介護施設の転倒事故は隠す場合がある?隠されたと感じた時の対処法 | アトム法律事務所弁護士法人

介護施設の転倒事故は隠す場合がある?隠されたと感じた時の対処法

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介護施設|転落事故の隠ぺいの可能性

介護施設に預けている家族の肌をふと見ると、傷跡ができている場合があります。「転倒の話なんて、介護施設の人から聞いていないけどな…」と不審を抱く場合、介護施設の職員が事故を隠している場合があります。

介護施設側は事実を認識していても、保身や対応の煩わしさを嫌い「何も起きていない」と言い張る可能性はゼロではありません。

しかし、利用者の安全を守る事業者側が、事故の事実を隠すことは許されません。

今回は介護事故で最も起きる危険が高い転倒事故を隠す理由や、転倒事故が発生した場合に生じる責任について法的な観点から解説します。

介護施設における転倒事故の現状

介護施設では利用者の転倒・転落事故の件数が最も多いです。
したがって、事故を隠す可能性が一番高いのも転倒・転落事故だといえます。

まずは、介護施設における転倒事故の現状や判例を見ていきましょう。

介護施設で一番多いのが「転倒事故」

公益財団法人介護労働安定センターの資料によると、平成26年~平成29年の3年間で起きた276の介護事故のうち、65.6%を転倒・転落・滑落事故が占めています。2番目に多い誤嚥・誤飲・むせこみでも13%なので、転倒事故がいかに突出して多いかわかるでしょう。

転倒によって、利用者は骨折するケースが多く、打ちどころが悪ければ障害が残ったり、死亡してしまったりする場合も少なくありません。くも膜下出血や脳挫傷を発症すると、死亡する可能性があります。

実際の事例では、大腿骨頸部や大腿骨転子部を骨折し、手術を余儀なくされるケースが多いです。
また、上腕骨を骨折する場合も少なくありません。高齢者の場合、入院が長期化したことで合併症を発症し、死亡にいたる可能性もあります。

大した事故ではないと思っていても、死亡事案に発展する場合もあるので油断は禁物です。

転倒事故が発生しやすい状況

転倒事故はどういった状況で発生しやすいのでしょうか。
先の介護労働安定センターの資料によると、転倒・転落事故の約半数が見守り中に起きた案件です。他の利用者を介助していたり目を離したりした場合も含め、利用者の観察が手薄になったときに、転倒事故が起きる傾向にあります。

特に、集中力が切れやすい夜勤の時間帯であったり、そもそも人手不足である場合には、利用者の観察が手薄になりやすいでしょう。

介護施設は転倒事故を隠す場合があるのか?

残念ながら、介護施設や担当職員が、事故を隠す場合があります。ここでは、介護施設側が事故を隠してしまう心情について解説します。

損害賠償や行政からの指導を恐れ、報告しない可能性がある

介護事故が発生したら、介護施設は利用者側に謝罪し、今後の対応について話し合いの場を設けます。事故の原因が介護施設側にあるのなら、高確率で利用者側は損害賠償請求を行うでしょう。

また、事故が頻発する事業所には、行政が実地指導や検査を求めてくる場合もあります。介護事故によって、金銭的な負担と対応の手間が発生するため、介護施設側が事故を隠す可能性は十分にあります。

たとえば、死亡事故が起きた場合、遺族には病死したと説明される可能性が高いです。転倒事故でも、先ほどの事例のように介護施設側に落ち度があっても、「こちらとしてはやることはやった」と自らの非を認めない可能性もあります。

そもそも担当職員が報告しないケースも

担当職員が自らのミスを認めずに「原因がわからない」と上司や施設長に報告する可能性もあります。職員のミスで事故が起きるケースには、薬の飲み間違いや転倒などが考えられます。

ミスをしてしまった職員は、怒られたり大事になったりするのを恐れ、事実を隠してしまうのです。特に、目の前で呼吸が停止したり多量の出血を流していたりすると、事実の伝達に恐怖意識を抱く可能性は高いです。

さらに、防犯カメラや第三者の目がない状況では、事故を隠す確率は高くなるでしょう。

また、介護施設自体が普段から事故の発生を報告をしないことが常態化していると、介護現場全体が適切な報告をしなくても問題がないという環境になってしまい、職員も事故を隠すようになってしまいます。

