義務違反を判断するポイント
教員の安全配慮義務違反を判断するポイントを次の点から解説します。
- 実験方法の事前指導は適切に行われているか
- 実験中などの指導に義務違反はないか
これらの点に注目してみていきましょう。
実験方法の事前指導は適切に行われているか
実験指導については、学習指導要領や参照すべきとされている指導書などが参考となるでしょう。必要とされている指導を実施していなかったような場合には、教員に安全配慮義務違反の疑いがあります。
他方、学習指導要領や指導書にはない指導方法をとっていた場合に、直ちに安全配慮義務違反にあたるといえるかどうかは検討が必要となるでしょう。
教員が実験・観察に伴う危険性を認識していたにもかかわらず有効といえる安全対策をとれていなかった場合には、安全配慮義務に違反すると認定される可能性が高くなるでしょう。
また、実験器具や工具が壊れていたり、老朽化していたことが原因で事故が起こることもあります。
危険な薬品については、ラベルの貼り間違いによる取り違いのミスで事故が発生すれば、準備段階での安全配慮義務違反が認定される可能性が高いでしょう。
安全配慮義務の一環として、教員は授業や実験で扱う器物の適切な保管・管理が求められます。
実験中などの指導に安全配慮義務違反はないか
教師が理科の実験や観察の際に必要な安全配慮義務を尽くしたといえるためには、実際に実験現場に立ち合い、適切な指導・監督による指示をしている必要があります。
仮に事前に十分な説明や指示をしていたとしても、実際の実験・観察現場から離れて具体的な指導・監督できない範囲で事故が発生した場合には、安全配慮義務を尽くしていたとはいえないでしょう。
そのような場合にも、現場を離れていた理由の正当性や離脱時間、事故の発生可能性の高さなどの要素を考慮して安全配慮義務違反が判断されることになると思われます。
安全配慮義務違反の有無については、判断を行うことが困難であることが多いため、専門家である弁護士に相談するべきでしょう。
弁護士の法律相談を活用してみませんか?
怪我の治療という点では、災害共済給付から一定の補償を受けられます。しかし、学校側の落ち度があって事故が起こり、しかも子どもが大怪我をしてしまったとなると、親御さんの悲しみは計り知れないでしょう。
学校で起こった事故について、法律相談の活用をご紹介します。
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- 子に重い後遺障害が残ってしまい途方に暮れている
- 学校側に安全配慮義務違反を問いたい
- 学校側から提示された示談金額が適正かを知りたい
例えばこういったご相談について、法律の専門家として弁護士からアドバイスができる可能性があります。
適切な金額による損害賠償請求を行うには、専門家による協力が欠かせません。そのため、上記のような不安や悩みを抱えているのであれば、弁護士に相談することをおすすめします。
また、弁護士に依頼すると損害賠償請求のために必要な交渉や手続きを代わりに行ってくれます。子どもの怪我の治療や精神的なケアに集中できるというメリットがあるので、弁護士への依頼も相談の際に検討すべきでしょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了