能力不足で会社から解雇されたときの対処法は?不当解雇の可能性が高い!
能力不足を理由に会社からクビを宣告された場合、その解雇は不当解雇である可能性が非常に高いです。
通常、単なる能力不足で解雇が認められることはほぼないため、もしも能力不足で解雇された場合、不当解雇の解決金を請求できる可能性があります。
ただ、それを知っている会社側から自主都合退職を促されるケースがあります。
応じてしまうと後から不当解雇で争うことが難しくなってしまう可能性があるため、安易に退職に合意しないことに注意が必要です。
この記事では、能力不足で会社から解雇された際の対処法や解雇が認められるケース、不当解雇の相談窓口などを解説していきます。
目次
能力不足で会社から解雇されることはあるのか
「能力不足で会社をクビ」は原則認められない
使用者(会社)から「能力不足なのでクビにします」と通知されたとしても、素直に応じる必要はありません。
なぜならば、単に「平均よりも職務能力が劣っている」という理由だけで解雇された場合、それは「解雇権の濫用」とみなされる可能性がきわめて高いためです。
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権の濫用であるとして解雇は無効となります(労働契約法16条)。
「能力不足による解雇」は合理的な解雇事由であるとは言えないため、能力不足だけを理由とした解雇が認められることはまずありません。
「能力不足で会社をクビ」が認められるケース
しかし、①著しく成績が不良で実際に業務に支障が出てしまっており、②労働者本人に改善の見込みがみられず、③評価が公正である場合などは、能力不足を理由とした解雇が認められる可能性が高まります。
能力不足を理由に解雇が認められるケース
- 著しい成績不良で業務に支障をきたしている
- 労働者本人に改善の見込みがみられない
- 評価が公正
著しい成績不良で業務に支障をきたしている
著しく成績が不良で業務に支障をきたしている場合には、能力不足を理由とした解雇が認められる可能性はあります。
ここでの成績とは、他の社員との比較ではありません。
相対評価による成績が悪いことを理由に解雇が認められてしまえば、営業成績が一番低い従業員は常に解雇のおそれがあることになってしまいます。
営業成績が一番低いなどの能力不足では、解雇は認められない可能性が高いです。
解雇が認められる可能性があるのは、従業員の直接のミスで大型契約が打ち切りになったり、契約件数が0件にもかかわらず給与が高額で経営を圧迫してたりする場合などです。
労働者本人に改善の見込みがみられない
会社が教育や指導を何度も試みたにもかかわらず、労働者本人に改善の見込みがみられない場合は、解雇が認められる可能性があります。
会社側は取るべき対応を取ったと判断されれば、裁判所なども解雇を認める可能性高くなるでしょう。
評価が公正
使用者が従業員を解雇するためには、公正な評価に基づき、解雇を行わなければなりません。
社長が勝手に能力不足と判断して解雇したり、上司による主観的な判断で解雇したりすることはできないということです。
言い換えると、能力不足の評価が公正に行われている場合には、解雇が認められる可能性があります。
能力不足や仕事のミスで解雇が認められなかった判例
能力不足を理由に解雇されているのは、判例上、採用時に高い能力を期待されて中途入社したものの、能力を発揮できず、改善もしなかった者が中心です。
営業成績が悪かったり、仕事のミスを何度か起こした程度で解雇されるようなことは基本的にありません。
以下で紹介する2つの判例でも、能力不足・仕事のミスを理由とした解雇は認められていません。
セガ・エンタープライゼス事件
人事考課で下位10パーセントに位置付けられていた労働者が、就業規則の『労働能率が劣り、向上の見込みがない』という普通解雇事由を適用されて解雇された事案です(『セガ・エンタープライゼス事件』東京地決平11.10.15)。
裁判で争った結果、労働者側が勝訴して解雇は無効となりました。
上記判例の場合、確かに労働者の労働能力は平均より劣っているものの、その人事考課は相対評価であって絶対評価ではありませんでした。
そのため、ただちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない、と裁判では結論づけられました。
また、使用者側は労働者に対して体系的な教育、指導をして労働能力の向上を図る余地があったにも関わらず、それを実施していなかった点も解雇権濫用に該当する理由のひとつとなりました。
松筒自動車学校事件
6か月の間に53回も事務処理上のミスを起こしたことを理由に普通解雇がなされました。ただし、当該労働者が明らかに関わったミスは6回程度で、そのミスも軽微かつ内容・原因が判明しており、大量に事務処理がなされる中の一部でミスが生じるのはやむを得ないと判断された事例です(『松筒自動車学校事件』大阪地判平7.4.28)。
解雇に関しても、就業規則で定められている解雇事由である『技能、能率、態度が著しく不良で、将来改善の見込みがないと認めたとき』及び『その他前号に準ずることがあったとき』には該当しないため、無効になりました。
判例からも分かるように、労働能力が平均よりも劣っているなどの理由で軽微なミスを何度か重ねたとしても、それだけを理由に解雇が認められることはありません。
そのため、使用者から「何度もミスを繰り返しているからクビにします」と解雇を宣告されたとしても、申し立てれば解雇が無効となる見込みがあります。
【ケース別】能力不足で解雇されることはある?