転倒事故を隠すことはNG!介護施設が負う法的責任

人間の心理上、自分のミスが原因で起きた事故は隠そうとするものです。
しかし、介護事故において、事故を隠すことは決してあってはいけません。

事故を隠したことがばれると、介護施設や職員はさらに大きな責任を生じる可能性もあります。介護事故によって、介護施設側が負う法的責任について見ていきましょう。

介護事故報告書の作成義務

事故報告書とは、介護サービスを提供する介護施設で事故が発生した場合、事故の詳細を市区町村に提出するために必要な書類です。

報告書を作成する一番の目的は、事故の再発を起こさないためです。事故の状況を細かに記録すれば、原因を把握したうえで、後の適切な対策につながります。

また、利用者やその家族は介護事故報告書を閲覧可能です。報告書を見た時に、報告内容がしっかりと書かれていれば、ミスを隠してはいないと判断する材料になるでしょう。

転倒事故で生じた損害の賠償

介護施設は利用者に対して、安全配慮義務を負っています。安全配慮義務は契約書にも記載された内容なので、契約を交わした時点で権利義務関係が生じます。

安全配慮義務違反の有無は「事故を予見することが可能であったか(予見可能性)」と「予見が可能だった場合、事故が起きないために対策を講じていたか(結果回避可能性)」の2つから判断します。

介護施設側が安全配慮義務に違反している場合、利用者側は損害賠償請求の訴訟を起こすことが可能です。

転倒事故においては、利用者の介護状態や転倒の原因となった行動などから、利用者が転倒する可能性があったことを事前に予見することができたのかが問題となります(予見可能性)。

そして、予見が可能であった場合には、転倒事故を防ぐために適切な対策がなされていたのかが問題となるのです(結果回避可能性)。

例えば、利用者が転倒するおそれのある行為について介護職員の間で情報を共有していたのか、介護施設が転倒を防ぐために必要な設備を整えていたのかなどという点から判断がなされるでしょう。

損害賠償請求においてどのような損害を請求することが可能であるのかは『介護事故の損害賠償とは?賠償項目や適正相場と請求に必要な手続き』の記事をご覧ください。

転倒事故の裁判例

介護施設の転倒事故における裁判例として、以下のようなものがあります。

特別養護老人ホームの利用者が深夜、トイレに行こうとしたところ転倒し、長期入院の結果、死亡したという事例であり、約1,000万円の賠償命令が発出されました。被害者はパーキンソン病を発症しており、普段から徘徊してふらつくシーンが多く見受けられ、事故の直前には一度転倒していたそうです。

トイレを1人で行きたがっていたので、介護施設側はトイレに行きたいときはナースコールを押すよう注意していました。
しかし、聞き入れてもらえず、結果として事故が発生してしまいました。

裁判所は臨床センサーを設置すべき義務があったと判じ、介護施設側の安全配慮義務違反を認めています。

謝罪によって介護施設に法的義務が生じるわけではない

介護施設側は介護事故を起こしたことについて、遺族や利用者に対して謝罪します。この謝罪は「事故を起こし申し訳ありません。」との意味であり、「事故の原因は私たちにあります」と認めたわけではありません。

つまり、謝罪を受けたからといって損害賠償を請求できるわけではないのです。謝罪をするのは道義的な義務にとどまり、法的義務とは関係ない部分です。

介護施設が転倒事故を隠していると感じた時の相談先

介護施設の説明によっては「何か怪しいな?本当のことを言っていないのでは…」と思う場合もあるでしょう。介護施設側が事故を隠していると疑っている時の相談先を紹介します。

県や市町村の窓口

介護施設の利用で何らかのトラブルが生じた場合、市役所の高齢介護課や県の国民健康保険団体連合会のクレーム用の窓口などを利用できます。これらの窓口は介護施設の利用契約時に、重要事項説明書でも記載されています。

弁護士

介護事故に強い弁護士への依頼を検討するのもよいでしょう。弁護士を活用すれば、介護施設との交渉を代行してもらえます。経験豊富な弁護士の助けを借りれば、介護施設側の虚偽報告を見抜ける可能性が高いです。

また、損害賠償額のチェックや裁判になった時の訴訟代理人対応も任せられます。弁護士の包括的なサポートにより、希望する金額の請求に成功する可能性が高まるので、ぜひ利用を検討しましょう。

弁護士への依頼が本当に必要なのか迷っている方は、こちらの関連記事『介護事故で弁護士に相談・依頼する代表的なメリット』も参考になるのでぜひあわせてご覧ください。

弁護士に依頼を行う前に弁護士の法律相談を受け、依頼すべきかどうかを判断しましょう。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


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代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了