介護施設における誤薬事故の事例と施設側が負う責任の内容を解説
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介護施設では食事や排せつの世話と同様、利用者に対する服薬介助もサポート内容の一つです。しかし、介護施設では誤薬事故が起きる危険性が高く、なかには死亡事故に発展してしまうケースもあります。
大切なご家族が誤薬事故の被害者になってしまった場合、介護施設側の対応に落ち度があれば、訴訟を提起するなどして、損害賠償請求できる可能性もあるでしょう。
今回は、介護施設における誤薬事故の事例や、事故で施設側が負うべき責任など、損害賠償請求を行うために必要な知識を紹介します。
目次
介護施設で起こりうる誤薬事故
介護施設の職員は、利用者への服薬にミスがないよう細心の注意を払いながら業務に邁進しているでしょう。
しかし、それでも誤薬事故が起きる可能性はあります。
まずは、介護施設における誤薬事故とはどのようなものか、具体的なケースを見ていきましょう。
どんな事故を誤薬事故というのか
誤薬とは薬の使用法を誤ってしまうことを指します。ひとくちに誤薬事故といっても、さまざまな種類が存在します。たとえば、以下のような誤薬事故が起こり得るでしょう。
- 他の人の薬を投与されてしまった
- 投薬の時間・量を間違えられた
- そもそも投薬を忘れられた
- 薬を床に落とされてしまった
など
特に、介護施設で起きる危険性が高いのは、他人の薬を飲まされてしまう事案です。あってはいけないことですが、多数の利用者の薬を同時に管理していると、どうしても起こる可能性はあります。
誤薬事故は死亡に至るケースも少なくありません。たとえば、低血圧の利用者に対して、血圧を下げる薬が誤って投与されたために、実際にお亡くなりになった事案も発生しています。
誤薬の具体例から事故原因を考える
同じ利用者に対して続けざまに二度も誤薬するというケースも起こっています。あり得ないことのようにも思えますが、事故が起きる危険はゼロではないので事例を確認しておきましょう。
ある事故の原因として考えられたものは、ダブルチェック体制が機能しなかったことです。薬をボックスから取り出す際、他の職員とダブルチェックするルールはあったのですが、二度ともチェック体制をくぐりぬけてしまったのです。
ダブルチェックが機能しなかった要因は、まず二人の職員が「同じ場所で」チェックする体制だったことが挙げられます。他の職員がチェックOKを出したから問題無いだろうとの意識がはたらき、チェックの目が疎かになってしまったのです。
また、利用者の名前が似通っていたことも事故要因のひとつです。取り違えた2名の名字は「高橋」と「高榛」であり、よく確認しなければ同じ名前に見えます。加えて、薬ボックスに記載する名称は手書きであったこと、現場が薄暗かったことなども事故の発生リスクを高めてしまいました。
このように状況をつぶさに観察すると、チェックミスが生じる要因は複数挙げられる環境だったのです。はたからみるとあり得ない事故のようにみえても、事故を誘発する要因はいくつも存在しているのです。
誤薬事故における介護施設の責任
誤薬事故が起きた場合、施設側はどのような責任を負うのでしょうか。介護施設が自らの義務を全うしていなければ、利用者側は責任を追及できる余地が生じます。
このため、利用者側も介護施設側の責任について把握しておく必要があるでしょう。誤薬事故における介護施設側の責任を解説します。
介護事故報告書の記載
介護施設では、施設内で事故が起きた場合、事故報告書を記載して、自治体に提出する必要があります。介護事故報告書を書くことは介護保険法でも定められている法的義務です。
介護事故報告書を記載する一番の目的は、事故の原因分析を行い、再発を防止することにあります。そのためには当時の状況がわかりやすく、できるだけ具体的に書かれていなければなりません。
また、施設側にとって 介護事故報告書は、事故に対して正しく対処したことの証明書類にもなります。介護事故報告書を書いていない場合、何かしらの不都合な事実を隠蔽してい可能性が考えられます。
したがって、介護事故報告書が記載されていない場合、利用者側は施設側の落ち度を問いやすいといえるでしょう。
事故の具体的な状況を知るために、利用者やその家族も介護事故報告書を閲覧できます。
介護施設に対する損害賠償請求を行う際の重要な証拠となりうる介護事故報告書は、損害賠償請求を検討しているのであれば必ず確認すべきです。
利用者に対する注意義務
介護施設は、利用者が介護事故により損害を受けないようにするという注意義務を負っています。
介護施設の注意義務違反によって利用者に何らかの損害が生じた場合、利用者側は介護施設に対する損害賠償請求が可能となるでしょう。
介護施設が負う注意義務の内容は「予見可能性」と「結果回避義務」の2つです。