能力不足で解雇されるといっても、新卒・中途や雇用形態によって状況は異なります。
ここではケース別に能力不足で解雇されることがあるのかどうか、解説していきます。
新卒採用で雇用されたが能力不足の場合
新卒採用では、採用時点で即戦力ということはなく、今後の成長を見込んだポテンシャル採用であることが通常です。
そのため、他の社員と比較して能力や結果に差があったとしても、能力不足であると直ちに認められることは低く、解雇は違法になる可能性が高いです。
一般的には、一時的に能力不足であっても、労働能力の向上を図るために指導や教育などが行われます。
それでも、能力の改善や成果が見られない場合には、ほかの部署に配置転換させたり、上司を変えたりすることが使用者側には求められます。
指導や教育、配置転換などが行われずに解雇された場合は、不当解雇である可能性が高いです。
試用期間中に能力不足の場合
試用期間中であっても労使間で労働契約が締結されている以上、単なる能力不足を理由にいきなり解雇されたら違法である可能性が高いです。
多くの企業では、入社後1~6か月程度を試用期間としています。
採用段階では知ることができなかった事実が試用期間中に判明し、それによって就労を続けることが困難であると客観的に判断されるような場合であれば、使用者に解雇を検討されることがあります。
通常であれば、解雇をされる前に能力不足を改善するための指導が企業側から行われます。
改善指導の結果、当該従業員の能力不足が改善され、引き続き正社員として働いても問題が無いと判断されれば試用期間中に解雇されることはないでしょう。
なお、試用期間中の解雇は本採用後よりも認められやすくなっており、適法となる可能性もあります。
たとえば面接の際に能力を過大にアピールして入社するも、実際にはその能力が備わっておらず、改善の見込みもない場合などです。
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幹部社員・専門職で雇用されたが能力不足の場合
幹部社員や専門職、ヘッドハンティングで採用されたにもかかわらず能力不足が明らかになった場合は、通常の雇用よりも解雇される可能性が高まります。
この場合は、企業も高い能力を期待して採用しており、対価である給与も支払われていることが多いからです。
配置転換や教育・指導も想定されていないため、裁判に発展した場合でも、解雇が認められやすい傾向があります。
人事本部長として中途入社した労働者が、職務を遂行することができなかったなどの理由で人事部本部長としての適格性に欠けると判断され、就業規則で定められていた「業務の履行又は能率が極めて悪く、引き続き勤務が不適当と認められる場合」という普通解雇事由に該当するとして、解雇が認められた事例もあります(『フォード自動車事件』東京高判昭59.3.30)。
能力不足で解雇されそう・解雇されたとき対処法
会社からの退職勧奨には応じない
会社から能力不足を理由に退職勧奨をされ、退職の同意書への署名押印を求められても素直に応じる必要はありません。
同意書に署名押印してしまうと、「労働者が自らの意思で自己都合退職をした」とみなされ、後で不当解雇として争う場合、不利になるおそれがあります。
そのため、同意書への署名押印を求められても断るようにしてください。断る際に理由を求められた場合には、「弁護士に相談する」などと伝えればいいでしょう。
ただ、あまりにも強引な手法で迫られ、嫌々ながらも退職に合意してしまった場合、退職強要であると認められれば民法に基づき退職の意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
具体的には、面談回数が多すぎる、面談時間が長すぎる、面談で罵声を浴びせられる、労働者本人が退職勧奨を拒否しても繰り返し退職を求められるといった場合、退職強要とみなされる可能性があります。
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解雇理由証明書を請求する
能力不足で解雇された場合、解雇理由証明書を使用者に請求しましょう。
解雇理由証明書には、具体的な解雇理由が記載されています。解雇の有効性について争う場合には、第三者機関が解雇の有効性の判断するための資料にもなります。
解雇理由証明書に関しては、労働者が解雇予告日から退職日までの間に請求すれば、使用者は遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法22条2項)。
ただし、労働者側から自分で請求しなければ、会社側に解雇理由証明書を交付する義務は発生しないことに注意が必要です。
