退職勧奨されたら弁護士に依頼すべき?メリットと選び方・費用
「他の会社の方が向いているんじゃないか」「今退職すれば十分な退職金が支払われる」などと、遠回しに退職を促されることがあります。これは、いわゆる退職勧奨と呼ばれる手口です。
もしも会社から退職勧奨を受けたら、どのような行動をとればよいでしょうか。
断固拒否するという方もいると思いますが、上司や会社経営者を相手にどう対応していいかわからない方も多いと思います。
退職勧奨された場合は、弁護士に相談したほうがいいケースもあります。弁護士に相談することで正しい権利を主張でき、会社へのけん制効果が期待できるでしょう。
この記事では、退職勧奨を受けた時の対処法や弁護士活用のメリット、弁護士の選び方・報酬を解説します。
目次
そもそも退職勧奨とは何か?
退職勧奨とはどんな行為?
退職勧奨とは、従業員が自主的(従業員の意思で)に辞職してくれるよう、会社が従業員にはたらきかけることです。
勧奨に応じてもらうために、退職金の割増など有利な条件を提示してくるケースもあります。
退職勧奨はあくまで従業員が自主的に退職を選択するように促す行為であり、会社が一方的に退職させる解雇とは異なります。
具体的な行為としては、「ここでは君の力が発揮できない」などと遠回しに促す、面談や説得を通じ退職届にサインさせる、などが考えられます。
会社が退職勧奨すること自体は違法ではありません。
しかし、勧奨に伴う行為が行き過ぎて従業員の意思を無視して退職を強要する程度になると、不法行為(民法709条、715条)が成立する場合もあります。
不法行為が成立した場合、従業員は会社に対して損害賠償請求をすることが可能となります。そのため、会社もその点を理解していて、明らかに退職強要となる行為は避ける傾向にあります。
ですが退職勧奨と違法な退職強要の境界線は明確に判断しづらいのが現実です。
関連記事
違法になる退職勧奨(退職強要)の例とは?
実際の裁判例から、退職勧奨にとどまらず、違法な退職強要にあたるとされた行為には以下のようなものがあります。
違法な退職強要にあたるとされたケース
- 退職勧奨にあたり、一人だけ過重な業務を与えるなど長期の嫌がらせが行われた場合
- 侮辱行為にあたるような、社会通念上相当とは言えない言動が用いられた場合
- 本人が拒否しているにも関わらず、繰り返し長時間の執拗な退職勧奨が行われた場合
すなわち、労働者が自発的に退職意思を形成するために社会通念上相当と言える限度を超えて、不当な心理的圧迫を加えたり名誉感情を不当に害するような退職勧奨は不法行為となりえます。
そのような場合、退職勧奨は違法、退職したことは無効と評価される可能性があります。
関連記事
・退職強要とは?退職勧奨との違いと退職強要にあたる行為を解説!
退職勧奨に応じない場合の対処法
会社から退職勧奨を受けて辞めたくない場合、労働者側は退職勧奨を拒否することが可能です。
拒否して済めばいいですが、会社も簡単には引き下がらないケースも多いでしょう。
拒否しても退職勧奨が続き、かつ退職を受け入れたくない場合には以下のような対処法が考えられます。
①前提:退職勧奨は拒否することが可能
客観的に合理的な理由のない限り、会社は従業員を一方的に解雇したり、強制的に退職させられません。
言い換えれば、従業員には退職勧奨を拒否する権利があるということです。会社を辞めたくなければ、はっきりと拒否しましょう。
②退職勧奨について弁護士に相談する
労務問題や労働トラブルについて知識・経験・交渉力のある弁護士に相談するという方法もあります。状況によっては、会社と直接交渉してもらうこともできます。
交渉を通じ、会社から納得のいく回答を得られたり、より良い退職条件で合意することができたり、十分な示談金をもらえることなどが期待できます。
弁護士以外の相談窓口が知りたい方は、『退職勧奨の相談窓口は?解決事例&対処法も紹介』の記事もご覧ください。
③退職勧奨が不当か労働審判で解決する
会社と交渉しても解決しない場合は、労働審判を受けるという手段もあります。
労働審判は、裁判官と労使の代表により3回以内の話し合いで問題解決を図る制度です。
裁判と比較すると、費用や手続きの面で負担が少ないことがメリットです。
一方で退職勧奨に伴う不法行為の有無を争う場合など、証人や証拠の精査が必要な場合には不向きなこともあります。
④退職勧奨の違法性を裁判所に判断してもらう
会社による退職勧奨が行き過ぎて退職強要に該当すると判断すれば、裁判所に訴えて損害賠償(慰謝料)請求することも考えられます。
会社の退職強要が強迫や詐欺に該当すると判断されれば、すでに退職させられている場合、退職の取消しを請求することも可能です。
退職勧奨における弁護士の活用方法とメリット
会社が退職勧奨を継続した場合、社内での立場が弱く、また専門知識もない従業員が会社という組織を相手に交渉するのは難しい場合もあります。
そこで、状況によっては弁護士への依頼も検討してみましょう。
