相続税の外国税額控除で二重課税を防ぐ|控除額の計算例も解説
「外国にある財産を相続するときは、外国と日本、両方に相続税を払うの?」
外国にある財産を相続する場合、国によっては日本でいう相続税のような税金がかかることがあります。その場合、日本で納める相続税と合わせて二重課税になってしまいます。
これを防止するために、「外国税額控除」が設けられています。
この記事では、相続税の外国税額控除の適用要件や計算方法を解説します。また、関係する贈与税の外国税額控除についても紹介します。
税務署は相続税を払い過ぎてもわざわざ教えてはくれません。外国税額控除によって損をしない納税を実現するため、ぜひこの記事をお役立てください。
目次
相続税の外国税額控除とは?
相続税の外国税額控除の概要
外国税額控除とは、相続や遺贈によって国外財産を取得した場合に、その財産に対し外国で課された日本の相続税に相当する金額を、日本で納める相続税額から控除できる制度です。
この制度の目的は、ひとつの財産について、日本と外国で二重課税となることを防ぐことです。
注意していただきたいのは、外国で支払った相続税の全額が控除できるとは限らない点です。
控除額には上限が定められています。
上限が設けられている理由は、外国の相続税の税率が日本の税率より高い場合、その高い部分に対応する外国の税金は、日本の税金から控除しないようにするためです。
外国で支払った金額を丸ごと控除できるわけではなく、あくまでも二重課税を防ぐための制度であることを留意してください。
相続税の外国税額控除の適用要件
外国税額控除の適用要件は、以下の2つです。
【外国税額控除の適用要件】
①相続又は遺贈により国外財産を取得したこと
②その国外財産について外国で相続税に相当する税金が課せられたこと
以下、それぞれの要件について解説します。
要件①相続又は遺贈により国外財産を取得したこと
●外国税額控除が適用されるのは、実際に国外財産を取得した人に限られます。
すべての相続人や受遺者に適用されるわけではないのでご注意ください。
例えば、法定相続人が配偶者と子のケースを考えてみます。このケースで、子だけが相続により国外財産を取得したとすると、外国税額控除が適用されるのは、子に限られます。
●「国外財産」には、相続開始年における被相続人からの贈与で生前贈与加算の対象になるものも含みます。
生前贈与加算とは、相続開始前3年以内に、被相続人から贈与を受けた財産がある場合に、その贈与を受けた財産の贈与時の価額を相続税に加算する制度です。
要件②その国外財産について外国で相続税に相当する税金が課せられたこと
外国税額控除の適用を受けるには、取得した国外財産について、日本の相続税に相当する税金が課される必要があります。
国によっては、相続税に相当する税金がない国もあります。例えば、シンガポールやオーストラリアなどです。
また、アメリカなど相続税に相当する税金がある国でも、必ず相続税が課されるとは限りません。基礎控除額など相続税が発生する要件は、国により様々だからです。
外国で相続税が発生するかどうか、その相続税額はいくらになるかという点は、相続税に強い税理士に相談するのがおすすめです。
【注意点】
相続税の納税義務者は、「無制限納税義務者」と「制限納税義務者」に分けられます。
このうち、制限納税義務者には、外国税額控除が適用されません。
なぜなら、制限納税義務者の場合、国外財産には日本の相続税がかからないため、そもそも二重課税の問題が生じないからです。
一方、国内財産と国外財産の両方に課税される人を「無制限納税義務者」といいます。
無制限納税義務者には、外国税額控除が適用されます。
無制限納税義務者と制限納税義務者の詳しい定義については、国税庁HPの「No.4138 相続人が外国に居住しているとき」をご覧ください。
無制限納税義務者・制限納税義務者の具体例は以下のとおりです。
【具体例】
①相続人が無制限納税義務者に当たるケース
被相続人・相続人ともに相続時に国内に住所があり、かつ、相続人が一時居住者(※)に該当しない場合。
※一時居住者:相続開始時に在留資格を有する人で、相続開始前15年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の人
②相続人が制限納税義務者に当たるケース
被相続人・相続人ともに相続時に10年を超えて国内に住所がない場合。
相続税の外国税額控除に必要な書類
外国税額控除の適用を受けるには、相続税申告書の第8表を記載する必要があります。
また、国外財産の所在地で相続税に相当する税金を支払ったことを証明する書類も必要です。
これらの書類を用意して、相続税の申告期限(通常、被相続人の死亡日の翌日から10か月以内)までに、被相続人の住所地を所轄する税務署に提出しましょう。
相続税申告書の第8表のダウンロードはこちら!
『国税庁|相続税の申告書等の様式一覧』
相続税の外国税額控除の計算方法は?