なお、解雇理由証明書を解雇日までに請求しなかったとしても、解雇予告日から2年間は解雇理由を記載した退職証明書の交付を請求することができます(労働基準法115条、22条1項)。
能力不足で解雇されたときの相談窓口
能力不足で解雇された場合、労働問題の相談窓口に相談すれば解決する可能性があります。
労働問題・労働基準法違反については主に以下の窓口で相談することができます。
各相談窓口の違いについて詳しく知りたい方は、『不当解雇の無料相談窓口7つを比較!弁護士やハローワーク・労基署・労働組合の違いは?』も参考にしてください。
能力不足で解雇されたときの相談窓口
- 労働組合
- 弁護士
- 労働基準監督署
- 労働局
労働組合に相談する
能力不足を理由として解雇された場合、労働組合に相談すれば、その解雇が不当解雇にあたるのかどうかを判断してくれるでしょう。
労働組合なら、相談者の勤務態度や仕事の成果、会社側からなされた指導・教育の内容や解雇理由などから、解雇を無効と主張する団体交渉ができるのかどうかを判断します。
解雇無効の主張を行う場合、それと同時に不当解雇の解決金も会社側に請求することになります。
通常、団体交渉による請求は、労働裁判よりも短期間で終わります。
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弁護士に相談する
解雇理由証明書を持参して弁護士に相談すれば、労働組合に相談したときと同様に、今回の解雇が不当解雇にあたるのかどうか判断してくれます。
その際、不当解雇を撤回する方法や、解雇日以降に支払われていない給与を支払ってもらえる見込みがあるのかどうか、という点なども確認することができるでしょう。
弁護士に相談するメリットは以下のものが挙げられます。
弁護士に相談するメリット
- 訴訟や労働審判など法的措置が使える
- 法的措置を背景に交渉ができる
- 法律の専門家として解決金の相場を知っている
労働組合や働く方が請求しても強気で突っぱねてくる会社だとしても、法的措置を背景に交渉をすることで迅速に解決する可能性があります。
また、客観的な証拠と共に法的措置を利用することで、より迅速かつ強制的に解決することも期待できます。
最終的な紛争解決を期待できるところが、弁護士に相談する何よりのメリットです。
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・不当解雇は弁護士に相談すべき?相談するときのポイントを解説
労働基準監督署に相談する
明確な労働基準法違反がある場合、労働基準監督にその旨を申告すれば、当該違反の点のみ企業に是正勧告をしてくれます。
労働基準監督署は、事業所が労働基準法を守っているかどうかを監督する機関です。
そのため、「不当解雇されたので、監督署から働きかけて解雇を無効にしてほしい」と民事上のトラブルの解決を依頼しても基本は何もしてくれません。
不当解雇を撤回するためには、前提として、そもそも解雇の要件を満たしているのかどうかという点から判断する必要があります。
労働基準監督署は解雇要件の判断権限を持っていないため、不当解雇に関する相談をしても対応してくれない可能性が高いでしょう。
会社に違反行為を是正してもらいたい場合や、そもそも違反行為なのかどうか判断がつかない場合に限り、労働基準監督署に相談してみるといいでしょう。
労働局に相談する
各都道府県に存在する労働局や労働基準監督署の中に設置されている総合労働相談コーナーでは、労働者と使用者の間で生じた労働問題全般を相談することができます。
当然ながら能力不足を理由とした解雇について相談可能ですし、それ以外でも、労働問題に関するあらゆる分野の相談をすることができます。
相談後、労働者が助言・指導の申し出を行えば、労働紛争の当事者に対して都道府県労働局長から助言・指導がなされます。
こちらの助言・指導はあくまで紛争当事者による自主的な解決を促進する制度なので、一定の措置の実施を強制するものではありません。
助言・指導がなされても労働問題が解決しなかった場合、弁護士や労働組合に労働紛争の解決を依頼するか、労働局の紛争調整委員会によるあっせんを受けることになります。
紛争調整委員会によるあっせんは無料で利用できる制度です。
あっせんでは、紛争当事者の間に紛争調整委員会(弁護士、大学教授、社会保険労務士などで構成されます)が入り、当事者の主張が確認され、話し合いを通した紛争解決が図られます。
あっせん実施後、当事者間で合意が成立すれば紛争解決したとみなされます。
ただ、あっせんを実施しても当事者が不参加の場合は打ち切りとなります。あっせんが行われなくなってしまう可能性もあるので、注意が必要です。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了