予見可能性とは、事故が起きることを予測できたのかという点です。対して結果回避義務とは、事故が予測できる場合にその発生を避けるための努力を行うことをいいます。
予見可能性 | 事故が起きることを予測できたのか |
結果回避義務 | 事故が起きることを予測できたなら、その発生を避けるための努力を行ったのか |
予見可能性と結果回避義務について施設側の落ち度が認められる場合、施設側に責任を問うことができます。
では、どの程度の行為があれば施設側の注意義務違反を問うことができるのでしょうか。
予見可能性とは
まず、予見可能性については具体的なレベルが求められます。
誤薬事故の場合は、介護施設側が利用者である方々の薬を一括で管理していることから、服薬管理の方法を誤ることで利用者に損害が生じる可能性は十分に予見できるといえるでしょう。
また、認知症の利用者がいた場合には、認知症の利用者が誤って薬を飲んでしまう可能性があることについても予見できたといえます。
結果回避義務とは
結果回避義務に関してはどうでしょうか。
誤薬事故では、服用する薬を取り違えたり、薬の量を間違えたりしないように適切な安全対策を行っていたのかどうかが問題となります。
具体的には、以下のような点に注目しましょう。
- 薬を誰にいつ服用したのかを、職員がわかるように管理していたのか
- 誰が、どのタイミングで、どの薬を、どの程度の量服用するのかがわかるよう管理していたのか
- 薬袋が混ざらないように管理していたのか
- 服用する際に複数の職員によるチェックを行っていたのか
- 薬を服用する前に、本人確認を行っていたのか
- 以前に誤薬事故が起きていたのであれば、再発防止策を実行していたのか
以上のような事実をもとに、誤薬事故による損害という結果を防ぐために、介護施設が必要な行為を行っていたのかを検討します。
介護施設で起きた誤薬事故で損害賠償請求する方法
誤薬事故により利用者に損害が生じたのであれば、介護施設に対して損害賠償請求を行うことになります。
損害賠償請求を行う際には、どのような方法によるべきなのかについて解説します。
誤薬事故において損害賠償を請求する方法
介護施設において生じた誤薬事故において、介護施設に損害賠償請求を行う方法としては、基本的に以下の3つが考えられます。
- 示談交渉
- 調停
- 裁判所への訴訟提起
多くの場合は、介護施設側との話し合いによる示談交渉で解決を図ることが多いでしょう。
しかし、介護施設側が事故の責任を認めなかったり、事故対応が信用できなかったり、事故の事実を隠そうとしていたなど、施設側の不誠実な態度によって話し合いで解決が困難となるケースも多いです。そのようなケースでは、調停や訴訟に発展する可能性があります。
特に、誤薬事故によって利用者に障害が残ったり、死亡してしまったりするケースでは、損害額が高額になりやすいので、合意が前提となる示談や調停での解決がむずかしくなりがちです。そのため、利用者の家族が損害賠償請求の訴訟を起こすケースも珍しくありません。
損害賠償請求の方法としては、まず示談交渉による解決を図ることが多いです。介護事故における示談交渉の流れは『介護事故の示談交渉の流れと弁護士が示談成立に向けてできること』の記事をご覧ください。
介護施設が提示する賠償額は適切ですか?
施設側から賠償金を提示されている方は、その金額が本当に適切な金額であるか確認することが大切です。施設側が提示する賠償額は、仮に裁判を起こした時に得られる金額より低く見積もられているケースも珍しくありません。
また、事故による損害は治療費や慰謝料など多岐にわたります。施設側が把握していない損害があるために、提示する賠償額が低くなっている可能性もあるでしょう。
適切な金額で、漏れなく賠償金が算定されているかどうかは、弁護士に聞いてみましょう。事故に関する実務経験が豊富な弁護士であれば、どのくらいの金額なら相場といえるのか熟知しています。
損害賠償請求を行うなら早めに弁護士相談
損害賠償請求を検討している場合は、早期の弁護士相談をおすすめします。訴訟提起が決まった後に、弁護士に依頼するのではなく、早めに相談を投げかける方がよいでしょう。
なぜなら、介護施設側との交渉や適切な賠償額の査定などのサポートが受けられるためです。
いくら請求が可能であり、請求のためにどのような証拠を揃えるべきであるのかについては、専門家である弁護士に相談するべきでしょう。
また、介護施設側との交渉について弁護士に任せることで、相場よりも低い金額を介護施設側から提示されても、適切な交渉を行ってもらうことが可能となるのです。
こちらの関連記事『介護事故を弁護士に相談・依頼するメリット!介護トラブルに強い弁護士とは?』では、介護事故を弁護士に相談することで得られるメリットについてさらに詳しく解説しています。弁護士相談を検討されている方にぜひお読みいただきたい記事になっています。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了