弁護士の活用方法と活用のメリットを紹介します。
退職勧奨について相談・アドバイスを受けられる
専門家である弁護士に相談することで、下記の情報やアドバイスを得ることができます。
得られるアドバイス
- 会社の退職勧奨が違法でないか
- 適切な対応方法や解決策
- 交渉材料・証拠(就業規則、退職勧奨の経緯がわかるメモなど)の収集方法
弁護士に相談していることを会社に伝えると、会社側の対応が変わります。退職強要に近い対応はなくなるでしょう。裁判になった場合に備えて言動が慎重になったり、場合によっては退職勧奨がなくなることもあります。
弁護士に相談していることを会社に明確に伝えるために、退職勧奨を辞めてほしい旨の通知を弁護士から内容証明郵便で送付してもらいましょう。
退職勧奨について会社と交渉してもらう
弁護士に会社と直接交渉してもらうように依頼することもできます。事前に会社との交渉経緯を説明し、「会社からの退職勧奨を辞めさせてほしい」「退職勧奨の一環でパワハラを受けたので慰謝料を請求したい」といった、自分の希望する解決方法を弁護士に伝えましょう。
弁護士は依頼者の希望する方向で会社と交渉してくれます。個人交渉では知識がなくて強く主張できなかった点も、弁護士なら法律上の権利にもとづいて交渉できるので、交渉が有利に運び問題解決も早まります。
会社との交渉は、従業員にとって精神的負担が大きいものです。上司や経営陣に対して自己主張するのは、プレッシャーも大きく、遠慮して思ったことをいえないケースもあります。
弁護士に一任することで精神的負担から解放され、また、主張すべきことをしっかりと会社に伝えることができます。
弁護士による労働審判・裁判での解決
会社との交渉で解決しない場合は、労働審判や裁判で決着をつけることになります。
弁護士なしで労働審判を行うことも可能ですが、証拠や申立書の準備などが大変です。裁判の場合は、弁護士への依頼が必須といっていいでしょう。
会社側の不法行為や従業員が受けた損害を立証するというきわめて専門的な作業が必要になるため、弁護士のアドバイスに従って裁判を進めることになります。
労働審判は数か月、裁判は半年から1年以上かかると考えていいでしょう。長期戦となるうえ裁判の結果もわからないため、不安や焦りで大きなストレスを抱えることもあります。
裁判手続きを弁護士に一任してしまい、また裁判の進捗や見通しについて専門家の意見を聞くことで、労働者本人は安心して日常を過ごすことができます。
退職勧奨を弁護士に依頼するときの費用は?
弁護士の選び方と依頼方法
弁護士にはそれぞれ得意分野がありますので、労働問題に強い弁護士を選ぶことが重要です。弁護士を探すには、下記の方法が一般的です。
弁護士の探し方
- 知人や労働組合などから紹介してもらう
- インターネットなどで個別にさがす
- 弁護士検索サイトでさがす
知人や労働組合などが知っている弁護士を紹介してもらえれば安心でしょう。弁護士の人柄や交渉力など、インターネットでは見えない情報を得ることができます。
ただし、必ずしも労働問題を扱っている弁護士とは限りませんので、注意が必要です。
インターネットで検索した弁護士は、ホームページをみれば得意分野が掴めます。また、弁護士検索サイトでは得意分野別に弁護士を検索できるので、効率的に労働問題に強い弁護士を探すことができます。
希望する弁護士が見つかれば、まずは電話連絡してみましょう。そのあとの流れは弁護士がリードしてくれます。
30分程度の無料相談を設けている弁護士事務所もあるので、活用を検討してみましょう。
退職勧奨での弁護士費用はいくらになる?
実際に弁護士への依頼を検討するにあたって、いくら支払う必要があるのか弁護士費用が気になる人も多いと思います。
一般に、労働問題における弁護士費用には以下のものが含まれます。
費用 | 内訳 |
---|---|
法律相談料 | 弁護士への法律相談にかかる費用。 依頼していなくとも利用できるのが一般的。 無料~30分5000円程度。 |
着手金 | 弁護活動を開始する当初に発生する費用。 定価で数十万円、または最終的な利益の●%+●万円、と定められていることが多い |
報酬金 | 弁護活動の成果に応じて支払う報酬。 最終的な利益の●%+●万円、と定められていることが多い。 |
実費 | 弁護活動をするにあたって実際にかかった費用。 郵便代や切手代、交通費など。 |
法律事務所によって費用体系などは異なるため、法律相談の際に見積もりをとれれば、より具体的な金額の見通しがつきます。
また、労働審判や裁判を希望している場合は、着手金や訴訟費用が追加でかかる場合もありますので、その旨も伝えるとよいでしょう。
労働問題の解決には、素早い行動が必要不可欠です。
証拠がなくなってしまったり、時効が完成したりする可能性などもありますので、トラブルに巻き込まれたらすぐに弁護士に相談してみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了