相続税の外国税額控除額の計算式
外国税額控除額は、以下の①・②のうち、いずれか少ない金額です。
②が控除限度額を表しています。
①外国で課せられた日本の相続税に相当する税の金額
②日本の相続税額 × (取得した国外財産の価格 / 取得した財産の価格)
【用語の解説】
●①の「外国で課せられた日本の相続税に相当する税の金額」は、現地の納期限における対顧客直物電信売相場(TTS)により邦貨(日本円)に換算した金額を意味します。
簡単にいうと、外国で課された相続税に相当する税の金額を、決められたレートに基づいて日本円に変換したときの金額のことです。
ただし、送金が著しく遅延して行われる場合を除き、日本国内からの送金日における対顧客直物電信売相場(TTS)によることができます。
対顧客直物電信売相場(TTS)は、取引先の銀行が公表しているレートをインターネットで調べることができます。
●②の「日本の相続税額」は、相続税額の計算のうち、贈与税額控除から相次相続控除までの諸控除を差し引いた後の相続税額を意味します。
相続税の税額控除は、以下の順序で行います。
- 「暦年課税分の贈与税額控除」
- 「配偶者の税額軽減」
- 「未成年者控除」
- 「障害者控除」
- 「相次相続控除」
- 「外国税額控除」
- 「相続税精算課税分の贈与税額控除」
●②の「取得した財産の価額」は、次の計算式で算出した額です。
取得した財産の価額=(取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務及 び葬式費用の金額)+被相続人から相続開始の年に暦年贈与によって取得した財産の価額
●②の「取得した国外財産の価額」は、次の計算式で算出した額です。
取得した国外財産の価額=国外財産の価額-その財産についての債務の金額
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相続税の外国税額控除額の計算例
ここでは、具体例を使って、外国税額控除額を実際に計算してみましょう。
【具体例】
・法定相続人:長男のみ(無制限納税義務者)
・相続財産の価額:1億円(国内財産:8,000万円、国外財産:2,000万円)
・日本の相続税額(相次相続控除まで控除した後の税額):1,500万円
・国外で納付した相続税に相当する税額:4万ドル
・納期限のTTS:100円
・送金日のTTS:99円
①外国で課せられた日本の相続税に相当する税の金額
日本国外で納付した相続税4万ドルにTTSを掛けて、邦貨に換算します。TTSは大きい額を適用した方が控除される金額が増えるため、納税者に有利です。
【具体例】の場合、納期限のTTS:100円>送金日のTTS:99円なので、100円を適用します。
したがって、外国で納付した相続税に相当する税金を邦貨に換算すると、
4万ドル×100円=400万円になります。
②控除限度額
1,500万円 × (2,000万円 / 1億円)=300万円
③外国税額控除額
①400万円と②300万円の金額を比べると、②300万円の方が少ないため、300万円が外国税額控除額になります。
④納付額
外国税額控除前の相続税額から、外国税額控除額を差し引くと、
1,500万円-300万円=1,200万円になります。
よって、相続税の納付額は1,200万円です。
贈与税の外国税額控除
贈与税の外国税額控除の概要
贈与税の外国税額控除とは、国外財産を贈与によって取得した場合、その財産に対して外国で課された日本の贈与税に相当する金額を、日本で納める贈与税額から控除できる制度です。
相続税の外国税額控除と同様に、外国で支払った贈与税の全額が控除できるとは限りません。
贈与税の外国税額控除の計算式
贈与税の外国税額控除できる控除額は、以下の①・②のうち、いずれか少ない金額です。
①外国で課せられた日本の贈与税に相当する税の金額
②日本の贈与税額 × (取得した国外財産の価格 / 取得した財産の価格)
基本的には前述した、相続税の外国税額控除と同じです。
贈与税の外国税額控除の注意点
日本の贈与税は、受贈者(贈与を受ける側)に課税されますが、アメリカなど国によっては贈与者(贈与する側)に贈与税が課税される場合もあります。
この場合でも、アメリカの財産を取得して、贈与者がアメリカで贈与税を支払った場合、日本の受贈者が支払う贈与税から、上記で解説した贈与税の外国税額控除額を差し引くことができます。
参考
国税庁『贈与税に係る外国税額控除』
外国税額控除のお悩みは税理士へ相談!
外国税額控除と聞くと、「自分には関係ない」と感じる方が多いかもしれません。
しかし、最近は資産運用の一環として海外の不動産に投資するなど、被相続人が国外財産を保有するケースも少なくありません。
遺産の中に国外財産が含まれていないか、ぜひ一度確認してみてください。
また、少しでもご不安な方は、ぜひお気軽に税理士にご相談ください。
早期に相談するほど、十分な節税対策をとったり、申告手続きの負担を軽減できるなど多くのメリットがあります。
外国税額控除のお悩みは、ぜひ相続税に強い税理士にお問合せください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士