未払い残業代請求の方法|証拠や時効など基礎知識を解説
「残業代請求に失敗するのはどんなケース?」
「残業代を請求したいけど手順が知りたい」
残業代を適切に受け取れないのは納得いかないですよね。
請求方法がわからないと不安に感じる方が多いでしょう。
残業代未払いの被害を防ぐため、今回の記事では、残業代請求の失敗例や請求に要する証拠、請求の手順に加え請求を弁護士に依頼するメリットについて解説します。
未払い残業代請求での失敗例
残業代請求失敗の理由(1)|証拠が不十分
理由の1つ目は、残業したことを明らかにする証拠が不十分である場合です。
たとえば、職場の慣習で、一旦タイムカードを押してから残業するような場合が挙げられます。
タイムカードや会社の勤怠管理システムなどは、労働時間を把握する客観的な資料といえます。
正しく入力していないと、「残業した」と口頭で伝えても会社はタイムカードなどを盾に取って「残業はなかった」と主張するケースもあります。
また、最初から勤務時間を管理する手段が設けられていない会社もあります。このような場合にも、残業したことを明らかにする証拠がないため、残業代請求を拒否される要因となります。
残業代請求失敗の理由(2)|交渉の方法がうかつ
理由の2つ目は、残業代をめぐる会社との交渉方法がうかつで話し合いが進展しないからです。
たとえば、残業時間のわかる証拠などの準備もないまま一方的に「残業代を支払ってくれ」と言っても、会社から拒否される可能性は高いでしょう。
残業代の請求に関わらず雇い主である会社と交渉する時は、客観的な証拠に基づいて穏便に話し合うのが基本です。感情的になって強い主張を行うと、かえって会社の反発を買って交渉自体が進展しないことも考えられます。
また、十分な証拠がないことを見透かされて会社がまともに取り合ってくれなかったり、法律知識がないために会社にうまく言いくるめられたりするケースもあります。
残業代請求失敗の理由(3)|時効が成立してしまった
理由の3つ目は、時効が完成していて残業代の請求ができないからです。残業代請求の時効は3年です。残業した月に対する給与の支給日翌日から3年を経過すると、残業代を請求しても会社が時効を主張すれば残業代をもらうことはできません。
残業代の時効については、民法改正により次の通り変更されました。
残業代の時効
- 2020年3月までの分:時効2年
- 2020年4月以降の分:当面は3年
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残業代請求に必要となる証拠
残業代請求に必要な証拠とは、次の3つを明らかにするものです。
残業代請求に必要な証拠
- 残業に関する労働条件(何時以降残業になるか、残業に対する割増率など)を明らかにするもの
- 正確な残業時間を明らかにするもの
- 実際に支給された残業代を明らかにするもの
雇用契約書・労働契約書
「残業に関する労働条件」を記した書類が、雇用契約書(または労働契約書)です。
労働基準法第15条では、労働契約の締結の際、次の労働条件について書面で明示することを会社に義務付けています。
書面で明示する必要がある労働条件
- 所定労働時間を超える労働の有無
- 賃金の決定、計算・支払い方法
つまり、残業の有無や残業代の計算方法などは、雇用契約書に記載されているのです。記載がなければ、会社が労働基準法に違反していることになります。
就業規則に関する書面
また、労働基準法89条では、就業規則に「賃金の決定、計算・支払い方法」を定めるよう会社に義務付けています。雇用契約書が見当たらない場合は、就業規則をみれば「残業に関する労働条件」がわかるのです。
就業規則は見やすい場所に掲示するなど、従業員への周知も会社の義務であるため、わからなければ会社の担当者に聞きましょう。
タイムカードなど、始業・終業の時間がわかる書面
次に、「正確な残業時間」を確認するための証拠が、タイムカードなどの始業・終業の時間がわかる書面です。会社の勤怠管理システムの記録なども同様です。
タイムカードや勤怠システムなどを導入していない会社の場合、次の記録を準備しましょう。
タイムカードがない会社の場合
- 始業・終業の時間を記した手書きメモ、業務日誌など
- 業務上のメールの送信記録など
- パソコンのログイン・ログオフ時間の記録など
タイムカードや勤怠システムなどと異なり、明確で客観的な証拠とはいえませんが、勤務時間を推定可能であるため、一定の証拠能力があるといえます。
証拠書面が何もない場合は弁護士による開示請求を行う
上記の証拠書面が準備できない時は、弁護士に依頼して会社に開示請求しましょう。
民事訴訟法の証拠保全の手続(民事訴訟法132条)を活用するという方法もありますが、弁護士からタイムカードなど勤務時間の分かる資料を請求すれば、多くの会社では開示に応じてくれます。
退職後の未払い残業代請求で証拠書面が準備できないケースも、弁護士による開示請求が有効です。
給与明細など、残業代の支給額がわかるもの
最後に、「実際に支給された残業代」を確認するための証拠が給与明細などの書類です。
給与明細には支給総額の他に、支給額の内訳として残業代がいくらかも記載されています。また、残業代の計算基礎となる残業時間も記載されているケースが多いでしょう。
タイムカードなどで正確な残業時間を確認し、雇用契約書などに記載された方法で残業代を計算し、給与明細の残業代と比較しましょう。給与明細の残業代が少なければ、残業代が未払い(または過小な支払い)であったということです。
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残業代を請求する方法
手順(1)|証拠を収集、未払い残業代を計算
前述の通り、正確な残業時間を確認して雇用契約書などで残業代の計算方法を確認しましょう。残業代の一般的な計算方法は次の通りです。
残業代の計算方法
残業代=1時間あたりの賃金✕割増賃金率✕残業時間
「1時間あたりの賃金」は賃金が月給制の場合、「月収÷1か月の平均所定労働時間」で計算します。たとえば、月給24万円、平均所定労働時間が月160時間なら、「1時間あたりの賃金」は1,500円(=24万円÷160時間)です。
割増賃金率は法定労働時間を超える残業に対する割増で、原則25%(夜間や休日労働に対する割増率もある)と規定されています。たとえば、1時間あたりの賃金が1,500円の場合、残業1時間に対する残業代は1,875円(=1,500円✕1.25)です。
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手順(2)|会社と直接交渉
未払い残業代を計算したら、残業代未払いの証拠を持参して会社に残業代が未払い(または過小)であることを伝えましょう。伝える相手は直属上司や人事や総務の担当者などです。
担当者が計算ミスしていて会社がすぐに支払ってくれれば問題は解決です。会社がすぐにミスを認めない場合も、証拠を提示しながらできるだけ穏便に話を進めましょう。
上司などとの人間関係を悪くしないように、客観的事実に基づいて丁寧に説明する姿勢が重要です。
手順(3)|内容証明郵便を郵送
会社と直接交渉しても残業代を支払ってもらえなければ、証拠を残すために内容証明郵便を使って残業代を請求しましょう。
残業代の時効は3年ですが、請求すると時効の完成を一時的に阻止する効果もあります。
内容証明の記載内容は次の通りです。
内容証明郵便に記載されていること
- 請求者(従業員)と請求相手(会社)の名前・住所
- 請求日
- 請求内容(〇月〇日の残業代〇円を請求する、など)
- 支払期限 など
参考:日本郵便「内容証明」
(状況に応じて)支払いがない場合は、訴訟に入ることを記載する方法もあります。
内容証明のテンプレートは、『【テンプレートあり】残業代請求書(内容証明)の書き方・送付方法を解説!』からダウンロード可能です。内容証明の書き方も詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
手順(4)|労働基準監督署に相談
会社が残業代の支払いに応じてくれない場合、労働基準監督署に相談するという方法もあります。
労働基準監督署は企業が労働基準法を遵守しているか管理・監督していて、残業代の未払いなど違反している会社に是正勧告などをしてくれます。
ただし、労働基準監督署は企業の違反行為に対して勧告しても、個別の残業代請求の支払いを命じるわけではありません。
労働基準監督署の勧告などにより会社が残業代を支払ってくれれば問題は解決しますが、そうでない場合は訴訟などが必要になります。
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手順(5)|弁護士に相談
これまで説明した方法で解決できない場合は、専門家である弁護士などに相談しましょう。訴訟だけでなく、次の対応が期待できます。
弁護士に期待できること
- 弁護士が会社と交渉する
- 「支払督促」「少額訴訟」「労働審判」など民事訴訟より簡易な裁判制度を利用して未払い残業代の請求を行う
- 民事訴訟を起こす など
弁護士は依頼者の意向に応じて適切な方法をアドバイス(または代理代行)してくれるので、安心して会社と争うことができます。
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・残業代請求を弁護士に依頼する場合の費用相場は?弁護士に依頼するメリット5選!
残業代請求を弁護士に依頼するメリット
メリット(1)|証拠の開示請求が行える
メリットの1つ目は、残業の状況を明らかにする証拠の開示請求が行えることです。
従業員本人の開示請求も可能ですが、何を請求すればいいのか、会社にどう伝えればいいのか、分からないこともあるでしょう。会社に遠慮して言いづらいという人もいるでしょう。
また、従業員が開示請求して拒否された場合でも、弁護士が請求すれば簡単に回答が得られたというケースもあります。
メリット(2)|法的に正しく残業代を計算できる
メリットの2つ目は、弁護士に法的に正しく残業代を計算してもらえることです。
残業代計算の概要については説明しましたが、実際に残業代を正しく計算するのは難しい面もあります。
残業代を正しく計算するときのポイント
- 法定内残業と法定外残業の計算方法の違い
- 一般的な残業と深夜残業、休日出勤の割増率の違い
- 残業時間や残業代の端数処理の方法 など
上記を正確に理解して計算するには一定の知識が必要です。専門家である弁護士に依頼すれば安心といえるでしょう。
メリット(3)|会社にとってプレッシャーになる
メリットの3つ目は、弁護士が相手だと会社にとってプレッシャーになるということです。
会社内の立場が下で専門知識のない従業員が相手だと強気に交渉していた会社側も、法律に詳しい弁護士が来ると遠慮して弱腰な対応になることもあります。
また、弁護士を雇ったということから裁判等へ移行するリスクも考慮に入れざるを得ないため、会社に一定のプレッシャーを与えられます。
弁護士費用の相場とは?
弁護士へ依頼するときに気になるのが弁護士費用です。弁護士や依頼内容によって費用は大きく異なりますが、日本弁護士連合会の会員アンケートでは下記の通りです。
- 1時間当たりの相談料:1万円(56%)、5,000円(36%)
- 労働審判や裁判の着手金:20万円(45%)、30万円(31%)
- 労働審判や裁判の報酬金:30万円(36%)、50万円(31%)
※()内はアンケートの回答者に占める割合
着手金無料(残業代の支払請求に成功した場合のみ成功報酬を支払う料金体系)の法律事務所などもあるため、残業代請求については一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了